失言・炎上に関する話題……本と雑誌のニュースサイト/リテラ
ホリエモン「地震でバラエティ自粛は馬鹿げている」は本当に正論なのか? 背後にある“自己中”ネオリベ思想
上・「堀江貴文のブログでは言えない話」より/下・尾木直樹(尾木ママ)公式ブログより
熊本県を中心に余震が相次いでいる大地震に関連して、ホリエモンこと堀江貴文氏がツイッターで怒り心頭。こんなツイートを連投して話題になっている。
〈熊本の地震への支援は粛々とすべきだが、バラエティ番組の放送延期は全く関係無い馬鹿げた行為。人のスケジュールを押さえといて勝手に何も言わずキャンセルするとはね。アホな放送局だ。〉
〈俺たち地震の被害を受けてないものは出来るだけ普段通りの生活をしながら無理せず被災者支援を行うのが災害時の対応だろう。単に「こんな時に馬鹿な番組やりやがって」というノイジーマイノリティの苦情を受けるのが嫌なだけのチキン野郎には存在意義は無い〉
堀江氏は、今月4月16日、サイバーエージェントとテレビ朝日が合同で開局した無料インターネットテレビ局「AbemaTV」の番組『坊主麻雀〜優勝賞金は500万円!負けたらその場で坊主!〜』に出演予定だった。だが、14日からの熊本大震災を受け、AbemaTV側が直前になって放送中止を決定。どうやら、ホリエモンがブチ切れているのは、この震災に際する放送局の“自粛”に対して、ということらしい。
しかも、この堀江氏の怒りの矛先は、教育評論家の尾木ママこと尾木直樹氏にも向けられた。尾木氏は17日、ブログで民放の番組自粛について「水も食料もなく避難所にも入れないでグランドで寒さのなか身を寄せあっておられるたくさんの被災者の皆さんをさておいて普段通りの楽しい番組構成にブレーキかかるのはあまりにも当然!」「人間らしい共感能力があれば自粛して工夫しょうとするのはあまりにも当然! 人として豊かな心遣いではないでしょうか!?」というふうに記したのだが、これに反応したホリエモンは、こう唾棄したのだ。
〈やっぱりこの人おかしな考え方だな〉
〈こんな人が教育評論家やってるからダメな教育になる〉
しかし、これ、おかしくてダメなのは明らかにホリエモンのほうだろう。もちろん、大きな災害が起きているからといって、すべての国民が自粛するべきだとは思わない。普段通りの経済活動を続けることは必要だし、個人的に楽しい生活を享受することも全然構わない。
だが、マスメディアが大災害の渦中でどういう姿勢をとるかはまったく別問題だ。なぜなら、マスメディアは多くの人に情報を届け、共有してもらうことを目的にした公共財、準公共財だからだ。その活動はたんなる経済活動にはとどまらず、人びとの行動や意識形成に多大な影響を与えるものであり、そこには当然、社会的責任が生じる。
しかも、マスメディアが発する情報、コンテンツは、震災で家を失い、水や食料不足に苦しんでいる被災者や家族や知人を亡くした人たちにも届く。
だとしたら、震災時は “多様な受け手のどこに目線を置くか”ということに、平時よりも慎重になってしかるべきだし、せめて災害勃発直後くらいは、みんなでゲラゲラ笑うようなバラエティやお笑い番組を自粛すべきだ。
しかも、今回の熊本地震の場合は、これまでの地震とはまったくちがう様相を見せており、近いうちに新たな大地震が誘発される可能性も指摘されている。安倍政権の後手に回った対応によって、食料やライフラインの確保などの十分な支援がまったく行えていない。
この状況にメディアが、今はエンタテインメントよりも、震災にフォーカスをあてた番組作り、紙面作りに切り替えようと考えるのは当然だろう。
いっておくが、これはNHKや民放、大新聞はもちろん、今回、ホリエモンが怒っているAbemaTVだって同様だ。AbemaTVはサイバーエージェントというIT業界大手と全国キー局のテレビ朝日が肝いりでスタートさせた「無料」のネットTVであり、「マス」としての社会的責任は変わらない。
