原節子の知られざる素顔! ナチスとの関係、ユダヤ陰謀論の極右思想にはまり「謀略だ」と映画中止要請の手紙を

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷
harasetsuko_01_151230.jpg
週刊誌もこぞって特集を組んだ原節子の死だが…(朝日新聞出版「週刊朝日」12月11日号より)

 今年11月25日、9月5日に逝去していたことが明らかとなった原節子。日本映画の黄金期を代表する大女優として、その死はマスコミを賑わせた。

 1935年、15歳の時に『ためらふ勿れ若人よ』(田口哲監督)でデビュー。以来、1962年に『忠臣蔵 花の巻・雲の巻』(稲垣浩監督)に出演しての引退までに出演した映画は107本。小津安二郎監督とのコンビワークによる『晩春』『麦秋』『東京物語』『東京暮色』などがある。

「永遠の処女」とも呼ばれた彼女だが、引退後は義兄熊谷久虎監督が建てた、鎌倉市浄明寺の家にひっそりと住んでいた。引退後も近隣住民にはときどき見かけられていたというが、公的に表に出ることはなく、95歳で世を去った。

 そんな原だが、謎多き女優でもあった。

 たとえば恋愛ゴシップでも、次姉の夫である熊谷監督との関係が囁かれたり、また小津監督との関係が囁かれた。

 だが、恋愛関係のゴシップ以上に謎が深く、興味深いのは、彼女の戦前から15年戦争期の動きである。1936年に日独防共協定が締結され、それを記念した日独合作映画として1937年に制作された『新しき土』(アーノルド・ファンク監督)に原が主演女優として抜擢されたこと、またその映画の商業的成功によりナチスに招待され、ドイツを訪れ、ゲッベルス宣伝相とも談笑した、といったことが明らかにされている。

 この映画の出演に対して、原は戦後の1948年の時点で、

「『新しき土』の映畫にもられたものは、おそらく、その頃の政治的な深い内容があつたことでしよう。少女のわたしには、もちろん、何一つ判らず、まるで人形のように動いていただけだつたのですが」(原節子「このままの生き方で」)

 と述べている。

 だが、原は戦時中、「人形」というにしては独特のスタンスを戦争に対して持っていたようなのだ。『青い山脈』『ひめゆりの塔』などで知られる今井正監督が興味深い発言を残している。戦時中の朝鮮で、日本の立場から朝鮮と満州の国境警備隊とゲリラの戦いを描く戦意高揚映画『望楼の決死隊』という映画のロケをしていた時の話だが、原節子からユダヤ謀略論を主張する手紙を受け取ったというのだ。

「原節子がやってきて、今井さん、これ兄からですって封筒を差し出すんです。(中略)その手紙には、日本は全勢力をあげて南方諸国に領土を確保しなければならない、その時に日本国民の目を北にそらそうと目論んでいるのはユダヤ人の陰謀だ、この『望楼の決死隊』は日本国民を撹乱しようとするユダヤの謀略だから即刻中止されたいというようなことを書いてあった」(『戦争と日本映画 講座日本映画4』岩波書店)

 この「兄」というのは、前述した原との恋愛関係も噂された次姉の夫・熊谷監督のこと。熊谷は旧日本陸軍の鉄道連隊の兵士と、彼を指導する老機関士の交流を描いた1941年の映画『指導物語』が名作とされる監督だが、彼は「スメラ学塾」という「日本・シュメール起源説」を唱える極右団体の重鎮でもあった。

 スメラ学というのは、戦時中の日本において高級軍人や学者、文化人などの間に一定の支持者を持っていた論で、その趣旨はメソポタミアのシュメールが西方に移動し、日本で神武天皇をいただく神政国家を作り上げたこと、ユダヤ金融資本に支配されたアメリカなどと対決し、日本がスメラ文化圏を作り上げるべき、というものだった。

 あの原節子がユダヤ陰謀論を?と信じがたい思いだが、今井監督は、同書の中でこう続けている。

「(熊谷監督は)そのころからだんだんおかしくなって、すめら塾(ママ)って極右団体に入って、かなりえらいところまで行ったんじゃないの。だから、その影響で原節子までユダヤ人謀略をとなえるありさまだった」(前掲書)

 熊谷監督は原との恋愛関係を噂された男性の中で、もっとも信憑性が高いとされる相手だが、思想的にも大きく影響を受けてしまったということなのだろうか。

 実際、原はこのスメラ学塾が結成した劇団・太陽座にも所属していたという。

 この劇団がどの程度の活動をしていたのかは不明だが、その創立案内状には、その結成趣旨が以下のように記されている。

「英米撃滅の聖戦はいよいよ激しく、ますます進められていく(中略)この人類史上初つて以来の大戦果に相応しき大東亜の規模に於いて、その指導民族、強大日本に相応しき大演劇の樹立、又緊急必須の問題であること論をまたない」(『原節子「永遠の処女」伝説』本地陽彦/愛育社より)

