「BTSグラミー賞逃す」報道に「韓国人のニュースいらない」「日本人の受賞を報じろ」と炎上攻撃が! 日本スゴイの精神的鎖国

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GRAMMY AWARDS 公式サイトより


 BTSの初受賞なるか、ということで日本でも注目が高まっていたグラミー賞が15日に発表された。BTSは「最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス部門」にノミネートされていたが、受賞を逃した。BTSが受賞を逃したことは日本でも一斉に報じられたのだが、この報道にまたぞろネトウヨたちが噴き上がっている。

 たとえば、Yahoo!ニュースのトップにもなっていた朝日新聞の「BTS、グラミー賞受賞逃す 楽曲「Dynamite」」という記事のコメント欄には、韓国ヘイトコメントがあふれた。

 韓国憎しで、「K-POP好きなんかいない」とか「BTS流行ってない」とか「ノミネートは買収」とか、どんなパラレルワールドに住んでいるのかと聞きたくなるほどの認知の歪みはもちろんだが、異常に多いのが、「なぜ韓国のグループについて報道するのか」というコメントだ。

〈なんで朝日新聞(国内)で韓国芸能人受賞逃すという見出しで記事にしてるのだろうか。視点がおかしい。〉
〈なぜ日本の朝日新聞が「韓国芸能人が受賞逃す」というような見出しで外国の芸能人を記事にしてるのかな?
自国のことのように報道しているが、朝日新聞にとって韓国は自国という認識なのかな?
それとも朝日新聞にとって韓国は現実的な自国ということなのかな?
なぜ他の逃した人は記事にしないのかな?(これって差別?)
朝日新聞には疑問しかない。〉

 さらに朝日新聞の同記事では、日本人パーカッショニスト・小川慶太氏が参加するバンド「スナーキー・パピー」が同賞「最優秀コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバム部門」で受賞したことを伝えていたのだが、記事のメインがBTSで小川氏の受賞は末尾で触れるかたちだったことに対し、非難の声が相次いだ。

〈えっ?日本人がいるグループが受賞したんですよね?普通はそれが記事の最初に来るんじゃないですか?どうなってんの。どういう仕組みで記事になってるんだろう。ここは何処の国なんでしょうか。〉
〈日本人の受賞された方を差し置いて、違う国の人のこんな記事を書くのは、どこかから大金をもらっているのだろうか?〉
〈マスコミは日本人の受賞をまず大きく伝えるのが普通じゃないですか?マスコミにどこぞの国の力が蔓延っているという証拠。〉

 朝日新聞が韓国と結託しているかのようなトンデモ陰謀論が相変わらず流通していることには頭を抱えてしまうが、BTS報道をめぐって叩かれているのは朝日だけではない。自分たちの機関紙である産経新聞の記事にもネトウヨたちはご立腹だった。

朝日新聞のみならずネトウヨ御用達の産経やテレビにも「BTS報じるな」攻撃

 産経は「グラミー賞 BTS受賞逃す 小川慶太さんが受賞「スナーキー・パピー」」というタイトルで、小川氏が参加するバンドの受賞を前半で紹介、後半でBTSについて触れるという構成で、産経らしくネトウヨ感性に寄り添ったような記事を出していたが、それでもこう噛みついていたのだ。

〈何で韓国アーティストが日本のアーティストの如く報道されるのかわからん〉
〈日本人受賞だけ書いておけばいいと思います。
受賞を逃したのが日本人なら別ですが、
他国の人やグループまでいちいち取り上げる必要なし。〉
〈どうするとBTSが取れなかったことが見出になるのか謎。マスコミ総出でやってて呆れる。〉

 ほかにも、「BTS受賞なるか」「BTS受賞逃す」というニュースを報じたワイドショーをはじめ、新聞やテレビ報道への非難の声も相次いだ。

 こうした非難が巻き起こっているのは、BTSが韓国のグループだからなのは言うまでもない。たとえばアメリカやヨーロッパのアーティストが受賞した、あるいは受賞を逃したことを知らせるニュースであれば、ここまで非難は湧いていないはずだ。

 韓国に対して差別むき出しのヘイトだけでなく、差別や憎悪をさまざまなかたちにコーティングさせた攻撃が見られるが、「韓国芸能人をニュースにするな」というのはその典型と言っていいだろう。

 しかも、今回の炎上ではもうひとつ気になったことがある。それは、韓国ヘイトが転じたこのグラミー賞報道攻撃では、同時にそれを正当化するように「日本人の受賞を大々的に報じるべき」という意見が広く語られていたことだ。

共同通信が「ノーベル賞は外国人に」と報じたことも 世界的賞でも関心は日本人受賞だけ

 実はこうした「日本人の受賞を大々的に報じるべき」という意見を口にしているのは、ネトウヨだけではない。日本国内のマスコミ報道じたい、近年、「日本人の受賞だけしか関心がない」という傾向が強くなっている。

 たとえば、グラミー賞以外のアカデミー賞やカンヌ・ベルリン・ヴェネツィアの三大映画祭、ノーベル賞など、世界的に知名度や権威のある賞の発表もそうだ。受賞した作品や研究が現在の世界や人類の歴史において、どういう意義があるかではなく、ひたすら「日本が認められた」「日本スゴイ」の文脈でニュースをたれ流している。

