今もやまぬ人工透析自己責任論の嘘を改めて指摘! 糖尿病の原因は体質遺伝、そして貧困と労働環境の悪化だった

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公益社団法人日本糖尿病協会ホームページより


 フリーアナウンサー・長谷川豊による「自業自得の透析患者なんて、全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!」というブログを取り上げた際、本サイトは「今回は長谷川が批判されたが、そのうち生活保護バッシングのように、自己責任論のほうが強くなるかもしれない」と指摘したが、すでにその傾向は出てきているというべきかもしれない。

 たとえば、ブラックマヨネーズの吉田敬はツイッターで〈このままではお金的に将来持たないのではないのか。まっとうに生きてる人が病気になった時にまで対応できなくなる時代が来るのではないのか。みんなで考えませんか?って事〉と長谷川を擁護。

 また、保守メディアの代表「週刊新潮」(新潮社)も、長谷川の肩をもち、人工透析患者批判を煽るような記事を掲載。10月20日号に掲載された「『長谷川豊』アナ発言が暴論じゃすまない『人工透析』年間1.6兆円」というワイド記事だ。

 冒頭、〈「暴論」とは文字通り、乱暴な議論のことであるが、結果的に、蓋をしておきたい何かを「暴く」論となることもありうる〉と、無駄にもったいぶる例の“新潮節”で、長谷川のブログを〈「人工透析」がかかる恐ろしい実態の一端を炙りだしたのは確か〉と評価。そして、炎上の原因は「自業自得」や「殺せ!」などの言葉使いの問題が中心だったとしたうえで、さらに医師・ジャーナリストの富家孝氏や腎臓内科医のコメントを織り交ぜながら、このように伝えている。

 ──2014年の人工透析患者は32万人。一人当たり年間500万円の費用がかかり、総額で年間1兆6000万円。一方、患者の自己負担は月1〜2万円程度で、透析患者は身体障害者1級に認定されうるから負担が0円のケースもあり、その分保険料や税金からの負担になる。また、透析患者は1年に約6000人が増加しており、年間300億円の負担増となる。このままでは国の財政は破綻し、その前に人工透析の自己負担額を増やせという議論が起こるのは必至。だが、透析患者は経済的に高額医療費を払う余裕がない人が多いので、完全に袋小路である……。

 この「週刊新潮」にしろ、ブラマヨ吉田にしろ、「人工透析患者を殺せ」という暴論を「議論に値する」などといい、結局はつくられた医療費亡国論に乗って自己責任論をぶっているだけである。だが、こうした流れによって、そのうち人工透析の問題も「生活保護バッシング」のときのような弱者排斥の流れへと向かい、「全額負担が当然」という論調が幅を利かせるようになるのではないかという危機感を覚えざるを得ない。

 しかし、だからこそ反論しておきたいが、自己責任論の前提となっている長谷川が言うような“ほとんどの人工透析患者は自堕落の結果”という説は、まったく的外れの指摘だ。

 まず、自堕落の結果だと槍玉にあがっている「2型糖尿病」の原因は、高脂肪の食事や運動不足だけでなく、そもそも親や肉親の遺伝によって糖尿病になりやすい体質である人も含まれている。そのうえ、現在ではストレスの影響も大きいことがわかっている。現に、ドイツの研究機関の調査では、職場で過大な仕事を要求されるなど強いストレスに晒されている人は、そうでない人と比較すると2型糖尿病を発症するリスクは45%も上昇したという。

 にもかかわらず、糖尿病は「飽食のせい」「贅沢病」とされてきた。もっとも象徴的なのは麻生太郎副総理の発言で、「食いたいだけ食って、飲みたいだけ飲んで、糖尿病になって病院に入っているやつの医療費はおれたちが払っている。公平ではない。無性に腹が立つ」などと糖尿病患者を批判し、医療費問題につなげて自己責任を煽った。

 だが、この発言が本当に正しければ、毎晩のように政治活動費で高級ワインやらフランス料理などに舌鼓を打つ「食いたいだけ食って、飲みたいだけ飲んで」いる麻生副総理こそ糖尿病に罹りそうなものだが、実際はそうではない。それもそのはずで、糖尿病は「贅沢病」などではなく、むしろ「貧困病」だからだ。

