『THE MANZAI』今年のウーマン村本はさらに凄かった! 沖縄、朝鮮学校、ホームレス、日本社会で「透明人間」にされた人の思いを漫才に

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『THE MANZAI』で怒涛の漫才を披露したウーマンラッシュアワー


 今年もまた、ウーマンラッシュアワーがやってくれた。昨晩8日に放送された『THE MANZAI 2019』(フジテレビ)に登場したウーマンラッシュアワーが、今年も忖度なしの“社会派”超高速マシンガン漫才を披露したからだ。

 まず村本大輔は、出だしから、闇営業問題や千原せいじの不倫、徳井義実の税金未納などといった吉本芸人の“不祥事”を取り上げ、一方何もしていない自分が「週刊文春」の「嫌いな芸人ランキング」で5位に選ばれたことを俎上に載せ、「ほぼテレビ出てないんですから。鮮度が長い!」と“自虐”。だが、これはほんの軽いジャブ。つづけて自身の出身地である福井県おおい町の話をはじめた。

「知ってます? おおい町。大飯原発があるおおい町ですよ? 原発原発原発原発原発原発原発原発原発、みなさんが日頃から逃げてる言葉を一気に浴びせてやりましたよ! 原発の町・おおい町ですよ。おおい町の隣は高浜町。ね、疑惑だらけの高浜町ですね。高浜町には高浜原発がありまして、その隣は美浜町、美浜原発がありまして。その隣は敦賀のもんじゅがあったんです。小さな小さな地域に原発が4機もあるんです。でもおおい町にはね夜の7時以降に開いてる店がほとんどない! 夜の7時になったら町が真っ暗になる。これだけ叫ばせてください! 電気はどこへ行くー!」

 関西電力幹部が高浜町の元助役から多額の金品を受け取っていた「原発マネー」還流問題が加わっているが、基本的に2年前に披露したネタと同じ。じつはこれは今年のネタの前振りで、村本はこうつづける。

「このネタね、ちょうど2年前にやったんですね。2年前にやったらね、もうね、『どうせお前らの町は原発で飯を食ってるくせに』って言われたんですよ。でも、たしかに原発で飯を食ってる人間もいれば、食ってない人間もいますよ。
僕のおばあちゃんなんかは農家です。原発で飯を食ってません。それを一括りに『原発で飯を食ってる』って言い方されるとムカつくわけですね。でも、『原発で飯を食ってない』とは大きな声じゃ言えない。なぜかと言えば自分の近所の人や親戚、絶対誰かは原発のお世話になってる人がいるから。自分たちがそんな無責任な発言をしてしまうと絶対誰かに迷惑がかかってしまう。小さな社会というのは長いものと長いものに巻かれた者と巻かれてるフリをする者、こういうふうにして社会というのはできてる」

 まさに原発にNOを言えない日本社会の構造にまで踏み込む鋭い内容。そしてこの話題から村本がつなげたのが、沖縄の話だった。今年2月24日におこなわれた、辺野古新基地建設をめぐる県民投票の結果と、その後の安倍政権の態度についてだ。

「沖縄県民の70%以上が新しい基地に反対したんですね。それに対して安倍政権は『結果を真摯に受け止めます』ってそのまま工事を続けたんです。『真摯に結果を受け止める』ということは一旦まじめに話を考えるということ。『真摯に結果を受け止める』って言ってそのまま工事を続けるということは、僕は真摯に受け止めてないと思う。あの日、雨が降ってました。雨が降ってるなか、おじいちゃんもおばあちゃんも自分たちの孫の、沖縄のために一生懸命投票に行ったのに。その結果に対して『真摯に受け止める』って言ってそのまま工事を続けたことが僕は許せなかった。
だから僕はそのことをねTwitterで書いた。叩かれた! 炎上した! 炎上した! 炎上してすげえ吉本にもクレームがたくさん入ってね、吉本の社員に呼び出されて『村本くんこれ以上Twitterでケンカやめてくれないか』と言われ まして、『なんでやめないといけないんだ』って言いました。そしたら『いま、働き方改革の時代でみんな早く帰らないといけないのに、村本くんのクレーム対応でみんな残業続きだ』と言われまして。言われたんですよ! さすがに私はさすがにいろんな人に迷惑をかけることはさすがに申し訳ないと思ったから『真摯に受け止めます』って言って、そのまま続けました!!」

避難所のホームレス排除を取り上げ「“みんな”のなかにはいない人たち」の存在を突きつけた村本

 安倍政権の不誠実さを突いた上に見事なオチをつけたわけだが、笑いつつもほんとうは笑えない、かなり深刻な話だろう。村本がネタにした「沖縄の発言をしたら吉本社員からやめろと言われた」という問題は今年3月に村本が『AbemaPrime』(AbemaTV)卒業時の生放送でも語り、本サイトでも取り上げたが(既報参照→https://lite-ra.com/2019/03/post-4629.html)、このとき村本は吉本興業の藤原寛副社長が楽屋で待ち受け、沖縄のことで百田尚樹や高須クリニックの高須克弥院長とTwitterでバトルすることを諌められたと述べていた。その後、反社問題をきっかけに安倍政権と吉本の距離の近さが問題視されるようになったが、そうしたなかで村本が政権批判を続けていること、さらには全国ネットの番組で会社から“圧力”をかけられていることを洗いざらいネタにするとは、村本の覚悟のほどが伺えるだろう。

 だが、ほんとうにすごかったのはここからだ。村本は「僕はね、きょうはね、みんなときょうは喋りたくてね、カメラの向こうの社会と喋りたいんですよ」と言うと、やはり超高速でこんな話をはじめた。

