山口組分裂で戦争にならないのも当然? 暴力禁止、親子盃も省略、実は刺青入れてない…現代ヤクザの意外な日常

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『暴力団』(新潮社)

 10月中旬、名古屋にて6代目山口組系3代目弘道会と神戸山口組系4代目山健組、山口組中核組織同士が衝突。傷害の容疑で逮捕者が出るなど、山口組分裂騒動は依然として緊張状態が続いている。

 また、巨人選手が絡んだ野球賭博問題は、それとは別にダルビッシュ有投手の弟・ダルビッシュ翔容疑者が違法野球賭博を行ったとして逮捕。背景に暴力団との絡みがあるのではと現在捜査が続けられている状況だ。

 というわけで、実話誌のみならず、新聞・テレビでも「暴力団」という言葉を聞かない日がないぐらい、今年は「暴力団」に関する話題に事欠かない日々が続いているわけだが、では、彼らが何をして稼ぎ、何を食べ、どうやって生活しているかと問われたら、即答できない人も多いのではないだろうか? 暴力団の生活とはいったいどんなものなのか? 溝口敦『暴力団』(新潮社)には彼らの意外過ぎる素顔が綴られている。

 今回の山口組分裂騒動において、普段暴力団ネタを扱わない一般週刊誌などでは「会合の場所にドローンを飛ばして爆破する」(「週刊ポスト」小学館/2015年9月11日号)など、とんでもない煽りがなされているが、一方、継続して暴力団に対し取材を重ねている実話誌では、山一抗争のような事態には発展しないだろうと報じられている。実際、本稿冒頭の名古屋での衝突事件を報じた「週刊大衆」(双葉社)15年11月9日号では、「今は上からトラブルを起こすなと指示されているようで、もともとは身内だったから、街で出会っても黙って、すれ違っている」との関係者のコメントも掲載されていた。

 果たしてどちらの報道が正しいのか? そして、大規模な抗争は起きるのか? だが、以下のエピソードを見る限り、どうやらそのような抗争は起こりそうもない模様だ。

〈兵庫県下の繁華街で、山口組系の組員二人が客引きの若い男たち五人に囲まれ、ぼこぼこに殴られたことがあります。組員二人は組事務所に取って返し、包丁や金属バット、ヌンチャクなどを持って客引きに復讐しようと飛び出したところ、組の上層部に引き留められたそうです。
「絶対やるな。殴られたら殴られ放しで帰ってこい。それで正解だ。仕返しして、もし親分が謹慎など、上から処分を受けてもいいのか」
 組員二人は歯がみをして悔しがり、「仕返しできんようなヤクザなら、ヤクザやってる価値なんかあらへん」と親分にもらった盃を叩き割って、組を出てしまったそうです〉(溝口敦『暴力団』)

 暴力を振るわないヤクザというのはなかなかイメージが湧かないが、それにはきちんとした理由がある。

〈現在では、大きな暴力団は他の組を相手取った抗争をしないようにしているばかりか、実質的に組員の喧嘩も禁じています。というのは、民法や暴力団対策法で定められた組長に対する「使用者責任」を法的に追及されることを恐れているからです。
 もし傘下の組員が誤射や流れ弾で一般人や警官を殺傷した場合、本人や遺族に裁判を起こされ、組の一番トップ、山口組なら組長の司忍が損害を賠償することにつながってしまうためです〉(溝口敦『暴力団』)

 法的な締め付けが厳しくなったいま、ヤクザ映画で描かれるようなヤクザはもうこの世には存在しないのである。また、現在の暴力団の意外な姿はこれだけにとどまらない。ヤクザ映画では、高級そうなスーツを着こなし、女性にもモテモテの姿が描かれるが、それも昔の話だというのだ。

「科学警察研究所報告」1981年7月号におさめられている、組員に「なぜ暴力団に入ったのか」と聞いた調査によると、49%もの組員が「格好のよさにあこがれて」と回答したとの報告が残っているが、それから20年以上の時を経たいま、暴力団は若い人のリクルートに苦慮している。

 その理由は、「シノギ」としてきた違法薬物の取引、恐喝、賭博、ノミ行為などで稼ぎがなくなってきたことにより、ヤクザ自身、その予備軍である不良少年たちに「あこがれ」を喚起するような豪奢な生活ができなくなったことにある。それには、「暴力団排除条例」が大きな影響を与えている。これにより、上記のような商売の他にも、「みかじめ料」をあてにするようなビジネスが不可能になった。また、現在では条例により、暴力団系の土建会社・建築会社は公共工事の下請けに入ることも難しい。

