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『下町ロケット』最終回に「週刊ポスト」が実名登場! 実際はドラマと逆、政治家の訴訟にビビり編集長更迭したのに…
TBS『下町ロケット』番組サイトより
先日、最終回が放送されたTBSのドラマ『下町ロケット』。視聴率も22.3%で、今年の民放ドラマでは最高記録をマークした。だが、そんな大盛り上がりの最終回を観ていて、多くの人が違和感を覚えたであろうことがひとつあった。それは「週刊ポスト」(小学館)の扱いだ。
ドラマ後半の「ガウディ編」で大きなキーとなったのは、大学病院で行われた臨床試験の事故の問題。高島彩演じるフリージャーナリストがこれを追及するのだが、その告発記事を掲載しようとする媒体が「週刊ポスト」だった。が、記事掲載をする前に、「週刊ポスト」編集部は10億円もの訴訟を起こされてしまう。そのため、ドラマ内では主演・阿部寛の口から何度も「週刊ポスト」の名が繰り返し連呼されたのだ。
で、そのことになぜ違和感を覚えたかというと、原作およびドラマに登場する企業・団体名はほとんどが架空のもの(ちなみに慶應大学も実名だったが、その理由については過去記事参照)なのに、なぜか「週刊ポスト」は実名だったから。しかも、原作でも「週刊ポルト」となっているため、今回のドラマ版だけが突如、実名扱いとなったのだ。実際、ネット上でも「週刊ポスト言い過ぎw」「どうしてポストだけ実名?」と疑問の声があがっていた。
だが、これはとても単純な話で、じつは昨日発売の「週刊ポスト」1月1・8日合併号では、ドラマとのコラボレーション企画として「高島彩が書いた「幻のスクープ記事」を本当にそのまま掲載しちゃいます」と題し、架空の記事を誌面化。ロケも実際の編集部で行われた。そもそも『下町ロケット』は「週刊ポスト」に連載された小説。今回のドラマ化にあわせて小学館は大々的に広告を打っており、話題づくりの一環として、ドラマでは実名扱いとなったのだろう。
「週刊ポスト」1月1・8日合併号
しかも、このドラマで「週刊ポスト」の株は大いに上がったはずだ。たとえば、10億円もの高額訴訟を起こされたというのに、編集長は“ウチは慣れているしいいが、佃製作所も巻きこんでしまうぞ”と、阿部寛率いる町工場のことをまず心配。さらに、阿部が編集長に「受けて立ちましょうよ! 正義は我にありです!」と言えば、高島もこう迫るのだ。
「編集長! 正しいことを声にできなくなったら私たちは何のためにいるんですか? 訴訟が怖くてジャーナリストなどやってられません!」
まさにジャーナリストの鑑とも言える、この言葉。そこで編集長はフッと笑みを浮かべ、「わかった。好きにしろ。ケツは俺がもつ」と、全責任を負うことを断言するのだ。
なんて器の大きい編集長なんだ!と、視聴者は感心したことだろう。真実の追及のために、訴訟という圧力など撥ねのける……これぞ正義のジャーナリズム!と快哉を叫びたくなる展開である。
しかし、残念ながらドラマとは違い、現実はそう甘くはない。というのも、「週刊ポスト」は今年、“ある強大な圧力”に屈してしまったからだ。そしてその“強大な圧力”とは、安倍政権のことだ。
「週刊ポスト」は、昨年、三井直也氏が編集長に就いたあたりから毎号のように安倍政権の批判を行っていた。なかでも、今年4月には高市早苗総務相の大臣秘書官をつとめる実弟が関わったとされる「高市後援会企業の不透明融資」問題をトップページで報道。さらに5月には、東京地検特捜部が捜査を始めた日本歯科医師連盟(日歯連)から、菅義偉官房長官が代表をしていた自民党神奈川県連に3000万円が迂回献金されていたとスッパ抜いた。
この相次ぐ「週刊ポスト」による猛追に官邸は激怒。とくに高市総務相のスキャンダルの火消し役に回っていたのが菅官房長官だったため、続けて自分がターゲットとなったことで「ポスト憎し」の感情はエスカレートしたという。
その結果、官邸はどう動いたか。それはドラマ同様、訴訟に打って出たのだ。前述した高市総務相の実弟が関わったとされる「後援会企業への不透明融資」報道をめぐって、高市氏の実弟がすぐさま「ポスト」を名誉毀損で訴えたのである。しかも、訴えられたのは三井編集長だけではない。発行人の森万紀子氏に担当編集者、ライターまでをも被告にしたのだ。
さらに、高市氏の実弟は警視庁への刑事告訴まで行い、菅官房長官自身も囲み取材で「弁護士と相談して法的措置も含めて、いま検討している」と発言、「ポスト」を提訴したともいわれている。……これはドラマ並み、いや、ドラマ以上にひどい圧力のかけ方だ。
ところが、この後が大違い。訴訟攻撃に震え上がった小学館は、すぐさま三井編集長の更迭を決定。小学館の関係者によれば「一説には、名誉毀損裁判と編集長人事をめぐって、官邸と小学館の間で、何らかの裏取引があったのではないか」とも言われており、まさに「ポスト」は圧力に負けてしまったというわけだ。
現実はドラマのようにはいかない──なんとも悲しい実情ではあるが、最大の問題は、このように報道にあらゆる手を使って圧力をかける政権の体質のほうにあることを忘れてはいけない。そして「週刊ポスト」には、ドラマのように強い姿勢をもう一度、取り戻してほしいと願うばかりだ。高島彩の台詞のように、「正しいことを声にできなくなったら私たちは何のためにいる」のか、わからなくなるのだから。
(田部祥太)
最終更新:2015.12.22 11:06
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