「いいですか。言いたいことがいっぱいある。たとえばあの台風19号の夜、ホームレスが避難所から追い出されましたね。それに対してですね、ホームレスは『“みんな”の迷惑になるから』という奴がいました。でも、そのホームレスは“みんな”のなかにはいないわけですね。
たとえば、このまえ朝鮮学校に行ってきました。朝鮮学校の子どもと友だちになりました。そんな話をいろんな人に喋ったら、みんなが『どういうテンションで聞いたらいいかわからない』って言われました。その“みんな”のなかに朝鮮学校の子どもはいないわけですね。
いつでも“みんな”のなかにいない人がいて、“みんな”のなかにいない人が透明人間にされて、透明人間の言葉は誰も聞かれないようになるんですよ。  その透明人間が日本にはいっぱいいるわけですよ!
この話をこのまえ喋ったら、最前列のおばあちゃんが『ぜひうちの町でいまの話をやってくれ』って言われて行ってきたら原発の町だったんですよ。そこには言いたくても言えない透明人間の人たちがいっぱいいて、僕の『原発で飯を食う・食わないの話』で泣きながら笑ってるんですよ。この日本にはね、泣きながら笑ってる人がいっぱいいるんですよ。泣きながら笑ってくれて涙流してるんですよ!」

 避難所から排除されたホームレスたち、国連の「子どもの権利委員会」の勧告も無視して政府が無償化を除外しつづける朝鮮学校に通う子どもたち、県民の約70%が新基地建設に反対と民意を突きつけたのに工事が強行されている沖縄の人びと、そして議論から置き去りにされたままの原発立地地域に暮らす人たち……。マジョリティは「みんな」という大きな主語でそうした人びとをいない人、「透明人間」として扱い存在に目を向けず、話を聞かないようにしている。「みんな」のいい空気を壊すなと「透明人間」に沈黙を強いている。つまり村本は漫才のなかで、世間の多くが無視をする、マジョリティに踏み潰されている社会的弱者は「いる」のだとお茶の間に直視させ、そうした人たちはこのネタを「泣きながら笑う」のだと突きつけたのだ。

 このあと、村本は「全国各地の原発に呼ばれて、その話を小泉純一郎元総理大臣が聞きつけて『村本くんと原発の対談がしたい』って言われて、このまえ小泉純一郎と2人で原発の対談をしてきたんですよ。いや、いやいや、そこで最近気付いたんですが、いま原発で飯食ってんの私でした!!」と漫才らしくオチを付けたのだが、しかし、重要なのは「泣きながら笑う」ということだろう。

村本「透明人間達をバラエティのお茶の間に連れて行きたかった」

 じつは昨年のネタでも村本は、基地問題で沖縄の民意を無視する政府や朝鮮学校の授業料無償化が不当に認められない現状のほか、性的マイノリティをめぐる差別や安田純平氏に自己責任を叫ぶ一方で目が向けられないシリア情勢、BTSの原爆Tシャツ問題を槍玉に挙げながら被爆者を蔑ろにする政府や極右たちといった告発をおこないながら、ネタ全体を通して強者の権益保護と弱者排除をどんどん強めているいまの日本社会と新自由主義的価値観への批評を展開した(詳しくは既報参照→https://lite-ra.com/2018/12/post-4420.html)。それは漫才の構成として唸らせられるものだったが、今年のネタはさらに「泣きながら笑う」という漫才がこの世にはあるということ、その存在を、声を、なきものにされた人びとがいること、そして、そうやってなきものにしているのは自分ではないのかと観る者が内省せざるを得ない漫才を、村本はやってみせたのだ。

 村本は番組の放送後、「note」に「年に一度の漫才を終えて」という文章を投稿し、そのなかでこう綴っている。

〈今回、相模原の障害者施設で殺された人たちの話もしたけどさすがに人が殺されてるのはテレビでは無理だった。でもさ、劇場でも客席みたら若い女男ばかりだよ、なんでもっと車椅子がいないんだ、笑いたいけどだれかが遠慮してきてないんだ。いつだってみんなの中にいない奴がいる。彼らは透明人間だ。声をあげても、誰かの顔がひきつる。漫才をやってて原発とか車椅子とかそんなワードを出したらお客さんの空気がガチッと固まる音がする。慣れてないんだ。日常で触れない言葉だから。それではずっとそれで苦しんでる人たちの声は誰かに届かない。〉
〈誰かの評価を欲しくてあの場に行くんではない。おれはそのバラエティのお茶の間にその透明人間達を連れて行きたかった。〉

 村本はネタの最後、観客に向かってこのように挑発した。

「笑いは緊張からの解放ですから、いまお前らを逃がしてやったのは俺だぞ。じゃあな」

 こう言い放つと、スタンドマイクを倒し、舞台をあとにした村本。舞台裏のインタビューでは「やったぜ! 最高でした! あの、お客さんがみるみるうちに、どの顔で聞いたらいいのかわからない顔が最高でした!」と答えていたが、たしかに「透明人間」にされている人びとの存在を、村本はゴールデンタイムの全国ネット番組に連れ出したはずだ。

 案の定、ネット上では「あんなものは漫才じゃない」という声が今年もあがっているが、そんな批評は通用しないだろう。村本はもう「泣きながら笑う」というスタイルをつくり上げ、さまざまな場所で人びとを沸かせているのだから。

 惜しむらくは、それをテレビで観られるのが「年に一度」になってしまっていること。テレビに出ておらずとも「嫌いな芸人」5位にランクインするほどの存在感をもつ芸人を、地上波は「透明人間」にしようというのだろうか。

最終更新:2019.12.09 11:12

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