読売、産経の安保法制報道に「異常すぎる」の声! 池上彰は「朝日より問題」、斎藤美奈子は「特高警察風」と

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読売と産経の“異常報道”を識者がバッサリ!池上彰もご立腹(画像は『池上彰に聞く どうなってるの? ニッポンの新聞』東京堂出版より)

 安保法制に関する報道では毎日のように“安倍首相の代弁”を垂れ流し、国民からすっかり呆れられているNHK。肝心なときに国会中継をせず、安倍首相のヤジを「自席発言」と言い換える……。これはあからさまな安倍政権へのすり寄りだが、そうしたNHKへの反発と同様に起こっているのが、読売新聞、産経新聞への批判だ。

 読売・産経が保守的なのは以前からだが、最近の報道はいくらなんでも異常過ぎる、と──。

 しかも、そうした批判の声は購読者のみならず、識者からも相次いでいる。その急先鋒が、ご存じ、池上彰氏だ。

 池上氏といえば、昨年の朝日新聞の一連の慰安婦問題バッシング、そして自身のコラム掲載拒否問題でもメディア倫理を唱え続けてきたが、騒動から1年、その総括ともいえる新聞批評を「週刊東洋経済」(東洋経済新報社)9月5日号で発表。それが「池上彰が斬る!「朝日より読売、産経が問題」」というインタビューだ。

 このなかで池上氏は、朝日新聞に対し、「朝日自身でだいぶ自浄作用を働かせた」「訂正欄をきちんと設けるようになった」と評価する一方、朝日バッシングの急先鋒だった読売新聞には容赦なくこう批判する。

「一連の騒動で朝日は部数減らしましたけど、読売はそれ以上に減らしました。朝日をたたけば読者が流れると思ったら流れてこなかった。要は自分の金儲けのためだろって見透かされた。読者はますます引きますね。新聞界全体への信用が失われたってことですよ」

 安保法制に関する報道についても同様だ。「読売新聞や産経新聞は、フォーラム機能で両論を載せることは今も絶対にしません」と指摘し、そもそもそれが報道機関として値するかに疑問を投げかけた。

「安保法制賛成の新聞は反対意見をほとんど取り上げない。そこが反対派の新聞と大きく違う点です。読売は反対の議論を載せません。そうなると、これがはたしてきちんとした報道なのかってことになる」

 では、具体的に読売・産経の紙面はどのように“おかしな報道”を行っているのか。8月30日に行われた国会前デモの報道を通じてそれを分析・批判しているのは、文芸評論家の斎藤美奈子氏だ。

 斎藤氏は東京新聞の連載「本音のコラム」(9月2日付)で、デモ翌日の8月31日の全国紙の報道を総ざらい。朝日は一面と二面、社会面で、毎日も一面と社会面で伝えたとした上で、読売にこう切り込む。

〈苦笑したのは読売新聞だ。社会面に載った小さな記事の見出しは「安保法案『反対』『賛成』デモ」。二十九日に新宿で行われた賛成デモ(主催者発表で五百人)と、国会前の反対デモ(同十二万人)を同列に扱い、さも意見が拮抗している風を装う〉

 しかし、斎藤氏は〈ここまではまだマシ。笑いが引きつるのは産経新聞だ〉といい、社会面の記事は〈「デモ=騒擾」とみなす姿勢がありあり〉と解説。さらにSEALDsについて公安関係者への取材をもとに〈実態は不明な部分もある〉と伝えている点を、斎藤氏はこのように表現している。

〈読売が御用新聞風なら悪意に満ちた産経の報道は、もはや市民の敵レベル、特高警察風である〉

 そして〈市民運動に対する認識も五十年古い。ジャーナリズムの看板はもう下ろしたら?〉と喝破。まさに一刀両断である。

 産経は以前にも国会前の反対デモにおけるシュプレヒコールを〈倫理的に問題のある「ヘイトスピーチ」といって過言ではない〉などと報道している。言うまでもないが、「ヘイトスピーチ」とは、人種、性別、民族など、自分では容易に変更することができない属性を根拠にした差別的表現、あるいは差別によって犯罪行為を助長する表現のことを指す。だが、産経の手にかかれば為政者に対する批判さえ「ヘイトスピーチ」になるらしい。たしかにこんな認識でよく恥ずかしげもなく〈ジャーナリズムの看板〉を掲げていられるのか、不思議なくらいだ。

 といっても、産経については昔からトンデモ報道が多すぎて、もうすでに多くの人が“ネトウヨ機関紙”程度にしか見なしていないはず。そういう意味でいうと、読売のほうが問題の根は深い。

 そうした読売の問題を追及しているのが、ジャーナリストの青木理氏だ。既報の通り青木氏は、現在発売中の「創」(創出版)9・10月号の鼎談のなかで「僕が気になるのは読売新聞の動向」と言い、読売の問題点をあぶり出している。

「特定秘密保護法にせよ、武器輸出3原則の撤廃にせよ、安保法制にせよ、あたかも世論が二分されているように見えてしまっているのは読売の存在が大きい。地方紙は9割以上が異議を唱えている。ところが全国紙レベルだと賛否が割れているように見える。産経は昔からあんな新聞ですから(笑)、ああそうかと思うだけですが、900万部の読売が完全に政権寄りになったことで、あたかも世論が真っ二つに割れているような印象を与えてしまう」

 読売の場合、世論調査ひとつとっても〈安全保障関連法案は、日本の平和と安全を確保し、国際社会への貢献を強化するために、自衛隊の活動を拡大するものです。こうした法律の整備に、賛成ですか、反対ですか〉(7月24〜26日実施の全国世論調査)と、安倍政権の主張をそのまま質問文に盛り込んだ誘導質問を行っている。

 これでは政権へのすり寄り方はNHKと同レベルだが、しかしさらなる問題は、このようなジャーナリズムとは言い難い報道を許してしまっている制作サイド、すなわち記者たちの態度だ。青木氏も「もっと気味が悪いのは、読売の中から異論や異見がまったく出ないこと」と言う。
 
「僕も組織に長くいたからよくわかりますが、読売新聞などはもはやそういう位相を超えてしまっている。優れた記者もいるし、異論を持っている記者もいるはずなのに、誰一人として反乱しない。異常な体制に抗おうという記者が一人も出てこない。清武さんが飛び出した時、彼に続くとか、彼を支えようとする者がまったく出なかったことの異常さ。もはや言論機関じゃありません」

 もちろん、こうした背景には、渡邉恒雄会長=ナベツネによる独裁体制があるだろう。しかし、最近の異常とも言える政権べったりの姿勢は、ナベツネ抜きに編集幹部が官邸ともっとダイレクトな癒着関係を築いているからだという指摘もある。

 朝日叩きももちろんどんどんやるべきだが、同時に読売、産経2紙の政権癒着をきちんと追及しないと、この国の民主主義は本当に崩壊してしまいかねない。
(野尻民夫)

最終更新:2015.09.14 09:14

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