「2016年、山里世代がお笑い界をリードする」は本当か? 山里、ノンスタ井上と又吉、西野の間にある断層とは

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吉本興業株式会社HP「南海キャンディーズ」芸人プロフィールより


 この年末年始も、『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!! 絶対に笑ってはいけない名探偵24時』(日本テレビ系)、『夢対決2016 とんねるずのスポーツ王は俺だ!! 5時間スペシャル』(テレビ朝日系)、『ウンナン極限ネタバトル ザ・イロモネアSP〜笑わせたら100万円〜』(TBS系)、『世界がザワついた㊙映像 ビートたけしの知らないニュース2016新春スペシャル』(テレビ朝日系)など、バラエティ番組が目白押しだった。

 ただ、これらの番組のタイトルを見て何か気づくことはないだろうか? そう。番組タイトルの冠に自分たちの名前を使えているのは「お笑いビッグ3」(明石家さんま、タモリ、ビートたけし)や「お笑い第三世代」(ダウンタウン、とんねるず、ウッチャンナンチャンなど)といった、大御所芸人ばかりなのである。

「お笑いブーム」もとうに終わり、ひとつの「ジャンル」に落ち着いてしまったと言われるお笑い界。だが、いや、だからこそというべきか、世代交代がまったく進んでいないのだ。

 まだまだ圧倒的人気を誇る「お笑いビッグ3」「お笑い第三世代」が第一線に立ち続けるなか、さらにその下には、さまぁ〜ず、くりぃむしちゅー、ネプチューン、ナインティナイン、爆笑問題といったベテラン人気芸人たちも控え、いまお笑い界は若手・中堅芸人にとって深刻な「上がつっかえている」状態にある。

 そんな状況のなか、注目を集めているのが、南海キャンディーズの山里亮太を中心とする「山里世代」だ。

 これは2014年4月30日放送の『ナカイの窓』(日本テレビ)で、山里と同世代の「76年4月〜79年3月生まれ」の芸能人を集めてトークが行われた際に、ギャグとして名付けられたもの。実際、番組では、綾部祐二(ピース)、若林正恭(オードリー)そして山里の芸人3名は、「自分たちは全員小器用でしかない」「何をやってももっとすごいバージョンが目の前にあった」など、上の世代の芸人たちには何をしても勝てないなどと自虐ネタを連発し、会場の笑いを誘っていた。

 しかし、お笑い評論家のラリー遠田氏はそんな状況を受けて、だからこそ「山里世代」の芸人たちがいま面白いと語る。『逆襲する山里亮太 これからのお笑いをリードする7人の男たち』(双葉社)には、このように記されている。

〈山里世代とは、壁にぶつかり続けた結果、異様な進化を遂げたモンスターの集まりなのだ〉

 ラリー遠田氏が「山里世代」とカテゴライズした芸人は、南海キャンディーズ、キングコング、ピース、オードリー、NON STYLE、ウーマンラッシュアワー、ナイツの7組。この世代は前述したように「上がつっかえている」絶望的な状況にある。しかし、だからこそあらゆる策を練って、その現状を壊そうと興味深い試行錯誤を繰り返しているのだという。

 その試行錯誤の最たるものが「炎上」だ。たとえば、山里亮太は、自身の冠ラジオ『山里亮太の不毛な議論』(TBSラジオ)で、数々の芸能人との間に舌禍を起こし、そのたびにネットニュースを騒がせてきた。

 元TBSアナウンサーの青木裕子とは挨拶を無視されたことからバトルが勃発。同じく、元TBSアナウンサーの田中みな実とは、かつては一緒に旅行に行くほどの仲だったのに、急に疎遠になり素っ気ない態度を取られたことから怒りを爆発させ、「あの人が媚びなきゃいけないランクから外れちゃったのかな」と挑発した。

 同じ事務所の先輩でもある品川庄司の品川祐との間で起こった炎上騒動も大きな話題となった。きっかけは、番組内で山里が品川から過去にネチネチと嫌味を言われた過去を暴露したことから始まった。この騒動は品川のツイッターアカウントに批判のレスを送るリスナーまで生み出し、後に品川がラジオブースに乱入する事件まで起こすにいたった。山里はこの他にも、芹那、青木さやか、フリーアナウンサーの中島彩との間にも舌禍騒動を起こしている。

 山里があえて「炎上」させる理由。それはもちろん、「悪名」でもいいから世間に話題を提供したいからだろう。そのような「奇策」を練らなければ、先輩芸人たちを超える話題を生み出すことはできない。事実、これらの舌禍事件はネットニュースに大きく取り上げられ、彼の人気を一気にブレイクさせた。

 ファンに手を出していると堂々と話すウーマンラッシュアワーの村本大輔も「炎上」を使ってのし上がってきたひとりだ。

 彼がバラエティ番組に呼ばれるようになったのは、「ファンを抱いている」と公言する「ゲスキャラ」を売り出し始めたことにある。通常、芸人たちの暗黙のルールとして「ファンを抱いている」ということは言ってはならないタブーとされているが、なぜ村本はタブーを破ることになったのか。これは逆転の発想から生まれたものだったらしい。

