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今井絵理子「批判なき選挙、批判なき政治」発言は民主主義の否定! 蔓延する“批判=悪”の空気の危険性
今井絵理子オフィシャルブログより
今月23日、東京都議選の告示日に合わせて今井絵理子参院議員がツイッターに投稿した文章が批判を浴びている。
〈今日から都議会議員選挙が始まります!「批判なき選挙、批判なき政治」を目指して、子どもたちに堂々と胸を張って見せられるような選挙応援をします〉
この「批判なき選挙、批判なき政治」なる言葉には、当然のごとく疑問の声が殺到した。
森友学園・加計学園のスキャンダルへの対応や、共謀罪の強行採決など、我々は安倍政権および自民党による、「独裁」と表現しても過言ではない強権的な政治姿勢をさんざん目の当たりにしてきたわけだが、それに加えて今度は「批判なき選挙、批判なき政治」ときた。
「お前ら愚民は黙って政権与党の言うことを聞いていればいい」とでも言わんばかりでファシズム精神モロ出しの言葉には、もはや呆れ返るしかないわけだが、わざわざ指摘するまでもなく、こういった考え方は反民主主義の最たるもので、この上なく危険なものだ。
健全な民主主義を保っていくためには、絶え間ない議論を続け、様々な価値観をもつ人々の考えを取り入れていく不断の努力が不可欠である。そして、中身のある議論を行うため、絶対に必要なのが「批判」だ。
作家の平野啓一郎氏は今月出版したばかりの『自由のこれから』(KKベストセラーズ)のなかで、国民による批判が社会にとっていかに重要であるかということを、このように述べている。
〈一つの比喩だが、スキーのジャンプ競技は、いったん、空に飛んでしまうと、あとはただ、風に乗って着地するまでじっとしているだけのように見える。
けれども、選手に聞くと、あの100m前後の距離のあいだに風の向きや強さなど、条件がめまぐるしく変化するので、一瞬も気を抜けず、全身のさまざまな箇所を使って調整しているのだそうだ。
それに失敗すると、思いがけず、早く堕ちてしまう。観客からは、さっきまであんなに順調だったのに、なんで?と唐突に見えるのだが、つい今し方までの順調さが、必ずしも未来の順調さを保証しない、というわけである。
その調整のために絶対に必要なのが言論の自由であり、とりわけ、政治権力に対する批判の自由である。さもなくば、国家は堕落してしまうだろう。〉
こういった考えとは逆に、今井絵理子は批判の封じ込みを主張する。その背景には、批判を真摯に受け入れて議論をすることで、物事をより良いものにしていこうというプロセスなど、面倒くさくて無駄なものと認識している考えがあるのだろう。
小沢健二が語る「対案を出せ!」への反論
ひとつの物事に対して、反対意見も勘案し、時間をかけて慎重に進めて行くことは何の意味もないことであり、トップダウンでサクサク進めていくことこそを善とする。野党の批判に対し、嘘に嘘を塗り重ねた意味不明な詭弁を弄し、強引に自分の主張を貫いていく、まさしく安倍政権的な考え方と同じであるわけだが、そういうものを何と表現するか? 独裁である。
また、彼女の言う「批判」という言葉からは、自分の意見に反対する者からの言葉を正当な意見ではなく、「嫌がらせ」や「いちゃもん」と捉えているのであろうという本音が隠しようもなく透けて見える。そういった考え方の人たちがしばしば使うのが「だったら対案を出せ」という定型句である。
これは単なる“批判封じ”のレトリックである。かつて、小沢健二は、公式サイト「ひふみよ」に掲載されたエッセイ「金曜の東京」のなかで、そういった論法を人間管理や心理誘導のための単なる説得テクニックにすぎないと言い切っていた。
〈イギリスは人間管理とか心理誘導の技術にとても長けていて、サッチャー首相の頃、八〇年代にはTINAと呼ばれる説得論法がありました。"There Is No Alternative"の略。訳すと「他に方法はない」ということ。「他に方法はあるか? 対案を出してみろ! 出せないだろう? ならば俺の方法に従え!」という論法の説得術〉
"There Is No Alternative"は安倍首相の「この道しかない」にも通じる論法だが、彼はこのレトリックのおかしさを指摘する。
〈医者に通っていてなかなか治らないとします。患者は文句を言います。「まだ痛いんですよ! それどころか、痛みがひどくなってます! 他の治療法はないんでしょうか?」と。
それに対して医者が「他の治療法? どんな治療法があるか、案を出してみろ! 出せないだろう? なら黙って俺の治療法に従え!」と言ったら、どう思いますか?〉
