「THE Wが面白くない」のは女芸人のせいじゃない! お笑い界とテレビの男尊女卑体質が女芸人を歪ませている

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日本テレビ公式HPより

 12月10日に放送された『女芸人No.1決定戦 THE W』(日本テレビ)をめぐって各所で議論が紛糾している。

 たとえば、有吉弘行は16日放送『有吉弘行のSUNDAY NIGHT DREAMER』(JFN)のなかで、「『M-1グランプリ』の賞金1000万で、『THE W』の賞金1000万って、ちょっと釣り合ってないよ。賞金は100万にしなきゃだめだよ、マジで。来年からいい加減にしないと」と発言。お笑いコンテストとしていま最も権威とポピュラリティのある『M-1グランプリ』と賞金が同じなのはおかしいと主張した。

『THE W』に関しては、他にも批判的な意見が続出している。

 15日放送『土曜ワイドラジオTOKYOナイツのちゃきちゃき大放送』(TBSラジオ)で塙宣之(ナイツ)は、「“女性のこと”をネタにする人が多すぎる」「女性の『彼氏がいなくて……』という内容はバラエティ番組のひな壇でやって欲しい」「ネタはネタでちゃんとつくった方がいい」と、『THE W』を振り返った。

 有吉や塙のような同業者のプロの芸人のみならず、『THE W』に関しては一般視聴者からも低い評価が多く、SNSでも「『M-1』と違って笑えなかった」「女芸人は面白くない」といったコメントが大量に投稿されている。

 ネタの内容についての批判が出ること自体はいいことだ。日本の笑芸の発展のためにも、むしろ積極的に意見が交わされてしかるべきだろう。

 しかし、気になるのは、『THE W』をめぐる言説のなかに「ネタそのものへの評価」とはまったく違う「女性蔑視」の考えが垣間見えることだ。

 有吉の「釣り合ってないよ。賞金は100万にしなきゃだめだよ」という発言はその典型だろう。

 だいたい賞金の金額で、賞の価値をうんぬんすることがナンセンスだが(それをいうなら、芥川賞・直木賞の賞金は100万円、水嶋ヒロが受賞したポプラ社小説大賞の賞金は2000万円だ)、有吉の発言には加えて「所詮面白くない女芸人のコンテストに金なんてかけるな」という意識が透けて見える。

 しかし、ネットでは有吉の意見に同調する声も多く、賞金を10分の1にするどころか、「そもそも女性芸人だけのコンテストがいらない」「男性芸人だけのコンテストはないのに」と女性芸人のコンテストの存在意義そのものに疑義を呈する声まである。議員や会社役員などの一定数を女性に割り当てるクォータ制を「逆差別」などとする批判と同根のものだろう。

 タカ派オヤジ紙である夕刊フジ(12月22日)にいたっては、『THE W』批判に便乗して、「今の女性芸人で単独でしっかりと笑いがとれるタイプは少なく、中堅から若手では友近ぐらいでしょう。あとは集団芸のような形になってしまう。先日、大勢の女性芸人と明石家さんまが旅に出る特番が放送されましたが、あれもそれぞれにきちんと笑いを振り分けるさんまさんでないと成立しない内容でした」という演芸関係者のコメントを掲載。女芸人バッシングを展開していた。

 だが、本当に彼らの言うように「女芸人はおもしろくない」のだろうか?

 たしかに、『THE W』は面白くなかった。前回優勝者のゆりやんレトリィバァも含め、斬新なネタ、新しい笑いは見られず、「なんで本選に?」とクビをひねりたくなる芸人も少なくなかった。

 だが、それは「女芸人がもともと面白くない」ということを意味しているのではない。そのことを指摘していたのが、能町みねこ氏だった。

能町みねこは“時代遅れで保守的な日テレの男女観のせい”と

 能町氏は、「週刊文春」(文藝春秋)12月27日号の連載コラムで、『THE W』に出ていない女性芸人でおもしろい人はたくさんいるとし、『THE W』のネタの方向性には、日テレの志向も影響しているのではないかと指摘している。

〈女性芸人は、圧倒的多数である男性芸人に混じってネタをするため、ブス・モテない・おばさん……など、どうしても男性の視点を意識した自虐を挟み込みがちです。日テレはただでさえバラエティ番組での男女観が時代遅れで保守的なので、なおさらこの方向性が好まれそう。今回の決勝進出者にもこの傾向は強かったのですが、そういうのはもう陳腐だし、時代にも合っていません〉

 能町氏の言うように、日テレのお笑いや女性観は非常に保守的だ。『エンタの神様』など、わかりやすく単純な笑いが良しとされる空気が支配的なうえ、『zero』有働由美子キャスターのアイドル扱いや、『女が女に怒る夜』や、本日放送の『超踊る!さんま御殿』内の「激突モテ美女VS女芸人」というコーナーなど女性同士を争わせるという典型的なミソジニー企画を見てもわかるように、女性を結局、“色物”としか見ない傾向もある。

 そういう意味では、塙が言っていた「“女性のこと”をネタにする人が多すぎる」「女性の『彼氏がいなくて……』という内容はバラエティ番組のひな壇でやって欲しい」という批判は、むしろ日テレの意向だった可能性もあるだろう。