「あるとき、僕がラブホテルの前で女のコを必死で口説いているところを芸人仲間に目撃されて、そのことを舞台でバラされたんです。それを聞いてお客さんはドン引き。でも、そこで「ちょっと待てよ?」と思ったんです。楽屋では芸人たちがコンパした、エッチした、3Pしたという話をガンガンしている。それなのに、舞台の上ではそれを秘密にして、僕のことだけを責めていたわけです。一人をつるし上げてみんなが自分の身を守る、政治家と同じ手口ですよ。
 そこで僕は「よし、こいつらに復讐しよう」と思ったんです。僕を含めた芸人たちがファンに手を出して遊びまくっていることを全部まとめて言うことによって、コイツらは震えあがるだろうと。僕は自分から言っているから、たとえ責められてもノーダメージ。そうやって裏のことを全部言ってやろうという気持ちから、こういうファイティングスタイルになりました」(「FLASHスペシャル」2014盛夏号/光文社)

 こうして生み出した「ゲスキャラ」がきっかけで村本はバラエティ番組への出演を果たし、13年の『THE MANZAI』優勝へとつながっていく。まさに「炎上」や「舌禍」を武器に変えた、この世代ならではの「成り上がり方」と言えるだろう。

 NON STYLEの井上裕介の場合は、さらにそれを進化させたといってもいいかもしれない。もともと、井上はその芸風がネットの反発を買い、しょっちゅう炎上を繰り返していた。だが、井上はそれを逆利用し、ツイッターで書き込まれる悪口をポジティブに返すというブランディングを展開したのだ。これがネットユーザーの間で評判となり、『スーパー・ポジティヴ・シンキング』『まいにち、ポジティヴ!』(ともにワニブックス)などのヒット本を次々出版。お笑い芸人としてのポジションも、一時の頭打ち状態から一気に巻き返した。

 このように、主戦場であるテレビ以外のさまざまなメディア、SNS、さらには舌禍や私生活のスキャンダルまで、ジャンル超えた奇策ともいえる活動を展開し、お笑い芸人としてのステイタスを上げていくというのが、山里世代のサバイバル術らしいのだ。

 しかし、ラリー遠田氏は触れていないが、こうした奇襲作戦というか、越境的な挑戦がうまくいっていないケースもある。

 その典型が本好きを前面に出して自ら小説を執筆、芥川賞まで受賞しまった又吉直樹と、それ以前から絵本作家として活動しているキンコングの西野亮廣だろう。

 又吉がうまくいっていないというと意外に感じるかもしれない。たしかに芥川賞受賞後の又吉は『火花』(文藝春秋)が240万部を超えるベストセラーとなり、メディアから引っ張りだこの状態だ。テレビの露出も増え、扱いも格段に良くなった。

 だが、その一方で、又吉はお笑い芸人としてはどんどんダメになっている気がするのだ。客も視聴者も共演の芸人も、又吉をつい「作家」として見てしまい、明らかに気を使っている状態。又吉自身も作家としてのブランドイメージを壊さないようにしているのか、冒険ができない。その結果、テレビに出ても、まったく笑えないのだ。ピースの相方である綾部が、舞台でもこれまでウケていたネタが芥川賞以降まったくウケなっていると明かしたこともある。

 キングコングの西野亮廣にいたってはむしろ、絵本を描いていることが完全に逆効果になっている。13年にはニューヨークで個展まで開いたが、そういう創作活動をアピールすればするほど、「アーティスト気取り」と反感を買い、もともとジリ貧傾向にあったお笑い芸人としての人気をさらに下げるという状態が続いている。

 山里と井上、又吉と西野、その違いはおそらく、主戦場のテレビ以外の活動がお笑いにフィードバックできているかどうか、だろう。

 山里や井上、あるいは劇団ひとりなどは他ジャンルに進出しても、お笑いでの活動と地続きになっているため、他ジャンルの成功がプラスに働く。ところが、又吉、西野の場合は、他ジャンルでの活動がお笑いと違うベクトルをもっているため(『火花』は主人公がお笑いコンビなだけで、ピースの笑いの要素はかけらもない)、逆にお笑いにマイナスに作用してしまうのだ。

 又吉なんて小説家として大成功しているんだから別にいいじゃないか、と思うかもしれないが、そうともかぎらない。お笑いと小説、表現のベクトルは違っていても、世間の人気や評価は無関係ではいられない。お笑い芸人として、面白くないという烙印が押されてしまうと、小説の評価が下がる可能性もあるし、逆に小説の2作目がこけたら、お笑い芸人として完全に終わってしまう可能性だってある。お笑いにはマイナスにしか作用しないのに、無関係ではいられない。ある種、お笑い芸人としては爆弾を抱え込んでしまったといってもいい状態なのだ(すでに西野はその爆弾が破裂してしまったということかもしれない)。

 もっとも、爆弾を抱え込んでいるという意味では、越境が成功している山里や井上だって同じかもしれない。今はたまたま、炎上をうまくお笑いにフィードバックしているが、それだって飽きられたらおしまいだからだ。結局、奇襲に頼っているかぎり、常に新しい燃料を探し続けなければならない。

 その意味でいうと、山里世代は〈異様な進化を遂げたモンスター〉というより、『ナカイの窓』で山里が自虐的に語った「小器用」という表現がやはりしっくりくる。少なくとも、彼らが下克上を起こし、「お笑いビッグ3」や「お笑い第三世代」にとってかわることはかなり難しいだろう。
(新田 樹)

最終更新:2016.01.02 04:04

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