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ドローン男の不当起訴は官邸の報復だ!「デモ以上テロ未満」を擁護せよ!
急速に規制が進めらているドローン(YouTube「ANNnewsCH」より)
先月、首相官邸の屋上で、微量の放射能を含む汚染土を搭載したドローンが見つかった事件で、東京地検は15日、出頭していた男(40)を威力業務妨害罪で起訴した。
しかしこの事件は当初、警察関係者からは立件は難しいだろうと見られていた。されたとしてもせいぜい略式起訴で罰金がいいところだ、と。それが起訴になったのは、官邸の顔色をうかがった結果である可能性が高い。
「このドローン事件で官邸は、警備の不備や、汚染度の管理の杜撰さをさらけだしてしまいましたからね。メディアでも大きく取り上げられたこともあり、官邸は完全にメンツを潰されたかたちです。ドローンの法規制も拙速に進めましたし、今回の起訴も、いわゆるいつもの報復行為のようなもの。官邸の意向を検察と警察が忖度した結果だと思います」(警視庁担当記者)
どうやら、かなり無理のある不当起訴の可能性が高いわけだが、世間の男への反応は冷たい。「こじらせただけだろ」「普通に狂ってる人でしょ」「反原発運動にとっても迷惑」など、右からも左からもバッシングをくらっているのが現状だ。
しかし、彼には彼なりの動機、論理があるはずだ。本サイトは男の出頭直後、残されたブログなどから、彼が「デモ以上テロ未満」の方法を模索していたことなどを指摘していた。
それから20日──。今回の新聞報道で、男は「ドローンを使えば注目されると思った。デモ以上テロ未満の方法を選んだ」と供述していたことが明らかになった。
本サイトの記事は、他にも、彼の思想的背景や動機、社会や政治、原発に対するスタンスなどを詳細に分析している。以下に再録するので、ただ狂人扱いするのでなく、彼の意図をじっくりと読み解いてもらいたい。
(編集部)
**********************************
男はなぜドローンを飛ばしたのか──。
首相官邸屋上に小型の無人航空機・ドローンが発見された事件は、あまりにもあっけなく幕が降ろされた。24日夜、福井県在住の男性(40、以下Yと表記、「容疑者」は省略)が出頭したのである。連行された彼は、キャップを目深に被り、迷彩柄のパーカーに身を包んでいた。
Yは、大飯原発から約5キロの福井県小浜市に住んでおり、今月9日に、東京・赤坂で4つのプロペラと小型カメラがついたドローンを飛ばし、首相官邸の屋上に墜落させた、威力業務妨害の疑いで逮捕。ドローンには、発炎筒と、ペットボトルのような容器が取り付けられており、容器には英語で「放射性の」と書かれたシールが貼られていた。容器の内部からはセシウム由来の放射線が検出され、それは福島で採取した汚染土だという。「ただちに人体に影響はないレベル」だと報道されている。
NHKの報道によると、Yは小浜市内の自宅で家族と生活しており、県内の高校を卒業後、自衛隊に入隊。その後にメーカーの工場に勤務していた。Yによるものとみられるブログによれば、Yは「薄型テレビの生産増で若干名の正社員募集があり30歳を過ぎて運よく一部上場に滑り込んだ」会社を、昨年夏に退職したという。
報道されているYの動機は、「原発政策への抗議」。ネット上ではYに対する「完全に放射脳」「キチガイ左翼が武力行使にでたw」「民主主義に対するテロだな」という非難の声で溢れている。一方では原発に反対する人々からの反発の声も強い。たとえば、NPO法人環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也氏は、毎日新聞の取材に対して「揚げ足を取られる軽率な行動」と指摘している。
たしかに、Yによるブログと思しきものを読んでみると、そこからは過剰ともいえるような原発への危機感が伝わってくる。
Yは「官邸サンタ」という名で、昨年7月から今年4月までに計43本の記事を投稿していたが、そこにはこんな記述が登場する。
〈【川内原発安全審査合格内定、今秋再稼働目指す】/川内原発の再稼動までもう間が無い/小泉純一郎が総理大臣だったら今頃全廃炉に向かってただろうか・・・/川内が動けばドミノ倒しのように全国の原発が動く・・・/遠く離れた鹿児島の事だが我が小浜市にとって他人事ではない〉
