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台風で福島原発の“凍土壁”が溶けている!「効果なし」と指摘された汚染水対策を強引に推し進めた安倍政権と東電の罪
自由民主党HPより
昨日21日、福島第一原発で恐れていた事態が現実化してしまった。台風16号の影響で地下水が上昇し、ついに地表にまであふれ出したのだ。これは事故後初めての事態だ。現在、東京電力は認めていないが、放射性物質を含んだ汚染水が地表面を通って大量に海に流れ込んだ可能性もある。
いったい福島原発の汚染水対策はどうなっているのか。実は、先月8月にも、やはり台風10号の影響で、汚染水対策のための「凍土遮水壁」(以下・凍土壁)の土中の温度が上昇し、凍土壁2カ所で溶けたような状態になり、汚染水の海への流出が懸念されていた。
「凍土壁」は汚染水流出防止のために原発周辺の土壌を凍らせ、地下水の海への流出を防ぐために設置されたものだが、同時にその手前でもポンプなどで地下水の汲み上げ作業が行われてきた。しかし、こうした汚染水対策が台風での猛烈な降雨には機能しないことが判明してしまった。
だが、このような事態は凍土壁の導入時点で確実に“想定”されたものだった。
“汚染水の最後の切り札”といわれる「凍土壁」だが、そもそも現在でも“完全に凍って”はいない。それは多くの専門家から指摘されたことであり、さらに言えば「凍土壁」じたい、安倍政権と東京電力による茶番劇ともいうべきものだ。
周知のように、福島原発事故直後から放射性物質を含んだ汚染水は大きな問題となっていた。福島原発は1日1000トンといわれる地下水が山側から流れ込み、事故での核燃料デブリ冷却のための注水と津波が混じり、現在保管されている汚染水は78万トン(うち61万トンは多核種除去設備で処理済み)といわれる大量の高濃度汚染水がつくり出された。その後も1日300〜400トンもの放射能汚染水の増加が現在に至るまで続いていると見られている。
しかし、汚染水対策は不可解な経緯を辿る。事故直後の2011年3月、汚染水対策の「中長期対策プロジェクト」のリーダーに起用された民主党の馬淵澄夫首相補佐官(当時)が中心になり、4つの遮水壁の工法が検討された。その結果、採用されたのがチェルノブイリでも実績のある「鉛直バリア方式」だった。これは鉱物が入った粘土を使って遮水壁をつくるもので、当時の菅直人首相の承認に加えアメリカ原子力規制委員会(NRC)の協力も取り付けていた。
一方「凍土壁」は、4つの選択肢の中で真っ先に外された工法だった。その理由はいくつもあった。「凍土壁」はこれまでトンネル工事などで一時的に設置されてきたが、大規模かつ長期的には未だ経験も実用例もない事業だった。また、原発の地下水の水位を低下させるため逆に高濃度汚染水の流出のリスクがある。さらに地下水の流れが速い場所では凍らないし、荒い砂や岩などの隙間にはそもそも水がないため凍らない。加えて、その隙間から汚染水が漏れ出す可能性も高いなど、その効果を疑問視する理由が数多く存在したからだ。
こうした経緯から「鉛直バリア方式」の導入が決定され、馬淵議員は同年6月14日に発表会見を行う予定となっていた。
しかしその直前、東電側から横やりが入る。馬淵議員はその経緯を事故後2年半が経った2013年9月17日の日本経済新聞でこう暴露している。
「6月14日のプレス発表の前日、東電の武藤栄副社長が『(遮水壁の設置によって東電が)債務超過に追い込まれると市場が評価する可能性があるので、決定というのは待ってほしい』と当時の経産相に言いに行った」
「鉛直バリア方式」の遮水工事は新たに1000億円の費用負担が発生し債務超過となり、東電は破綻してしまう。そうなれば原発の冷却も、事故収束作業も、住民への損害賠償も不可能だ。──東電はこう主張して事実上政府を“恫喝”したのだ。
これに対し民主党政権は屈したかたちとなり、「鉛直バリア方式」は立ち消えになってしまう。同時に遮水壁問題ものものも、その後2年もの間、事実上放置されていた。
ところが、安倍政権となった2013年、汚染水問題が再びクローズアップされ、遮水壁問題が突如として動き出した。
同年4月3日、経済産業省による「汚染水処理対策委員会」が設立され、それから2カ月もしない5月30日には、なぜか「凍土壁」が妥当だとの提言が取りまとめられる。さらに9月3日には政府基本方針として、凍土壁の建設を前提とする汚染水対策に関し「今後は、東京電力任せにするのではなく、国が前面に出て、必要な対策を実行します」(経済産業相HPより)との決定がなされたのだ。
安倍政権が突如として汚染水対策に乗り出した。しかも2年前には実現不可能とされた「凍土壁」を復活させて。
その理由のひとつが、東電の負担軽減という驚くべきものだった。すでに記したように「鉛直バリア方式」では1000億円を東電が負担することになるが、「凍土壁」の建築費は320億円で、関連予算を加えても470億円だ。しかも「凍土壁」ならその負担は東電ではなく「国費」、つまり税金が投入できるというカラクリが存在した。
元経産官僚の古賀茂明氏は「週刊現代」(講談社)2014年9月6日号の連載コラムで、政府と経産省の思惑をこう指摘している。
