TPPでコミケが危機に? 著作権侵害の恣意的運用で当局が性表現や政権批判を次々摘発する可能性も

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コミケの歴史が詰まった1冊(『コミックマーケット40周年史「40th COMIC MARKET CHRONICLE」』コミックマーケット準備会)

 10月5日に、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の大筋合意が発表されて以降、この協定をめぐるさまざまな問題、危険性が指摘されている。もっとも大きいのは、農業、畜産業への打撃だが、もうひとつ、意外な分野で懸念が広がっている。それは、コミケ(コミックマーケット)に代表される二次創作への影響だ。

 TPPの合意内容の中には、著作権侵害の非親告罪化が含まれている。現状では著作権侵害は親告罪であり、作者など著作権者が訴えないと成立しないが、非親告罪化となれば、捜査当局の判断だけで著作権侵害として立件、犯罪として摘発できるようになる。

 つまり、これが実施されると、同人誌やコスプレといった二次創作物が取締りの対象に含まれ、コミケに限らず二次創作の文化が危機に瀕してしまうのではないかというのだ。「TPPの知的財産権と協議の透明化を考えるフォーラム」は、以下の問題点を指摘している。

「被害者の告訴なき起訴・処罰を可能にする非親告罪化は、厳密にいえば違法だが権利者に実害がない限り強いて問題視はされていない多くの利用(tolerated use)を、萎縮させる恐れがある。(中略)権利者ではなく警察・検察に手続きの主導権が移り、第三者通報などにより摘発・起訴がされる可能性を高めるからである」

 この措置が追い詰めるのは、二次創作を楽しんでいる同人作家だけではない。というのも、二次創作は、コミケを一回開催するだけで、グッズ、書籍の売り上げだけでも140億円程度になるという巨大市場だからだ。しかも、その存在は、世界第2位、年間12兆円の市場規模を持つ日本のコンテンツ産業のすそ野を支える役割も担っている。出版関係者もこう懸念を表明していた。

「最近のマンガ家は同人出身者がすごく多い。二次創作がなくなると、日本のコンテンツ産業を支えるクリエイターが育たなくなる。それに、二次創作のおかげでオリジナルのマンガやアニメが盛り上がってきた部分がありますから、それが禁じられると、マンガやアニメの売れ行きが一気にしぼんでしまう可能性がある」(出版関係者)

 ようは、日本のクールジャパン戦略の中核となっているマンガ、アニメなどのコンテンツ産業にとっても大打撃になるというわけだ。

 もっとも、これについては、現在では楽観論が広がっている。まずは、「市場における原著作物の収益性に大きな影響を与えない場合はこの限りではない」という合意内容を受けて、日本経済新聞が10月25日付紙面で「政府が発表した合意内容によれば、もとの作家の収益に大きく響かなければ摘発対象にはならない。パロディー誌やコスプレは当面、お上から狙い撃ちされずに済みそうだ」との見方を報道。

 11月4日に開催された、文化審議会著作権分科会の法制・基本問題小委員会が行った権利団体からのヒアリングでも、慎重な運用を求める意見が続出。これを受けて、文化庁の著作権課は著作権侵害の非親告罪化について、「二次創作物は除外される」との見通しが示している。

 だが、これでコミケの危機が去った、と見るのはまだ早計であろう。というのも、前出の文化審議会小委員会の委員は「非親告罪化は限定的な方向で進めるべきだが、『公訴提起に当たっては権利者の意見を聞く』など、条文化は難しいだろう」とも語っているからだ。

 つまり、条文に明文化されない以上、非親告罪化が決まってしまえば、いくらでも恣意的な運用が可能になる。

 しかも、日本の場合は、TPPで著作権の非親告罪化を押し付けてきたアメリカとちがって、フェアユース条項がない。アメリカは著作権が非親告罪であるとはいえ、「著作権者の許諾なく著作物を利用することにたいして、その利用が公正な利用であるならば、それは著作権の侵害にあたらない」とするフェアユース条項があり、表現の自由に配慮した制度も作られている。だが日本ではそのような制度は議論されていないまま、ただ、非親告罪化だけが進むのだ。

 文化庁が二次創作物を除外する方針を打ち出したのは、前述のように、クールジャパン戦略を支える重要な存在だからであって、状況によってはいくらでも、解釈を変える可能性がある。

 とくに、懸念されているのが、著作権の非親告罪化を担当する文科省の責任者が、馳浩文科相、義家弘介文科副大臣というコンビだという点だ。彼らはそれぞれ青少年有害社会環境対策基本法案の成立を推進する表現規制派。この非親告罪化を利用して、性表現の規制に乗りださないとも限らない。

 そう考えると、今回の危険性は二次創作物への規制にとどまらないだろう。自民党の表現規制派が著作権の非親告罪化を利用して、自分たちを批判するメディアが告発していくという可能性もなくはない。たとえば、ちょっとしたミスで、別のメディアの記事や写真を無断使用したものをあげつらい、刑事事件化することも可能になるのだ。
 
 そもそも、著作権の非親告罪化などという表現をめぐる非常に重要な問題が、なぜTPP交渉という密室の中で決められなければいけないのか。TPPは日本国内の産業だけでなく、民主主義をも破壊しようとするものだ。
(高幡南平)

最終更新:2018.10.18 04:10

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