礒崎首相補佐官に続き官邸推薦の憲法学者も「法的安定性関係ない」「中国に対抗するため安保法は必要」…もはや日本は法治国家じゃない

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いそざき陽輔のホームページより


 集団的自衛権行使についての説明でツイッター上で女子高校生に論破されたと話題になった首相補佐官の礒崎陽輔氏が、またやらかした。一連の安保関連法案について「法的安定性は関係ない」とまで言い放ったのだ。

 それは、7月26日、地元大分の講演での発言だ。

「我が国は憲法9条の解釈から自衛権は必要最低限度でなければならず、集団的自衛権は必要最低限度を超えるからダメだとしてきた。1972年の政府見解だ。しかし、40年経って時代は変わった。集団的自衛権も、我が国を守るためのものならいいのではないか、と(安倍政権は)提案している」

 そう自説を展開した後、こう言い切ったのだ。

「何を考えないといけないのか。法的安定性は関係ない。(集団的自衛権の行使が)我が国を守るために必要な措置かどうかを気にしないといけない。我が国を守るために必要なことを憲法がダメだということはあり得ない」

 必要なことならルールなど無視していいと言っているのだ。だったら端からルールなど必要ないではないか。すべてはその時々に“王様”が決める。法治国家の否定である。

 これにはさすがに与党からも批判の声が相次いだ。自民党の谷垣禎一幹事長は「極めて配慮の欠けたことだ」と言い、公明党の山口那津男代表も「足を引っ張らないように」と苦言を呈した。だが、肝心の政権側は、菅義偉官房長官が「安全保障環境の変化を十分に踏まえる必要があるという認識を示したもので、問題はない。辞任には当たらない」と完全擁護している。

 それも当然だろう。実は、この礒崎発言こそが安保法制を貫く安倍政権の本音なのだ。

 安保法制推進論者の意見を聞くと、必ず出てくるのが「必要だからやらなければならない」という理屈だ。安倍晋三首相はこれまで、集団的自衛権行使を容認しても法的安定性は保たれると強弁してきた。だが、本音の部分では、法的安定性より必要性が優先されると思っている。それが、最側近の礒崎氏の口から出てしまっただけのことなのだ。

「必要だからルールを無視しても構わない」。これだけでも、法の支配や立憲政治を否定するトンデモ内閣ということになるが、そもそも本当に必要なのかがまったく不明だ。本サイトでは何度も指摘しているが、安保法制の前提として安倍政権が耳にタコができるほど繰り返している「日本を取り巻く安全保障環境が激変し、厳しさを増している」というお題目自体、かなりいい加減なもので、そのほとんどは、個別的自衛権で対応できる。

 安保法制推進論者に共通しているのは結局、論理や理屈ではなく「中国が怖い」「中国に対抗したい」という感情論にすぎない。

 しかも、それは憲法を専門にする学者まで同じらしい。周知のように集団的自衛権行使容認については、ほとんどの憲法学者が違憲であると主張しており、『報道ステーション』(テレビ朝日系)のアンケートでは「合憲」だとする憲法学者は4人。また、当初、菅義偉官房長官が名前をあげることができたのも3人だけだった。

 その数少ない安保法制合憲論の憲法学者のうち、日大法学部教授の百地章氏、大東文化大学大学院法務研究科教授の浅野善治氏、中央大学名誉教授の長尾一紘氏の3人が「週刊新潮」(新潮社)の7月30日号で〈なぜか疎外されている「集団的自衛権は合憲」に憲法学者座談会〉と題して、鼎談をしているのだが、その内容がすごいのだ。

 まず、出席者はいずれも、一応大学で憲法を専門に研究しているわけだから、安保法制が合憲とされる解釈論を語ってくれるのだろうと思っていたら、冒頭から違憲論への批判が延々続く。

 浅野氏が、「(違憲論者は)多いですが、具体的にどんな点が問題なのかについて、きちんとした論拠に基づいて説明している学者はほとんど、いや、全くいない」と口火を切ると、長尾氏が「かつて、自衛隊の存在が違憲と主張された時代がありました」と続ける。いまは違憲論者が多数派だけど、やがてそうでなくなると言いたいようだ。

 そして、これを受けた百地氏がこう疑問を呈する。

「法的安定性の確保は大切ですが、それが確保されないことが、どうして憲法違反になるのでしょうか」

 安倍首相の子飼いタカ派政治家ならともかく、まさか憲法学者から「法的安定性は二の次」発言が飛び出すとは……。 

 しかし、こんなものは序の口。さらに驚いたのが、浅野氏の次の発言だ。

「武力行使と一体化という点については、法令自体が違憲かどうかということと、法令が違憲に運用されるかどうかは別の話です。自衛隊が違憲運用される可能性を言い出したら、キリがありません」

 多数派の憲法学者が言っているのは、この法令の文言だと自衛隊が違憲運用されることになる。だから、この法令は違憲だという論法だ。これに対して浅野氏は、自衛隊が違憲運用される可能性を言い出したらキリがない。だから合憲だ――と言うのである。これが本当に法律家の物言いなのだろうか。

 その後も、彼らの言いたい放題は続く。

 百地「現時点で集団的自衛権の行使は違憲とする憲法学者が多いのは事実ですが、合憲か違憲かは学者の数の問題じゃありません」
 百地「そもそも集団的自衛権は国際法上の権利で(中略)、すべての国連加盟国に認められています」
 長尾「集団的自衛権に反対する声があること自体が異常ですが、それを異常と認識しない人々もまた異常と言わざるを得ません」

 だが、いつまで経っても違憲論者に対する悪口ばかりで、“合憲”とする論拠が出てこない。あえて言えば、「集団的自衛権は国際的に認められた権利」であり「砂川判決で最高裁も認めている」ということだけで、「法的安定性の確保」がなくても、「武力行使と一体化」してもオッケーという論理だ。なぜ、こんな理屈が通るのか。鼎談の後半で、百地氏が本音を語り始める。

「国民はやはり、中国の軍事的脅威を感じていると思います。東シナ海では尖閣諸島の領有権を主張し、周辺海域で連日のように領海侵犯を繰り返しており、ガス田では勝手な開発に加えてレーダー基地の設置も進めているという。南シナ海では岩礁を埋め立てて軍事拠点を築き、日本のシーレーンも脅かされています。(中略)これこそが、集団的自衛権の行使を背景にした安保関連法案の成立を急がねばならない最大の理由です」

 もう、お分りだろう。論理や理屈ではないのである。「中国が恐いから」「中国に対抗したいから、理屈や論理をすっ飛ばして(法的安定性を無視しても)、早くやらなければならないという考え方だ。冒頭の礒崎氏の発想とまったく同じなのである。

 そして、対談はこう締めくくられる。

百地「本質的な解決は、憲法9条第2項を改正して軍隊を持つことでしょう」
長尾「その通りです」
浅野「同感です」

 だが、彼らの論理でいくと、もはや「中国に対抗する」という大義名分があれば、憲法改定しなくても軍隊を持つことができると思うのだが……。

 しかも、恐ろしいのは、憲法学会では相手にもされないようなこうしたトンデモな意見が日本の政治では大手をふってまかり通ろうとしていることだ。もはや、日本は法治国家ですらなくなろうとしているのかもしれない。
(野尻民夫)

最終更新:2015.07.30 02:14

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