渡邉恒雄の追悼報道でマスコミが触れない裏の顔! 中曽根、児玉誉士夫、佐川急便をめぐる疑惑、汚職政治家のファミリー企業にも

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『誰も書けなかった日本の黒幕』(宝島社)


 戦後政治を牛耳ってきた“読売グループのドン”渡邉恒雄、通称ナベツネが亡くなった。訃報の直後から、新聞やテレビ、ネットニュースは回顧記事や追悼報道を流しているが、そのほとんどが政界、メディア、球界への影響力を讃えるものばかり。最大の問題だった政治家との癒着についても、「政治家との距離の近さが物議をかもすこともあった」というレベルの表現でお茶を濁している。

 しかも、まったく触れられていないのが、その黒い過去だ。ナベツネはたんに政界に食い込んで政策を思いのままに動かしていただけではない。盟友・中曽根康弘とともに、ロッキード事件の被告でもあった右翼の大物・児玉誉士夫の裏ビジネスに関与したり、政界への巨額献金で摘発された佐川急便に読売新聞の土地を買わせるなど、政治家や疑獄事件関係者との黒い疑惑が複数もちあがった。

 ところが、今回、メディアはこうした過去を一切報じていないのだ。

 いや、これは今回の追悼記事だけではない。もっと以前から、新聞やテレビはもちろん、週刊誌さえナベツネのこれらの疑惑にはほとんど触れようとしなくなった。

 だが、ナベツネが亡くなる半年前の今年6月、このメディア界のドンの黒い過去に踏み込んだ本が出版された。

 本のタイトルは『誰も書けなかった日本の黒幕』(宝島社)。同書は、政界スキャンダルや経済事件を長く取材してきたジャーナリストや事件記者が勢ぞろいし、政界、財界、裏社会で「フィクサー」「首領」「政商」などといわれた人物たちの実態を暴いた一冊だが、その中に収められた「渡邉恒雄 戦後政治を牛耳ってきた怪物フィクサーのタブーと裏の顔」というレポートに、政治家、疑獄事件の関係者たちとのただならぬ関係が詳しく記されていた。今回は、その一部を紹介しよう。

右翼の大物・児玉誉士夫の裏ビジネスへの関与も取り沙汰されたナベツネ 出版社乗っ取りも

『日本の黒幕』がまず、大きく取り上げているのが、前述した児玉誉士夫、中曽根康弘との問題だ。

 ナベツネが盟友・中曽根とともに、児玉による九頭竜ダムの補償口利きにかかわっていたことは、児玉に口利きを依頼した緒方克行という人物が『権力の陰謀 九頭竜事件をめぐる黒い霧』という告発本で明らかにし、当時、大きな問題になった。

 だが、『日本の黒幕』はナベツネと児玉、中曽根にそれ以上の関係があったことを指摘している。ナベツネは児玉とともにある出版社の乗っ取りにかかわり、自身と中曽根、児玉が株主になったうえ、ナベツネの実弟にその出版社の社長をやらせていたというのである。同書はその詳細をこう書く。

〈その出版社の名前は「弘文堂」という。もともとは明治33年創業の名門学術出版社だったが、1960年代はじめに経営危機に陥り、児玉誉士夫の一派に乗っ取られてしまう。
 当時の弘文堂の新たな株主リストにはこんな名前が並んだ。
 大橋富重、北海道炭礦汽船、東京スタヂアム、東日貿易、児玉誉士夫 中曽根康弘、渡邉恒雄。
 筆頭株主の大橋富重は児玉や小佐野賢治とともに幾つかの経済事件にかかわり手形詐欺で東京地検に逮捕された人物。北海道炭礦汽船、東京スタヂアム、東日貿易もすべて児玉と親しいオーナーが所有していた企業だ。そして、児玉、中曽根、ナベツネの名前……。ようするに、児玉人脈一色の会社で、ナベツネは中曽根とともに株主になっていたのである。
 それだけではない。当時の弘文堂には、ナベツネの実弟・渡邉昭男が代表取締役社長に就任していた。
 そもそも、弘文堂乗っ取りには、ナベツネが最初から深く関わっていたとされる。ナベツネは弘文堂の前経営者と旧知の間柄で、最初の著作『派閥』も同社から出版していた。ところが、1960年ごろ、弘文堂は内紛にみまわれたうえ、経営危機に陥り、借金のかたに会社を取られそうになる。 
 そこで旧経営者に相談を受けたナベツネが、旧知の児玉誉士夫に依頼し、介入してきた暴力団や不動産会社を排除したのだという。
 だが、その代わり、弘文堂には児玉人脈の資金が投入され、前述の面々が株主になってしまった。そして、ナベツネは児玉らと協力して前経営者を会社から追い出し、自分の弟を代表に据えるかたちで、同社の事実上の経営権を握った。
 弘文堂とナベツネの間には、金の流れもあった。ナベツネは65年、千代田区番町にある豪華マンション「五番町マンション」の180平米にも及ぶ広さの部屋を購入している。登記簿によると、このマンションは、弘文堂とナベツネで共同購入するかたちとなっていた。持分は18分の10が渡邉恒雄で、18分の8が弘文堂だった。〉

