ヒトラーの演説術を言語学者が分析 実は途中から飽きられていた!

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷
hitler_01_140815.jpg
『ヒトラー演説  熱狂の真実』(中公新書) 

 1930年代のドイツに独裁的な全体主義体制を確立した政治家であり、対外侵略の強行から第二次世界大戦を引き起こし、また人種差別政策のもとユダヤ人を迫害・虐殺したことで知られるアドルフ・ヒトラー。いまではその行ないのほとんどが否定されているが、なぜ彼は当時のドイツ国民から熱狂的な支持を集め、権力を掌握することができたのだろうか。その理由の一つとして、巧みな演説術があげられる。先ごろ中公新書より刊行された高田博行『ヒトラー演説 熱狂の真実』(中公新書)は、言語学者(専攻は近現代のドイツ語史)である著者が、ヒトラーの行なった膨大な演説を分析することで、彼の台頭の秘密を解いた一冊だ。

 ヒトラーの演説というと、激しい身振り手振りを交えながら絶叫するさまが思い出される。しかし、それはけっして恣意的なものではなく、綿密な計算にもとづいたものであったという。本書では、ヒトラーが首相就任直後の1933年2月10日、翌月の国会選挙を告知するための催しで行なった「ドイツ国民への呼びかけ」と題する演説を、その記録映像から細かく検証している。それを読むと、どこかの大臣ではないが「ヒトラーの演説に学んだらどうか」と思わず言いたくなるほど、巧妙な仕掛けが凝らされていることがわかる。

 ヒトラーは演説の冒頭から叫んだり激しく手振りしたりしていたわけではない。このときの演説ではまず「今年1月30日、国民を統合する新政府(ナチス政権)が樹立された」とおごそかに宣言、両手は下で合わせて、ジェスチャーをしないように意識して努めていた。声のほうは、ナチ運動を始めた理由を語り始めると、だんだん高くなっていく。

 両手を下で合わせるポーズは、聴衆の喝采やヤジを抑えるという側面もあった。だがそれだけでは間が持たない。そこで演説を進めながら今度は腕を組む。腕組みポーズは、静かな立ち姿を印象づけるものだ。このあとも、聴衆から喝采が起きると、ヒトラーはほんの一瞬、腕組みをしてジェスチャーを止めた。これには、《喝采という評価を受けつづけるよりも、自らの主張を語りつづけるほうが重要だとヒトラーが謙虚に考えていると聴衆に感じさせる効果がある》という。

 左右の手の使い分けも興味深い。「じわじわと個々のドイツ人の生活がさらに落ちぶれていった様子」という箇所で、ヒトラーは左手でリズムを取り、手刀を切る。

《左手はヒトラーの利き手ではないので、ゆっくりした激しくないジェスチャーをするのにあてがわれている。(中略)そしてその弱い左手が、そのあとに用意された両手と強い右手による激しいクライマックスのジェスチャーを引き立てることになる》

 このことだけでも、演説の内容にあわせて、じつに巧妙にジェスチャーが使い分けられていることがうかがえよう。このほか、ヒトラーのジェスチャーのなかでもとくに印象深い、指さしにもちゃんと意味があった。それはたとえば、「この」「これ」といった指示代名詞に結びついていたりするのだが、それ以上に、ヒトラーから見た敵対者を糾弾したり、事柄全般について否定したりする際に頻繁に用いられた。著者いわく《指さしによって、敵と味方、肯定と否定といった何らかの対比構造が背景にあることが聴衆に対して暗示されていると思われる》。

 じつはヒトラーは、政権を掌握する少し前、1932年の4月から11月にかけて、オペラ歌手から発声法の指導を受けていた。これというのも、同年中に5回もの選挙戦を戦うなかで、ヒトラーは各地で多数の演説をこなし、声帯を酷使していたからだ。声帯麻痺を懸念する医師の勧めもあり、ヒトラーは訓練を受けることにしたのである。ただし、これは「演説の天才」というヒトラーのイメージを崩さないよう、秘密裏に行なわれた。

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

この記事に関する本・雑誌

ヒトラー演説 - 熱狂の真実 (中公新書)

