日本人はなぜ「自己責任論」にはまるのか? 仕掛けられた政治の“罠”

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 また、“社員か非正規か”“同じ境遇でも生活保護を受給している者か、非受給者か”と線引きして考えることも日本では顕著だが、そのあいだを分断させるだけでなく、〈敵対的な関係にまで成長〉させてきたのも、新自由主義の理論だ。

〈新自由主義は、生活保護を、あたかも「弱者の特権」であるかのように描き出すことで、ほんらい、同様の境遇にある者として団結してことにあたるべき人たちの間に、深い溝を築くことに成功しつつあるように見受けられます〉
〈そうした分裂状況のなかから、また逆に、そうした状況をいっそう激化すべく、登場しているのが、「ヘイトスピーチ」に代表される「弱者排除」の運動であろうと思います〉

 ヘイト集団やネトウヨたちは、何かと「弱者の特権」を許さないが、実際のところ、特権を手にして富にありついているのは、少数の支配層・富裕層だ。ネトウヨたちは結局、そうした特権階層の片棒担ぎをやらされているだけにすぎない。そう、〈民衆の分断によって支配をまっとうしようとし〉、〈自己責任を強調することで、さらに進んで、さまざまな問題を、徹底して一人ひとりの個人の内部に閉じ込めようと〉するのが、新自由主義の目指す社会だからだ。

 そして、もうひとつ重要なのは、新自由主義が解体しようとしているのは「国民国家」そのものだという問題である。

 たとえば、政治学者の片山杜秀氏は、以下のような指摘を行っている。

「税金や徴兵など国民に犠牲を強いるかわりに後々までちゃんと面倒みるよ、というのが国民国家ですが、安倍政権の国家観はすでにそこからズレていっています」
「安倍政権が主権や国防軍、日の丸、君が代といったナショナルなシンボルをやたらと強調するのは『もう国は国民の面倒はみない。それぞれ勝手に生きてくれ』という、政権の新自由主義的なスタンスと表裏の関係にあります」(朝日新聞13年4月27日)

 社会保障費の削減など国民に負担をかける政策には、必ず批判が起こる。それを押さえ込むために、安倍首相は「国を守る」「強い日本をつくる」などという“大きな物語”を語ってはナショナリズムを扇動し、批判が起こらないように仕向けている。要は国民を精神的にコントロールすることで、国の物理的な負担を軽くしているのだ。安倍首相にしてみれば、人質事件でも生活保護問題でも「自己責任だ」という声が民衆から上がることは、じつに低コストで済むありがたい話にちがいない。

 国民国家とは、〈自国の「国民」の安全な生存について責任をもつ、ということでその存在を正当化してきた国家形態〉だ。しかし、人質事件の結末を見ても明らかなように、“国民の生存に責任をもつ”という態度は現政権にはない。国家の責任を放棄するという行為も、そして自己責任論が蔓延する下地も、安倍政権による新自由主義の理論から導き出されている──そう考えることはできないだろうか。

 繰り返すが、紛争地域でテロに巻きこまれることも、この国が抱える貧困や労働問題も、断じて個人の責任などではなく等しく国が解決するべき問題だ。それを棚に上げて、自己責任論によって義務から逃れ、個人を孤立させようとするのが現政権の手口である。だからこそ、早く気づいてほしい。自己責任という言葉を吐くとき、同時にわたしたち自身の首をしめている、ということに。
(水井多賀子)


【検証!イスラム国人質事件シリーズはこちらから→(リンク)】

最終更新:2017.12.13 09:17

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