正気か? 感染爆発のなかパラリンピックにワクチン未接種の子ども動員強行 医療崩壊状態下の開催で国民の命もパラ選手の命も危険に

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日本パラリンピック委員会公式HPより


 この非常事態に驚愕の判断が下された。昨日16日におこなわれた政府と東京都、組織委、国際パラリンピック委員会(IPC)による4者協議で、8月24日開幕のパラリンピックの無観客開催、および小中高校生らを対象にした「学校連携観戦プログラム」をすべての会場で実施することを決定したからだ。

 そればかりか、組織委はパラ期間中に東京ビッグサイト青海展示棟内などでスポーツ体験やスポンサー企業の出展、オフィシャルショップ開設などをおこなうイベント会場を設置する、とまで言い出した。

 はっきり言って正気の沙汰ではない。パラの会場がある東京、埼玉、千葉では感染爆発状態となっており、同じく会場がある静岡も新規感染者数が15日に過去最多の394人となり、昨日16日に川勝平太知事が緊急事態宣言の適用を政府に要請。静岡を含む7府県への宣言拡大と期間延長も本日にも決まる見通しだ。菅義偉首相や小池百合子都知事は五輪が閉会した途端、「デルタ株の猛威」を叫ぶようになったが、そんななかでイベント会場を設置して人を動員し、挙げ句、子どもたちを進んで危険に晒そうとは異常としか言いようがない。

 しかも、菅首相は口を開けば「ワクチン」を連呼するが、12歳以下はワクチンの接種対象外であり、子どもの感染増加が深刻化。国内でも学習塾クラスターが発生しているほか、アメリカでは新型コロナに感染して入院した子どもの数が過去最多に。子どもの重症化だけではなく、後遺症の懸念も強い。

 組織委の幹部は子どもたちのパラ観戦について「共生社会の実現に向けた教育的な意味が大きい」(読売新聞13日付)と語っていたが、「共生社会の実現」は普段から教育の現場で実践的におこなうべきものだ。さらに、小池都知事は13日の会見で「パラリンピックを競技として楽しむ、生で見るという意味で子どもたちに見せてあげたい」などと口にしていたが、子どもが観戦によって新型コロナに感染し、子ども自身やその家族が重症に陥ったり後遺症を抱えたとき、その責任を小池都知事はとれるというのか。

 いや、これは子どもたちだけの問題ではない。そもそも、この感染爆発の状況下でパラリンピックを開催することはあらゆる面で危険極まりないものであり、どう考えても、すみやかに延期の決定をすべきだ。

 それは、この国はパラ選手や関係者の命を守ることを保証できる状況ではまったくないからだ。

医療崩壊状態でリスク高いパラリンピック選手の命を守れるのか? パラ関係者の感染はすでに30人以上 

 前述したように、パラがおこなわれる東京をはじめ千葉も埼玉も静岡も感染爆発によって入院すべき容体の患者が入院できない状態に陥っており、自宅死の事例も発生している。ここまで感染が広がったのは無論、五輪開催によって菅政権が拡大を抑え込むことを放棄して矛盾したメッセージを国民に発信した結果だが、医療が崩壊した非常事態の国で再びスポーツの祭典を開催するなど、はっきり言ってありえない。

 しかも、パラ選手と言ってもその障害は多岐にわたるが、たとえば脳性麻痺や頸髄損傷などで障害が重い場合、呼吸器の疾患がある人も多いという。実際、松本哲哉・国際医療福祉大学教授は〈多発性硬化症や脳性麻痺の選手は、疾患が肺の筋力に影響し、呼吸機能が衰えている場合がある〉と指摘し、さらに〈疾患や薬によって免疫が落ちていれば、ワクチンの効果も低くなり、重症化する恐れがある〉としている(朝日新聞8月14日付)。