新着芸能・エンタメスキャンダルビジネス社会カルチャーくらし

ヒトラーの演説術を言語学者が分析 実は途中から飽きられていた!のページです。LITERA政治マスコミジャーナリズムオピニオン社会問題芸能(エンタメ)スキャンダルカルチャーなど社会で話題のニュースを本や雑誌から掘り起こすサイトです。ヒトラー政治家近藤正高の記事ならリテラへ。

人気記事ランキング

総合
いいね! 数
1 三浦大知が歌う歌は天皇皇后の沖縄への想い
2 直木賞受賞『宝島』が突きつけた「沖縄問題」の本質
3 沖縄県民投票“不参加”指南の背後に安倍官邸の存在か!
4 稀勢の里「ナショナリズムのアイコン」の相撲人生
5 “バンクシー”のネズミはOKで安倍首相の顔写真にヒゲはNG?
6 三浦瑠麗が松本人志の悪質セクハラ発言を「問題ない」と擁護
7 DA PUMPがEXILEに挑戦状
8 ネトウヨ高須院長に息子が苦言!
9 安倍応援団やネトウヨの「バッシング」を検証!!
10 つんく♂が秋元のメンバー差別に
11 古市憲寿「平成くん、さようなら」と「終末期医療打ち切れ」論
12 竹田恒泰が父の五輪汚職捜査に「フランスは皇室がないからひがんでる」
13 追悼!市原悦子が生前語った安倍政権への怒り、反戦の思い
14 国連も「組み体操」の危険性を指摘!
15 戦争専門家が集団的自衛権の嘘を指摘
16 元旦朝生のウーマン村本は間違ってない
17 櫻井よしこは嘘つきだ!小林節が告発
18 収賄疑惑の甘利大臣がバンダイとも
19 読売、産経の安保報道を池上彰が批判
20 外務省が日米地位協定のウソ説明をコッソリ修正
1安倍首相が辺野古の土砂投入で「サンゴを移した」と大嘘
2追悼!市原悦子が生前語った安倍政権への怒り、反戦の思い
3クイーンのB・メイ辺野古署名に『ボヘラプ』鑑賞の安倍首相は…
4所ジョージが沖縄米軍基地反対ソング! 
5竹田恒泰が父の五輪汚職捜査に「フランスは皇室がないからひがんでる」
6ウーマン村本、ローラ…権力批判芸能人を排除する醜悪メディア
7安倍首相の“サンゴ移植した”嘘を追及しない本土メディア
8早野龍五・被曝論文に重大誤り!お墨付き与えた糸井重里の責任
9産経と菅官房長官が「辺野古赤土投入問題」追及の望月記者を攻撃
10安倍首相の改憲キャンペーンに松本人志、小藪千豊らが協力?
11 仏司法当局が東京五輪誘致汚職で竹田恒和JOC会長の捜査開始!
12日露外相会談の大失態を必死で隠す安倍政権
13 ゴーン前会長出廷で露呈した特捜部の無理スジ国策捜査
14 バカリズム、指原莉乃が外国人労働者問題で差別丸出し
15外務省が日米地位協定のウソ説明をコッソリ修正
16安倍政権の反韓煽動が酷い!「韓国へ渡航禁止」まで主張
17沖縄県民投票“不参加”指南の背後に安倍官邸の存在か!
18三浦瑠麗が松本人志の悪質セクハラ発言を「問題ない」と擁護
19“バンクシー”のネズミはOKで安倍首相の顔写真にヒゲはNG?
20三浦大知が歌う歌は天皇皇后の沖縄への想い

人気連載

アベを倒したい!

アベを倒したい!

室井佑月

ブラ弁は見た!

ブラ弁は見た!

ブラック企業被害対策弁護団

ニッポン抑圧と腐敗の現場

ニッポン抑圧と腐敗の現場

横田 一

メディア定点観測

メディア定点観測

編集部

ネット右翼の15年

ネット右翼の15年

野間易通

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

赤井 歪

政治からテレビを守れ!

政治からテレビを守れ!

水島宏明

「売れてる本」の取扱説明書

「売れてる本」の取扱説明書

武田砂鉄