憲法9条は廃止、徴兵制と特高警察が復活…『静かなるドン』の作者が描く近未来漫画『隊務スリップ』のリアル

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 例えば、前述の通り『隊務スリップ』の世界では9条がなくなっているのだが、それだけにとどまらず、この世界では「特別高圧警察」が暗躍し、平和を訴える者たちを思想犯・政治犯として投獄している。この話もまた、単なるフィクションとして笑える話ではなくなっている。

 先日当サイトでは、音楽評論家・ラジオDJとして知られるピーター・バラカン氏が「憲法9条のTシャツ」を着ているだけで警官から呼び止められたという話をご紹介したが、こういった事例を見ていくと、現実の世界がどんどん『隊務スリップ』に近づいていることを実感せざるを得ない。

 そもそも、この『隊務スリップ』という作品の核になっている「憲法9条がなくなった世界」という設定自体、連載開始当初は「ギャグ設定」のひとつとして考えられたものだったという。「Journalism」(朝日新聞出版)15年10月号にて、新田はこう話す。

〈2013年暮れに連載を始めた時は、本当に「突拍子もない作品」を描いているつもりだったのです。
 いくら総理が国防軍だなんだのと言っても、徴兵制なんて現実離れした冗談だと思っていました。憲法を変えるには国民の抵抗がありすぎて、あまりにもハードルが高いですからね。
 ところが現実はご覧の通り、憲法を変えられないなら解釈を変えればいいと言い出した。
 現政権の、この突拍子もない発想には驚かされます。徴兵制も一概に冗談とも言えなくなってきた感があります〉

 昼は下着会社のデザイナー、夜は広域暴力団の総長(『静かなるドン』主人公の設定)といった、突拍子もないストーリーに定評のある人気漫画家すら驚かせる安倍政権の突拍子もない発想。正直笑いごとではない。

 実は、新田は20年にわたる長期連載『静かなるドン』を完結させた後、そのまま漫画家引退を考えていたという。しかし、そこでもう一度ペンを握らせるきっかけとなったのは、安倍晋三のトンデモ発言であったという。

〈『隊務スリップ』を描くきっかけは、さかのぼれば2012年、安倍晋三総理(当時・自民党総裁)の「憲法を改正して自衛隊を国防軍に」という発言でした。
「もし捕虜になった時、軍人ならばジュネーブ条約で人道的待遇を受けられる」というのが理由ということでしたが、それを聞いた時に「ん?」とひっかかるものがあったんです
 待てよ、捕虜になるということは、つまり他国に行って戦うということではないか。それは日本の国を守るためではなくて、アメリカのいいなりになって一緒に戦う、ということではないのか。日本はまだアメリカに占領されているんじゃないのか!?
 最初に感じたその憤り、そして実際に国防軍ができたら、いずれは徴兵制も?という発想、さらには現在の若者たちが徴兵されたら、一体どういうことになるのか?という漫画家としての興味、それらが作品の発想につながりました〉(前掲書より)

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