 だが、この「男性優位社会の価値観」押し付けが女芸人のお笑いを歪ませているという問題は、日テレだけではなく、お笑い全体に言えることでもある。

 俳優やミュージシャンなどに比べてみても、芸人は男女の活躍度の差が圧倒的に大きい。そして芸人の世界では、体育会的ホモソーシャルな人間関係がいまだ支配的だ。男尊女卑、弱者をいたぶるパワハラ体質からいまだ抜け出せない、前近代的価値観が根強い。

 芸人の世界における、女性の扱いは、“嫁”と“性のはけ口”と“女と認めない(「ブス」「おばさん」「女を捨てた芸人」など)”の3パターンで、そこには同じ人間同士という対等な関係は存在していない。

 しかも、お笑い界を支配するこうした「男性優位の価値観」は、人間関係やシステムだけの問題ではなく、「お笑い」そのものにも色濃く反映されている。
それは、飲み会や合コン、風俗遊びなどの場での人間関係が、仕事にも持ち込まれ、ダイレクトに結びついているからだ。

女芸人大挙出演の松本人志『ドキュメンタル』でも同じ構造が

 近年の地上波では、実験的なネタや芸人の作家性の強いネタが放送されることはほとんどなく、ひな壇トークなど、ホモソーシャルな人間関係をベースにしたお笑いばかりだ。お笑いやバラエティ番組だけでなく、ニュースを扱う情報番組までもお笑い芸人のMCやコメンテーターへの大量進出によりその文脈下で展開されている。

 そうした男性中心の人間関係のなかで、女性芸人が活躍の場を獲得してい行くことはきわめてハードルが高い。そして、女性芸人は自分たちがこの極端な男優位の社会でサバイブするために、男性目線を内面化していく。テレビで展開される女芸人による「女性ならではのネタ」が、あくまで旧来的な男女の性役割に基づいた「女性像」を前提に、それができないことを自虐するというものばかりになってしまっているのは、そのせいだろう。

 もうひとつ、男性芸人と同じように体を張って、喝采を浴びるというパターンもあるが、これも同じだ。「男性と同じことをしないと認めてもらえない」という女芸人の抑圧的状況が逆にあらわれているにすぎない。

 実際、こうした女芸人への抑圧構造がお笑いの隅から隅までいきわたっていることがよくわかったのが、『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル』(Amazon Prime Video)だった。地上波よりも視聴率にとらわれることのないこの配信番組でも、まったく同じような事態が起きていた。

 本サイトでも何度か取り上げているが(https://lite-ra.com/2018/02/post-3817.html
)、『ドキュメンタル』は、全裸になるぐらいのことは当然として、時には直接的に性行為を連想させる模倣まで行うなど、「ホモソーシャルな笑い」の極地であり、能町みね子氏が『ドキュメンタル』の空間に女性芸人が入った際の「セクハラの危険性」を指摘したこともある。

 その『ドキュメンタル』のシーズン6が11月30日から配信されているのだが、今回は、藤本敏史(FUJIWARA)、陣内智則、真栄田賢(スリムクラブ)、大悟(千鳥)、村上ショージ、ジミー大西、黒沢かずこ(森三中)、近藤春菜(ハリセンボン)、友近、ゆりやんレトリィバァと、初めて4人も女性芸人が参加した。いままでは女性が誰もいない回が圧倒的に多く、いても1人だけの参加だったため、『ドキュメンタル』史上でもこれはかなり異例のことといっていい。

 松本人志は番組のなかで「今回は女子多め」「全員女子でも良かったけど、男子も入れてみた」と発言していたが、「ミソジニー的な笑い」との批判を意識し、今回は女性芸人を増やしたようにも思えた。

 ただ、最終的な結果は「女性の尊重」とは真逆のものだった。シーズン6の優勝者はゆりやんレトリィバァで、『ドキュメンタル』で初めて女性の優勝者が出たわけだが、そこでの笑いの取り方は、露出度が非常に高い水着を着用して乳首を露出させたり、挙げ句の果てには、上半身裸の力士姿で登場する、といったもの。まさに、前述した“男性芸人と同じように体を張って、恥をかなぐり捨てて喝采を浴びる”というパターンだったのである。

男社会の価値観から自立した女芸人のオルタナティブな笑いを

 改めて指摘しておくが、筆者は「女性だけのお笑い番組」や「コンテスト」を否定するつもりはない。むしろ、この男性優位のお笑いの状況を覆すためにも、あえて女性芸人のための場をつくるという試みは、非常に有意義なものだろう。

 しかし、その結果は、『THE W』や『ドキュメンタル』をみてもわかるように、女性芸人ならではの新しい笑いを表現するのではなく、女性芸人を「ホモソーシャルな笑い」の枠のなかに無理やり入れることにしかなっていない。

 これまで、女性芸人がまず活躍の場を手にするために、「ブス」「モテない」などの男性目線の自虐ネタを武器として使ってきたことは、やむを得ない部分があった。
 しかし、そうした男性中心社会に迎合したものとは別の文脈の、オルタナティブな笑いがそろそろ必要なのではないか。そして、新しいネタや文脈の開拓は、何も女性芸人だけに課される話でもない。男性芸人やテレビの製作者たちも取り組むべき課題だ。

 女芸人が男社会の目線から自立したお笑いを築いて活躍することは、お笑いだけの問題ではない。極右政治家の女性差別発言が“奔放”“おもしろい”とされる社会への有効なカウンターにもなるだろう。

最終更新:2018.12.25 11:39

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