吉岡里帆主演『健康で文化的な最低限度の生活』が突き付ける生活保護バッシングの愚!ネトウヨ落語家・春蝶も見ろ

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関西テレビ放送HPより

 本日7月17日より連続ドラマ『健康で文化的な最低限度の生活』(フジテレビ系)の放送がスタートする。この作品は、新卒で区役所の生活課に配属され、ケースワーカーとして働くことになった義経えみる(吉岡里帆)が、様々な生活保護受給者と触れ合っていくうちに、この社会の現実や社会福祉制度の問題点に気づき、仕事を通して人間としても成長していく物語。

『健康で文化的な最低限度の生活』は、「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で連載中の柏木ハルコによる同名マンガが原作となっている。作者の柏木は『健康で文化的な最低限度の生活』を描くにあたり、実際に福祉の現場で働くケースワーカーや支援団体の人などから話をきき、2年半にもおよぶ綿密な取材を行った。作品は、生活保護利用者の生活背景や福祉行政の問題点などを的確に描きだすことに成功。『健康で文化的な最低限度の生活』は、貧困ジャーナリズム大賞2015で特別賞も受賞している。

生活保護といえば、受給者は近年苛烈なバッシングにさらされているが、「健康で文化的な最低限度の生活」という憲法25条に定められた生存権をタイトルに掲げていることからもわかるように、この作品に貫かれているのはそうした生活保護バッシングとは真逆の視線だ。

 たとえば柏木は、「世界」(岩波書店)2018年2月号に掲載された弁護士の安井飛鳥氏との対談のなかでこう語っている。

「生活保護を受けること自体を悪だととらえる風潮さえ感じますが、私はそれに賛同しません」

 昨今の生活保護バッシングでは、「生活保護=不正受給」という前提に立った乱暴な言説がまかり通っている。あるいは弱者叩きを批判されると「生活保護受給者全員を叩いているのではない、不正受給を批判しているのだ」というエクスキューズをする者も多い。しかし、その「不正受給」批判もまた、認識不足と誤解にもとづいたものだ。

 マンガ『健康で文化的な最低限度の生活』には「不正受給編」と題された章がある。母子家庭の家族をモデルケースに不正受給の具体例に迫っているのだが、その内容を見ると、けたたましく不正受給バッシングをがなりたてている人々は、はたしてこういったケースを認識しているのだろうかと思えてくる。

「不正受給編」に登場する日下部一家は、認知症のおじいさん、母・さとみ、兄・欣也、妹・リナならなる四人家族。さとみは元夫による家庭内暴力が原因で離婚しており、現在は女手一つで介護と子育てを両立している。

 そんななか、高校生の欣也は近所の寿司屋でアルバイトを始める。欣也の通う高校はバイトを禁止しており、それもあって母には内緒にして働いたのだ。内緒で行われているバイトなので、当然母は欣也の収入を把握しておらず、自身が週3日のパートで得た収入のみで日下部家の収入申告を行ってしまう。

 高校生のバイトであろうと一家の収入はすべて申告しなければいけないという制度の存在を欣也は知らなかった。ケースワーカーも母親も、彼にはまともな説明をしていなかったからだ。

 そうなると、故意でなかったとしても不正受給とみなされてしまう。もしも欣也が制度を把握し、アルバイトの収入があることを事前に申告していれば、基礎控除や未成年控除でバイト代の半額は残せたかもしれないが、結果的に全額(60万円)を徴収金として払わなければならないことになってしまった。

 こういったケースが「不正受給」となるのだが、「生活保護受給者のほうがいい暮らしをしているのはおかしい」「不正受給許すまじ」とがなりたてる人々は、不正受給の多くがこのようなケースであることを認識しているのだろうか。いや、ほぼ間違いなく知りもしないだろう。

 そもそも、現在の生活保護バッシングが吹き荒れるような状況は、片山さつきら自民党議員たちの煽動によるところが大きい。そして、その空気は安倍首相のつくり出したものでもある。

生活保護バッシングの波に乗って、首相の座に返り咲いた安倍首相

 あらためて振り返れば、「聖域なき構造改革」によって所得格差を拡大させ貧困を増大させた小泉純一郎首相は、生活保護費を削減。これと同時に全国で「水際作戦」が多発し、孤立死や自殺に追い込まれたケースが頻発した。これは「行政による殺人」と言うべきもので、さらには生活保護を受けられずに餓死するという事件が立て続けに起こった。

 にもかかわらず、2007年の第一次安倍政権では生活保護基準の見直しを打ち出し、歩調を合わせるようにメディアでも生活保護の不正受給に対するバッシングが徐々に増えはじめた。2017年1月に問題が発覚した神奈川県小田原市で「保護なめんな」とプリントされたおぞましいジャンパーがつくられたのは、ちょうどこのころだ。