 そして、そのためには「上代日本文化の燦然たる輝き」に「日本精神美の源泉」を見出し、それを基軸とした国民演劇の樹立を目指すものであったという。

 スメラ学塾の重鎮である熊谷への私淑、太陽座への所属……。戦後の原はこれらの活動については一切語っていないため、その本心は分からない。だが、熊谷との関係、今井の証言などを併せて考えれば、戦中の原は案外本気でユダヤ謀略論などを唱えていたのではないだろうか。

 原が日本映画の歴史の中に残した輝かしい軌跡は否定できないが、このような事実もまた、日本映画史、ひいては日本の侵略戦争や近現代史を考える上で見落とすことはできないだろう。
(高幡南平)

最終更新:2015.12.30 05:31

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

この記事に関する本・雑誌

原節子 わたしを語る (朝日文庫)

新着 芸能・エンタメ スキャンダル ビジネス 社会 カルチャー くらし

原節子の知られざる素顔! ナチスとの関係、ユダヤ陰謀論の極右思想にはまり「謀略だ」と映画中止要請の手紙をのページです。LITERA政治マスコミジャーナリズムオピニオン社会問題芸能(エンタメ)スキャンダルカルチャーなど社会で話題のニュースを本や雑誌から掘り起こすサイトです。陰謀論高幡南平の記事ならリテラへ。

人気記事ランキング

総合
いいね! 数
1 マンガ『スシローと不愉快な仲間たち』第1話
2 香港市民はデモの力示したが、日本は…
3 安倍政権が関東大震災・朝鮮人虐殺を
4 くりぃむ上田晋也が“政権批判NG”に敢然と反論
5 F35捜索打ち切りと大量購入続行でNHKが「背景に政治性」と報道
6 田崎史郎「65歳から年金もらってます」
7 安倍イラン訪問でNHK岩田明子記者がまた安倍フェイクPR
8 秋篠宮家の料理番がブラック告発
9 『朝生』で百田尚樹が徹底論破され大恥
10 橋下徹に恫喝された女子高生が告白!
11 長谷川豊が部落差別発言「謝罪文は馬場幹事長が作った」
12 葵つかさが「松潤とは終わった」と
13 『クロ現』降板の国谷裕子が圧力を語る
14 グッディ高橋克実が北朝鮮危機で本音
15 マツコ「安倍首相は馬鹿」にネトウヨが
16 維新応援団・野村弁護士が懲戒、橋下徹にも請求が
17 竹田恒泰が慰安婦像に「鼻クソの刑」ツイートの愚行
18 防衛省イージス・アショア失態 、玉川徹が原因を喝破!
19 産経新聞コラムが「引きこもりは自衛隊に入隊させて鍛え直せ」
20 読売が出会い系通い記事批判に失笑反論
1 国民健康保険料が大幅値上げ、年間10万円増額も
2 安倍首相と省庁幹部の面談記録ゼロ!安倍政権“公文書破壊”の実態
3 石野卓球がワイドショーに勝利した理由
4 忖度道路めぐり安倍の直接指示の新事実が
5 安倍首相が「桜を見る会」に『虎ノ門ニュース』一行を堂々招待
6 安倍が“忖度道路”の要望書を提出、山陰自動車道でも利益誘導
7 上野千鶴子「東大祝辞」へのワイドショーコメントが酷い!
8 塚田「忖度」発言は事実! 麻生利益誘導の疑惑
9 イチローに国民栄誉賞を断られ安倍政権が赤っ恥
10 野党議員をデマ攻撃「政治知新」の兄・自民党県議を直撃!
11 NHKで国谷裕子を降板に追い込んだ人物が専務理事に復帰
12 維新勝利で橋下徹が「反対した年配の人が死んじゃった」
13 中村文則が安倍政権批判に踏み込む理由
14 『あさイチ』の「中高生に韓国が人気」企画炎上の異常
15 安倍首相「桜を見る会」招待状が8万円で売買との報道!
16 菅官房長官「令和おじさん」人気の正体!
17 ゴーン逮捕“国策捜査説”を裏付ける経産省メール
18 「あつまれ!げんしりょくむら」以外も…原子力ムラの醜悪SNS戦略
19 衆院補選で安倍自民党が大惨敗の予想が!
20 ピエール瀧出演の『麻雀放浪記2020』に“安倍政権への皮肉”

人気連載

アベを倒したい!

アベを倒したい!

室井佑月

ブラ弁は見た!

ブラ弁は見た!

ブラック企業被害対策弁護団

ニッポン抑圧と腐敗の現場

ニッポン抑圧と腐敗の現場

横田 一

メディア定点観測

メディア定点観測

編集部

ネット右翼の15年

ネット右翼の15年

野間易通

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

赤井 歪

政治からテレビを守れ!

政治からテレビを守れ!

水島宏明

「売れてる本」の取扱説明書

「売れてる本」の取扱説明書

武田砂鉄