LINEスタンプで組員を緊急召集、なぜか本を書きたがる組長…報道には出てこないヤクザの意外な素顔

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上野友行『ヤクザライフ』(双葉社)

 山口組の分裂から約1年超。当初予想されたような全面抗争は起きていないものの、この10月には、和歌山で山口組系暴力団幹部7人が神戸山口組系団体の会長を暴行死させたとして逮捕されるなど、血生臭い事件は断続的に起きている。

 マスコミ、特に、「アサヒ芸能」(徳間書店)、「週刊大衆」(双葉社)、「週刊実話」(日本ジャーナル出版)といったヤクザ報道に強い実話系週刊誌は、そういった事件をおどろおどろしい筆致で描き出しているわけだが、いくら暴力団といえど、1年365日ずっと命を張った駆け引きをしているわけではないし、チャカやドスを手に切った張ったの大立ち回りを演じているわけではない。彼らにも我々と同じ普通の日常生活がある。

 各実話誌に寄稿しつつ、その人脈を活かし『闇金ウシジマくん』(小学館)作者・真鍋昌平氏の取材コーディネートも担当しているフリーライター・上野友行氏の著書『ヤクザライフ』(双葉社)には、硬派な実話誌には決して出てこない、しかしヤクザに近しいライターだからこそ知り得る、彼らの知られざる裏の顔が赤裸々に描かれている。

 我々の生活には欠かすことのできなくなった、Twitter、LINE、FacebookといったSNS。当然のことながらヤクザもこういった最新のコミュニケーションツールを使っており、特に若い衆にとって一番身近な連絡方法は世間一般の若者と同じく、電話やメールではなくLINEである。本書では若い衆を束ねる若頭の発言とともにこのように綴られている。

〈「やっぱ、LINEてのは便利なので。今までは電話でひとりひとり呼ばなきゃいけなかったのが、グループトークで一発でしょ。大体、最近の若い連中は電話だと出ませんし。文字で証拠が残るので『聞いた聞いてない』の話も防げますしね」
 そうなのだ。近年、ヤクザの大半はLINEを使っていて、組や仲間内で「グループ」を作り、頻繁に連絡を取り合っている。「親父から緊急です」「姐さんの誕生日プレゼントなににしましょう?」「○○通りで検問やってるので気をつけてください」などなど、取材中もバンバン通知が届くので、彼らもちらちらスマホ画面に視線をうつすことになる〉

 ただ、主だった連絡手段がLINEになったことにより困った事態も起きているらしい。最近の若い衆には、身体を鍛えているのに極端にケンカや揉め事を嫌がる「マイルドヤクザ」が増えているようなのだが、彼ら若い衆とのやり取りのなかで、「キャバクラ△△で□□組が暴れてるんでみんなすぐ来てください」といった連絡のときにそれを見なかったことにする例が頻発。そこで若頭が考え出したのがスタンプを使うことだった。暴力沙汰の揉め事に関するメッセージが飛び交うなかに、突如かわいいスタンプが貼られるのはシュールな光景だが、それにはこんな裏事情があるようだ。

〈「若い連中が都合の悪い連絡は必ずシカトするんですよ。メッセージを開かなくても、通知画面で読めるじゃないですか」
「『未読スルー』ですね」
「そうそう。だから、こうやってスタンプや画像を貼るんです。そうすりゃ、気になって開きますからね……そうだよなぁ!?」
 彼は奥にいた組員にそう声をかけたが、なにも返事はなかった〉

 また、本書でもうひとつ明かされているのが、組長にまで上り詰めた人間たちの意外な素顔だ。上野氏のもとにはしばしば「実は私も書きたいんですよ、本を。どうしたらいいですかね」という質問が暴力団関係者から来るという。確かに、文才云々は置いておいて、ヤクザ生活を長年送っていれば、書く「ネタ」には事欠かないだろう。しかし、なぜ本など書きたがるのだろうか。その裏にはこんな心理があるという。本書のなかで二次団体組長の男はこのように語っている。

〈「生涯ヤクザつづけて、ヤクザのまま死ぬ者はたくさんいますけどね、『生涯日のあたらない道を歩こう』と決めて、そのままの気持ちで死ぬ者はいないんじゃないかなって思うんです。地位を得れば名誉、とはよく言ったもので、社会の裏側で名を馳せると、次は表社会で認められたくなるんですよ。日にあたりたくなるんですよ、必ず。ヤクザがやたら本を書きたがったり、CD作ったりするじゃないですか。あれって、自分が生きた足跡を残したいってのはもちろんなんですが、世の中に認められたいって気持ちもあると思うんですよね」〉

 このような思いの発露は、本や歌といったクリエイティブな分野に限らない。組長は続けて語る。

〈「百戦錬磨の親分が社会貢献を謳った投資詐欺に簡単に引っかかったりしますし、引退して僧籍取る親分も多いですよね。ヤクザがボランティアをやると売名行為だなんて批判されますけど、もちろんそういうヤツはいるにしても、大半の者は真剣にやってると思いますよ。半分は自分のためなんですから」〉

 こんな弱音を吐く裏には、やはり、現在の暴力団をめぐる状況が大きく影響しているのだろう。周知の通り、暴力団排除条例が全国で施行されて以降、彼らは急速に一般社会から隔絶され、社会的にも経済的にも追いつめられているわけだが、その一例として本書で挙げられているのが葬儀をめぐるいざこざだ。

 先代の親分が亡くなった際、これまで付き合いのあった葬儀場から会場の使用を断られ、危うく葬儀を行えなくなりそうになった経験をもつ若頭の男はこう語る。

〈「直接かけ合ったんですよ。長い付き合いなのに、いきなりそれはひどくないですか、って。そしたら、『地域の皆様から苦情が入るんですよ』と。言ってやりたかったですよ、『それじゃ、なにか。地域の皆様ってのは、殺人犯や強姦魔は大丈夫でも、ヤクザと同じ焼き釜には入れないって言ってんのか』と」〉

 結局、若い衆を外に立たせて挨拶させるなど、いかにもヤクザだと分かる行為を慎むことを条件に葬儀場を使わせてもらえることになったのだという。ヤクザのメンツ丸つぶれだが、もうそういったことに構っている時代でもないのかもしれない。そして若頭は続けてこのように語ったという。

〈『貸したら葬儀の途中でもやめさせるし、ヤクザに利益供与したとみなして処遇されることもあります』なんて言われたそうですよ。まぁ、通報されて警察が来ない限りは、ここも『気づかなかった』で通してくれることになったんですが、もしもの時は先代(親分)も(火葬途中で中止になって)『ミディアム・レア』ですよ〉〉

 もしかしたら、そう遠くはない未来、「ヤクザ」は映画やドラマのなかでのみ存在する人々になるのかもしれない。本書のなかで、二次団体組長はこのように語っていたと書かれている。

〈「これからどうなるんでしょうね、ヤクザ」
 すると組長はいつもの馬鹿笑いではなく、ハハッと軽く笑った。そんなことはいつも仲間内で話題になっていて、とっくに回答は用意している。そんな感じの笑いだった。
「まぁ、壊滅でしょうね。犯罪組織に特化して生きながらえる残党や、一部の過激派のようなグループは出てくるでしょうけど、既存のヤクザのスタイルは存続できませんよ」〉
(新田 樹)

最終更新:2016.11.03 12:10

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