〈3.11を境に超絶危険地帯に・・・/小浜市にも過去に原発建設計画があったが猛反対/でも周りにこんだけ原発作られたら意味無い・・・〉
〈原発に包囲された小浜市や若狭町に再稼動への同意権はない/だが原発が事故ると直撃コースだから避難することになる・・・〉(2014年7月16日のエントリー・「小浜市」より)
また、元自衛隊員という経歴の影響なのか、原発テロへの恐怖感も大きい。
〈海外の主要都市でテロ事件が頻発中/日本も先日イスラム国に宣戦布告された/原発はどんなテロにどこまで対応できる設計なのか・・・〉
〈燃料プールむき出しのF1を狙われたらどうなるのか・・・/日本のテロへの姿勢、考え方は根本的に間違ってる・・・と思う・・・/福島第一の事故は世界中が知っている/最大規模の成果が約束された原発を狙わない理由は無い/テロは天災と違い人間が起こすもの・・・/対策をとってもそれを回避する手段を選べば良いだけ・・・/犯行予告だけでもパニックを起こせる・・・/でもそれはリアル避難訓練になるな・・・じゃあいいか・・・いやダメだろ・・・〉(15年2月11日のエントリー・「高浜原発」より)
だが、ブログを注意深く読んでいくと、Yのなかにたんなる反原発だけではない思いがあることも見えてくる。
Yによる最後のブログエントリーには、「参考書」として、『原発の倫理学』(古賀茂明)、『原発のウソ』(小出裕章)、『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』(矢部宏治)などの「反原発」系の書籍と並んで、『嫌韓流』シリーズでしられる山野車輪の『若者奴隷時代』が挙げられている。Yは、かつて自分で書いたと思われる漫画をニコニコ動画の静止画コンテンツにアップしていた。
タイトルは「ハローワーカー」。現在、第2話まで公開されており、いちおうの完結をみせている。
第1話では、フリーターの男性が、交際している女性を妊娠させるも、女性の両親に「定職についていない」ことを理由に結婚を拒否され、ハローワークに向かうところから始まる。ハローワークで男性は、「国家公務員」になることを勧められる。その「仕事」は少子高齢化により増加している「高齢者」たちを「駆除」することだった。それは法的枠組みとして、以下のように作中で解説されている。
〈失業者を雇用し、高齢者を駆除させる。高齢者にかかる年金・医療・福祉雇用を大幅に削減し、出産・育児、教育に活用する。「老人駆除法」は我が厚生労働省が導き出した年金・雇用・少子高齢化などを一挙に解決できる特効薬…多少の副作用など問題にならん〉(「ハローワーカー」より。句読点は引用者による)
マチェットや重火器などで、老人たちを次々に殺害していく主人公だが、第1話の結末で、殺害された老人の親族らしき人物によって殺害され、幕を引く。やや唐突な印象はいなめないが、作画力は素人とは思えないほど高く、漫画作品としての完成度は決して低くない。
この漫画のテーマを一言で言えば“世代間格差”となるだろう。作品のなかで印象的なのは、多数の「高齢者」を若い世代である主人公(=ハローワーカー)が大量虐殺する描写だ。じつはYは、ブログのなかでも、この大量虐殺を暗示するようなエントリーを残していた。
15年2月2日のエントリーで、秋葉原連続殺傷事件で死刑が確定した加藤智大死刑囚に触れ、こう書いている。
〈無双まとめ/1m~1.5mの短い槍状が最も有効か・・・入手、自作し易く安価/即席ならパイプにナイフをガムテープ等で固定/持ち手側は傘の柄のように突きにも引きにも力を入れやすい形状だと/扱いやすく奪われにくい/原始的で低能な犯罪にみられるが・・・/階段などの狭い空間、高低差を利用するなど場所、時間、/使い手によっては銃の乱射や爆弾テロより正確で被害も大きい〉
〈大きな音を発さないので避難が遅れる/ウイグルのように複数人で計画的に無双すると大人災になる〉(15年2月2日のエントリー・「無双」より)
この「無双まとめ」という表現は、おそらく、単体のプレーヤーキャラクターを操作して数百人の敵CPUをなぎ倒していくテレビゲーム(それは、ヒットした作品のタイトルを引用してファンから“無双もの”と呼ばれる)を意識しているものと思われる。
もしかすると、Yの心の奥底には、秋葉原事件の加藤死刑囚と同じような闇、格差社会へのルサンチマンが広がっていたのか。