 また、そのワクチンにしても、「障害が進んでしまうのでは」「アレルギー体質があり、副反応が怖い」という不安を持つ選手も少なくなく、ある競技団体では〈約3割の選手が接種を希望しなかった〉という(毎日新聞6月18日付)。その競技団体の幹部は「障害がある人にとって、自分の体に(ワクチンや薬のような)何かを入れることは恐怖なのだと思う」と語っているが、それは当然の不安だろう。

 このように、開催するには五輪以上に最大限の注意が必要なパラだが、対して五輪関係者の感染者が540人にものぼっているように、組織委の感染防止対策なるもののザルっぷり、「バブル方式」の崩壊はすでに周知のとおり。しかも、パラ関連の感染者も昨日16日時点ですでに36人。その一方、組織委の武藤敏郎事務総長は昨晩の会見で、来日するパラ選手や関係者のワクチン接種率について「詳細は把握していない」と発言。感染防止対策上で重要な情報も“知らない”と言い放ったのだ。

 選手が感染したとき、すみやかに適切な医療を受けられる環境が整っている。これこそがパラ開催の最低条件だが、繰り返すが、この国はそんな状況ではない。逆に、パラ選手が優先されるようなことも許されるものではない。つまり、パラリンピックを開催する資格を、この国はすでに失っているのである。

 だが、この国にパラ開催の資格がない理由は、それだけではない。もうひとつの理由は、組織委が障がい者の権利というものをまったく理解していないからだ。

介助者の帯同を日本が認めず参加断念するパラ選手も 「合理的配慮」も理解しない組織委にパラ運営の資格なし

 それを証明するのが、これまでパラで6個ものメダルを獲得してきた米・競泳女子のレベッカ・マイヤーズ選手の出場辞退だ。マイヤーズ選手は盲聾で母親が介助者を務めているが、米オリパラ委員会(USOPC)が「34人の水泳選手に対して、介助者を1人しか派遣できないとしたため」(FNNプライムオンライン7月22日付)に、母親の帯同が許されず、辞退に至ったという。

 34人もの水泳選手たちに対して介助者が1人──。選手1名に対して1名の介助者でも足りないぐらいで、信じられない体制だとしか言いようがないが、しかし、これはUSOPCだけの問題ではない。というのも、米ワシントン・ポストによると、USOPC側は「必要な運営スタッフ以外の入国を日本が認めないのが理由」としているからだ。

 さらに、7月22日におこなわれた組織委の会見ではこの問題について記者から質問がなされたが、組織委は「我々も報道で拝見した。事実関係にかんしては選手の参加意向にかかわることなので、USOPCのほうにご照会いただきたい」と述べただけ。ようするに、USOPCに責任を丸投げしたのだ。

 必要な介助者が入国できないという問題が起こっているというのに、それを無視する組織委。この組織委の姿勢は「合理的配慮の提供義務」を定めた障害者差別解消法違反だとさえ言えるが、そんな連中に大会運営の資格があるはずないだろう。

「パラ中止」論に対しては、「五輪を開催しながらパラは中止するのはあまりに不平等だ」という声もある。それは当然の意見だろう。しかし、介助者の帯同というパラ選手が競技に挑むにあたって整えられるべき最低限の環境を守ることもできず、さらには感染したときに医療にアクセスできるかも不確実な状況下でパラ開催など不可能だ。

 菅首相は五輪開催を強行する際に「心のバリアフリーを世界に発信する」などと述べ、パラを五輪開催のダシに使ってきたが、再度言っておく。この国に暮らす人びとの命を守ることを約束できない国で、パラリンピックの開催は無理だ。ましてや、子どもたちまで危険を晒すことは、断じて許されない。

 いまは学校連携観戦の参加を判断する自治体や学校に対し、保護者のみならず市民が反対の声をあげ、子どもたちを守ることが重要だ。しかし、そもそも「即刻、中止」しか選択肢はないということを、ここにはっきりと指摘しておきたい。

最終更新:2021.08.17 11:51

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