「強すぎる 常に反動 予感する」阪神ファンの複雑な心情がのぞく珍言集

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日本シリーズもこの勢いのままいけるか!?(画像は『阪神タイガース公式イヤーブック2014』(阪神コンテンツリンク)より)

「まさか……ほんまに勝ってもうた……」
 昨晩、何百、いや何万人の阪神ファンがこの言葉をつぶやいたことだろう。2位でクライマックスシリーズ(CS)に参戦した阪神タイガースが、1位でリーグ戦を突破した読売ジャイアンツを下し、05年以来となる日本シリーズ進出、CS初制覇を達成したからだ。

 それにしても、CSファイナルステージにおける阪神の勢いはすごかった。連日連勝で一試合も落とすことがなかっただけでなく、「巨人=悪、阪神=正義」「巨人=金、阪神=慈愛」と信じる阪神ファンにとっては、憎き巨人に下克上を果たしての勝利。ちなみに阪神ファン歴70年となる筆者の父は、「幸せすぎて死んでしまいそうや」「やっと冥土の土産ができた」と嗚咽しながら語っていた。ほんとうに死にそうで心配になるくらいだった。

 そう。阪神ファン=トラキチにとって、阪神とは「人生そのもの」。だからこそ、この夢のようなCSファイナルステージ制覇を体験して、じつは多くのトラキチは不安に陥っているのだ。今回は優勝を記念して、『阪神タイガースファン名言珍言集』(猛虎魂会/KADOKAWA 中経出版)から、そんな複雑なトラキチたちの思いを紹介しよう。

 まず、本書におさめられたトラキチのこの言葉こそが、いまの阪神ファンの気持ちをずばり言い当てている。

「阪神の優勝は人生で3度まで」「決してそれ以上は望むな。欲どおしいことを考えると、不幸が訪れる」

 阪神が強すぎると「なにか落とし穴があるのではないか」「大雨が続くのは阪神が強いからかも」「上から石が落ちてくるのでは」と不安に襲われるのがトラキチの性分。いつも期待しては裏切られ続けてきたからこそ、勝つと不吉なことが起こるような気がしてならないのだ。

 そんなアンビバレンツな感情は、トラキチたちの川柳にも表れている。

「強すぎる 常に反動 予感する」(42歳・男)
「勝ちすぎて 逆に不安に 陥れり」(36歳・男)
「一敗で 大連勝を 心配し」(42歳・男)
「阪神よ そんなに勝って どこへいく」(40歳・男)

 いや、勝って優勝を目指すのでは……と普通は思うが、「勝つと怖い」のがトラキチというものなのだ。だが、阪神ファンはいつもこのような甚大なストレスに見舞われながら観戦しているわけではない。ストレスはヤジで解消するのである。

 たとえば、85年の優勝、日本一から2年後、一気に最下位へ落ち込んだ際の名ヤジはこうだ。

「岡田ーっ! 掛布ーっ! 打たれへんかったら顔で笑かして打ったれーっ!! お前らには顔という武器があるーー!」

 それは武器なのか。というより顔で笑わせるのは、もはや野球ではないのではないか。しかし、こうしたツッコミは無用。勝つことにこだわっていれば大きなストレスになることを身をもって知っているトラキチたちは、負け試合でも楽しむ術としてヤジるのだ。

 90〜95年という阪神の暗黒時代の顔である中村“スカタン”勝広監督に、ファンはこう言い放った。

「中村ぁぁーっ、言うこと聞いてくれやーっ 監督はオレやーっ、お前を交代するーっ、家で寝とけーっ」

 まさかの「監督はオレ」宣言。しかも、「審判交代、交代じゃーっ!」と審判にさえヤジを投げつけるのがトラキチ流。「審判はみな巨人から金をもらってて巨人の味方や」と思っているからだ。

 また、07年に引退したアンディ・シーツが空振りに終わると、球場には「こぉぅらぁぁ−、シーツーッ! 干すぞーっ!」「敷いてまうどーっ!」「たたむぞーっ!」「めくったろかーっ!」と、示し合わせたかのようなヤジが口々に飛んだという。このほかにも「布にもどすぞーっ」「のりつけて洗濯するどーっ」とさまざまなバリエーションがあるが、もう何をどうしたいのかさっぱりわからない。

 このようにカオスと化した阪神ファンのヤジのなかでもとくに印象的なのは、99年、ある試合で広島にボコボコに打たれていたときのヤジだ。この年、阪神は開幕戦だけは首位に立ったものの最下位に転落するというお決まりコースを辿っていた。そして、誰かがこう叫んだ。

「おれはやるときはやるでーっ! おれーっ!」

 ヤジなのになぜか自分を励ましている。この不思議な声明ヤジを受けて、また別な人がこう叫んだという。

「よっしゃーっ、おまえーっ! やるときはやれーっ!」

 感動的なレスポンスだ。なんと涙ぐましいシーンだろう。だが、試合とはまったく関係ない。阪神ファンはこうして頭を混乱させながら、負けを克服してきたのだ。

 終始このような状態なのだから、臨終のときも「巨人をつぶせー、いてもうてくれー」と病床で訴える。さらに、あるトラキチのおばあちゃんは、敬老会の集会で「どのように死にたいか」と聞かれて、こう答えたという。

「甲子園の日本シリーズで、金本のサヨナラホームランで日本一になると同時に興奮で心臓をとめたい」

 まさに阪神とは人生そのもの。この返答に会場には拍手が巻き起こったという。……って、拍手することなのだろうか。

 ともかく、これまで不安と混乱にさらされてきたトラキチたちにとっては、29年振りの日本一となるかどうか、大いに期待したいところ。でも、たとえ日本一を逃しても、トラキチは納得するだろう。

「弱い阪神のことやから、なんか助けたらなあかん、と思うねん」

 トラキチというものは、いいところで負けてしまう阪神のことも、心から愛しているのだ。
(サニーうどん)

最終更新:2018.10.18 05:23

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