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NHKが英語民間試験批判のウェブ記事を削除、社会部を緊急招集し自粛要請! 安倍政権が「桜を見る会」追及のウェブを標的に圧力か
まともな説明なく突如削除されたNHK NEWS WEBの記事
“安倍サマの犬HK”と揶揄されて久しいNHKで、またぞろ“報道圧力問題”が浮上してきた。圧力にさらされているのは、NHK社会部の現場記者たちだ。
実は、NHKではここ数年、上層部の意を汲んだ政治部が安倍政権のヨイショ報道に終始し、政府批判を封印する一方、社会部は現場を中心にぎりぎりのところで政権の問題点を追及する報道に踏み込み、気骨のあるところを見せてきた。森友・加計学園問題のスクープはもちろん、「桜を見る会」問題でもいち早く調査報道に着手し、会の内部資料をすっぱ抜いたりホテルや自民党関係者に取材するなどして、菅義偉官房長官らの説明の矛盾を追及してきた。
とりわけ、社会部による政権スキャンダルに深入りした報道が顕著なのは、テレビ放送ではなくウェブ版の記事だ。これは、不可解にも放送で不採用になったり、全国放送で「ボツ」にされたネタを、なんとかウェブ版で配信しているものといわれる。最近では社会部の記者たちが、官僚たちの生態と中央官庁スキャンダルの淵源をえぐる「霞が関のリアル」というウェブ版の特集を立ち上げ、業界でも高く評価されている。
ところが、こうしたウェブ版での報道に対し、先日、NHK局内で“自粛”を強いるような「圧力」がかけられたというのだ。
先週、12月19日夜。予定されていた社会部の忘年会が急遽中止とされ、かわりに緊急部会が開かれたという。そこで出されたテーマが「ウェブのニュースの扱い」について。NHK関係者が話す。
「NHKの社会部、とくに現場は政治部と距離を置き、政権を忖度しない踏み込んだ報道に意欲を燃やしていた。政権に批判的なネタは放送ではなかなか採用されないので、それならウェブ版で、と頑張っていたんです。ところが、その日の緊急部会で社会部の部長が突然、『ウェブ記事に対して、厳しい意見が寄せられているので、これからどういう作り方をしていくかということで、みなさんの知恵を借りたい』と告げたらしい。知恵を借りたい、なんて言っていますが、ようするに『厳しい意見』を忖度して政権批判をやめろという横槍です。
『(ウェブでの報道でも)脇を締めてもらいたい』という発言もあったようです。もちろん、これは発言した部長個人の意思ではなく、もっと上の意向でしょう。現場で汗を流している記者たちに動揺が広がり、反発の声も上がった」
「厳しい意見」というのは何か。実は、前述の社会部が手がけるウェブ版特集「霞が関のリアル」の記事が、先日、削除されるということがあった。11月に配信した「ババ引かされたのは受験生だ! 英語民間試験 なぜ国は推進した」と「東大もババ引かされた? ~検証 英語民間試験」の2本だ。現在、NHKのサイトでは読めなくなっているので、その簡単に内容に触れておこう。
まず、「ババ引かされたのは受験生だ! 英語民間試験 なぜ国は推進した」は、文科省や関係省庁の取材を通じ、英語民間試験の延期について批判した記事だ。萩生田光一文科相が会見で発した「自信を持って受験生の皆さんにオススメできるシステムになっていない」というセリフに対して、〈会見に出席した私たちは、これまで取材してきた受験生の顔を思い浮かべながら、「オススメできないとは何事だ」と正直、憤りを覚えました〉というくだりも出てくる。
同記事では「担当者の中でも『ババ』を引いたと苦笑いしている人もいた。このまま導入されていたら混乱は避けられなかった。見送りになって、正直、ほっとした職員もいます」という文科省職員の声などを紹介しながら、大臣の口から飛び出す“官僚責任論”に真っ向から反論。英語民間試験の導入が下村元大臣の強い指示だったことを、複数の文科省職員の証言や省内の有識者会議の議事録などから浮き彫りにした。
不可解な記事削除! 忘年会を中止して急遽開かれた緊急部会で社会部長は「論理的に説明できない」
もうひとつの記事「東大もババ引かされた? ~検証 英語民間試験」は、その続編と言える記事で、英語民間試験導入をめぐる東京大学の対応の変化を中心に報じたもの。東大は、86の国立大が参加する組織「国立大学協会」が民間の活用方針を打ち出した4カ月後の2018年3月、「現時点で入試に用いるのは拙速」という慎重姿勢を示していた。ところがその約1カ月後の4月27日、一転して、ホームページに「民間試験の活用を前向きに検討」することが表明された。
取材班は、この東大の転向を追うなかで、自民党の「教育再生実行本部」に注目する。独自に入手した音声データには、東大が翻意する2週間前、4月13日に開かれた教育再生実行本部の会合でのやり取りが。そこには、安倍首相の側近であり、英語民間試験導入を指示してきた下村元文科省の、こんな発言が記録されていた。
「これはやっぱり問題だと思いますよ。文科省はよく東大に指導していただきたい。(中略)間違ったメッセージを国民や他大学に与えていることに対して、きちんともう一度記者会見をして、東大が先頭に立ってやるということをまず言っていただきたい。やるということは、やるということを前提に、ぜひ指導をしていただきたい」
記事では、東京大学の元副学長でもある石井洋二郎名誉教授の「最後の最後で、大学が守るべきものは何かといえば、批判精神を持って学問の自由を守ること。それを失ったら、大学は終わりだと思います」というコメントで締めくくるなど、東大に介入し、民間試験をゴリ押しした政権幹部に批判的なトーンだ。
