又吉直樹フィーバーは瀕死の出版界の象徴、もう出版社に作家を育てる体力はない…ヒット連発するウェブ小説の可能性は?

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 これまで、新人としてこれから世に羽ばたいていこうとする小説家が作品を出すのには、小説雑誌に掲載されてそこから単行本化されるパターン、新人賞に選ばれて単行本を出すパターン、大きく分けてこの二つがあった。しかし、現在、このようなキャリアパスがどんどん機能しなくなっている。出版業界はいま、売れるか売れないか分からない小説の単行本を出すということが難しい状況にまで追い込まれているからだ。

 雑誌に載せても単行本にはしない。新人賞はあげても本にはしない。そういったケースが増えている。実績のない新人の本は売れるかどうか未知数、売れない可能性の方が高いだろう。売り上げがじりじりと下がり続けるなか、出版社はどんどんそのようなリスクがとれない態勢になりつつある。結果として起きるのは、すでにヒット作をもっている作家への執筆依頼の集中だ。そのようにある程度参考になる売り上げの数字の見える企画でないと、会社もOKを出すことができなくなっている。

 運良く単行本を出すことができたとしても、作家にとって前途は多難だ。かつてであれば、一作目は芳しい数字が出せなかったとしても、才能にどこか光るものがあれば、出版社側もそれが花開くまでじっくりと育てあげていたが、もはやそのような余裕も気概も業界にはない。一度出した作品がスベれば最後、もうその作家にチャンスはめぐってこないのだ。

「紙の小説」がそのような閉塞的な状況におかれているなか、小説家志望の作家の卵たちは小説投稿サイトに光明を見出しているわけだが、小説投稿サイトが書き手たちを魅了しているのにはもうひとつ理由がある。

 飯田氏は、ウェブ小説のなかにおいて、「紙の小説」では発表前に編集者によって掲載を退けられていたであろうタイプの作品が読者の人気を集めているという現象を紹介している。

 ウェブ小説において読者から人気を得るためのスキルと、既存の「紙の小説」に関わる編集者や批評家から評価されるポイントはかなり異なる。飯田氏はその具体的な一例として、展開の早さをあげる。空き時間にスマートフォンで読まれることが多いという特性ゆえ、ウェブ小説で人気を集める作品はインパクト重視の出来事を連続させ、文体もシンプルで極力圧縮されたものとなっている。

 また、短くてもいいので、頻繁に更新される作品に人気が集まるというのも特徴で、次の連載が読みたくなるような「引き」の展開をいかにうまくつくることができるかというのも、ウェブ小説においては重要な能力となってくる。

 ミステリー小説などでは、いかにうまいオチをつけてストーリーをまとめるかが勝負で、そのオチのカタルシスを強めるために、途中に中だるみするような箇所もストーリー上有効であったりもするが、ウェブ小説ではそのような展開はあまり支持を集めない。それよりも、連載において読者の興味を引き続けるような展開をいかに多くひねり出せるかが、ウェブ小説においての人気を分ける。

 また、既存の紙の小説と最も違うのは、読者の反応がリアルタイムで返ってくる点だ。作家がエゴサーチして感想を拾い、そのニーズに合わせて物語の方向性を修正することも容易だ。読者の声をどう反映させてその先のストーリーをつくっていくかというのも、ウェブ小説を書く者としては大事なスキルとなる。

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