そういう意味では、日本テレビなどが16日午後から早くも平常運転に戻し、バラエティを放映し始めた中で、AbemaTVが放送延期をしたのはむしろ、英断と評価すべきだ。それを一方的に「アホ」とか「チキン」などと罵声を浴びせているホリエモンこそ、メディアというものに対する感覚がズレている、公共性への認識が欠けているとしか言いようがないだろう。
しかも、ツイートや他のユーザーとのやりとりをみてみると、そもそもホリエモンは「メディア」と「自粛」との問題について議論を喚起したいというような高尚な動機で、投稿したわけではなさそうだ。
たとえば、ホリエモンはAbemaTVや一般ユーザーのツイートに返答するかたちで、こんな発言をしていている。
〈おめーらが自粛した所で被災者が助かる訳では無いんだがね。〉
〈ん?俺は忙しい中スケジュールを押さえたのにそれをキャンセルされて腹立ってるんだけどね。〉
〈(ギャラは)貰ってねーし二度と出ない、こんなクソチキン番組〉
ようするに、ホリエモンは自分の生出演がおじゃんになり、ギャラが貰えなかったことに怒り狂っているだけなのではないか。
まあ、ホリエモンといえば、作家・瀬戸内寂聴との対談本『死ぬってどういうことですか? 今を生きるため9の対論』(角川学芸出版)でも「僕は、(中略)戦争が起こったら、真っ先に逃げますよ。当たり前ですよ」「行かれない人はしょうがないんじゃないですか?」と言い放ったように、とにかく自分の利益しか考えようとしない人物。その意味では、こういう発言をしてもさして驚きはないが、問題なのは、ホリエモンがただの“自己中”発言を社会全般に敷衍し、あたかも「本質論」「真理」のように、語ってしまっていることだ。
そして、その意見がホリエモンチルドレンともいえるようなネオリベ連中の間で、まるで「正論」「新しい価値観」のように賞賛され、拡散されていっていることだ。
事実、ネットでは今、このホリエモン的価値観が蔓延し、自分なりに震災に向き合おうとした動きを「自粛厨」などと攻撃し、炎上させる傾向まで出てきている。
この構図は、自分が利益を独占したいだけのブラック企業の経営者が、もっともらしい「仕事論」や「自己啓発論」を語り、自分が「意識が高い」と信じている社員たちがそれにすっかり騙されて奴隷化していく構図に非常によく似ている。
そして、このブラック企業の経営者に感化された「意識の高い」ネオリベ連中が、自己責任論という暴力的な理屈をまとって貧困や差別に自覚的に鈍感であろうとし、さらに格差を広げ、残酷な社会を作り上げていく。
前述の尾木氏も、堀江氏のツイートに対応するかのように、ブログでこんな風に書いていた。
〈3つもの地震がほぼ同時期に襲ってきている真っ最中にどのテレビも「普段通り」はあり得ないでしょう。4、5日たってからならバラエティーや娯楽は絶対に必要です!! しかし、地震の真っ最中なのに自粛するテレビをバカにするのはとんでもない。鈍重と言わざるを得ません…〉(引用者註:改行や句読点等を改めた)
インテリぶった新自由主義者に対して「鈍重」とは逆説的に聞こえるが、まさに本質を突いた表現と言っていいだろう。
しかも、これはネットの堀江信者だけではない。前述したように、実は当のテレビ局も今回はたいして「自粛」なんてしていない。日本テレビは、未明にマグニチュード7.3の「本震」が発生した16日(土曜日)の昼に早くも『メレンゲの気持ち』を放送していたし、他局でも翌日にはお笑い芸人たちがひな壇で騒ぎ立てるバラエティがほぼ完全に復活した。
実は、テレビ局の連中も、たんに空気を読んでいるだけで、本音はホリエモンやネットのネオリベ連中と同じ、「地震でなんでおれたちが自粛しなきゃいけないんだ?」などと考えているのではないか。そう考えると、背筋が寒くなるのである。
(宮島みつや)
最終更新:2016.04.19 11:12
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