日給わずか400円アップで保育士の負担激増…安倍政権の“待機児童解決策”は保育崩壊をさらに悪化させるだけ

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『ルポ 保育崩壊』(小林美希/岩波新書)

 やっぱり、安倍政権は問題の本質をわかっていない──。昨日28日、塩崎恭久厚生労働相が発表した待機児童解消についての政府の緊急対策が、さっそく物議を醸している。

 塩崎大臣によると、待機児童解消のため、新たに〈保育士1人当たりが担当する子どもの数に関し、国より厳しい独自基準を設けている自治体に対して緩和を要請し、より多くの子どもを受け入れられるようにする〉(時事通信より)という。だが、これで「よかった、これで少しは保育園に入りやすくなる!」なんて喜ぶ親は、はたしているだろうか。

 現在、国が定めている保育士1人あたりの配置基準は、子ども0歳児の場合、保育士1人に子ども3人。1、2歳児なら保育士1人に子ども6人。3歳児になると保育士1人に子ども20人。4、5歳児だと保育士1人に子ども30人だ。とてもじゃないが、1、2歳児をたった1人の保育士が6人以上もみることは相当な注意が必要になるし、それでなくても保育士の労働環境の劣悪さも大きな問題になっている。つまり、この緊急対策とやらは、ただ保育士に負担を強いるだけの対策だ。

 そして、そうしたツケが回ってくるのは、結局のところ保育園の子どもたちである。事実、現状でさえ保育園では、子どもたちがまともな保育を受けられていないという声がある。

 政府がまともな対策をとってこなかったばかりに、いま、保育園では何が起こっているのか。昨年5月に出版された『ルポ 保育崩壊』(小林美希/岩波新書)には、こんな厳しい現実が綴られている。

 たとえば、株式会社が運営する、ある認可保育所の事例。この保育所では1歳児クラス定員13人に対し、保育士の数は3人。だが、著者が出向いた日はそのうち10人の子どもが“ぎゃん泣き”状態で、そのうち1人の保育士が3人の子どもを「おんぶに抱っこ」していたという。

〈新卒の保育士が、「どうしていいか分からない」と口にしながら途方に暮れていた。リーダー保育士は怖い顔をして「泣き過ぎ!」と子どもたちに向かって叫んでいる〉(前掲書より。以下同)

 昼食時はもっと悲惨だ。タオルでつくられた前掛けをかけ、そのタオルをテーブルに敷かされる。タオルの上には食器が置かれ、子どもは身動きができない姿勢で昼食をとるのだ。食事をこぼしても片づけやすいという理由で、人手不足の保育所や老人ホームで行われているものだというが、著者は〈これでは子どもや高齢者の人権が無視されてはいないだろうか〉と疑問視する。

 さらに別の日には、著者はこのような光景を目のあたりにする。

〈泣き止んだ子どもがまずテーブルにつかされ、食事が運ばれるのを待っていた。男の子がおしぼりを手にし、椅子に座ったが足をぶらんとテーブルに乗せてしまった。その瞬間に、力の強そうな男性保育士が「行儀が悪い!」と怒鳴りつけ、鬼の形相で、その子の手からおしぼりを奪い取り、テーブルにバシンとたたきつけた。そして、次の瞬間、その子の足を怒りに任せて強くたたいた。まだ物事のよしあしも分からない一歳の子どもを、だ〉

 このような状況は、何もこの保育園だけでは決してない。公立保育所ではオムツ交換が少ないために子どものお尻がかぶれ、いくら改善を要求しても聞く耳をもってもらえなかったケースや、園庭のない認証保育所では入園して3週間も散歩に連れていってもらえなかったケース、さらには四畳半や六畳程度のスペースをとって柵を立て、子どもたちをすし詰めにして遊ばせるケース……。本書には質の低い保育の現状がいくつも書かれている。

 保育園を考える親の会・普光院亜紀代表は、同書のなかで現在の保育園に対する危機感をこう述べている。

「このところ認可保育所にも、質のばらつきが目立ってきた。そもそもの面積基準や保育士配置基準も十分ではないが、待機児童が多いから基準ぎりぎりの環境で保育が行われることが増えていると感じている。施設環境にゆとりがないと、保育士の負担がふえる。そのとき保育士自身が未熟だと、子どもの自由を奪い管理する保育になりがちだ」

 現状でさえこのような状態なのに、政府の緊急対策が導入されれば、さらに保育士にしわ寄せがいく。ちなみに本書でも紹介されているが、2014年3月にまとめられた「東京都保育士実態調査報告書」では、当時、保育士として働いている人のうち「保育士を辞めて別の職種で働きたい」を考えている人は16%で、これは6人に1人が「辞めたい」と考えているということになる。また、退職したいと考える理由のトップは「給料が安い」で、「仕事量が多い」「労働時間が長い」とつづいている。

 待機児童の大きな問題は保育士不足にあるといわれている。激務でありながら低賃金となれば、いくら志をもっていても挫けてしまうだろう。だが、そうした問題点が再三指摘されているのに、政府が打ち出したのは「保育士給与の4%引き上げ」。これに対し、認定NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹氏は、〈保育士の給与4%増というのは、全産業平均月給よりも月額11万ほど低い約20万円/月の保育士給与を、8000円上げる、ということ。日給にすると400円。時給だと50円。これで保育士不足が解消するとは、誰がどう考えても思えません〉と指摘している。

 日給にしてたったの400円アップで、「いまよりもっと子どもをみてね」と押し付ける……。安倍首相にしてみれば、7月の参院選を控えているいま、「やれるだけやっている」というポーズのために今回の緊急対策をまとめたのだろうが、それでこの内容というのが驚きである。とくに重要なのは、安倍政権は怒りの声が噴出している「待機児童」をなんとか鎮めるために、保育士に負担を強い、子どもの安全を顧みなかったという点だ。これはもはや鬼畜の所業としか思えない。

「保育園落ちた」ブログの一件によって、安倍政権がいかに子をもつ親たちの痛みや苦労を理解していないかが露呈したが、今回の緊急対策によって、「理解する気もないし、根本的に問題解決する気もない」という腹の底がよくわかったというものだ。
(水井多賀子)

最終更新:2017.11.24 09:26

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ルポ 保育崩壊 (岩波新書)

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