ピエール瀧出演の『麻雀放浪記2020』に安倍政権への皮肉が! 改憲反対デモ弾圧、東京五輪崩壊、瀧は“森喜朗”役

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『麻雀放浪記2020』公式HP


 4月5日より斎藤工主演映画『麻雀放浪記2020』が公開されている。

『麻雀放浪記2020』にはピエール瀧が出演しており、逮捕によって一時は公開そのものを危ぶまれた。しかし、ピエール瀧出演部分のカットや、代役を立てての差し替えなどはいっさい行わずそのまま公開に踏み切っている。映画業界の画一的な自粛対応に一石を投じる英断で話題となったのはご存知の通り。

 しかし、『麻雀放浪記2020』に関して本サイトが注目したいところはまた別にある。それは、この作品が日本で製作された映画としては貴重な「社会風刺」「権力に対するブラックユーモア」の映画であるところだ。

『麻雀放浪記2020』は、阿佐田哲也(色川武大)による原作小説『麻雀放浪記』のリメイク作品。原作の『麻雀放浪記』は終戦直後の混乱した日本を舞台に主人公・坊や哲が博打で生き抜いていく姿を描いたドラマだが、リメイクの『麻雀放浪記2020』は、落雷の衝撃で坊や哲(斎藤工)が1945年から2020年にタイムスリップするというコメディーとなっている。

 ここで坊や哲がタイムスリップしてきた2020年の日本は、現実世界の日本とは少し違っている。その最たるものが、東京オリンピックだ。『麻雀放浪記2020』の世界での東京オリンピック(映画では「東京ゴリンピック」になっている)は戦争のために返上されている。

 また、『麻雀放浪記2020』の日本は監視社会化が進んでおり、警察は権力を振りかざして市民に対して横暴を働いている。

 たとえば作品冒頭、見慣れぬ街に飛ばされてきた坊や哲は右も左も分からずに浅草を彷徨うが、その途中でデモに出会う。そのデモでは「自衛隊の国軍化反対」「憲法改正反対」といった主張が行われていた。それに対し警察はデモの中止を命令。言うことをきかないデモ参加者には警官から殴る蹴るの暴力が加えられていた。突然始まった暴動に出くわした坊や哲は、道も分からぬまま監視カメラだらけの街を逃げ回る。

『麻雀放浪記2020』の世界の監視社会化ぶりを象徴するアイテムが、顔にかざして個人情報を調べる金属探知機のような機械だろう。この世界では顔認証と個人情報を紐づけたマイナンバーの登録が義務づけられているようで、その機械を顔にかざすだけで名前や誕生日などの個人情報のデータがすべて出る仕組みになっている。当然ながら1945年から来たばかりの坊や哲の顔はデータベースに登録されていない。そこで、坊や哲の顔に機械をかざしてもデータが出てこないことに警察官は驚き、「なぜ出てこない? 日本国民なら登録されているはずだろ!?」と激高する場面も描かれる。

 物語はその後、東京オリンピック中止で使われなくなった跡地を有効活用するため、技術の粋を集めたAIと人間を麻雀で戦わせる麻雀世界大会が行われることになり、そこに坊や哲が参加する流れとなる。

 この映画がワイドショーでしきりに取り上げられるきっかけをつくったピエール瀧が演じるのは、オリンピック組織委員会で委員長を務めている「杜」なる人物。役職といい、名前といい、現実の世界で東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長を務めている森喜朗氏をモデルにしたキャラクターなのは間違いないだろう。

 ピエール瀧が演じるこの「杜(=モリ)」という人物は物語の核に絡んでくる役ではなく、出演シーンを全カットしたとしても物語の筋は通る。しかし、『麻雀放浪記2020』にとって彼の演じるキャラクターは非常に重要なものだ。「権力を笑い飛ばす」という、映画が伝える“態度”の表明として、「杜」はなくてはならない存在である。

ピエール瀧演じる「森喜朗」にベッキー演じるAIが「モリとヤルのはない」と

 杜という男は、権力だけは手中におさめているが、それ以外は徹底的に愚鈍で、かつ、下衆なことしか考えていない、どうしようもない人物として描かれている。

 それが最も露骨に描かれるのが、麻雀世界大会で人間を迎え撃つ人型AIロボットのAIユキ(ベッキー)と、AIユキを開発したエンジニアの林田(矢島健一)が二人きりでいちゃつくシーンだ。