〈暴力団の末端組員は、一般人が苦しい以上に、生活が苦しいのです。民間アパートを借りられず、車の中で寝泊まりしているホームレス一歩手前の組員さえいます。
 なぜアパートを借りられないのかといえばお金がないからですが、もう一つ全国で暴力団排除条例が施行され、暴力団は新しく繁華街で組事務所を開けなくなりました。条例に前後して、警察による行政指導が強まり、組事務所ばかりか、民間アパートでも保証人がなくては貸借することが難しくなりました。「暴力団の組員」でないに○をつけさせる書式も差し出さなければなりません〉
〈都内のマンションで部屋を借りられないのは暴力団事務所ばかりではなく、組員も同じです。借りるためにウソをついたり、他人の名義を使うと、後で詐欺などの容疑や罪名で逮捕される危険があります。
 こうして暴力団組員は公共住宅からはもちろん、民間の不動産からも閉め出されます。銀行口座もつくれませんから、子供の授業料も自動引き落としにできません〉

 もちろん、クレジットカードだってつくることはできない。これでは、豪華な生活どころか、普通の生活を送るのでも不便極まりない。しかし、彼らの厳しい日常はこればかりではない。驚くことに彼らには手帳でスケジュール管理することも、日記をつける自由すらも与えられていないのだ。

〈暴力団は多少とも逮捕や服役を繰り返していますから、その度に生活はぷつんと中断されます。逮捕と同時に家宅捜索されますから、手帳や日記はつけられません。押収されると、他の組関係者や自分のスポンサーに迷惑をかけてしまうからです〉

 また、携帯電話の取り扱いに関しても面倒臭そうである。

〈痛し痒しなのは携帯電話です。携帯電話のおかげで電話番号を記憶する苦労からは免れましたが、そのかわり携帯の通信記録や番号簿から人脈の全容を警察に把握されてしまいます。携帯電話をシノギ関係、組関係、個人関係と三、四台使い分けたり(突然、家宅捜索があれば、急いでシノギ・組関係の電話をトイレに投げ込み、水につからせて、入力データを復元不能にします)、姓名を愛称や略称で入力しておくなど、組員の方もそれなりに工夫しています〉

 些細なことだが、普段から何台も携帯を使い分けなければならないのは、地味にストレスが溜まりそうだ。

 最後に本稿の締めとして、ヤクザ映画での暴力団のイメージを覆すエピソードを二つほどご紹介したい。まずは、「刺青」について。ヤクザといえば、全身に和彫りが入っているイメージがある。これには刺青を入れる痛さを絶え抜くことで、「自分はヤクザ者になったんだ」という覚悟を確かめる、通過儀礼的な側面があると聞くこともあるが、そういうことでもなかったようで……。

〈暴力団のすべてが刺青を入れているわけでもなく、たとえば山口組の四代目組長だった竹中正久は刺青を入れていませんでした。
 実弟の竹中組組長・竹中武から聞いたことがあります。
「兄貴(竹中正久)だけでなく、わしらもみんな身体はきれいや、入れてへん。墨みたいなもん、痛い目して、高い銭出してやな、体に悪いいうことが分かっとって、入れるいうの、わしらおかしいと思うわ」〉

 また、ヤクザ映画では、親子の盃を交わすシーンや、組長のために組員が命を賭すシーンなどが出てくることがあるが、これらの「任侠心」も、あくまでフィクションなようだ。

〈親子盃そのものが省略されることも多く、現代では組員の四割程度しか親子盃を経験していないという調査もあります。
 親子盃を交わすとなれば、映画などでよく知られたセリフが出てきます。
「産みの親子がいるのに、改めて今日から○○さんの子分となるからには、親の言うことは、白いものを黒いと言われても、『はい』と言わなければならないが、それを覚悟してこの盃を受けなさい」
 場合により適当に省略されますが、精神においてはこの通りです。だから組員になった者は、よほど組長が物の分かった人でないと、途中で、あまりにバカバカしくて、やってられない、とつくづく思うことになってしまいます。
 科学警察研究所の調査によれば、「親分に盃を返したい、あるいは親子関係を解消したいと思うことがしばしばある」と答える組員が14.6%、「ときおり親子関係を解消したいと思うことがある」とする組員が29.3%もいて、両方の回答を合わせると、43.9%の組員が必ずしも親分に心服していないのです〉

 山口組関連のニュースが報じられる際は、必ずといっていいほど、全身をイタリア製ブランドのスーツでキメた、まるで映画スターのような出で立ちの6代目山口組・司忍組長の写真が使われるが、上層部がそのような豪勢な生活を送る一方、大半の下っ端組員は意外にもトホホな日常を送っているようなのである。
(井川健二)

最終更新:2015.11.03 11:04

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