この2本の記事はSNSでも大きな話題になったのだが、しかし、前述したように、この2本の記事が突然、ウェブから削除の憂き目にあった。
NHKは記事「ババ引かされたのは受験生だ! 英語民間試験 なぜ国は推進した」について、HPで「内容を精査した結果、以下の事実の誤りや説明に丁寧さを欠いた点がありました」などと説明しているが、そこで挙げられている点は些細なもので、大げさに言ってもケアレスミスの域、記事を丸ごと削除するほどのこととは到底思えない。さらに、下村元文科省が東大に向けた“圧力発言”を伝えた続編記事「東大もババ引かされた? ~検証 英語民間試験」については、削除した理由すら明らかにしていないのだ。
「緊急部会では、部長がこの2本の記事の削除事例を挙げて『こういうことも起きている』と発言したという。しかし、デスクや記者からは『削除までするのはおかしいのではないか』という声があがり、紛糾状態になった。ところが、上層部はまったくこれに答えず、東大記事ついては、部長も『削除する理由を論理的に説明することはできない』と発言する始末だったようです」(前出・NHK関係者)
こうしたやり取りを聞くと、やはり、安倍政権やその周辺から抗議、圧力があったとしか考えられないだろう。周知のように、英語民間試験導入については、塾業界から支援されている下村元文科相氏の強い意向が取り沙汰され、文科省も見切り発車を強いられていた。NHK社会部が追及したのはまさにそのことだが、ここに局内から横槍が入ったということは、明らかに社会部長より上の幹部に、政治家から大きな圧力がかかっていなければ説明がつかない。
NHKのネット同時配信を認めるのと引き換えに、政権批判に踏み込むウェブ記事潰しを指示か
しかし、安倍政権は、たんに今回の英語民間試験批判のウェブ記事を潰すことだけを狙って、圧力をかけているわけではない。安倍政権の標的は、いまのNHKのウェブ報道体制そのものを潰すことなのだ。
「11月20日に、安倍首相と各社政治部キャップとの“オフレコ懇談会”が開かれ、同席した今井尚哉首相秘書官が、『桜を見る会』問題を追及したNHKのウェブ記事をあげつらい、恫喝したことが報じられたが、安倍官邸はウェブ記事の踏み込んだ姿勢に相当頭にきている。今回の『霞が関のリアル』への圧力は大義名分で、それを突破口にウェブ記事全体に圧力をかけようとしているのではないか」(政界関係者)
安倍政権はこの間、NHK側が今まで以上に政権の意向を反映するような体制を着々と作らせていた。たとえば先日発表された会長人事。上田良一会長が退任し、後任には安倍政権に近い前田晃伸・元みずほフィナンシャルグループ会長が就く。現在の上田会長は、「政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」などと公言していた前任の籾井数人会長が猛批判されたことを受け止め、籾井時代よりも政権批判報道への締め付けを緩めていた。その上田会長を退任させ、安倍首相を後押しする経済人による「四季の会」の元メンバーである前田氏を新会長に据える人事は、あきらに官邸の意向にもとづくものだ。
さらにNHKは今年4月、あの板野裕爾・NHKエンタープライズ社長を専務理事に復帰させている。板野氏は『クローズアップ現代』の国谷裕子キャスターを降板させた張本人といわれる人物だ。2016年に刊行された『安倍政治と言論統制』(金曜日)では、板野氏の背後に官邸のある人物の存在があると指摘し、NHK幹部職員は〈板野のカウンターパートは杉田和博官房副長官〉〈ダイレクトに官邸からの指示が板野を通じて伝えられるようになっていった〉と証言をおこなっている。
こうした人事からもわかるように、官邸は再びNHKに対する締め付けを強化しようとしており、NHK上層部もそうした官邸の意向を忖度している。今回の社会部ウェブ記事をめぐる「圧力」も同一線上にあるのは間違いない。
さらに言えば、NHKが打ち出しているインターネット常時同時配信との関係も指摘されている。ネット同時配信をめぐって、NHKはいまも、総務省や政界から揺さぶりをかけられているが、安倍政権はネット同時配信実施を認めるかわりに、NHKにウェブ版の踏み込んだ報道姿勢を潰すことをバーターに突きつけたのではないか、という見方が浮上しているのだ。
実際、前述した11月20日の安倍首相と各社政治部キャップとの“オフレコ懇談会”でも今井秘書官は以下のように、「ネット同時配信」のことをちらつかせてNHKを恫喝していた。
「NHK報道はひどい。だから同時配信はだめだと言われる。1万1000円以上じゃなきゃ出来ないとホテルが言ったのを最初に報じたのもNHK」(「週刊新潮」12月5日号)
いずれにしても、今回のNHK社会部の緊急部会で明らかになった上層部の忖度姿勢の背景には、安倍政権の存在があるとしか思えない。NHK社会部は放送では真っ当な調査報道や政権批判を潰されながらも、ギリギリのところでなんとか視聴者・読者にとって価値のある報道を続けようと、ウェブ記事に活路を見出していたが、それさえもこのまま潰されてしまうのか
受信料や予算面で国にコントロールされている「みなさまの公共放送」だが、このまま政権の影響を受け続ければ、まっとうなジャーナリズムは万が一にも期待できなくなってしまうだ可能性もある。NHKに残されたわずかな良心を潰させないよう、視聴者は大きな声を上げなければならない。
(編集部)
最終更新:2019.12.25 05:08
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