 二人の会話のなかで林田は、杜から何度も何度も「AIユキは人間とセックスする能力はあるのか?」と質問されて困っていると語り、そんな能力はないと嘘をついてやったとAIユキに語る(実際にはそういう能力も搭載されている)。そして、林田による愚痴に対しAIユキは「杜とヤルのはないです」と陰口を叩くのだ。

 森喜朗元首相といえば、かつて買春検挙歴を報じられたことも有名だが、こうしたセリフや描写は思わず森元首相を想起してしまう。現存する政治家をモデルにしたキャラクターと考えると、かなり攻撃的なシーンだろう。

 白石和彌監督は、『麻雀放浪記2020』の企画を引き受けることにしたのは、こういった社会に対する風刺を入れることができる作品だったからだと語っている。

 白石監督は最初にこの企画が提案されたとき断ろうとしたという。『麻雀放浪記』の映画作品としては1984年にイラストレーターの和田誠氏が監督を務めたものがあり、そちらは「キネマ旬報」によってその年の4位に選ばれるなど高い評価を得ている。

 過去にそれだけの作品がつくられていることから、最初白石監督は敢えていま再びこの作品に手をつける意義を感じなかったという。しかし、2020年にタイムスリップするというアイデアが監督の心を惹き付けた。その荒唐無稽なアイデアは表現の自由を大幅に広げてくれると感じたからだ。監督は映画の公式パンフレットに掲載されたインタビューでこのように答えている。

「「まずは坊や哲が全自動卓に驚いて……」とシミュレーションしていくと、「これはもしかしたら普通の映画じゃ描けないことを描けるチャンスかもしれない」と思えてきて。当時は五輪の話題や日本上空をミサイルが飛んだというニュースが流れていた頃だったので、「じゃあそういう時事も全部盛り込んだら?」と話したら、甘木さん(引用者注:プロデューサーの甘木モリオ氏)も、もう一人のプロデューサーの谷島さん(引用者注:谷島正之氏)も、「いいねえ、入れようよ!」と盛り上がってしまった。運悪く、二人とも頭のネジが二、三本外れた大人だった」

白石和彌監督が語っていた日本の民主主義と映画への危機感と問題意識

 白石監督は2019年4月12日付朝日新聞のインタビューで「いま、民主主義が経年劣化を起こしています。それに変わるシステムを生み出す力は人類にはもうありません。だからまたファシズムに戻るのではないか」と、現在の世界・日本への問題意識や危機意識を話している。

 実際、『麻雀放浪記2020』で出てきたディストピア描写も「絵空事」ではない。

 デモを行う市民に対して警察が暴力を行使する場面は、国会前のデモや、沖縄で起きていることを想起せずにはいられないものだ。

 また、過剰な監視社会化も現実の日本で起きていることである。街中にはりめぐらされた大量の監視カメラは言うまでもなく、Tカードの個人情報横流し事件や、政府による「東京オリンピック開催に向けたサイバー攻撃対策」という名目で一般市民のIoT機器への無差別侵入など、監視社会化・警察国家化はどんどん進行している。とりわけ安倍政権が、共謀罪など、市民の監視、言論弾圧体制を強化する法整備を強化していることも本サイトで繰り返し指摘している通りだ。

 もちろん『麻雀放浪記2020』はあくまで「麻雀」をテーマにしたエンタメ作品だ。こうした権力批判的な描写や設定は、メインのストーリーと直接的に絡んでいるわけではない。しかし『麻雀放浪記2020』は、日本映画のなかに「風刺」的な側面を意識的にもちこむことで一石を投じている。それは間違いない。映画公式パンフレットのなかで白石監督はこのように語っている。

「社会風刺やブラックなコメディの映画って、海外にはたくさんあるじゃないですか。でも最近の日本は無菌状態というか、社会のおかしな部分を笑い飛ばすような映画が極端に少ない」

 白石監督が語る日本映画の現状はまさしくその通りだ。ピエール瀧問題への対応も含め、『麻雀放浪記2020』のような勇気ある作品が多く生み出されることを切に願う。

最終更新:2019.04.14 03:14

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