「ネット上に流した情報は永遠に残る」は本当? サイト管理者が亡くなってしまった「故人サイト」は、その後どうなってしまうのか

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『故人サイト 亡くなった人が残していったホームページ達』(社会評論社)

「インターネット上に流した情報は永遠に残り続ける」

 インターネット上に流れた書き込み、個人情報、写真などは、いったん拡散されてしまうと、後から消すことは困難を極める。近年は「デジタルタトゥー」という用語も一般に普及するようになり、本稿冒頭にあげたような言葉が盛んに用いられている。

 ただ、この「インターネット上に流した情報は永遠に残り続ける」という考え方、実は、半分は正しいが、半分は誤りだ。確かに、「バイトテロ」や「ハメ撮り」のような不用意に撮った(撮らせてしまった)写真などは、拡散に拡散を重ね、長い期間ネット上に残り続けてしまうかもしれない。

 しかし、あなたがいま一生懸命書いているブログなどは、もしもあなたが死んでしまったら、数年で消えてしまうか、もしくは卑猥な言葉などが書き連なるスパム広告で汚れてしまうかもしれない。それがどんなに良い内容のブログであろうとも……。

 墓守がいなければお墓は雑草まみれになって荒れ果て、やがては朽ち果ててしまうように、サイトも放置され誰も管理する人がいなければ同じような状態になってしまうのだ。

 管理者が亡くなってしまったサイトというのはその後どのような道をたどるのか。管理者が故人となってしまっている103ものサイトを紹介し、各々のサイトの成り立ちや経緯などをまとめた労作『故人サイト 亡くなった人が残していったホームページ達』(古田雄介/社会評論社)には、管理者がいなくなってしまったサイトはどのような運命をたどるのかが解説されている。

 たとえば、ツイッターやフェイスブックなどのSNSであればそのサービスの終了がアナウンスされた時点で、なんの対策も講じなければ、そのアカウントに書き記されていたテキストや写真は消滅してしまう。これは、無料のホームページサービスやブログサービスでも同様である。

 また、有料のレンタルサーバーを使っていた場合も、契約者が亡くなり、自動引き落とし先の銀行口座やクレジットカードが凍結されれば、そのまま放置しているとアカウントが消滅することになる。

 上記のように消滅とまではいかずとも、放置し続ければ必ず問題が発生する。特に問題が発生しやすいのが、ブログのコメント欄だ。ブログを放置していれば、そのコメント欄は「荒らし」に遭う可能性が高くなる。「荒らし」には二つのパターンが存在する。

 ひとつは、自動式のスパム書き込み。これの標的にされると、故人の訃報についた、友人・知人からのメッセージに混じって、アダルトサイトのURLなどを貼り付けた卑猥な広告などがついてしまう。こういったスパム広告は、アクセス数の多いサイトを狙ってくるので、故人が一生懸命ブログを書いていたのなら、なおさらそのサイトが汚される可能性が高まる。故人からサイト管理を引き継いだ人間が定期的にスパム広告を消してまわるか、コメント欄を画像認証制に切り替えるなど、なんらかの対策を講じる必要がある。

 もうひとつのパターンは、「炎上」の結果起こる「荒らし」だ。これに関してはまず、故人に対して恨みを隠しもっていた人間が書き込むケースが考えられるが、そうでない事例もある。ひとつ具体例をあげてみたい。

 アメーバブログ上で展開していた、ある20代半ばの女性のブログがある日を境に急に更新されなくなった。それから3週間後、突然、女性の夫から彼女の訃報と、愛に溢れた妻へのメッセージが投稿される。ブログの更新が途絶えていたのは、ブログ主である女性が急死したためだったのだ。当初は知人らがその訃報に対する悲しみや驚きをコメント欄に書き込んでいたのだが、それから約40日後、事態は大きく展開する。

 そのブログに関するスレッドが「2ちゃんねる」に立ち、たくさんのネットユーザーが押し寄せたのだ。悲劇はそこから始まる。その訃報がアクセスを上げるための工作なのではないかと疑いがかけられた。その後、「賞金目当てでこんな嘘付かないで下さい」といった心ないコメントが投稿されるなど炎上してしまうのだが、この騒動は、当時、アメブロでアクセスランキング上位に入ると賞金がもらえるキャンペーンを展開していたため起きてしまったものだった。

 炎上発生後、ある時期までは夫が荒らしのコメントをひとつひとつ削除していたようだが、途中から嫌気が差してしまったのか、現在でも荒らしのコメントはいくつか残ってしまっている。また、これによってアクセス数が上がったため、スパム業者からのターゲットになってしまい、現在のコメント欄には卑猥な荒らしの書き込みも散見される。おそらく彼はもう「墓守」の役割は降りてしまっているのだろう。それらスパム広告も残されたままだ。

