オウム・菊地直子の有罪判決、教団内の“性愛関係”暴露が影響!?

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『王国への追跡 ~地下鉄サリン事件から15年 オウム特別手配犯の潜伏先~』(晋遊舎)

 17年もの間、特別指名手配犯として逃亡を続けていたオウム真理教元信徒・菊地直子被告が、東京地裁で懲役5年の判決を言い渡された。この裁判は、1995年、オウム真理教の起こした東京都庁郵便小包爆弾事件で、菊地被告が爆発物を運んだとして爆発物取締法違反幇助や殺人未遂幇助の罪で起訴されたものだが、“運んだものが爆薬の原料とは知らなかった”と無罪を主張する菊地側と、爆弾製造も殺人目的も認識していたとする検察が真っ向から対立していた。

 結局、菊地被告の主張は聞き入れられず、検察側の言い分が通ったかたちになったわけだが、この判決に影響を与えたと思われるのが、事件で中心的な役割を担った元教団幹部の井上嘉浩死刑囚の証言だ。

 井上死刑囚は5月12日に出廷し、爆弾を製造した中川智正死刑囚が菊地被告に指示していた、テロ目的についても了解をとっていたはず、と証言。しかも、その際に中川被告と菊地被告が男女関係にあったと暴露したのである。

「菊地さんと中川さんは当時、男女の戒律を破った関係だと認識していたので、そこが都合がいいかもと思いました。女性としての心を利用した面もあり、申し訳ない」

「菊地さんはアジトに来るたびに中川さんと和室に2人きりでこもっていた」

 これに対して、男女関係を利用して犯行を指示したとされた中川死刑囚は井上証言を真っ向から否定する。やはり証人として出廷した際、目的を菊地被告に説明していない、了解も取っていないと証言し、男女関係についても部屋に2人でこもっていたことは認めたものの「話をしていただけ」と一蹴した。

 だが、検察側は井上証言を根拠に、“中川は元恋人の菊地をかばって虚偽の証言をしている”との論を展開。結局、中川証言の信用性はほとんど認められず、菊地被告は有罪になった。

 事実がどうだったかはともかく、この経緯を見ていて不思議なのは、井上死刑囚がなぜ、こんな証言をしたか、その理由だ。一連のオウム裁判で井上死刑囚がほぼ検察のシナリオに沿った証言をしているのは有名な話だが、今回は井上自身が指示したわけでも、中川死刑囚が指示しているのを直接聞いたわけでもない。菊地被告に説明していた、了解を得ていたというのは推測にすぎない。しかも、2人が「男女の戒律を破った関係」であることまで法廷で暴露するとは……。

 そんなところから、この証言の背後には、井上被告の教団内の性愛関係に対する嫌悪感があるのでは、という向きもある。周知のように、オウム真理教の出家信者は「不邪淫」という戒律があり、配偶者以外との性行為や恋愛、オナニーが禁止されていた。ところが、現実はまったくちがっていて、男女が入り乱れて肉体関係をもつという、むしろ一般社会より乱れた状況にあった。

 佐木隆三著『大義なきテロリスト─オウム法廷の16被告』(日本放送出版協会)にも、教団内における恋愛事情が詳細に記されている。教祖の麻原彰晃が元教団幹部の石井久子を愛人にして3人の女児をもうけたことは有名だが、他の幹部も負けてはいなかった。例えば岡崎一明死刑囚は、当時、在家信徒であった飯田エリ子との肉体関係を法廷で認め、さらに教祖の麻原彰晃も飯田と肉体関係をもっていたこと、当時上祐史浩の恋人だった女性信者が別の男とセックスしていたこと、それが教団内で問題となったことなども明らかになっている。さらに事件発覚後も信者たちの恋愛模様は続き、逮捕後の井上死刑囚が飯田にラブレターを送ったことさえあったらしい。

 菊地被告についてもまた中川死刑囚だけではなく、他の信者らに恋愛感情を抱いていたことや肉体関係があったことも明らかになっている。さらに菊地被告は逃亡生活の中で高橋克也被告と行動をともにし、レイプまがいで関係を迫られ、男女の仲になったという報道もあった。

 だが、そんな中で井上死刑囚は女性に触れられることを「エネルギーが抜ける、カルマが交換される」と極度に嫌がり、今回の法廷でも“今でも童貞”と誇らしげに語っていたほど潔癖をつらぬいていた。つまり、菊地被告と中川被告の男女関係を法廷で暴露したのは井上死刑囚のそういった潔癖性の現れではないか、というのだ。

 いずれにしても、不邪淫の戒律のあるオウム教団でかくも多くの信者が性愛の問題に心奪われ、振り回されていたというのは、非常に興味深い。実は、こうしたことはカルト教団において、決して珍しい話ではない。

 カルトでは表面上、男女関係を厳しく制限させることが多いが、それはマインドコントロールや洗脳の一つの常套手段として使われる。性や食、睡眠、すべてにおいて飢餓状態を作り、その戒律を破ることで信者たちは良心の呵責に苛まれ、追い込まれ、洗脳され、さらに信仰を強めていくのだ。菊地被告も他の信者たちも“性”を巧みに利用・コントロールされてオウム真理教というカルト教団から抜け出せなくなっていた側面もあったのではないだろうか。

 菊地被告は東京地裁の有罪判決を受けて即日、控訴した。日本の裁判の状況を考えると、控訴審で判決が覆ることはほとんどないと思われるが、新たな証拠が提出される可能性もゼロではない。その推移を注意して見守りたい。
(高橋ユキ)

最終更新:2016.08.05 06:48

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