ブラックホール会見でNHK記者が「日本の貢献は?」質問し世界が失笑!科学に“日本スゴイ”持ち込む愚

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国境を超えた ブラックホール撮影という偉業なのに…(EHTJapanHPより)


 世界13か国、200人以上の研究者からなる国際プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ」が人類史上初めてブラックホールの撮影に成功した。

 このプロジェクトには日本の研究者たちも参加しているのだが、国境を越えて構成されたチームが成し遂げた偉業を、日本のメディアはまたもや「日本スゴイ」の文脈で消費。それが世界の嘲笑を買うという、なんともお恥ずかしい展開となっている。

 事が起きたのは、アメリカ政府の国立科学財団の会見だった。会見のなかで記者からブラックホール撮影に関する科学的な質問が飛ぶなか、NHKの記者はパネラーに対してこんな質問を投げたのだ。

「私は国際共同研究に関して質問があります。今回の成果が突出した共同研究であることは理解しております。それぞれの国、特に日本がどんな貢献をしたのかについてお聞かせください」

 NHK記者の質問の最後の言葉「especially Japan」の言葉が場内に響いた瞬間、場内のあちこちから他国の記者の笑い声が漏れた。

 それに対し会見出席者は、「日本は多くの国々と同様に非常に重要な役割を果たしました」「それぞれの国、それぞれの地域、それぞれのグループ、それぞれの研究所が専門知識をもち寄り、それぞれの仕事を果たしました」と半笑いで答え、日本の記者の愚問は一蹴されたかたちとなっている。

 このNHK記者の1人前には高校生の女性が「今回のことは、科学界の国境を越えた協力による大きな功績だと思いますが、今後こうした共同作業は科学界においてひとつのモデルとなるでしょうか。なるとすれば、どういう課題があり、私たちには何ができるでしょうか」といった質問をして、パネラーから「That’s a great question」との言葉をもらっていただけに、余計に日本メディアのお粗末さが強調されていた。

 この恥ずかしい一幕はニュースにもなっている。たとえば、「Japan Today」は4月12日に「NHK reporter laughed at for asking black hole team for more on Japan’s contributions(NHKの記者はブラックホール研究チームに対して日本の貢献について質問をしたことで物笑いの種になった)」と見出しをつけたニュースを配信。そのなかでは、「NHK記者の質問にある『とにかく、日本はどうですか?』という側面は、国際舞台で日本のアスリートの業績を自慢するのを愛する日本メディアのやり方を思い起こさせる」と皮肉られている。

 人類史上初となる画期的な業績すらも「お国自慢」として消費しようとしてしまう日本のメディアのどうしようもなさは今日に始まったことではないが、こうして国際的に嘲笑の的になることで、いかにそれがおかしいことなのかが改めて浮き彫りになった。

「科学研究」と「おらが村の自慢」は何の関係もないし、むしろ結びつけてはいけないというのは国際的な常識だ。科学の発展は人類全体の共有の財産であり、どこか特定の国や政府だけのものではないからだ。

 しかし、日本のメディアはそのことがまったくわかっていない。たとえば、こんなこともあった。

 2012年にノーベル医学生理学賞を受賞した京都大学の山中伸弥教授は記者会見で「日本、日の丸の支援がなければ、こんなに素晴らしい賞を受賞できなかった。まさに日本が受賞した賞」と発言した。この発言は日本国内では特に問題とならなかったが、これに対してノーベル賞委員会は激怒。「あんな発言は絶対にしてはいけない」と異例の警告を発した(共同通信ロンドン支局取材班・編『ノーベル賞の舞台裏』筑摩書房)。

ノーベル賞受賞の益川敏英教授は国家による科学の軍事利用に警鐘

 しかも科学技術の研究とナショナリズムを結びつけることは大きな危険性を孕んでいる。その技術は人を殺す道具にもなるからだ。

 2008年にノーベル物理学賞を受賞した京都大学名誉教授の益川敏英氏は『科学者は戦争で何をしたか』(集英社新書)のなかでこのように綴っている。

〈ノーベル物理学賞や化学賞は、将来的に人類の発展に著しく貢献するであろうと評価された科学技術、そしてその開発に寄与した科学者に与えられるものですが、一方でその技術が戦争で使われる大量破壊兵器の開発に利用されてきたのも事実です。(中略)ノーベル賞を授与された研究は、人類の発展のためにも殺人兵器にも使用可能という諸刃の技術と言ってもいいでしょう〉

 益川氏は、ノーベル賞受賞記念の講演でも自身の戦争体験にふれ、さらに「安全保障関連法に反対する学者の会」にも参加し、安倍政権の暴走に警鐘を鳴らしてきた人物だ。

 そんな益川氏がここで科学技術の「危険性」を強調するのは、安倍政権が学術研究を軍事産業に利用しようとする動きを進めているからだ。

 安倍政権は2015年から「安全保障技術研究推進制度」という制度を始めている。これは、防衛装備庁が設定したテーマに基づいて大学や企業などから研究を公募、採択されれば研究費が支給されるというもので、同年は3億円を予算として計上。この予算は激増を続けていて、17年度予算では110億にまで増えた。

 これに対し、京都大学や名古屋大学などは「軍事研究は行わない」という方針を明確にする一方、日本学術会議が183の国公私立大学や研究機関を対象に行ったアンケート(2018年4月3日付朝日新聞記事より)によれば、そのうち30カ所が「安全保障技術研究推進制度」への「応募を認めたことがある」と回答したという。

メディアが「日本スゴイ、日本スゴイ」と煽る裏で進行する厳しい現実

 厳しい経営を余儀なくされて背に腹を変えられない大学や研究者の頬を札束で叩き、カネで釣ろうとする施策は着実に成果を残しつつある。

「Japan Today」をはじめ、海外で皮肉られた「とにかく、日本はどうですか?」「日本スゴイ」ばかり煽る傾向は、あらゆる物事に対して「国家への貢献」を求める風潮と裏表の関係にある。そしてそれは、なんら前向きな影響をおよぼさない。

「日本スゴイ、日本スゴイ」と自己暗示をかけるばかりで、外ではなにが起きているかをメディアが伝えず、受け手も見ようとしなくなった結果、家電メーカーは凋落。液晶テレビやスマートフォンなどの分野で日本企業のプレゼンスはほとんどなくなってしまった。

 それは科学技術の分野だけでなく文化・芸術でもそうだ。K-POPが世界中で確かな地位を占めつつあるなか(4月5日付ビルボードチャートでBLACKPINKはシングル・アルバムともに総合チャートに入り、次週のチャートではBTSの新作が首位をとる可能性が非常に高いと言われている)、ハリウッド映画のプロモーションで世界中をまわるスターが韓国までは来ても日本には来ないでそのまま帰っていく光景ももはや見慣れたものとなった。

「日本スゴイ、日本スゴイ」と殻の中に閉じこもっていい気持ちになっているのは勝手だが、それによってもたらされるのは「凋落」だけだということに、いい加減気づくべきだろう。

最終更新:2019.04.18 10:59

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