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産経新聞が日テレの「南京虐殺」検証番組を「裏付けなしの謀略宣伝」と攻撃! でも捏造と謀略は産経の方だった
『NNNドキュメント'15』HPより
〈「虐殺」写真に裏付けなし 日テレ系番組「南京事件」検証〉
先月16日、産経新聞にこんな見出しの記事が大きく掲載された。産経が歴史修正主義を主張するために展開している例の「歴史戦」というシリーズ企画だが、内容は見出し通り、戦時中の日本軍による南京虐殺を検証した日本テレビの番組が、裏付けのない偏向番組だったと批判するものだ。
この日本テレビの番組というのは、昨年10月5日に放送された『南京事件 兵士たちの遺言』。本サイトでもその内容を紹介していたが、放送当時から高い評価を得ていたドキュメンタリーだ。
評価の最大の理由は、この十数年、虐殺はなかったという否定論が高まり、イデオロギー論争の的になってきた南京事件にこれまでにないアプローチを試みていたことだった。
番組を手がけたチーフディレクターの日本テレビ報道局・清水潔は、桶川ストーカー事件や北関東連続幼女誘拐殺人事件などを警察発表に頼らない独自の調査報道によって、その真相を追及してきた事件記者。清水は番組の放映後に出版した著書『「南京事件」を調査せよ』(文藝春秋)で、「南京事件」を「左か右か」でなく「事実か否か」、事件取材のように調査報道という手法で迫ろうとしたと記しているが、放映された内容は、その言葉どおりのものだ。
番組は、1937年12月16日と17日の2日間にわたって、南京城外の揚子江沿岸で大量の捕虜を銃殺、刺殺したという元日本軍兵士の証言や当時の日記を取りあげ、そこに矛盾や不自然な点がないか、番組取材班が徹底的に裏取りを試みる。そして中国人捕虜虐殺が事実であることを証明していくのだ。
その内容は専門家のあいだでも高い評価を集め、ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、「放送人グランプリ」2016準グランプリ、石橋甚山記念早稲田ジャーナリズム大賞など、数々の賞を受賞している。
ところが、放映から1年経って、産経新聞が前述のように、このドキュメンタリーが「裏付けのない虐殺写真」を掲載し、中国側の宣伝にのって一方的な偏向報道を垂れ流したと噛み付いたのだ。これにネトウヨは大喜びで「まーた反日マスゴミお得意の想像報道か」「日テレにも居るコミンテルンのスパイ」「中共の意向で捏造の片棒を担いでいます。放送免許を取り消すべき」などと、番組に炎上攻撃を仕掛けている。
一方、日本テレビは先月26日、同局ホームページで“記事内容は、番組が放送した事実と大きく異なり、客観性を著しく欠く恣意的なもの”という趣旨の文書を掲載し、産経記事の指摘や主張に対して詳細に反論。産経新聞社に厳重に抗議した。
すると、11月6日、今度は産経が再反論する記事を掲載。産経と日本テレビの間で激しい応酬が繰り広げられている。
しかし、今回、改めて『南京事件 兵士たちの遺言』を見直し、産経の記事を検証してみて、口があんぐりとなった。産経の記事があまりにデタラメだったからだ。枝葉末節の間違いを針小棒大に騒ぎ立てて全体を否定してかかるのは歴史修正主義者の得意技だが、今回の産経の記事はそれですらない、嘘とデマゴギーだらけの言いがかりとしか思えないシロモノだった。
■他社記事の問題とスリ替え“捏造番組”とする卑劣手口
その典型が、産経新聞が見出しで「裏付けなし」と断じた「虐殺写真」だ。実は、最初、見出しだけを読んだときはこの「虐殺写真」がなんのことかわからなかった。番組のメインは元兵士の日記と証言の検証で、虐殺の証拠写真があるというようなくだりはまったくなかったからだ。
記事を読んで、ようやく番組のプロローグとエンディングで流された写真であることがわかったのだが、頭の中の「?」はさらに増すばかりだ。
