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東京五輪エンブレム「原案」公開で新疑惑…佐野研二郎が説明していたコンセプトは嘘だった! 出来レース説も再燃
28日に公開された原案と最終案(YouTube「ANNnewsCH」より)
東京五輪エンブレム問題は、あがけばあがくほど、泥沼にはまりこんでいくようだ。
28日、大会組織委員会が記者会見を開き、佐野研二郎氏が最初に提出したという原案を公表した。組織委によると、コンペで104点の中から選ばれたのは、この原案だったが、商標登録に向けて世界中の商標を調べたところ、海外の企業の商標と類似点があったため、佐野氏に作品の修正を依頼。2回の修正を経て、現在の最終案ができあがったのだという。
つまり、組織委はこの原案を提示することで、「リエージュのマークにはまったくない特徴がいくつもあるから、オリジナルだ」と弁明したというわけだ。
たしかに、組織委の公開した原案はリエージュのマークとはまったくちがうものだ。そもそもLに見える右下のセリフ(文字のハネ)がなく、逆に右上に現在のエンブレムにないセリフがある。アルファベットのTそのままの形をしている。そして、セリフの内側は現行の曲線とはちがい直線で、三角形になっており、赤い丸も向かって右上ではなく、右下にある。
しかし、だからといって、リエージュ側の弁護士が言っているように、これはパクリではないという証明にはならない。なぜなら、この原案はリエージュのロゴともちがうが、現在の東京五輪エンブレムとも色以外はまったくちがうものだからだ。微修正なら説得力もあったかもしれないが、ここまで別物に変わっていると、修正の過程でリエージュを参考にした可能性は排除できないだろう。
しかも、この原案公開は新たな疑惑を生じさせることになった。それは、佐野氏と組織委が説明していたデザインの「コンセプト」が真っ赤な嘘だった、という問題だ。
佐野氏と組織委はまず、エンブレム発表時、セリフ(ハネ)の内側の曲線をつなげると円になることを強調し、それが1964年に亀倉雄策氏がつくった東京五輪のエンブレムを継承するもので、「すべてを包む大きな円はインクルーシブな世界を象徴する」と説明。さらに日の丸のような右上の小さな赤い丸を「ハートの鼓動」を表す、としていた。
それは、リエージュからデザイン盗用の告発を受けて開いた記者会見でも同様で、佐野氏はセリフ(ハネ)の内側の曲線をさしながらこう説明していた。
「ここがアールになっていまして、ここに今、円的なものが入っていると思うんですけれども、僕は、亀倉雄策さんが1964年の東京オリンピックの時に作られた大きい日の丸というものをイメージさせるものになるんじゃないかなと思いまして、単純に『T』という書体と『円』という書体を組み合わせたようなデザインができるのではなかろうかということを思いました。そこで作ったロゴが、今回のこの東京オリンピック・パラリンピックのエンブレムになります」
「ここ(左上)のハネの部分は、この大きい円の周りの部分を使っているものです。で、右下にこれを反転して使っているようなものとしてデザインしています」
また、赤い丸についても、「赤い丸なんですけど、鼓動をちょっとイメージしたような形で左上に置かさせて頂いています」「(だから)心臓の位置に置きたいと考えました」と語っている。
そして、佐野氏と同業のアートディレクターやデザイナー、あるいはデザイン研究者たちが、佐野氏をこぞって擁護した際も根拠にしたのが、この「コンセプト」だった。彼らはしたり顔で言っていた。
「佐野さんは亀倉さんの日の丸のデザインから発想しており、成り立ちがリエージュのロゴとはまったくちがう」
「たんに形が似ているというだけで盗作だと言う人はデザインのことがまったくわかっていない」
しかし、今回、組織委が公開した原案では前述したように、セリフ(ハネ)が三角形で内側が直線のため、それをつなげても円にはならない。デザインの出発点であるはずの「亀倉雄策の大きい日の丸」「インクルーシブな世界を象徴する大きな円」がどこにもないのだ。
また、鼓動をイメージし、心臓の位置においたはずの赤い小さな丸も、原案では心臓の位置ではなく、下にある。