治療法を考えるのはあくまで医者の仕事であって、治らなければ医者を変えたり、別の治療法を試すのは当然のこと。患者は「痛い!」とただ切実に訴えればいい。その訴えを医者が真摯に受け止め、治療法を考えることで「医学の進歩」は生まれる。そして、これは社会問題に対峙するときも同じである。
〈同じように、社会をどうするか考えるのが職業の人は、人の「痛い!」という切実な声を聞いて、心を奮い立たせて問題に取り組むのが正しいはずです。
なのに一般の人が「この世の中はヒドイ! 痛い!」と声を上げると、「じゃあお前ら、対案は何だ? 言ってみろ! 対案も無しに反対するのはダメだ!」と押さえつける政治家とか専門家とか評論家とかがいるのは、むちゃくちゃな話です〉
国民たちの同調圧力が、かつてナチを生み出した
だから、市民がすべきことの一つは、「この世の中はヒドい!」と声を上げること。対案を出す必要などないのである。
また、それは、政治家にもある程度同じことが言える。ネトウヨたちは安倍政権の政策に反対する野党に対し必ず「だったら対案を出せ!」と言い募るが、だいたい、ほかにもいろんな政策・選択肢があるにもかかわらず、その政策しかないかのような議題設定をしているだけだ。「そんな法律は必要ない」、「憲法を変える必要などない」というのもひとつの「対案」であるのは言うまでもない(例えば、共謀罪でも民進党は対案を出していたし、文句を言っている人が知らないだけで実際は対案を出しているケースが多いのだが)。
加えて、そういったこととはまた別に、最も懸念すべき事項であろうと思われるのは、そもそもの問題として、「批判の声をあげる」という行動そのものを「悪」であるとみなしている人々が増えているということだ。同調圧力が強化され、社会の規範から少しでもはみ出したものは寄ってたかって徹底的に叩きのめす傾向には歯止めがかからない。
それは、なにも政治の話だけではなく、芸能人の不倫といった話題でも端的にあらわれているのは言うまでないが、加えて問題なのは、同調圧力を振りかざすそういった攻撃を、上から言われて嫌々やっているのではなく、むしろ自分たちから喜々として行っているということだ。
かつて、ドイツの社会心理学者、哲学者であるエーリッヒ・フロムは『自由からの逃走』のなかで、ナチズムはヒトラーが大衆を力ずくで支配した結果でなく、むしろ大衆がその強制を内面化し、自発的に服従することによって実現されたと指摘した。そして、その内面化、内的権威をつくりだすメカニズムをこう分析している。
〈近代史が経過するうちに、教会の権威は国家の権威に、国家の権威は良心の権威に交替し、現代においては良心の権威は、同調の道具としての、常識や世論という匿名の権威に交替した。われわれは古い明らさまな形の権威から自分を解放したので、新しい権威の餌食となっていることに気がつかない。われわれはみずから意志する個人であるというまぼろしのもとに生きる自動人形となっている。〉
〈この特殊なメカニズムは、現代社会において、大部分の正常なひとびとのとっている解決方法である。簡単にいえば、個人が自分自身であることをやめるのである。すなわち、かれは文化的な鋳型によってあたえられるパースナリティを、完全に受け入れる。そして他のすべてのひとびととまったく同じような、また他のひとびとがかれに期待するような状態になりきってしまう。「私」と外界との矛盾は消失し、それと同時に、孤独や無力を怖れる意識も消える。〉
今井絵理子的な感覚は若者の多くで共有されてしまっているものでもある
本稿で述べてきたような傾向は、今井絵理子に限ったものではなく、若い世代にはある程度広い範囲で共有されてしまっている感覚でもある。武庫川女子大学講師の井上雅人氏は、このような文章をツイッターに投稿していた。
〈学生のプレゼンにコメントすると、「どうして批判するんですか!」と激怒されることは随分前からあった。よくできました以外のコメントは全て悪口や人格否定だと思っていて、それが批判だと思っている学生は多い。なので、そういう学生が他の人を批判するときには、単なる悪口になりがちになる。〉
共謀罪が強行採決され、現在、この法律による「相互監視社会」化が懸念されているが、こういった状況ではその危惧は現実のものとなる可能性が高い。これはもっと危機感を感じるべき問題ではないだろうか。
(編集部)
最終更新:2017.12.05 01:50
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