 そして、生活保護バッシングの決定打となったのが、2012年4月にもちあがった河本準一(次長課長)の親族が生活保護を受けていた問題だった。河本のケースは不正受給など違法にあたるものではなかったが(後の法改正で扶養義務が強化されることになる)、これに自民党の片山さつき議員や世耕弘成議員が噛みつき、メディアに登場しては河本の大バッシングを展開。同年1月には、札幌市で40代の姉妹が生活保護の相談に出向きながらも申請に至らず死亡するという痛ましい事件が起こっていたが、生活保護の重要性や捕捉の不備が語られることなく片山の主張と同じようにメディアも「不正受給許すまじ」とバッシングに加担。「生活保護は恥」などという空気を社会につくり出していったのだ。

 こうした生活保護バッシングの波に乗り、同年12月の衆院選で自民党・安倍晋三総裁は「生活保護の給付水準を10%引き下げる」という公約を掲げて政権に復帰。生活保護費の削減を断行し、13年には生活保護の申請厳格化という「水際作戦」の強化ともいえる生活保護法改正と生活困窮者自立支援法を成立させてしまったのである。

生活保護の不正受給はわずか0.53%!問題にすべきは、捕捉率の低さ

 小泉首相から安倍首相が引き継ぎ、いまなお「アベノミクス」と称してつづける新自由主義政策は、貧困を広げる一方で社会保障を「自己責任」として切り捨てていくものだ。「福祉や保障に頼るな、家族で助け合って生活しろ」というその考え方は、国家が公的責任を逃れ、個人にすべての責任を押しつける。そうしたなかで生活保護バッシングが吹き荒れたことは、偶然の一致などではない。煽動したのが自民党の政治家だったように、起こるべくして起こったものだったのだ。

 だからこそ確認しなくてはならないのは、バッシングの根拠としてもち出される不正受給の問題だ。自治体による調査強化によって不正受給の件数と金額が過去最多となった2012年度でも、保護費全体で不正分が占める割合は0.53%。これは、諸外国と比べても圧倒的に低い数字、というか、ほとんど「不正がない」に等しい。しかも、そのわずか0.53%のなかには、前述した日下部一家のような悪意のないケースも多い。

 だが、自民党が推し進めた生活保護バッシングは、日本社会全体に生活保護に対する強烈な偏見を植え付けた。結果として、支援が必要な状況なのにも関わらず、生活保護を受給することに対する罪の意識や後ろめたさから、支援を躊躇する人も出てくる。『健康で文化的な最低限度の生活』でもそういった人々が多数取り上げられており、なかには、離婚した元夫からのDVに起因する精神疾患を抱えたまま再就職を急ぎ、追いつめられて自殺未遂を起こしてしまう女性まで登場する。

 そういった現実は実際の数字にも表れている。実は、日本は他国と比べて生活保護を受けている人が圧倒的に少ない。2010年当時の統計だが、ドイツの生活保護利用者は793万5000人で全人口の9.7%、イギリスは574万人で9.3%、フランスは372万人で5.7%。これに対して、日本は205万人で1.6%。ドイツの6分の1ちょっとにすぎない。生活保護支給額の対GDP比率となると、もっと少ない。アメリカが3.7%、イギリスが4.1%、ドイツ、フランスが2.0%なのに、日本の生活保護支給額はGDPに対してたったの0.3%なのだ。

ネトウヨ落語家・春蝶もドラマを見て、貧困問題について勉強し直せ!

 これは、日本が豊かで、貧困者が少ないからではない。先に述べた通り、「生活保護は税金泥棒」という倒錯した倫理観が日本社会を覆っているため、本来は生活保護を受けて暮らしを立て直すべき貧困状態にあるのにも関わらず、生活保護を受けずに我慢しているからだ。実際、日本で生活保護を受ける資格がある人のうち、受給している人の割合を指す「捕捉率」は2割程度だといわれている。問題にすべきは不正受給などではなく、むしろ捕捉率の低さのほうなのだ。

 そういった状況を改善するためには、やはり国民ひとりひとりが生活保護をはじめとした社会福祉制度について学び、植え付けられた誤解と偏見をなくす必要があるだろう。前掲「世界」のなかで安井弁護士はこのように語っている。

「生活保護に限らず、社会保障、公的扶助の本質を一般の人々が理解できないのは、本来はその理解促進を図るべき政治家やマスコミがそれを怠っているからだと考えます。
 制度をどのようにしていくかという議論以前に、なぜその制度があるのかという基本を教育課程のどの段階でもきちんと学ばないことにも原因があると思います」

 同対談のなかで柏木ハルコも「社会の人々が生存権の意味を理解したり、社会保障の必要性を感じるためには、様々な切り口で教育を行わなければならないと思います」と語る。

 その意味でも、マンガやテレビドラマの『健康で文化的な最低限度の生活』は、とても大きな役割を果たすはずだ。『健康で文化的な最低限度の生活』が、多くの人々にとっての学びの機会となって歪んだ生活保護への認識を是正し、まともなかたちの議論が生まれる契機となることを切に願う。

ちなみに主演の吉岡里帆は、学生時代、落語家・桂春蝶のファンで春蝶に落語を習ったこともあるという。吉岡ブレイク後に春蝶もツイッターやブログで自慢していた。春蝶といえば、自己責任論を振りかざし貧困バッシングを繰り返しているが、ぜひ弟子のドラマを見て、貧困問題について学んでほしい。

最終更新:2018.07.17 08:54

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