ブラ弁は見た!ブラック企業トンデモ事件簿100 第25号 

とりあえず土下座、朝礼で吊るし上げ、社長基準でクビ…ワンマン社長の“俺”理論が支配する中小企業の恐怖!

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とりあえず土下座、朝礼で吊るし上げ、社長基準でクビ…ワンマン社長の俺理論が支配する中小企業の恐怖!  の画像1

 労働者にとって最も厄介な存在といえば、常識の通用しないワンマン社長である。今回ご紹介するのは、法律ではなくワンマン社長の“俺”理論が支配する、中小企業の恐ろしさを実感した事件である。

 Aさんは、都内で業者向けに食材の販売等を行う中小企業K社で、約10年間正社員として働いていたが、社長から酷いパワハラを受けた挙句、突然懲戒解雇された。Aさんは、不当な懲戒解雇及びパワハラによる損害賠償を求めてK社を提訴した。

 K社では、業務改善と称して、全従業員が参加する朝礼において、従業員に自己の失敗談を発表させ、社長がそれにコメントするということが行われていた。他の従業員が見ている前で個人を吊るし上げる、典型的なパワハラである。

 Aさんは、朝礼で発表した際、全従業員の前で社長から「お前は寄生虫か!」と罵声を浴びせられたという。

 これに対して、社長は、書面で「そんなことは言っていない! 『Aさんみたいに反省もなく会社に居続けるだけだと寄生虫と同じになっちゃうよ』と言ったんだ!」と反論した。同じではないかと思わずズッコケてしまった。

 また、K社では、在庫管理ソフト導入時に担当者が誤った入力方法をマニュアル化し、これに6年間誰も気付かなかったため、帳簿上約1兆円の異常在庫が発生していることが発覚した。Aさんも、一時期、前任者から誤った入力方法の引継ぎを受け、入力作業を行っていた。異常在庫発覚後、Aさんは社長に対して「すいません。前の人から言われた通りにやっていました。」と事実を説明し謝罪したが、「言われた通りにやった」というのが社長の癇に障ったらしく、反省が足りないとして一人だけ無期限の出社禁止処分を下された。出社禁止は1カ月程で解かれたが、Aさんは席を移動させられ、他の従業員から隔離されてしまった。

 Aさんが作成したエクセル表が見にくいと言って、社長から後頭部を叩かれることもあった。

 そんなパワハラにも耐え、Aさんは必死に働き、社長の妻が管理する同業のJ社へ出向していたが、些細なことで社長の妻と口論になり、社長から電話口で即日解雇されてしまった。

 後日解雇理由証明書を受け取ったところ、驚くことに、Aさんは懲戒解雇されていた。K社の主張する解雇理由は、5年前のミスなどいずれも些細なものであり、中には「勉強会に参加しなかった」というものも挙げられていた。

 K社では、社長の思い付きで、所定休日である土曜日に「勉強会」(しかし、その実態は書類整理などの日常業務であったという。)が行われており、この任意の「勉強会」に参加しなかったことが解雇理由とされていたのである。

 社長は、「勉強会」への参加は任意であるが、参加しない場合に「やる気がない。」として評価が下がり解雇されるのは当然であると主張した。

 任意とは一体何なのか、一瞬わからなくなってしまった。

 本人尋問において、社長はとんでもない“俺”理論を展開した。

 我々は、社長に対して、異常在庫の件について、Aさんは前任者から引継ぎを受けたとおりに作業していたのだから、Aさんに責任はないのではないかと尋ねた。

 これに対して、社長は、他の従業員は泣いて謝ったり土下座してくれたが、Aさんだけが前任者から言われた通りやったという主張をした、そのような危険な思想が他の従業員にうつる恐れがあったため出社禁止処分及び席の移動を行った、と証言した。

社員食堂に反省文が掲示!「懲罰として10万円」「責任とって退職」…

また、社長は、そもそも反省とは何かという基準が自分の中にあり、前任者から言われた通りやったというのは、たとえそれが事実であったとしても反省ではないから、私の基準では懲戒解雇の理由になると説明した。

 要は自分に落ち度がなくてもとにかく謝れということである。

 我々は、事前にAさんからK社の食堂にある掲示板の写真を見せられていた。そこには、不満そうな表情で両手を膝の前で組んでいる従業員の写真とともに手書きの反省文が張り出されていた。反省文には「懲罰として10万円の給与減額を申請します。」「責任をとって退職します。」などと記載されていた。K社の異様な雰囲気を感じる写真であった。

社長は、これらの反省文について、「従業員が反省の意を表すために自主的に掲示したものだ。こういうことはとても良いことで、人事評価の対象になる。」と証言した。

 なお、K社では職能給制度が採用されていたが、Aさんの職能給は理由も告げられず減額されていた。Aさんには「A-20-1」などの等級がつけられていたが、就業規則にある職能給一覧表にはそのような等級は見当たらなかった。

このことについて、裁判官から、Aさんの職能給は就業規則のどこにあるのか尋ねられると、社長は「ありません。私が考えて付けました。」と証言した。

 K社では、法律のみならず就業規則すら無視され、従業員の賃金も社長の独断で決定されていたのである。

 裁判官は判決で、Aさんに対する懲戒解雇が無効であるとしたうえ、杜撰な解雇が民法上の不法行為に該当するとして、K社に対して、Aさんが働けなくなったことによる逸失利益(賃金6か月分)及び慰謝料を支払うよう命じた。また、社長のパワハラ(「寄生虫」発言及び後頭部を叩いたこと)に対する慰謝料、並びに減額された賃金差額分の支払いも命じた。

 中小企業という閉ざされた社会の中で、K社では今まで誰も社長の“俺”理論に対して声を上げることができなかったのだろう。

 労働者が一人で会社や社長に対して声を上げることは難しく、そのために法律は労働組合に強い権限を与えている。

残念ながら、K社をはじめ、日本には労働組合がない、あるいは機能していない中小企業が多く存在しているが、職場における労働者の権利を守るため、あらゆる企業に労働組合が浸透し、対等な労使関係が育まれることを願うばかりである。

【関連条文】
不法行為=民法709条

(鈴木悠太/旬報法律事務所http://junpo.org

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ブラック企業被害対策弁護団
http://black-taisaku-bengodan.jp

長時間労働、残業代不払い、パワハラなど違法行為で、労働者を苦しめるブラック企業。ブラック企業被害対策弁護団(通称ブラ弁)は、こうしたブラック企業による被害者を救済し、ブラック企業により働く者が遣い潰されることのない社会を目指し、ブラック企業の被害調査、対応策の研究、問題提起、被害者の法的権利実現に取り組んでいる。
この連載は、ブラック企業被害対策弁護団に所属する全国の弁護士が交代で執筆します。

最終更新:2018.11.05 12:29

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