 その最たるものが、あの「ノーベル文学賞は外国人に」報道だろう。2019年11月に発表されたノーベル文学賞では、選考委員の不祥事で見送りとなっていた前年分と合わせて、2018年受賞者であるポーランドのオルガ・トカルチュクと2019年受賞者であるオーストリアのペーター・ハントケの、2名の受賞が発表されたのだが、この発表を受けた共同通信が速報で報じた記事タイトルが「ノーベル文学賞は外国人に」だったのである。

 タイトルだけではない。本文も〈スウェーデン・アカデミーが10日発表した2018年、19年のノーベル文学賞受賞者は、いずれも日本人ではなかった〉というもので、受賞者の名前も一切触れず、「日本人は受賞しませんでした」とだけ報じていた。

 これは、国際的な賞をめぐる日本マスコミ報道がネトウヨ並みに「日本スゴイ言説に有用かどうか」が価値基準になってしまっていることの証左といえるだろう。

 実際、国際感覚も教養もはなはだ欠如しているこうした日本のメディアの姿勢は、国際社会で失笑を買っている。

 たとえば、共同通信の「ノーベル文学賞は外国人に」報道について、ロイター通信日本支局長のウィリアム・マラード氏は、自身のTwitterで〈共同通信の年間最優秀見出し〉と投稿。

 このマラード氏の皮肉に、米国の有力政治系ウェブメディア「Politico」のベン・ルフェーヴル記者が〈日本にいる外国人の何人が「受賞したの私かな?」って思ってメールの受信ボックスをチェックしてるんだろうね〉とユーモラスなリプライを送ると、ロイター日本支局長はこう返していた。

〈私が英語を教えていたとき、ある男の子からこんな質問をされたことを思い出したよ。「“ガイコク”は今何時なの?」ってね〉

ブラックホール撮影成功の会見で失笑されたNHK記者の恥ずかしすぎる質問

 また、2019年4月に人類史上初めてブラックホールの撮影に成功した際も、日本の大メディアが「日本スゴイ」質問をして世界の失笑を買っている。このプロジェクトは日本人研究者も含む世界13か国、200人以上の研究者からなる国境を越えたチームによって成し遂げられたものだったが、会見のなかで記者たちからブラックホール撮影に関する科学的な質問が飛ぶなか、NHKの記者はパネラーに対してこんな質問を投げたのだ。

「私は国際共同研究に関して質問があります。今回の成果が突出した共同研究であることは理解しております。それぞれの国、特に日本がどんな貢献をしたのかについてお聞かせください」

 NHK記者の質問の最後の言葉「especially Japan」の言葉が場内に響いた瞬間、場内のあちこちから他国の記者の笑い声が漏れ、代表で会見していた研究者も、「日本は多くの国々と同様に非常に重要な役割を果たしました」「それぞれの国、それぞれの地域、それぞれのグループ、それぞれの研究所が専門知識をもち寄り、それぞれの仕事を果たしました」と半笑いで答える始末。

 そして、案の定、この恥ずかしい一幕はニュースにまでなった。「Japan Today」は当時、「NHK reporter laughed at for asking black hole team for more on Japan’s contributions(NHKの記者はブラックホール研究チームに対して日本の貢献について質問をしたことで物笑いの種になった)」と見出しをつけたニュースを配信。そのなかで、「NHK記者の質問にある『とにかく、日本はどうですか?』という側面は、国際舞台で日本のアスリートの業績を自慢するのを愛する日本メディアのやり方を思い起こさせる」と、それがメディアの全体の体質であると指摘した。

 ようするに、ネトウヨだけでなく、マスコミ、さらには日本社会全体が人類共有の画期的な業績すらも正当に評価できず、単なる「お国自慢」としてしか消費しなくなってきているのだ。

米「TIMES」誌も報じたBTSグラミー賞ノミネートの意義

 今回のグラミー賞をめぐる報道にネトウヨだけではない多くの人が「受賞を逃したBTSのことを報じるのはおかしい」「日本人の受賞を大きく扱え」と噛みついたのも、こうした日本社会の歪んだナショナリズムの延長線上に起きているものと言っていいだろう。

 実際、こうした意見には音楽へのリスペクトはもちろん、国際社会の価値観の変化やグラミー賞の現状に対する認識がまったくない。

 グラミー賞は創設以来、とくに主要部門での受賞者を、圧倒的に白人男性アーティストが占めており、その多様性の欠如が近年大きな問題になっている。アフリカ系アーティストや女性アーティストたちが、その差別的構造に批判の声をあげてきた。

 今回のグラミー賞で、アジア人のグループであるBTSが受賞すれば、そうした状況の変革への一歩となる可能性もあった。そういう意味では、「受賞を逃す」というニュースも、十分報じる価値があったのである。実際、米・「TIME」誌も、BTS受賞ならずの発表を受け「BTSはなぜグラミー賞の未来にとって重要なのか」という記事を配信、授賞式でのパフォーマンスについても「歴史に刻まれた」と評価するなど、海外メディアも報じている。

 ところが、アートや音楽すら「日本スゴイ」という文脈でしかとらえられない人たちが、韓国に対する蔑視と妬みをむき出しに、BTSだけでなく、BTSを報じた日本のメディアまでを攻撃しているのだ。日本のナショナリズムは相当ヤバいところまで歪んでいるというしかない。

最終更新:2021.03.18 11:01

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