とにかく、原案は説明されていたコンセプトからは絶対に生まれないものなのだ。そんなところから、ネットでは、リエージュとちがうものだと強調するため嘘の原案を公表したのではないかという説も流れている。
しかしこれは審査段階で複数の審査委員が見ているのだから、ありえないだろう。
とすると、考えられる可能性はひとつ。もともとちがう発想でエンブレムをつくっていたのに、途中でまったく別のデザインにつくり直し、後付けでコンセプトをくっつけたということだ。
素人から見ると、「え、コンセプトってそんないい加減なものでいいの?」とびっくりするが、実際、デザイン業界のコンセプトというのはこういうものらしい。
「最近の広告業界では、デザインそのものよりも文脈のほうが重要視される傾向にあり、説明能力の高いデザイナーが重宝される。でも、実際はデザインなんてコンセプトありきでロジカルにつくれるもんじゃない。だから、なんとなくいろんな形をつくってみたり、アシスタントにアイデアを出させて、どれを採用するかを決めてから、後付けで無理矢理、理屈をくっつけるんです」(広告業界関係者)
しかし、今回に関しては、話は別だろう。佐野氏の原案は東京五輪という国民の税金も投入される世界的な公共イベントのエンブレムコンペで104点の中から選ばれたものだった。それを、選考後にコンセプトからしてまったくちがうものにつくりかえ、あたかも最初からのコンセプトであったかのように演出したのだ。そんなことが許されるのだろうか。
疑問はコンペそのものにも注がれている。そもそも、コンペ選考後にコンセプトのまったくちがうデザインに変更することが可能なら、そのコンペに意味がないからだ。実際、修正を加えた最終案については、8人の審査委員のうち1人が「真剣に検討し、選んだのは原案だった」として承諾しなかったという。
そんなところから、“出来レース”説も再燃している。もともと、ネットでは佐野氏の採用について、身内の情実採用ではないかという疑惑が広がっていた。
根拠となったのは、まず、コンペの審査委員長が札幌冬季五輪のデザイナーである永井一正氏だったことだ。永井氏の子息は佐野氏と同じ多摩美術大学出身で、博報堂を経て同美大の教授に着任しているのだが、佐野氏も同じように博報堂から多摩美教授に就任している。また、審査員には、博報堂時代の佐野氏の部下だった長嶋りかこ氏も入っており、彼女が「毎日デザイン賞」を受賞したとき、佐野氏が調査委員をつとめていたことも指摘された。
さらに、佐野氏は日本ラグビー協会のポスターも受注しており、森喜朗会長とも接点があること、佐野氏の実兄が経産省の商務情報政策局情報経済課長であることも取沙汰され、「政府からの根回しもあったのではないか」という噂まで流れた。
とはいえ、これらはただの憶測、確証バイアスにすぎず、さすがに出来レースはないだろうと筆者も当初は思っていた。しかし、今回、発表された経緯を見ていると、あまりに不公平で、佐野研二郎というデザイナーを選ぶためのコンペだったとしか思えないのだ。
しかも、今回、組織委は「商標と類似点があったためデザインを修正してもらった」としながら、実際はそれだけが理由ではなく、1回目の佐野氏の修正案を「躍動感がない」としてさらに最終案に修正させている。つまり、最終デザインは佐野氏と組織委サイドの合作とも言えるかたちで進んでいるのだ。
審査委員長の永井氏はインタビューで「大会組織委員会の依頼で何度か施した。審査委員に修正過程は伝わっていない」と答えていたが、デザインの専門家ではない組織委に「躍動感がない」などの修正指示が可能なのだろうか。もしかしたら、佐野氏は最終案をサジェスチョンした別の誰かをかばっているのではないか、そういう疑念も頭をもたげてくる。
いずれにしても、東京五輪をめぐる疑惑は解明されたとはまったく言いがたい。佐野と大会組織委は自分たちに都合のいい情報を小出しに出すのでなく、審査や修正の過程をあらいざらい公開するべきではないだろうか。
(田部祥太)
最終更新:2015.08.31 12:08
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