岸田首相息子のフジ女性記者へのリーク疑惑で「まるで『エルピス』」の声! マスコミ政治部の醜悪すぎる癒着体質があらためて露呈

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首相官邸HPより


 敵基地攻撃能力の保有や増税軍拡、原発の建て替え推進など、安倍政権ですらできなかった重大な政策転換を連発している岸田文雄首相。内閣支持率も下がりつづける一方だが、そんななか、呆れ果てるニュースが飛び出した。

 12月22日、会員制情報誌「FACTA」のオンライン版が、号外速報として、こんなタイトルの記事を掲載したのだ。

「「官邸極秘情報ダダ漏れ」情報源は首相長男・岸田翔太郎氏か/「早すぎるフジテレビ」スクープ連発/10月の秘書官就任直後から」

 ご存知のとおり、岸田首相は今年10月4日に自身の長男である翔太郎氏を政務担当の首相秘書官、つまり首席秘書官に抜擢。そして、問題となっているのは、その首相秘書官抜擢から20日後である10月24日、山際大志郎経済再生相の辞任をいち早くフジテレビがスクープしたこと。このスクープのリーク元が翔太郎氏で、リーク先が「フジテレビの総理番の女性記者」ではないかと疑われているというのだ。

 たしかに、山際辞任の一報は奇異なものだった。この日、国会では朝から衆院予算委員会の集中審議がおこなわれ、山際経済再生相と統一教会のズブズブ関係が問題のひとつとなっていた。そんななか、昼前にフジテレビが独自ネタとして「山際大臣交代も視野に検討」と報道。午後の参院集中審議では野党議員が山際氏の更迭について岸田首相に真意を問いただしたが、この時点では岸田首相は「まったくない」と報道を否定していた。ところが、その答弁から数時間後の夕方には山際氏が辞任の意向を示し、辞表を提出。フジのスクープどおりの展開となったのだ。

 しかも、フジによる人事スクープはこれだけではない。11月11日には、「死刑のハンコを押したときだけトップニュースになる」などと発言し問題になっていた葉梨康弘法相について、午前中には岸田首相が更迭を否定していたのだが、やはり昼前にフジテレビが独自ネタとして「葉梨法相交代も 岸田首相が検討 きょうの外遊出発前に判断も」と報道。午後にはこの報道どおり岸田首相は更迭を決め、外遊出発を延期させた。

 2度も連続して放たれたフジの特ダネ報道──。情報の出所は岸田官邸以外にありえず、なかでも首席秘書官であるだけでなく、岸田首相の身内中の身内である長男の翔太郎氏から漏れていても不思議はない。だが、仮に2度も同じ総理番の記者に情報を流していたとしたら、記者との癒着や私物化を疑われても仕方がないものだ。

 そもそも、岸田首相が翔太郎氏を首相秘書官に抜擢した際、「身内びいきだ」と大きな批判が巻き起こったが、首相秘書官は特別職国家公務員であり、年収1000万円前後とも囁かれるその給与は税金で賄われている。しかも、首席秘書官ともなれば国家機密にもかかわる情報を扱う、極めて重要な立場だ。

 他方、翔太郎氏をめぐっては、「“合コン大好き”で知られている」「『民放に伝手のある知人に『女子アナを紹介してよ』とせがんでいた」「酒の勢いで女性を口説くタイプ」などと「週刊文春」(文藝春秋)10月22日号が伝えていた。「身内びいき」と批判が起こっているなかで置かれた立場を理解せず、軽率に情報漏えいをしていたとすれば、まさしく「ボンクラ息子」としか言いようがない。

フジテレビ総理番記者が「取材相手が嫌なことはしない」「相手の心に寄り添う」と癒着ぶりを自ら開陳

 そして、言わずもがな問題の元凶は岸田首相にある。翔太郎氏の首相秘書官抜擢は、自身の後継者である息子の箔付けでしかない、政治の私物化だ。しかも、辞任した葉梨前法相も寺田稔前総務相も宏池会所属で、岸田首相の「身内」「側近」大臣だった。ようするに、安倍元首相の「お友だち人事」「政治の私物化」と同じ問題を岸田首相は繰り返し、こうして混乱をもたらしているのである。

 だが、今回取り沙汰されている翔太郎氏の「総理番記者へのリーク」疑惑は、もうひとつ、重要な問題を浮かび上がらせた。それは、権力側と記者がベッタリと癒着した関係にあるという問題だ。

 今回、「FACTA」がオンライン版で該当記事を掲載したあと、SNS上では「フジテレビの総理番の女性記者」探しがはじまり、ある記事が拡散された。それは女性ファッション誌「JJ」のオンラインサイトが昨年12月31日に掲載した、「フジテレビ・20代女性政治部記者に聞く「総理番の仕事」って?」という記事だ。

 問題になっているフジの総理番記者がこの女性記者かどうかは定かではなく、かつ上述の更迭報道にかかわっていたのかも不明だが、この記事には、政治記者の癒着体質がよく表れている。

 このインタビュー記事のなかで、フジの総理番記者の女性は「総理の一番側近である秘書官に話を聞くのも大事な仕事になるので、それが終わったあと深夜に帰ることが多いです」などとその仕事内容について語っているのだが、SNS上で注目されたのは、「報道の部署にいる中で心がけていることや、大変なことはありますか?」という質問に対する回答だった。この総理番記者は、「大変なことは、取材先との距離の取り方でしょうか…」と言うと、こうつづけている。

