ノーベル文学賞はボブ・ディランで、村上春樹また落選! そもそもノーベル文学賞候補なのか!?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷
murakamiharuki_150901.jpg
村上春樹『職業としての小説家』(新潮社)

 本日ノーベル文学賞が発表され、あのボブ・ディランが受賞し大きな話題になっている。

 一方、日本では例によって「村上春樹、ノーベル文学賞受賞なるか→受賞ならず、残念!」騒動が、今年もまた繰り返された。

 2006年にカフカ賞を受賞して以降、10月には毎年のように、「今年こそ村上春樹受賞なるか」と様々なメディアが大騒ぎを繰り広げる。今年も、書店の村上春樹コーナーや、ハルキストと呼ばれる春樹ファンたちがカフェに集まり受賞の報せを待つ様子、春樹の海外のファンの声など、今年こそはと受賞を期待する特集が展開。そして、別の作家の受賞が発表され「がっかり」……というところまでが、すっかり風物詩となっている感すらある。

 10年以上続くこの空騒ぎについては、2015年には春樹自身も「正直なところ、わりに迷惑です。だって正式な最終候補になっているわけじゃなくて、ただ民間のブックメイカーが賭け率を決めているだけですからね。競馬じゃあるまいし。」と期間限定ウェブサイト「村上さんのところ」で読者からの質問に回答したこともあった。

 実は本サイトでも、2014年10月に春樹氏が受賞を逃した際に、「今年も落選!村上春樹はそもそもノーベル文学賞候補ではないとの説が!?」と題し、春樹氏が有力候補とされていることに疑問を呈していた。記事ではさらに、今後の春樹ノーベル賞の可能性についても、様々な角度から考察しているので、こちらも風物詩のように3年連続で恐縮だが、ぜひご一読いただきたい。
(編集部)

********************

 昨晩ノーベル文学賞が発表され、フランスの作家・パトリック・モディアノが受賞。ブックメーカーなどで有力候補とされていた、村上春樹はまたしても受賞を逃した。

 2006年カフカ賞を受賞して以降、10月には毎年のように、「今年こそ村上春樹受賞なるか」と様々なメディアが大騒ぎを繰り広げている。昨日も、書店の村上春樹コーナーや、ハルキストと呼ばれる春樹ファンたちがカフェに集まり受賞の報せを待つ様子、春樹ゆかりの海外のファンの声など、今年こそはと受賞を期待する特集が展開されていた。

 そして、別の作家の受賞が発表され「がっかり」……というところまでが、風物詩となっている感もある。ここまで落選が続くと、結局このまま獲れないんじゃないか、と不安になっているファンもいることだろう。

 村上春樹はこれから先もノーベル文学賞は獲れないのではないか。こう指摘するのは、評論家で作家の小谷野敦。小谷野は、著書『病む女はなぜ村上春樹を読むのか』(ベスト新書)のなかで、春樹ノーベル賞の可能性について様々な角度から考察しているのだ。

 そもそも村上春樹はノーベル賞の候補に本当に入っているのか。そこから小谷野は疑問を呈する。というのも、この時期報道でよく目にする「下馬評で1番人気」「最有力候補」などというのは予想屋が勝手に予想しているだけのもの。ノーベル賞の選考委員会は候補を公表しているわけではない。ノーベル賞委員会は50年経つと候補を公開することになっており、たとえば今年はじめに1963年の最終候補から三島由紀夫が一歩手前で漏れていたことがわかったり、当時日本では全くノーマークだった賀川豊彦が実は1947年の候補だったことが50年を経て初めてわかったり、などということがあった。春樹がこのまま受賞しなければ、本当に候補に入っているかどうかは、50年経たないと真相はわからないというわけだ。

 小谷野が「ノーベル賞受賞に当たっては不利な要因」としてまず挙げるのが、「村上春樹は日本ペンクラブ会員ではない」ということ。そんなことで決まるの?と思うかもしれないが、日本人初のノーベル文学賞作家である川端康成は、日本ペンクラブ会長を17年という長期にわたって務めており、2人目のノーベル文学賞作家の大江健三郎も、ペンクラブ理事、副会長だった。