写真はたしかに大勢の人間が防寒着姿で倒れている様子を写したものだが、番組はこれを「虐殺の証拠写真」として出したわけではなく、検証の材料のひとつとして紹介しただけ。しかも、番組はこの写真が日記の記述とは違う場所であることを明示している。つまり、信用性について判断を留保しているのだ。
ところが、産経は、この写真が「昭和63年12月12日、毎日新聞(夕刊、大阪版)がすでに掲載していた」と鬼の首をとったようにあげつらい、毎日新聞の記事が「被写体が中国側の記録に残されているような同士打ちや溺死、戦死した中国兵である可能性には一切触れず、『大虐殺』の写真と報道した」と糾弾するのだ。
いったい産経は何を言っているのだろう。番組の写真は、毎日新聞に掲載されたものとは別ルートで入手したもののようだが、仮に毎日の写真と同じだったとしてなんの問題があるのか。
「大虐殺の写真」と報道したのは毎日新聞であって、日本テレビの『南京事件 兵士たちの遺言』ではない。実際、同番組はこの写真について、ひと言も「虐殺写真」などと紹介していない。それどころか、写っているのが「中国人」とも言っていないし、「死体」とすら断定していない。「防寒着姿で倒れた多くの人々」と、一切の主観や解釈、評価は排除し、見えるままをナレーションしているだけだ。
しかも、毎日新聞に掲載された写真もそれ自体は捏造でもなんでもなく、歴史修正主義者が「同士討ち」の記述のある中国の記録を持ち出して、この写真の死体も「同士討ちの結果の可能性だってある」と反論しているにすぎない。むしろ、この規模や状況から考えて、「虐殺写真」の可能性が極めて高いものだ。
その写真を「虐殺」という言葉を慎重に避けながら検証の対象として使っただけのテレビ番組に「裏付けなし」などと絡むというのは、まともな神経とは思えない。
しかも、この件について、日本テレビから「虐殺写真と断定して放送はしておりません。にもかかわらず産経新聞の記事は『写真がそれを裏付けている-そんな印象を与えて終わった』と結論づけ、大見出しに掲げました」と抗議を受けると、産経は11月6日の紙面でとんでもない反論を繰り出した。
ギャラクシー賞の選考理由に「虐殺の一枚写真も、その背景から揚子江岸辺の現場が特定できる」との一文があるのをもちだし、「ギャラクシー賞を辞退せず受賞したわけだから日テレ側も視聴者が『虐殺写真』と認識するのに異論はなかったはずだ」と因縁をつけはじめたのである。断定報道と解釈の余地のある報道を一緒くたにしてしまうこの記事は、本当に新聞記者の書いたものなのか、と疑いたくなった。
ようするに、産経新聞は実証的に南京虐殺を証明したこの番組にケチをつけたくてしようがなかったのだが、攻撃箇所が見つけられなかったため、無理やり毎日新聞の話を持ち出し、その報道とわざと混同させて、番組を貶めようとしたのだろう。ところが、その手口を抗議されると、今度は慌ててギャラクシー賞の話をもってきて言い訳を始めたのだ。まったくそのオツムは小学生並みとしかいいようがない。
■事実を捏造したのは産経新聞のほうだった
産経のインチキは他にもある。それは、揚子江岸での捕虜処刑が「暴れる捕虜にやむなく発砲」したものなのに、番組がその点に触れていないと主張していることだ。
産経は東中野修道亜細亜大教授の著書『再現 南京戦』(草思社)を引用してするかたちで、「16日の揚子江岸での処刑対象は宿舎への計画的な放火に関与した捕虜だった。17日は第65連隊長、両角業作の指示で、揚子江南岸から対岸に舟で渡して解放しようとしたところ、北岸の中国兵が発砲。これを日本軍が自分たちを殺害するための銃声だと勘違いして混乱した約2千人の捕虜が暴れ始めたため日本側もやむなく銃を用いた」と、まるでそれが客観的な事実であるかのように記述。そのうえで、「番組はこうした具体的状況やその下での国際法の解釈には踏み込まなかった」と断じている。
しかし、産経が唱えている説は以前から南京虐殺否定論者が主張してきた「自衛発砲説」と呼ばれるもので、事実として証明されているわけでもなんでもない。根拠は戦後にまとめられた連隊長の両角業作の弁明の手記で、多くの矛盾が指摘されているものだ。実際、保守派の歴史学者の中でも「自衛発砲説」には否定的な見方が強く、秦郁彦氏などは「もし釈放するのならなぜ昼間につれ出さなかったのか、後手にしばった捕虜が反乱を起こせるのか、について納得の行く説明はまだない」(『南京事件 増補版』文藝春秋、2007年)と切って捨てている。
