佐村河内を売り出したのは五木寛之だった!作家タブーで封印された新事実

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷
samjragouchi_01_141216.jpg
『ペテン師と天才』(文藝春秋)

 2014年を振り返ると、ビッグニュースのひとつにあげられるのが佐村河内守氏のゴースト問題だろう。耳の聞こえない天才作曲家の佐村河内氏が、実は全聾ではなく作曲も新垣隆というゴーストライターの手によるものだった──。   

 このスキャンダルは、メディアにも波及した。佐村河内氏を“現代のベートーベン”と紹介した新聞、テレビ、雑誌に、“ペテンに加担した”と非難が殺到。多くのメディアが謝罪する事態になった。中でもNHKは、ドキュメント番組『NHKスペシャル』(13年3月31日放映)で真っ先に佐村河内氏を取り上げたとされ、後に検証番組を放映し、おわびする事態にいたった。

 だが実はNHKの紹介以前に、佐村河内氏をメディアの寵児にする起爆剤の役割を果たした人物が存在した。それが大御所作家・五木寛之氏だ。

 先日、発売された『ペテン師と天才』(文藝春秋)は、「週刊文春」でゴースト問題をスクープした作家・神山典士氏によるノンフィクションだ。そこには佐村河内氏、そしてゴーストライターの新垣隆氏の半生や関係を追いながら、“虚像の作曲家”がいかに誕生し破綻していったかが丹念な取材で描かれているのだが、その中に佐村河内氏がどのように有名になっていったかの記述がある。少し長くなるがその経緯を追っていきたい。

 96年に佐村河内氏と出会い、2曲のゴーストを手がけていた新垣氏に3曲目の依頼がきたのは99年のことだった。

「新垣さん、今度は200人編成のフルオーケストラが新垣さんの曲を演奏してくれます。録音の時は指揮もしてください。ゲームの製作発表会で演奏する、約20分の交響曲を作曲してほしいのです」

 この「ゲーム」とはカプコンが製作する「鬼武者」という戦国を舞台にするアクションゲーム企画だった。佐村河内氏はこの企画の音楽監督に指名されていたのだ。

 日本経済が冷え込み、音楽業界にも不況の波が押し寄せていた時期だった。そんな時、200人のフルオーケストラで指揮をするという依頼に新垣氏は心が動き、曲を作り上げる。一方、佐村河内氏もまた、この作品をきっかけに欺瞞の自己プロデュースを加速させていくのだ。

 本書ではカプコンの社員で、いまは都内の公共ホールのプロデューサー・大原康夫氏(仮名)がこう語っている。

「佐村河内さんは1999年の『鬼武者』の発表の日に『全聾宣言』をして、その日から全聾ということにしました。(略)確かに当時から、売り込み能力は凄かったです。『鬼武者』のサウンドトラック版に付いている解説書に掲載された横尾忠則さんの絵と五木寛之さんのコメントは、佐村河内さんがアポなしで二人の事務所に乗り込んでとってきたものです」

 五木氏は「人間存在の根底に触れる音楽」と題された文章を寄稿し、佐村河内氏を絶賛した。だが、これはほんの序章に過ぎなかった。著者である神山氏もこう記している。

「佐村河内は横尾や五木というビッグネームを訪ね、『自分は聴覚障害を持つ作曲家である』『完成したこの曲を聴いてほしい』、『オーケストラと邦楽界が融合した壮大な曲だ』と吹聴して歩いた。その結果として、二人から大きな贈り物をもらうことになる。
 ことに五木においては、この関係が最後まで続き、それが大きな波紋を呼ぶことになるのだが──」

「大きな波紋」とは一体どういうことか。それは、佐村河内ブランドがNHKや出版界に浸透し、さらにクラッシック界に足を踏み入れるきっかけを五木氏が作り出し、その売り出しの“装置”となったことだ。

 06年、佐村河内氏にNHKから仕事のオファーがあった。

「──ある作家を主役にして世界7カ国をまたにかけた壮大な旅番組の音楽を手がけて欲しい。佐村河内さんに頼めないかという提案が、当の作家からあった」

 その番組とは『五木寛之 21世紀・仏教への旅』であり、もちろん「当の作家」とは五木寛之その人だった。この番組は07年の正月に放映される。

 さらに五木氏は出版界にも佐村河内氏を紹介する。目的は佐村河内の自叙伝出版のためだった。07年頃、大手出版社・講談社で五木寛之氏を担当していた文芸部・豊田利男氏のもとに佐村河内氏の自叙伝の企画が舞い込んできた。この企画を持ち込んだのも、五木寛之当人だ。

「他ならぬ五木の頼みとあっては豊田は断るわけにもいかない。長年一緒に五木の仕事を手がけていたフリー編集者の浅間雪枝にこの企画を担当させて、『交響曲第一番』のタイトルで07年10月に発刊している」

 当時、佐村河内氏は一枚のCDを出す事もなく、タイトルにある交響曲は一度も演奏されていなかった。にもかかわらず五木氏はこの企画を旧知の編集者に依頼し、自らも帯にコメントを寄せた。その帯によって佐村河内氏の「現代のベートーベン」「全聾の天才作曲家」のイメージが完成されたと神山氏は指摘する。