 サイト管理者が亡くなった後も、サイトを残し続けるのは容易いことではない。昨年の10月末をもって、2008年に亡くなった飯島愛さんのブログ「飯島愛のポルノ・ホスピタル」が閉鎖されたことが話題になったが、これは、彼女の死後もブログの管理を続けていた飯島さんのご両親が高齢になり、サイトの管理が難しくなってきたことが理由であった。

「飯島愛のポルノ・ホスピタル」は、死後に最後の投稿のコメント欄が「モニュメント」のような存在になった稀有なブログとして有名だ。そこには、追悼のコメントのみならず、閲覧者が天国の彼女に人生相談を投げかけるような文章など、閉鎖直前は7万2000件ものコメントが集まった。このようなブログになったのは、コメント監視を続けていたアメーバブログのスタッフとご両親の力が大きい。お墓の管理には、雑草を抜いたり、供花を差し替えたりといった作業が必要なように、サイトの管理にも汗をかくことが必要なのだ。そして、それ次第によっては、そのサイトは「モニュメント」のように人の集まる場になることができるという好例である。

 そのように「残り続ける」サイトは、なにも有名人のものだけではない。市井の人のサイトでも同じである。その例が「ワイルズの闘病記」というブログだ。これは、急性リンパ性白血病を患ったワイルズさんが、病との戦いを淡々と綴ったもの。残念ながら、ワイルズさんは若くして亡くなってしまうのだが、その後、ワイルズさんの父が息子との思い出を綴るなど、サイト管理とともに投稿も継続。その父が脳出血で病に臥せったあとは、ワイルズさんの母が管理を引き継ぎ、いまでも命日には近況や亡き息子への思いを綴り、閲覧者とのコミュニケーションも続けている。

 これには、〈ワイルズ両親として、ワイルズが闘病中経験したことが少しでもこのブログを見た方、闘病されている方のお役にたってもらえたらと思います〉というご両親の思い、そして、ブログにも公開されているワイルズさんの遺書に綴られた、ワイルズさんの思いがある。ワイルズさんは遺書のなかでこのような言葉を書き記している。

〈おそらく、私の死は後続の者達に、何らかの波紋として伝わると思います。私の意志は、級友、そして後輩へと。語ってください。「死」について、今の教育では全く理解できないまま、多くの子供が成人していってしまいます。「死」は特別なことでも、恐れるべきことでも、辛いことでも、苦しいことでもない、ということを、教えて欲しいのです。かつて、笑いながら自分の葬儀を指示し、遺書を書いた子供がいたことを、知って欲しいのです。最後になりますが、本当に今までありがとうございました〉

 ワイルズさんの残した闘病記は、同じように病に臥せっている人はもとより、いまは元気に暮らしている人にも「生きるとはどういうことか」という大切なことを教えてくれている。このように「ワイルズの闘病記」を読んだ人がいまでも何かを感じることができるのも、ご両親が故人の意思を引き継ぎ、サイトの管理を続けているからに他ならない。

 故人の思いを、残された者たちが引き継ぐケースでは、音楽家の玉木宏樹さんのツイッターアカウント(@tamakihiroki)もあげられる。杉良太郎や里見浩太朗、松方弘樹らが出演したテレビドラマシリーズ『大江戸捜査網』(テレビ東京系)のテーマ曲でも知られる玉木さんだが、2012年に肝不全でこの世を去った。しかし、そのツイッターアカウントは死後も更新を続けている。玉木さんは生前「純正律」という音楽理論の普及に尽力していたのだが、ツイートの内容は、この「純正律」をはじめ、音楽的な教養を伝えるものである。

 どうして故人の教えがいまもつぶやかれ続けているのか。実は、玉木さん亡き後にアカウントを運用しているのは、玉木さんを中心に設立されたNPO法人・純正律音楽研究会の事務局スタッフ。生前に玉木さんが熱い思いをもっていた純正律の啓蒙活動への意思を引き継ぎ、彼の著書から記述を抜粋してツイートが行われていると言う。

 以上見てきたように、サイト管理者が亡くなった後のサイトには色々な「その後」をたどったものがある。このようなサイトを覗きに行くことに関しては、ひょっとしたら「悪趣味」との批判もあるかもしれない。しかし、先ほどあげた「ワイルズの闘病記」を見ても分かる通り、我々がそこから学ぶことは多くある。故人が残してくれたメッセージから「いまを生きる」ことの大事さを学び取る。インターネットとは、「死」を間近に見ることのなくなった近代社会に生きる我々にとって「死生観」を考えさせてくれる数少ない場にもなりつつあるのかもしれない。
(田中 教)

最終更新:2016.01.25 11:04

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