こんな怪しげな説を平等に紹介しろ、と要求するだけでも噴飯物だが、さらにもっと唖然とさせられるのは、産経が番組攻撃のために真っ赤な嘘をついていたことだ。
実をいうと、日テレのドキュメンタリーはこの自衛発砲説に、きちんと踏み込んで検証しているのだ。
日本兵たちの日記の記述を検証し、なぜ揚子江岸で捕虜の銃殺がなされたのかを考察するくだりで、番組は、「戦後になって『捕虜を解放するために揚子江岸に連行したが暴動を起こされやむなく銃撃した』という証言がなされた」と具体的に紹介したうえ、31冊もある日本兵たちの日記(1937年当時の一次資料)に「捕虜を解放しようとした」という記述はひとつもなかったという事実を明らかにしている。
ところが、産経は自分たちの主張する自衛発砲説が根拠薄弱であることを暴かれたこの放送部分を一切無視して、番組が自衛発砲説に触れなかったと言い張った。これこそ捏造以外の何物でもないだろう。
■客観的な証言をネグり「中国の謀略宣伝と同じ」と陰謀論展開
しかも、産経はこうした卑劣な攻撃を繰り返す一方で、南京虐殺否定派の学者である北村稔・立命館大学名誉教授を登場させて、こう書いている。
「北村は(番組が)客観的根拠を明示せずに『ほのめかし』を駆使していることについて『中国の謀略宣伝のやり方と酷似している』と批判する」
ここまでくると、もはや笑うしかない。なぜなら、番組はほのめかしとは真逆の、虐殺の客観的な証拠をいくつも明示しているからだ。
たとえば、そのひとつが「支那事変日記帳」というタイトルがつけられた日誌だ。この日誌は陸軍歩兵第65聯隊と行動を共にした、山砲兵第19聯隊所属の上等兵の遺品で、昭和12年9月から南京が陥落するまでの3ヶ月間、ほぼ毎日書かれている。そこには、ごく普通の農民だった男性が中国で民間人から物資を奪い、銃口を向ける様などが詳述されていた。
〈11月16日、食料の補給は全然なく、支那人家屋より南京米、その他の者を徴発して一命を繋ぎ、前進す〉
〈11月17日、「ニャー」(注:中国人女性)を一人連れてきたところ、我らの目を盗んで逃げたので、ただちに小銃を発射し、射殺してしまう〉
〈11月25日、実に戦争なんて面白い。酒の好きなもの、思う存分呑む事ができる〉
そして12月13日、南京陥落。上等兵たちの部隊は、武器を捨てて降伏してきた多くの中国兵を捕虜にする。捕虜はその後1万人を超えたという。そして、上等兵の日記には、国際法で禁じられていたはずの“捕虜殺害”の模様が、克明に記されていた。
〈12月14日、途中、敗残兵を千八百名以上捕虜にし、その他たくさんの正規兵で、合計五千名の敗残兵を捕虜にした〉
〈12月16日、捕虜せし支那兵の一部五千名を揚子江の沿岸に連れ出し、機関銃をもって射殺す〉
〈その後、銃剣にて思う存分に突刺す〉
〈自分もこのときばかりと支那兵を三十人も突き刺したことであろう〉
〈山となっている死人の上をあがって突刺す気持ちは鬼をもひがん勇気が出て力いっぱいに突刺したり〉
〈うーんうーんとうめく支那兵の声。一人残らず殺す。刀を借りて首をも切ってみた〉
さらに、番組はこの上等兵が1994年にインタビューされたときの映像も放送している。彼ははっきりとした口調で、こう語っていた。
「機関銃を持ってきてバババーッと捕虜に向かって撃っちゃったんだ。捕虜はみんな死んだけれども、『なかに弾に当たんねえみたいなのがいるかもしれないから着剣して死骸の上を突いて歩け』と。ザッカザッカ突いて歩いた。おそらく30人くらい突いたと思うが。何万という捕虜を殺したのは間違いねえ」
番組は他にも、1937年12月16日と17日に南京城外の揚子江沿岸で大量の捕虜を銃殺、刺殺した兵士たちの日記や証言を紹介している。
「この方(捕虜)を“お客さん”て言うんだよね。『今晩はお客さんが来て、お客さんを処理するんだ』と。そして“ピー”という呼び子の、将校の呼び子の合図で、一斉射撃。ダダダダダダダと始まる」(当時、機関銃の引き金をひいたという歩兵第65聯隊元第三機関銃隊兵)