 五木氏を起点とした連鎖はさらに続いていく。この自叙伝を読んで佐村河内氏の被爆二世体験を知り、感動したのが当時の広島市の秋葉忠利市長だった。そして08年8月の「G8議長サミット」の記念コンサートに佐村河内起用を“独断”で決めた。

 こうして、全聾、被爆、クラッシックの天才という称号を佐村河内氏は手に入れたのだ。その後の佐村河内氏は、障害者の子どもを利用する形で、活躍の場を広げ、存在感を増していく。 

 だが五木氏の影響力はこれだけで終わらなかった。その後、多くのメディアが佐村河内を取り上げる中、そこに怪しいにおいを感じた者もいた。しかし五木氏の存在が目くらましとなってその疑惑は暴かれることはなかった。

「執筆した記者やカメラマンたちは、いずれも3つの迷宮を前にして、その扉をこじ開けることができなかった。もちろん私もその一人だ。すでに出合った時には「Time」(2001年9月15日号の「聴力を失ったビデオゲーム音楽の巨匠」と佐村河内氏インタビュー)の記事があり、自叙伝が出版され、CDでは『鬼武者』や『交響曲第一番HIROSHIMA』があり、五木寛之の推薦の言葉があった」

 五木寛之という大御所作家は、佐村河内氏の“売り出し”や“権威付け”に大きな役割を果たしただけでなく、メディアを欺く装置としても機能していたのだ。もちろん五木氏も多くの人々と同様、佐村河内氏のペテン的な能力に騙された被害者なのかもしれない。しかし、NHKに紹介した張本人が五木氏である事を考えると、その果たした役割、責任はNHKに匹敵するくらいに重大といえるだろう。

 だが、ゴースト問題をスクープした「週刊文春」でも、後にこの問題を検証、謝罪したメディアでも、五木氏の責任は追及されることはなかった。それどころか、その存在すら一切取り上げられることはなかった。それは現在、大きな問題となっている百田尚樹『殉愛』問題同様、作家タブーによるものだ。

 今回、文藝春秋で刊行された本書で、五木寛之氏に関する記述を削ることなく出版されたことは評価に値する。しかし、それはノンフィクション作品の中に一幕としてかろうじて登場しただけで、週刊誌では同書を紹介する記事にも、一行も五木氏の名前は出てこない。

 出版社系週刊誌における作家タブーはあまりに強固だ。しかも、その影響力は芸能人と違って、しばしば政治や社会問題の報道にまで及んでくる。これは雑誌ジャーナリズムにとって、最大の、しかし永遠に解決されない問題といえるだろう。
(伊勢崎馨)

最終更新:2014.12.16 08:08

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

この記事に関する本・雑誌

ペテン師と天才 佐村河内事件の全貌

新着 芸能・エンタメ スキャンダル ビジネス 社会 カルチャー くらし

佐村河内を売り出したのは五木寛之だった!作家タブーで封印された新事実のページです。LITERAは政治・マスコミ・ジャーナリズム・オピニオン・社会問題や芸能(エンタメ)・スキャンダル・カルチャーなど社会で話題のニュースを本や雑誌から掘り起こすサイトです。タブー、ノンフィクション、伊勢崎馨、出版業界の記事ならリテラへ。

人気記事ランキング

1 くりぃむ上田晋也が“政権批判NG”に敢然と反論
2 安倍イラン訪問でNHK岩田明子記者がまた安倍フェイクPR
3 ユースケ・サンタマリアが語るうつ体験
4 「アジア大会」運営を大阪万博の工費未払いトラブル会社が受注
5 吉高由里子が元カレに言った一言
6 結婚した綿矢りさの大失恋体験
7 古代史研究者が「神武天皇から続く伝統」に抗議声明 読売テレビも
8 タイマーズ再び!清志郎のメッセージ
9 読売テレビが子ども相手に竹田恒泰の「フェイク皇室史」刷り込み放送
10 ヴェネツィア映画祭で反響 元米兵・ネルソンさんが語った戦争
11 田宮二郎自殺の真相を夫人が告白!
12 日本刀ブームとネトウヨの因果関係は
13 安室、上田、芸能人よく言った大賞前編
14 葵つかさが「松潤とは終わった」と
15 すぎやまこういち死去報道で封印された歴史修正主義と性差別肯定発言
16 高市早苗が「戦争をしたがっている」ことを証明するトンデモ発言集!
17 大統領選不正デマを拡散した日本のトランプ応援団の妄言総まくり!
18 上田晋也が安倍政権とメディアの“沖縄県民投票無視”を痛烈批判
19 産経新聞の総帥が「軍の慰安所作り」を下劣自慢!靖国神社に裏付け資料が
20 小泉防衛相ら靖国参拝 靖国のグロテスクな戦争礼賛の本質

カテゴリ別ランキング

マガジン9

人気連載

アベを倒したい!

アベを倒したい!

室井佑月

ブラ弁は見た!

ブラ弁は見た!

ブラック企業被害対策弁護団

ニッポン抑圧と腐敗の現場

ニッポン抑圧と腐敗の現場

横田 一

メディア定点観測

メディア定点観測

編集部

ネット右翼の15年

ネット右翼の15年

野間易通

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

赤井 歪

政治からテレビを守れ!

政治からテレビを守れ!

水島宏明

「売れてる本」の取扱説明書

「売れてる本」の取扱説明書

武田砂鉄