佐川急便との土地取引をめぐる疑惑でTBSを逆ギレ提訴 法廷で証言されたナベツネの関与

『日本の黒幕』は、1990年代はじめに報道された読売新聞と佐川急便との土地取引問題についても、メディアがほとんど報じてこなかった新たな事実を掘り起こしている。

 1992年、佐川急便グループの中核企業・東京佐川急便をめぐって金丸信への5億円をはじめとする政治家への巨額裏献金、暴力団、右翼団体への過剰融資が次々発覚。同社社長・渡辺広康らが特別背任容疑で東京地検特捜部に逮捕・起訴された。

 その特捜部捜査の真っ只中だった2月、TBSの『ニュース23』などが、読売新聞社がJR新大阪駅前の社有地を佐川急便側に届出価格202億円で売却していたと報じた。

 TBSは、当該土地の取引のあった1991年はじめ、佐川急便は経営状態が悪化していたにもかかわらず、相場より50億円近くも高い金で読売から土地を買ったとし、その背景について「読売新聞の渡邉恒雄社長と、東京佐川急便社長だった渡辺広康容疑者、トップ同士のコネクションが決め手で、大物政治家の影もちらついている」と解説した。

 しかし、ナベツネはこの報道に対し、「正当な取引」だと主張し、渡辺広康とは「パーティで一、二回会っただけ、土地の話なんてしていない」、交渉も「担当部署が行っていて、自分は無関係」と完全否定。読売新聞社も、報道の取引価格や実勢価格が出鱈目だとして、TBS に1億円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。しかも、さまざまなメディアの取材にナベツネ自身が応じて、「TBSはインチキばかり垂れ流す」と吠えまくった。

 こうした勢いに押されてか、他のテレビや新聞はTBSの報じた疑惑を一切検証しようとしなかった。週刊誌も問題を「読売とTBSの喧嘩」に矮小化したり、「TBSの勇み足」とむしろTBSを批判するトーンが大勢を占めた。そして、そのままほとんど話題にならなくなっていた。

 しかし『日本の黒幕』は、この読売とTBSの裁判が突然の和解という不可解な決着となったと指摘したうえ、裁判で飛び出していたナベツネの疑惑を裏付ける証言と、政治家の関与の可能性を詳述している。

〈この裁判では、土地取引の一方の当事者である元東京佐川急便社長の渡辺広康(91年7月に同社解雇)が93年7月、東京地裁の出張尋問に応じ、こう証言しているのだ。
「90年11月、首相経験者を含む政治家2人が同席した会食の中で、読売新聞の渡邉恒雄社長(当時副社長)から土地取引を持ちかけられた」
 渡辺は具体的な名前をいわなかったが、「同席していた首相経験者」はナベツネの盟友・中曽根康弘だったといわれている。
 この会食が行われた同じ日、東京プリンスホテルで太刀川恒夫の東京スポーツ新聞社社長就任を祝うパーティーが開かれていた。太刀川といえば、児玉誉士夫の秘書として戦後の裏面史に暗躍した人物だ。
 パーティには、旧児玉系右翼幹部が勢揃いしていたが、乾杯の音頭をとったのがナベツネ、最初にスピーチをしたのが中曽根だった。そして、会場には、旧児玉系右翼に280億円もの乱脈融資をしていた東京佐川の渡辺広康の姿もあった。
 TBSは3人がこのパーティーから抜け出して、千代田区内の料理屋で土地の交渉をしたと見ていた。
 いずれにしても、ナベツネが政治家同伴の席で、土地の話を持ち出したことを、当事者である元東京佐川・渡辺が裁判で証言していたのである。取引金額がいくらだろうが、これだけでも報道機関のトップとして許される行為ではないだろう。〉