「鉄とコンクリートの壁だと誰でもできる。しかし、巨大な凍土壁は研究開発的要素が大きくてリスクが高く、東電にやらせるのは酷だ。だから国の研究開発事業としてやるという理屈をつけた。それで税金投入が可能となった。本末転倒も甚だしい」
つまり鉱物粘土の遮水壁である「鉛直バリア方式」は現在の技術でも十分対応できるため「開発研究費」としては計上できない。よって東電の負担になる。一方の「凍土壁」なら未だ経験も実用例もなく“成功するかわからない”「開発研究段階」にある。だから環境問題の政府研究予算という“税金”で計上できる。2011年に真っ先に排除、却下された“未知で困難な工法”との理由が、今度は巧妙に政府、東電に利用されたのだ。
しかも「凍土壁」は原発企業のひとつである鹿島建設が提案し、短期間の入札で東電との共同事業として落札された。政府、東電、原発企業という原子力モンスターが原発事故さえ利用して廃炉・汚染水利権を握り、税金を貪るという実態も見え隠れするのだ。
さらに、「凍土壁方式」の決定には、もうひとつ大きな理由が存在した。それがこの時期、安倍首相が推し進めていた2020年東京五輪招致だ。当時、五輪招致には福島原発事故、汚染水問題の収束を世界にアピールする必要があった。しかし福島原発は収束などしていない。地下貯水槽からの汚染水漏れ、ストロンチウムなど高濃度放射能汚染水の漏出、そして除去困難なトリチウムの海洋放出を経産省が示唆するなど、汚染水問題が大きな注目を浴びていた。
だからこそ安倍首相は、国が主導できる「凍土壁方式」に飛びついた。汚染水の“切り札”と大々的にアピールすることで、その難局を乗り越えようとしたのだ。実際、IOC総会での最終プレゼン直前の9月3日には「凍土壁」に470億円の国費投入が発表され、9月7日のプレゼン本番で安部首相は「フクシマについてお案じの向きには私から保証をいたします。状況は統御(アンダーコントロール)されています」と世界に向けて発信する。
安倍首相が「国際公約」を行い、しかも国費を投入する以上、「凍土壁」を是が非でも進める。それがたとえ“凍らなく”てもだ。
しかし、こうした実態をマスコミは大きく伝えることはなかった。「汚染水はコントロールされている」と嘯く安倍首相に対し、汚染水が大量に流出している事実を突きつけることもしなかった。
だが、実際には多くの専門家がその破綻を指摘するだけでなく、東電自身もそれをすでに認めている。
今年7月19日に開かれた原子力規制委員会の有識者会議では東電側はこんな発言をしている。
「我々は凍土壁を作ることで流入量の抑制を目的にしています」「完全に閉合することは考えていない」
“抑制を目的”“完全に閉合しない”。つまり完全凍結による汚染水ブロックなど不可能だと認めたことになる。さらに原子力規制委員会も「原発敷地内に流れ込む地下水を遮断する効果が見られない」と指摘するなど「凍土壁」の破綻は誰の目から見ても明らかとなった。
それでもなお、政府と東電に「凍土壁」プロジェクトを撤回する気配はない。
名古屋大学名誉教授で地盤力学・地盤工学を専門とする浅岡顕氏は「世界」(岩波書店)16年3月号で現在の状況を「もはや理解できない」として、こんな指摘をしている。
「恒久的遮水壁には、完全な遮水性以外に、いつどのような地震や津波が来てもすべてを守り抜く、超長期に亘る堅牢性も求められている。しかし廃炉はともかく、このくらいの壁であるなら、現在の日本の土木技術で、すぐにでも現実可能のはずである」
汚染水問題は決して解決不可能ではない。しかし現実は安倍政権と電力マフィアの私利私欲のために汚染水問題さえもが利用され、実効性のない「凍土壁」プロジェクトがいまも進んでいる。莫大な国費が投じられ、1日400トンもの汚染水が行き場もなく増え続けているにもかかわらずだ。
そしてもうひとつ、福島原発廃炉に関してあまりにふざけた事態が進行しつつある。政府は原発の廃炉や事故賠償として、今後新たに生じる8兆円以上もの費用を国民に負担させる方針で調整に入ったのだ。
実際、経済産業省では福島原発だけでなく電力9社が保有する原発の廃炉費用も、送電料、つまり電力利用者の負担とするための有識者会議を設置し、来年の国会に電気事業法改正案を提出する予定だ。この改正案が通れば標準家庭で毎月数10円から200円ほどの値上げとなり、しかもその後も費用が不足すれば、利用者の負担とし自由に上乗せ、徴収できるとの内容も含まれているという。
加えて大手電力会社が持つ送電網の使用料として、再生エネルギーなどの新規電力会社に対しても同様に費用を上乗せすることも検討されている。電力会社が所有し責任をもっていたはずの原発で起こった事故の費用を、電力を使わざるを得ない全消費者、国民全体に付け回そうとしているのだ。
誰が国益を損ね、国民の健康を軽視し、汚染水流出という国際的非難に当たる行為を放置し、さらに東京五輪の“障害”をつくり出しているのか、これでもう明らかだろう。
現在の政府、電力会社に任せていたら、本当に日本は崩壊してしまうかもしれない。
(伊勢崎馨)
最終更新:2017.11.24 07:03
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