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石橋貴明の番組が「下品」「低俗」とBPO審議に…「表現の自由」と「規制」はどうあるべきなのか
とんねるずオフィシャルホームページより
先月25日、BPO(放送倫理・番組向上機構)は、同月9日に放送された『オール芸人お笑い謝肉祭’16秋』(TBS)を審議の対象にすると発表した。
この『オール芸人お笑い謝肉祭’16秋』は、とんねるずの石橋貴明が司会を務め、40名以上の芸人たちが体を張ってクイズに挑むという特番だった。
問題とされたのは、局部に激痛の走る薬を塗られたり、ワニのいる温泉に入るなどしながらもいかに声を出さずに耐えるかを競う「大声厳禁 サイレント風呂」というコーナーと、下半身を露出しながらローションまみれの坂を駆け上がる「心臓破りのぬるぬる坂クイズ」なるコーナーの二つ。どちらも、かつてのバラエティ番組では定番だったが、最近ではあまり見ることのなくなった類の「昭和」な企画である。
放送後、これらのコーナーに対し、「股間を無理やりに触る行為が下品」「裸になれば笑いが取れるという低俗な発想は許し難い」といった抗議が寄せられ、今回のBPO審議入りにいたった。
実は、石橋はこの番組のプロモーションとして受けたインタビューでこのように発言していた。
「「こうやったらまずいな」って考えちゃうような、閉塞感が全てにおいてテレビをつまんなくしちゃっている気がします。僕らの子ども時代は、例えばドリフターズさんがいて、食べ物を粗末にしてるんだけど、それで「子供に見せたくない番組ワーストワン」とかになるんだけど、そんなことはみんながちゃんと(いけないことだって)分かっていてやっていたし。でも、今は、その前の時点でロックかけられちゃう、みたいなね」(日刊スポーツ2016年10月3日付)
当サイトでは先月9日、彼のこの発言を取り上げ、石橋の芸風に内包されるパワハラの構図に疑問を呈する記事を配信している。
今回の『オール芸人お笑い謝肉祭’16秋』でも、股間に激痛を与える薬を塗られて悶絶するあばれる君や平成ノブシコブシ吉村崇を見て笑うなど、そのパワハラ的構図はまるで変わっていない。また、抗議を送った視聴者が言う通り、いまどき時代遅れで品性下劣な番組ではある。
しかし、一方でお笑いの「下品さ」への取り締まりを厳しくすることは果たして正しいことなのだろうか?
周知の通り、BPOは検閲機関ではなく、言論と表現の自由に対する公権力からの介入を防ぐことや、放送倫理上の問題に対処すること、視聴者や出演者の基本的人権を守ることなどを目的につくられた自主規制のための第三者機関だ。その通達に強制力はなく、判断に関しては各々のテレビ局に任せられている。しかし、現在の番組制作現場においてBPOは、そういった枠組みを超えたかなり強力な力をもっている。
「週刊プレイボーイ」(集英社)16年11月28日号の取材に答えている某キー局のプロデューサーはこのように話す。
「BPOも『検閲機関』にならないよう注意しています。例えば、審議を経て番組に意見を言う際も、『下品な表現で不快にさせないよう、気をつけましょう』といったやわらかい表現で声明を出すだけ。でも、それを見た各局の制作現場は、自分の番組がBPOで問題にされないよう、そのときBPOが指摘した以上の自主規制をするようになる。その“空気”に現場が支配されていくんです」
番組制作サイドがBPOの審議入りをここまで恐れるのは理由がある。「SAPIO」(小学館)15年5月号のインタビューに応じているキー局の情報番組スタッフはこう語る。
「BPOは検証のうえで『問題なし』とするケースも多いんですが、番組側は『BPOに申し立て』というニュースが報じられること自体を気にするようになっています。ワイドショーや情報番組は主婦層がメインの視聴者になるので、スポンサーも保険会社や洗剤、化粧品などイメージ重視の企業が多い。そういった会社は、実は視聴率よりも番組イメージのほうにうるさい。『BPOに申し立て』と報じられると、それだけで番組イメージが損なわれるので、スポンサーが嫌がるんです。しばらく経って『問題なし』という結果だったとしても、それは新聞には小さくしか載りませんから」
こういった裏事情は一般の視聴者にも広く知れ渡っており、それがいわゆる「モンスタークレーマー」といった人たちに利用されている状況もあると、前出「週刊プレイボーイ」に出たプロデューサーは嘆く。
「その(引用者注:クレーマーの)力がどんどん肥大化している。彼らの新しい“武器”はBPOとSNS。特にモンスタークレーマーは、このふたつを利用すれば、テレビ局に手っ取り早くダメージを与えられることを覚えてしまった」
伝説のポルノ雑誌「ハスラー」編集長であるラリー・フリントを主人公に、「表現の自由」をめぐって最高裁まで争った実話をもとにした映画『ラリー・フリント』のなかにはこんなセリフがある。最高裁の舞台で勝訴を勝ち取るきっかけとなった、弁護士のアラン・アイザックマンによるスピーチである。
「不愉快に基準はない。(その線引きを曖昧なまま罰するのであれば)すべての不愉快な言論を罰することになる。これは我が国の信念です。たとえ不愉快な言論でも、すべての言論は健全な国家の活力です」
この裁判の後、ラリー・フリントは「私は最低の人間です。でも、私のようなクズでも憲法修正第一条(信教・表現の自由に関する項目)が守ってくれるということは、それは皆を守ってくれる法だということです」と語る。
「不愉快」という線引きがどこまでも厳しくなっていっている昨今。このバッシング先が「お下品」「品性下劣」ぐらいのところでおさまっているうちはまだいいが、それがどんどんエスカレートしていけばどうなるか、推して知るべしである。
放送倫理を逸脱したやりたい放題の番組づくりがいいとは思わないし、出演者や視聴者の人権を侵害する放送内容には今後も徹底的にメスが入るべきだ。ただ、制作サイドの萎縮がどこまでも強くなってしまっている現状に関しては、少し立ち止まって考えてみるべき必要性があるのではないだろうか。
(新田 樹)
最終更新:2017.11.12 02:03
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