だが、一方で、Yは加藤死刑囚のように実際に無差別殺戮を起こしたわけではない。ドローンという最先端のテクノロジーを使い、誰も傷つけることなく、自民党政権=官邸が生み出した福島の汚染土を官邸に返してみせた。それはある意味、とても見事な政治的パフォーマンスだったといっていい。
しかも、彼がこの方法をとったのはたまたまではなかった。退職後の14年7月18日のエントリーで、Yはこう書いている。
〈3.11後は盛り上がってた・・・それでも大飯は再稼動した/デモは各地で続いてる・・・らしい・・・マスコミも取り上げなくなった/デモで再稼動は止まらない・・・暴動にもならない/再稼動まで時間ないからデモは一旦パス・・・/再稼動に反対する活動ではなく再稼動を止める活動をしなくては・・・〉
〈破壊活動とテロの区別・・・難しいな・・・/今は何でもかんでもテロ扱いだから・・・/殺傷せずに何かを破壊・・・デモ以上テロ未満・・・/いや・・・再稼動を止めるためにはテロをも辞さない/再稼動すれば加害者・・・なら再稼動を止めて加害者のほうがいい/具体的に何をするか・・・何ができるか・・・〉(エントリー・「ゲリラ戦」より)
そう、彼はデモというやり方に限界を感じながら、しかし、テロにはならない方法を模索していた。「デモ以上テロ未満」のパフォーマンスを狙っていたのだ。その結果がドローンによる官邸への“汚染土返却”だったのである。
その意味で、Yの行為は加藤死刑囚の無差別殺戮とはまったくちがう、むしろ1960年代に前衛芸術家たちが行っていた反社会的パフォーマンスと通じる部分もある。ハイレッドセンターの赤瀬川原平が千円札を模写して起訴された千円札事件や、秋山祐徳太子、ゼロ次元が反万博の活動として全裸パフォーマンスを行い、逮捕された事件……。いや、ある種の狂気を孕んでいるという意味では、天皇参賀で昭和天皇に向かってパチンコ玉を放った奥崎謙三のほうが近いというべきか。
だが、いずれにしても、Yと彼らの決定的なちがいは、それを取り巻く世間の反応だ。当局に逮捕されながらも、同世代の若者からリスペクトを集め、メディアでも称賛された60年代の前衛芸術家とは異なり、あるいは、その狂気が一部の熱狂的な支持を集め、反天皇制と戦争責任追及のイコンともなった奥崎とはちがい、Yの行動は反原発の論議を呼び起こすこともなく、ただただ「アブナイ男のはた迷惑な犯行」として処理されようとしている。
それは、たんに、パフォーマンスのクオリティや方法の問題でなく、「お上にたてつかない」「目立たずに同調する」ことこそが求められるようになった日本社会の変化が大きく関係しているはずだ。
Yはブログで「官邸も守れない、汚染土も管理できない国が原発を・・・てのは多分マスコミが言ってくれるか・・・」と書いているが、そんなことを大々的に語るメディアは、今のところ皆無だ。
この事件の結果、進行したのは、原発再稼動に反対する世論でも、政府の原発政策に対する議論の活性化でもなく、単にドローンの法規制だけだった。
Yは、出頭の当日のエントリーでこんなことを書いていた。
〈去年退職してからずっと大きな迷いの中・・・/前例ない道を1人で歩くのはシンドイ・・・/核の平和利用vsテロの平和利用・・・/再稼動の進行にあわせてリミッターを解除していけばイスラム国と変わらなくなる・・・/自分の無能さが悲しい・・・〉(エントリー・「100gの倫理」より)
そう、悲しいかな、Yのいう「テロの平和利用」は、不発に終わったのだ。しかし、だとしても、いやだからこそというべきか、私たちはYの行為を「アブナイ男のはた迷惑な犯行」と片付けるのは止めようと思う。「反原発運動の足をひっぱった」などとその存在を意識から排除するつもりもない。
彼の真意はどこにあったのか。そして、彼のとった方法論に世の中を動かす可能性は1ミリもなかったのか。世界中から嘲笑されても、そのことを考え、伝えたいと思っている。
Yよ、君がどのような人間であれ、最終的に、真実は君の口からこそ語られるべきだ。せいぜいが威力業務妨害、前科がなければ執行猶予ですぐに釈放される。
君が望むのならば、本サイトはその機会を提供したい。約束しよう。
(エンジョウトオル)
最終更新:2015.05.16 01:45
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