「記者である以上、視聴者に届けるための情報を取ってこなければいけない、引き出さなければいけない。でもいきなり教えてくれるわけもなく、一方的な取材は失礼だし…試行錯誤の毎日です。こちらの都合で取材対象者の方にお話を伺うこともありますが、向こうも忙しいよな、向こうの都合もあるのに申し訳ない…と思ってしまいます。なので、私が取材先の立場だったら「嫌」と感じることはしないようにしています。相手が心地いいと思える距離で、相手の心に寄り添い、信頼されるような記者とは、と客観的に考えながら行動しています」

 権力と対峙し、権力を監視する役割を担う報道の記者、総理番の記者が、よりにもよって「相手が心地いいと思える距離で、相手の心に寄り添う」ことを心がけていると語る──。翔太郎氏が大臣の更迭という内部情報を記者にリークしたのか、この女性記者がリークされたのか否かはわからないが、結局、番記者はこのような癒着ともいえる関係性、距離感で仕事をしているのだということがはっきりと理解できるインタビューだろう。

 実際、内部告発ノンフィクション『朝日新聞政治部』(講談社)が話題となった、元朝日新聞記者の鮫島浩氏は、こうツイートしている。

〈朝日新聞政治部に長く在籍して首相官邸や自民党を取材する報道各社の数多の政治記者と接してきた私から見てフジテレビの彼女は決して特異な存在ではなく極めてスタンダードな総理番記者です。各社の幹事長番や官房長官番もさして変わりはありません。それを念頭にテレビ新聞の政治記事を読みましょう!〉

 さらに、このフジの総理番インタビュー記事をもとにネット上であがったのが、「ドラマ『エルピス』のようだ」という意見だった。

『エルピス』そのものの癒着は現実に横行! 萩生田“統一教会問題報道”でもテレ朝の番記者が暗躍…

 本日26日に最終回を迎える『エルピス』(関西テレビ)は、本サイトでも既報のように(https://lite-ra.com/2022/11/post-6242.html)、国家権力の犯罪である「冤罪」をメインテーマに据え、権力の横暴、それに加担するマスコミの問題の責任を追及する姿勢が全体に貫かれているドラマ作品。そして作中では、副総理に食い込んでいる政治部官邸キャップの斎藤正一(鈴木亮平)が、副総理に不都合な調査報道に横槍を入れ、さらにはテレビ局幹部が忖度して一大スクープを報道せずにストップをかけるという描写が出てくる。

 つまり、現実の総理番がインタビューで発した「相手が心地いいと思える距離で、相手の心に寄り添う」という発言は、あまりにも『エルピス』が描くメディア内部の描写とそっくりで、〈まさに「エルピス」の世界やな〉〈本人もさることながら、業界そのものが腐り切っているのだ。『エルピス』まんまではないか〉という指摘の声があがったのだ。

 ドラマ内で描かれているのとまったく同じで、腐りきった構造がメディアにある──。それは現実世界の政治報道を見れば、よくわかるものだ。

 たとえば最近なら、統一教会との関係が大きな問題となった自民党の萩生田光一政調会長だが、萩生田氏は各メディアの番記者を通じて圧力をかけた結果、萩生田氏と統一教会の関係について追及する動きはフェードアウトした。しかも、萩生田氏が生稲晃子氏とともに八王子の統一教会施設を訪問していたことが発覚したあとにようやく開いたわずか5分程度のぶら下がり取材も、調整したのは萩生田氏が懇意にするテレビ朝日の女性記者で、この記者と萩生田氏が「質問は3問まで」と勝手に取り決めたという(「週刊新潮」9月1日号より)。この記者は「萩生田氏のお気に入りなのは公然の秘密」「氏が官房副長官時代、テレ朝が組閣人事のネタを抜けたのは彼女のおかげだった」と言われているという。

 組閣人事など、ちょっと時間が経てば正式に発表されるだけのネタでしかない。今回、翔太郎氏がフジの総理番記者に漏らしたのではないかと問題になった大臣更迭のネタもそうだ。ところが、そんなものを「特ダネ」としてありがたがり、そのエサにありつこうと番記者たちがこぞって政治家と癒着関係となり、本来、報道すべき政治家の不都合な事実を暴けなくなっているのだ。

 鮫島氏は『朝日新聞政治部』のなかで、こう記している。

〈出世の階段を駆け上るには、まずは各社の番記者を出し抜いて政治家に食い込み、特ダネを書かねばならない。大物政治家になると、テレビ局や新聞社、通信社の約15社が番記者を張り付ける。その中で「一番」を目指す。(中略)担当政治家と運命共同体となった番記者が政治家批判に及び腰になるのは当然である。そればかりか政治家に社内の取材情報を漏らして点数を稼ごうとする者さえいる。番記者制度が政治取材を劣化させ、マスコミの権力監視機能を低下させていることは間違いない。〉

 歪んだ記者クラブ制度、そして番記者制度が、どうでもいい正式発表前のネタを掴むことを至上命題化し、権力の監視というメディアの役割を骨抜きにしている──。『エルピス』では、副総理が殺人事件の捜査に圧力をかけて冤罪を生み出していたというスクープが、こうした歪んだ構造のなかで潰される様が描かれているが、現実でもそうして闇に葬られた事実、追及されないままの事実がある。そういう意味でいうと、今回の翔太郎氏をめぐるリーク疑惑は、極めて重い意味を持っているのである。

最終更新:2022.12.26 05:01

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