「とにかく1万人も(捕虜を)集めるっちゅんだから。相当広い砂原だったね」「有刺鉄線か何かを周囲に貼ったでなかったかな」(歩兵隊65聯隊元第一大隊本部行李系二等兵)
「機関銃を載せて高くしてね。砂で、砂を積んで盛って」「サブロクジュウハチ……200発ぐらい撃ったのかな」「ダダダダダダダ、一斉に死ぬんだから」(歩兵第65聯隊元第一機関銃隊二等兵)
しかも、番組はこうした信用性のある第一次資料を紹介するだけでなく、それらの記述や証言について矛盾がないか、防衛省に残っている軍の公式記録などと矛盾がないか、記述を裏づける日本、中国両方でほかに目撃者はいないか、と徹底的に裏を取り、信頼性のある証拠とそうでない証拠を番組内でもはっきりと腑分けしている。
ところが、産経は番組が示したこうした客観的な虐殺の証拠には一切反論していない。いや、反論しようと思ってもできなかったのだろう。だから、前述の北村、東中野修道ら、まともな歴史学者からはトンデモ扱いされているような虐殺否定派の学者を登場させて、番組内容を一切無視して「偏向」のレッテル貼りをさせたのだ。
いったい「謀略宣伝」をやっているのはどっちなのか、と言いたくなるではないか。
■産経の“いちゃもん”の背景にある安倍政権の“お墨付き”
あらためて、今回の産経の記事をふりかえってみると、そこで繰り広げられていたのはこういうやり口だ。
・本題ですらない一枚の写真を大々的に取り上げ、番組全体がまちがいだったかのような論点スリカエ。
・なんら番組と関係ない毎日新聞の記述と番組をわざと混同し、毎日新聞の記事の問題をあたかも番組の問題であるかのように語る印象操作。
・番組でも具体的に紹介された「自衛発砲説」を“触れていない”などという、見ればすぐにわかる完全な嘘。
・なんら客観的証拠も示さず、番組があたかも「中国側のプロパガンダ」に乗せられて作られたかのように批判する、陰謀論。
これが、仮にも全国紙のすることか、まるでネトウヨまとめサイトの手口ではないか、と呆れざるをえないが、しかし、今回の産経による日テレへの言いがかりを、「こいつらアホか?」と笑ってすませてはいられない。
こうした“南京事件はなかった”論はかねてよりずっと存在してきたが、安倍政権になってから、そのトンデモ歴史修正主義が政府の動きと完全に一体化しているからだ。
実際、『南京事件 兵士たちの遺言』が初回放送された当時といえば、ちょうど中国による「南京大虐殺」のユネスコ世界記憶遺産申請(10月10日に登録)が行われた直後だった。
当然のように、この「南京大虐殺」登録に極右陣営は猛反発。当時自民党の元文部科学副大臣だった原田義昭衆院議員からは「南京大虐殺や慰安婦の存在自体を、我が国はいまや否定しようとしている時にもかかわらず、(中国が)申請しようとするのは承服できない」などという発言が飛び出し、外務省も「極めて遺憾」「ユネスコの事業が政治利用されることがないよう、制度改革を求めていく」との報道官談話を発表した。
そして実際に、今年10月13日、外務省は自民党の会合で、日本政府がユネスコに対する今年の分担金約44億円を拠出していないことを明らかにした。あまりにも露骨な圧力としか言いようがない。
もちろんこうした安倍政権の動きは、国民の世論にも多大なる影響を与えている。極右界隈の歴史修正主義に政府の“お墨付き”を与えるにとどまらず、昨今ネットを中心に跋扈している、「南京大虐殺なんてなかった」「慰安婦は存在しなかった」という日本の戦争犯罪を否定する論調をさらに加速させていくだろう。
この流れを食い止めるにも、それこそ『南京事件 兵士たちの遺言』が貫き通したように、調査報道によって、客観的な事実をつきつけなければならないし、産経の記事のようなあからさまな言いがかりについてはきっちり反論していく必要がある。
(編集部)
最終更新:2017.11.12 02:19
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