 たとえば、こんなデータがある。全日本民主医療機関連合会(民医連)が40歳以下の2型糖尿病患者約800人のカルテ分析と対面調査を行ったところ、〈患者のBMI値の推移を分析すると、一〇代で既に一定の肥満状態になり、成人後にさらに体重が増加して糖尿病を発症して〉いたことがわかったというのだ。また、同じように40歳以下の2型糖尿病患者が合併症である網膜症を発症する確率は、正規雇用の患者にくらべて非正規雇用の患者は1.52倍となっていることも公表。こうした結果について調査班は〈患者は低学歴で非正規雇用が多く、貧困や労働環境の悪化が糖尿病の発症を早めていることが推測されます〉とまとめている。

 実際、糖尿病予防では、高脂肪の食事を控えることや野菜の摂取が推奨されるが、食事を安く済ませようとするとこれらを守ることはできない。カップ麺などの安価な炭水化物は財布にやさしい一方、高脂肪・高塩分で野菜に含まれる栄養素の摂取が期待できない食品の代表例だし、自炊でなるべくバランスのよい食事を心がけようにも都市部のスーパーでは野菜はもはや高嶺の花で、食費を抑えようとすれば多品目を口にすることは難しい。

 しかも、これは日本に限った話ではなく、世界的に指摘されていることだ。糖尿病は日本だけではなく世界中で爆発的に患者数が増加をつづけており、国際糖尿病連合の発表によれば、2015年の糖尿病の有病者数は14年より約2800万人増の4億1500万人となっているが、富裕層にくらべて貧困層ほど糖尿病発症リスクが高いことは、アメリカやイギリスなどの研究でも明らかになっている。

 つまり、経済的・社会的格差によって「健康格差」が生まれ、なかでも糖尿病はそうした健康格差の代名詞となっているのである。WHOの「健康の社会的決定要因」委員会が、健康格差の是正を目指すためには富や権力といった社会的な不平等をあらためなければならないと勧告しているように、社会的な格差そのものを是正しようとしなければ、根本的な糖尿病予防、そして人工透析問題にアプローチすることにはならないのだ。

 くわえて、日本人を含む東アジア系民族は、そもそも糖尿病に罹りやすい体質をもっている。日本糖尿病協会のHPでも〈高度成長期以降に日本人に糖尿病が激増したのも、食生活の欧米化が一因〉〈「食生活欧米化」の中でも、脂質摂取率が増加していることが一番の要因である、という説が有力〉と説明されているが、〈(黄色人種が)白人と同じような食事を摂ると、高率に2型糖尿病を発症することは、多くの研究結果からほぼ証明されています〉という。

 そうしたなかで必要なのは、「人工透析に1.6兆円も注ぎ込まれている!」などとがなり立てることではなく、ましてや自己負担の検討などをはじめることでもなく、糖尿病が経済的・社会的格差が原因になっていることを政府がきちんと理解し、その是正のための政策をしっかり行うことが第一にある。

 そして第二に必要なのは、前提として日本人が糖尿病のリスクが高いことを踏まえ、早期発見・治療のために、厚労省が中心となって自治体、企業、地域などで食生活の改善や医療機関への受診の促進をさらに進めていくことだ。早期の取り組みによって糖尿病の重症化を食い止め、人工透析の導入までいたることを未然に防ぐ。それによって患者数は抑えられるからだ。

 逆に、自己負担などの議論はむしろ、さらなる健康格差を生み、受診抑制を加速させ、患者数の増加にしかつながらないことを理解すべきだろう。これは人工透析や糖尿病だけではなく、根本の格差是正や早期ケアの重要性は医療費全体の問題でもある。

 自己責任という答えありきの議論では、現状を好転させるための建設的な話などできるはずがあるまい。しかし、社会問題をめぐり弱者にすべての責任を負わせようとする風潮が進むなかでは、そんな当然の議論さえ起こらない。はっきり言って、このように「自業自得」という思考停止状態がつづくことこそ“亡国”を導いているのである。
(伊勢崎馨)

最終更新:2017.11.24 06:28

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