「障害児の出産を減らす方向に」発言の茨城県だけじゃない、日本中に蔓延する排除の空気と出生前診断に山崎ナオコーラが…

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷

 もちろん失敗することもある。18歳になり、カフェで働くことになった菫に、園子はサービスが得意そうだから接客をやってもらおう、と言う。鮎美は内心、心配でたまらず、実際、菫はコーヒーを注文した客に、ソーサーだけを出してしまう。それでも、菫のそんな姿をカフェの人びとは「まぼろしのコーヒーを持っていっちゃったのね」と笑って見守る。誰にでも失敗はある。〈こういう失敗は、べつに染色体のせいじゃない〉と捉えれば、菫の失敗はとくべつではなくなるのだ。

 社会は、障がいがあるという一点だけで「その人生は不幸だ」と思い込む。母親はそれを背負い込み、鮎美のように身体を丸めてうつむき、子どもの可能性を小さく捉えることもある。だが、生まれてくる命、育つ命が幸せか不幸かは、社会が決めることなどではけっしてない。そして、社会が開かれていれば、その人の幸福の可能性はぐんと広がる。そう、カップを指さした先の、食器棚が開かれるように。──そんなことを、この小説は教えてくれる。

 だからこそ、鮎美は出生前診断のことが気にかかる。菫の子育てを通じて、〈どんな子が生まれても、あるいはどんな子が生まれるか早めにわかっても、「完璧な育児」はできない。それなら、子どもの尊厳を優先したい〉と考えるようになったからだ。

 出生前診断によって障がいがあることが判明すると、中絶を選択する人が圧倒的だという現実。こうした結果が突きつけている問題は、この小説が言及しているように、多くの人びとが「障がいをもった子を産んでも育てる自信がない」「障がいがある人生は不幸せなのでは」「育てるにはお金がかかる」「社会に迷惑をかけてしまう」などと考えてしまう社会にわたしたちは生きている、ということだ。

 この現実を目の前にして、鮎美はこう考える。

〈もし、自分も「菫に税金を使うべきではない」と考えるようになったら、それはやがて、「社会にとっては菫のような子はいない方が良い」という考えに繋がっていくのではないだろうか。菫だけではなく、他の菫のような子たちに対しても、自分がそう考えている、ということになってしまうのではないか。〉
〈「強い国になって周りを見下す」というようなことを目標にする社会が持続するとは思えない。「多様性を認めて弱い存在も生き易くする」という社会の方が長く続いていくのではないか。「国益のために軍事費に金を充てて、福祉をないがしろにした方がいい」なんて、鮎美には到底思えない。この国を「弱い子は産まなくて良い、強い子だけをどんどん産め」という社会にするわけにはいかない。〉

 あまりに偏狭で、ゆたかであるとはとても言いがたい、現在の社会。障がいのある子は産むなと教育者や医師が言い放ち、国家予算も社会保障や福祉費は削られる一方で、軍事費ははね上がっている。小説が描くのは、いまの日本、この社会だ。

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

この記事に関する本・雑誌

ネンレイズム/開かれた食器棚

新着芸能・エンタメスキャンダルビジネス社会カルチャーくらし

「障害児の出産を減らす方向に」発言の茨城県だけじゃない、日本中に蔓延する排除の空気と出生前診断に山崎ナオコーラが…のページです。LITERA政治マスコミジャーナリズムオピニオン社会問題芸能(エンタメ)スキャンダルカルチャーなど社会で話題のニュースを本や雑誌から掘り起こすサイトです。文学田岡 尼の記事ならリテラへ。

人気記事ランキング

総合
ツイート数
1 安倍前首相はやはり仮病だった!読売のインタビューでケロッと「もう大丈夫」
2 菅首相が山口敬之氏への資金援助を親密企業「ぐるなび」会長に依頼か
3 菅首相の叫ぶ「規制緩和」は30年前の流行語
4 東京五輪招致をめぐるICC買収に新証拠! 菅首相も賄賂に関与か
5 ジャパンライフの広告塔に田崎とNHK島田も
6 山口敬之氏が詩織さんに卑劣すぎる反論
7 山口達也の事件をNHKが隠蔽していた
8 釜山総領事更迭の裏に官僚監視秘密警察
9 菅義偉首相が使った官房機密費の“ヤミ金”は合計78億円!
10 大坂なおみを賞賛し黒人差別に抗議した自民党議員がツイートを削除し謝罪
11 デジタル担当相・平井卓也は電通と組んでネット情報操作を始めた張本人
12 安倍首相が昨晩、フルコースを完食しワイン、ゴルフの約束まで! 
13 河野太郎のパフォーマンスがひどい! 行政改革目安箱を私物化
14 ジャパンライフ山口会長逮捕 焦点は消費者庁の立入検査中止問題だ
15 詩織さん全面勝訴でも山口敬之氏と安倍首相の関係に触れないテレビ
16 安倍政権が消費者庁のジャパンライフ立入検査ツブシ、内部文書が
17 安倍「股関節炎は仮病」証明のゴルフ
18 葵つかさが「松潤とは終わった」と
19 俳優・伊勢谷友介が自殺した近畿財務局職員の手記を読み危機感表明
20 詩織さんに寄せられた山口敬之氏と安倍官邸の特別な関係の新情報!
1 安倍前首相はやはり仮病だった!読売のインタビューでケロッと「もう大丈夫」
2菅政権で「公費不倫」の和泉洋人首相補佐官が“再任、官邸官僚のトップに
3菅義偉首相が使った官房機密費の“ヤミ金”は合計78億円!
4菅官房長官がテレビでもポンコツ露呈!『報ステ』では徳永有美に陰険クレーム
5安倍首相は本当に病気だったのか? 辞任表明以降一度も病院に行かず
6デジタル担当相・平井卓也は電通と組んでネット情報操作を始めた張本人
7ジャパンライフ山口会長逮捕 焦点は消費者庁の立入検査中止問題だ
8安倍首相が昨晩、フルコースを完食しワイン、ゴルフの約束まで! 
9東京五輪招致をめぐるICC買収に新証拠! 菅首相も賄賂に関与か
10菅首相が山口敬之氏への資金援助を親密企業「ぐるなび」会長に依頼か
11菅首相の叫ぶ「規制緩和」は30年前の流行語
12菅政権の官房長官に決定 加藤勝信厚労相がコロナ対応で見せた無能
13菅義偉“総理”誕生で権力のために不正を働く「忖度官僚」だらけに
14総裁選で自民党がまた新聞社に圧力文書!
15大坂なおみを賞賛し黒人差別に抗議した自民党議員がツイートを削除し謝罪
16大坂なおみの黒人差別抗議マスクに冷ややかなマスコミとスポンサー
17菅内閣が「第三次安倍政権」化! 6月の時点で密約説
18河野太郎のパフォーマンスがひどい! 行政改革目安箱を私物化
19三浦瑠麗が特別講師「N高政治部」で麻生太郎が民主主義否定の暴言
20『バイキング』坂上忍パワハラ報道は政権批判潰しだった!

カテゴリ別ランキング

マガジン9

人気連載

アベを倒したい!

アベを倒したい!

室井佑月

ブラ弁は見た!

ブラ弁は見た!

ブラック企業被害対策弁護団

ニッポン抑圧と腐敗の現場

ニッポン抑圧と腐敗の現場

横田 一

メディア定点観測

メディア定点観測

編集部

ネット右翼の15年

ネット右翼の15年

野間易通

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

赤井 歪

政治からテレビを守れ!

政治からテレビを守れ!

水島宏明

「売れてる本」の取扱説明書

「売れてる本」の取扱説明書

武田砂鉄