 しかも単にペンクラブの役職に就いていればいいというわけではなく、「根回し」が重要だと小谷野は見ている。川端は会長任期中に日本で初めての国際ペンクラブ大会を開いており、その関係で西洋へもたびたび行き、さらに国際ペンクラブの副会長も務めており、「西洋社会への根回しは十分だった」。大江も「海外へ出ることも多く、それなりに根回しはしていた」。一方、海外での評価も高く候補に入っていたが受賞には至らなかった谷崎潤一郎は、飛行機が怖くて一度も西洋へ行ったことはなかったのだとか。

 さらに政治的な立ち位置も関係している。小谷野に言わせると「ノーベル賞委員会は、少し左寄りである」という。たとえば、アメリカで初めてノーベル文学賞を獲ったシンクレア・ルイスや、授与されたが辞退したサルトルも、社会主義的だった。日本では保守派と見られる川端康成も「その辺はぬかりなく、戦後は平和主義の仮面をかぶり続けた。ノーベル賞をとってしまうと地金が出て、(略)以後日本ペンクラブは右寄りに」なったという。

 当時大江健三郎はペンクラブを一度退会しているのだが、その後またペンクラブが左寄りに戻ると、戻ってきて理事になっている。そして「1984年には反核声明を出すなどしているし、大江は原爆、沖縄などを問題視する平和主義者としてふるまい、ノーベル賞にこぎつけた」。もちろん小谷野は、川端も大江も政治的な立ち位置だけで受賞したと言っているわけではない。優れた文学者として高く評価しているが、それだけではノーベル賞は受賞できない。たとえ文学者として優れていても、「日本人がノーベル文学賞をとるには、ロビー活動が必要」なのだ。対して春樹は、文学賞の選考委員もやらず、文壇の受賞パーティにも姿を見せないなど、文壇づきあいをほとんどしていないと指摘する。

 しかしかつては政治的な問題にコミットしないことを信条としていた村上春樹だが、近年は、イスラエルのエルサレム文学賞授賞式で「いかなる戦争にも賛成しない」「非武装市民の側に立つ」などとスピーチしたり、あるいは東日本大震災直後に受賞したカタルーニャ賞のスピーチでは反原発の立場を表明したりしている。いずれも日本国内でなく、海外向けという点で、ノーベル賞を意識した政治活動、根回しの一種とも感じられる。日本ではほとんどしない作家づきあいも、海外の作家との交流エピソードはときおり明かされるし……。

 それでも、村上春樹のノーベル賞受賞が厳しい理由は、作品そのものにもあると小谷野はいう。たとえば井上靖、遠藤周作、芹沢光治良などペンクラブ会長を務めながらノーベル賞受賞に至っていない作家もいる。これについて、彼らの作品が通俗小説とみなされていたからではないか、と小谷野は推察している。100年以上の歴史をもつノーベル賞なのでその受賞傾向を一概に語ることはできないが、ひとつだけハッキリしていると小谷野がいうのが「通俗小説には与えられない」ということなのだ。そして「春樹の作品は、ノーベル賞委員会が嫌う通俗小説なのではないかという気が私にはしている」。とくに日本でミリオンセラーとなり海外でもヒットした『1Q84』の内容は、通俗恋愛冒険小説である、と。

  純文学と通俗小説(エンタメ作品)との境界に意味があるのかというのは日本の文壇でよく議論されることだが、海外でも純文学と通俗小説の区別はあると小谷野は断言する。世界的に人気のあったフランソワーズ・サガンやグレアム・グリーンが受賞できなかったこと。アメリカの作家で、フィリップ・ロスやドン・デリーロは候補になっても、ジョン・アーヴィングがノーベル賞候補として名が挙がらないこと。それも純文学ではなく通俗小説あるいは中間小説とみなされているから。そういう意味で、日本でも「春樹を飛ばして」多和田葉子や津島佑子、堀江敏幸のほうが可能性があるのではないかとも予測している。

 村上春樹が本当にノーベル文学賞の候補に入っているかどうか。それは50年経つか、あるいは春樹が晴れて受賞するか、しなければ真相はわからない。しかし、

「(文学が売れない)状況の中で、村上春樹は、とりあえず純文学とされている作品を出して、大幅に売れており、世界的にも人気があって、ノーベル賞をとるかもしれないとなれば、文学などもう終わっているという世間の冷たい目にさらされている文壇としては、ぜひ春樹を祭りあげたいというのが本音だろう」
 