政治家と癒着し日本の政治を左右してきたナベツネ 批判も追及もせず放置してきたマスコミ

 さらに、『日本の黒幕』は、マスコミが一切報じてこなかった、贈収賄事件で逮捕された大物政治家とのただならぬ関係についても指摘している。

 その政治家とは元建設相の中尾栄一。中尾は2000年6月30日、建設省発注の工事をめぐり、中堅ゼネコン・若築建設から6000万円の賄賂を受け取ったとして、東京地検特捜部に受託収賄容疑で逮捕された。若築建設は許永中の裏金づくりの舞台になった石橋産業の子会社で、中尾への賄賂は許永中の政界工作の一端ともいわれた。

 ところが、マスコミは報じなかったが、この逮捕で驚きの事実が判明していた。同書を引用しよう。

〈問題は、逮捕当日、中尾の地元・山梨県甲府市に本社を置く「日本ネットワークサービス(以下・NNS)」という会社が同容疑で特捜部から家宅捜索を受けたことだった。
  NNSは山梨県内約18万6000世帯が加入する大手ケーブルテレビ局だが、以前は中尾栄一の典型的なファミリー企業だった。当時の経営陣は、代表取締役会長が中尾栄一、社長が長男・嶺一、取締役に姉の栄子。しかも、NNSの東京支社は、石橋産業の発行小切手を裏書きするなど、事件の鍵を握る中尾の政治団体「東京山栄会」と同住所にあった。
「当時、特捜部はNNSの子会社が裏金づくりに関わっているのではないかと見て、ガサ入れをしたようだ」(当時の司法担当記者)
 ところが、マスコミ各社がこのガサ入れでNSSの法人登記簿を取り寄せたところ、驚きの事実が判明する。取締役欄に「渡邉恒雄」の名前が記載されていたのである。
 たしかに、中尾はナベツネの盟友・中曽根康弘の腹心中の腹心で、ナベツネとも非常に親しい関係にあった。ナベツネが政局を動かす際の料亭密談にもしばしば同席しており、たとえば、98年に自自連立を仕掛けた際も、野中広務との料亭での会談に中尾を「見届け人」として同伴していたと報じられている。
 しかし、親しい政治家とはいえ、報道機関のトップが、汚職政治家のファミリー企業の取締役を務めているとは……。さらに、驚かされたのは当時のNNSの株主だった。筆頭株主は約76万株を保有する中尾栄一だったが、その中尾に次ぐ大株主が読売新聞社だったのである。〉

 この後、記事はナベツネが中尾の会社に取締役として入り、読売新聞が大株主となった経緯についても、記している。詳しくは同書を読んでほしいが、問題は、ナベツネのこうした問題をある時期から、メディアがほとんど報道しなくなったことだろう。

 メディアがマスコミトップと政治権力とのありえない癒着を追及せずに放置してきた結果、ナベツネは日本の政治を左右するフィクサーと化してしまった。

『日本の黒幕』はマスコミが追及に及び腰になっていた要因についても検証した上、いまの状況を予見するような文章で記事を結んでいる。

〈戦後政治を牛耳ってきた “最後の大物フィクサー”渡邉恒雄も98歳。そう遠くない先、泉下の客となる。
しかし、そのとき、メディアが流す夥しい数の追悼特集や回顧報道をどう総括するのだろうか。
現状を見る限り、本稿が指摘した「罪」や「裏面」にまで踏み込む動きが出てくるとは、到底、思えないのだが……。〉

最終更新:2024.12.21 08:09

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