 少なくとも小谷野のこの指摘は、当たっている。きのうの空騒ぎを見ているとそう思えるのだった。
(酒井まど)

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

新着 芸能・エンタメ スキャンダル ビジネス 社会 カルチャー くらし

ノーベル文学賞はボブ・ディランで、村上春樹また落選! そもそもノーベル文学賞候補なのか!?のページです。LITERA政治マスコミジャーナリズムオピニオン社会問題芸能(エンタメ)スキャンダルカルチャーなど社会で話題のニュースを本や雑誌から掘り起こすサイトです。ノーベル賞ボブ・ディラン小谷野敦村上春樹酒井まどの記事ならリテラへ。

人気記事ランキング

総合
いいね! 数
1 外務省が日米地位協定のウソ説明をコッソリ修正
2 古市憲寿「平成くん、さようなら」と「終末期医療打ち切れ」論
3 日露外相会談の大失態を必死で隠す安倍政権
4 松本人志が指原莉乃に悪質セクハラ差別発言! 
5 つんく♂が秋元のメンバー差別に
6 追悼!市原悦子が生前語った安倍政権への怒り、反戦の思い
7 NGT48問題でも秋元康の“無責任”
8 産経と菅官房長官が「辺野古赤土投入問題」追及の望月記者を攻撃
9 封印されたAKB48盗撮事件
10 東京五輪が日中戦争でなくなる?
11 JOC竹田会長が女性死なせる交通事故
12 純烈・友井報道で芸能マスコミジャニーズ御用体質 
13 文春が東京五輪を!電通元専務に金
14 収賄疑惑の甘利大臣がバンダイとも
15 元旦朝生のウーマン村本は間違ってない
16 仏司法当局が東京五輪誘致汚職で竹田恒和JOC会長の捜査開始!
17 DA PUMPがEXILEに挑戦状
18 安倍政権の反韓煽動が酷い!「韓国へ渡航禁止」まで主張
19 古舘の後任に浮上!安住紳一郎の悪評
20 古市憲寿と落合陽一「終末医療やめろ」論の酷さ
1 安倍首相が辺野古の土砂投入で「サンゴを移した」と大嘘
2 安室、上田、芸能人よく言った大賞前編
3 追悼!市原悦子が生前語った安倍政権への怒り、反戦の思い
4 クイーンのB・メイ辺野古署名に『ボヘラプ』鑑賞の安倍首相は…
5 元日『相棒』が今年も安倍政権批判!
6 ローラ、村本、りゅうちぇる芸能人よく言った大賞後編
7 所ジョージが沖縄米軍基地反対ソング! 
8 ウーマン村本、ローラ…権力批判芸能人を排除する醜悪メディア
9 安倍首相の“サンゴ移植した”嘘を追及しない本土メディア
10 早野龍五・被曝論文に重大誤り!お墨付き与えた糸井重里の責任
11 たけしの性差別発言はなぜ問題にならない?
12 産経と菅官房長官が「辺野古赤土投入問題」追及の望月記者を攻撃
13 安倍首相の改憲キャンペーンに松本人志、小藪千豊らが協力?
14 仏司法当局が東京五輪誘致汚職で竹田恒和JOC会長の捜査開始!
15 ゴーン前会長出廷で露呈した特捜部の無理スジ国策捜査
16 バカリズム、指原莉乃が外国人労働者問題で差別丸出し
17 日露外相会談の大失態を必死で隠す安倍政権
18 安倍政権の反韓煽動が酷い!「韓国へ渡航禁止」まで主張
19 平沢勝栄だけじゃない自民党の性差別 
20 落合陽一は反省表明したが…古市憲寿と落合の無自覚

人気連載

アベを倒したい!

アベを倒したい!

室井佑月

ブラ弁は見た!

ブラ弁は見た!

ブラック企業被害対策弁護団

ニッポン抑圧と腐敗の現場

ニッポン抑圧と腐敗の現場

横田 一

メディア定点観測

メディア定点観測

編集部

ネット右翼の15年

ネット右翼の15年

野間易通

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

赤井 歪

政治からテレビを守れ!

政治からテレビを守れ!

水島宏明

「売れてる本」の取扱説明書

「売れてる本」の取扱説明書

武田砂鉄