北茨城市で3人の子どもに甲状腺がんの診断、千人に1人の有病率! それでも子どもの健康調査を拒む安倍政権の棄民政策

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8月だけで3名の作業中の死者をだしている福島第一原発。東電は仕事とは無関係として詳細を明かしていない(YouTube「FNNLocal」より)


 福島第一原発事故から4年半。被ばくによる健康被害が水面下でしきりに囁かれているが、メディアで表立って報道されることはほとんどない。

 ところが、25日、福島県に隣接する茨城県北茨城市がひっそりと、しかし、重大なデータを公開した。ホームページの新着情報には、「北茨城市甲状腺超音波検査の実施結果について(2015年8月25日 まちづくり協働課)」とだけ書かれており、目立たないため気づきにくいものだ。しかしそこに書かれた内容は重大なものだった。

 なんと北茨城市で子どもの甲状腺がんの調査の結果、昨年1年で3名が甲状腺がんだと診断されていたのだ。これが何を意味するのか。その詳細を説明するためにも、まず、福島第一原発事故後の子どもの甲状腺がん診断状況を振り返りたい。

 小児甲状腺の検査はすでに4年前から福島県で実施されている。チェルノブイリ原発事故で子どもたちの甲状腺がんが急増したことから、福島でも調査する必要があるとの議論が起こり、「福島県県民健康調査」と称して、福島県と政府が連携するかたちで11年10月から始まった。

 今年5月、その「福島県県民健康調査」で甲状腺検査に関する中間とりまとめが以下のように報告された。

〈震災時福島県にお住まいで概ね18歳以下であった全県民を対象に実施し約30万人が受診、これまでに112人が甲状腺がんの「悪性ないし悪性疑い」と判定、このうち、99人が手術を受け、乳頭がん95人、低分化がん3人、良性結節1人という確定診断が得られている。[平成27年3月31日現在]〉

 ようするに、がんと確定診断された子どもは98人、単純計算で実に約3000人に1人が甲状腺がんであったというわけだ。これは驚くべき数字だった。

実は、福島県の調査が開始される数か月前の11年6月12日、「県民健康調査」関係者ミーティングが開かれた。その議事メモには「小児甲状腺がん 年間発生率:人口10万人あたり約0.2名(本邦欧米とも)」との記載がある。つまり、通常の発生率は50万人に1人なのだ。それが福島では3000人に1人の有病率。発生率と有病率は単純には比較できないとしてもあまりに差がありすぎる。

 しかし、この数字は大きな騒ぎにならなかった。というのも、福島県民健康調査検討委員会が5月の中間とりまとめで、被ばくによる影響の可能性もあるとしながらも、過剰診断の可能性が高いと指摘したからだった。

〈こうした検査結果に関しては、わが国の地域がん登録で把握されている甲状腺がんの罹患統計などから推定される有病数に比べて数十倍のオーダーで多い。この解釈については、被ばくによる過剰発生か過剰診断(生命予後を脅かしたり症状をもたらしたりしないようながんの診断)のいずれかが考えられ、これまでの科学的知見からは、前者の可能性を完全に否定するものではないが、後者の可能性が高いとの意見があった〉

 甲状腺がん多発の原因は、福島での原発事故による“被ばく”なのか、命の危険のないがんを過剰に診断したものか。この議論は今も結論は出ていない。福島県の調査と検討は今も続けられていて、次回の会合は今月31日に開かれる。

 しかし、結論が出るのを待っていては手遅れになる可能性もある。政府がまずやるべきは、徹底して健康調査を行うことだろう。政府の関与する調査は福島県でしか行われていないが、専門家は近隣県についてもフォローアップが必要だと指摘している。

 厚生労働省の研究費で去年行われた「福島県甲状腺がんの発生に関する疫学的検討」という研究報告が、こう結論づけている。

〈●福島第一原子力発電所の近隣他県(茨城県)での状況についてもフォローし、症例把握の努力をする必要がある。 確実に甲状腺がん症例の把握をすることが重要である。
 ●そのために、平成28年1月より義務化されるがん登録制度を活用することが有効である。がん登録を推進し、福島県と周辺の県については、がん登録と県民手帳(被ばく者手帳)を 組み合わせフォローアップする必要がある〉

 また、この研究に参加した岡山大学の津田敏秀教授は以前からこう主張していた。

「放射性プルームという放射性物質を帯びた雲の流れというのは、事故の際、福島県の県境で止まったわけではありません。福島県と隣接したところも、福島県の調査に近い小児甲状腺がんの多発が起こってる可能性があります。早く症例把握をすべきです。早ければ早いほど良い。福島県と近隣県については、がん登録を充実させて、可能なら広島、長崎でやってるような被爆者手帳のようなものを作って、健康のフォローをすべきだと思います」

 実はこの問題は、国会でも論議になっていた。今週24日の参院予算委で、渡辺美知太郎議員が望月義夫環境大臣にこんな質問をしたのだ。

「福島県外で子供の健康調査を行わない理由というのが、福島県内より被ばく線量が、特に甲状腺への放射性ヨウ素による被ばくが福島県内より低いとしていることしか根拠がなくて、科学的根拠が少し薄いのではないかと思っております。また、福島県民健康調査検討委員会では福島県での甲状腺がんの発生については、原発事故によるものではないとは言い切れないと中間とりまとめを出しておりまして、つまり簡潔に申し上げますと、福島県での甲状腺がんの発生、これはまだ慎重に考えるべきだという立場です。そして、福島県外でも線量が低いからやらなくてもいいよというのは、わたくしはこれ、いささか乱暴な話ではないのかなと思っています。せめて希望者だけでもですね、子供の健康調査をやっていただけないか、再度環境大臣に伺いたいと思います」

 ところが、これに対する答弁は、なんとも冷ややかなものだった。望月大臣はまず、こう切り出した。

「福島県外の近隣ではですね、有識者会議による検討の結果、特別な健康調査等は必要ないという見解が、まず取りまとめられております」

 望月大臣のいう“有識者会議”とは、環境省に設置されている「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」という会議体のことだが、これを錦の御旗に近隣県の調査必要なし、と突き放したのだ。

 さらに、望月大臣は近隣県で一律に甲状腺検査をすると「偽陽性」、つまり、がんがないにもかかわらず検査で陽性と判定されるおそれがあり、福島での調査でもいくつか偽陽性の事例が出ていたこと、その場合、子供やその親に心配をかけること、などの理由を並べ、近隣県の調査への慎重姿勢を崩さなかった。

 しかし、この答弁は明らかにおかしい。そもそも「有識者会議が近隣県の調査は必要ないと取りまとめた」というのは事実ではない。その環境省の“有識者会議”が出した去年12月の中間とりまとめには、福島近隣県については「偽陽性等に伴う様々な問題を生じ得ることから、施策として一律に実施するということについては慎重になるべきとの意見が多かった」との記載もあるが「事故初期の被ばく線量が明らかではない状況は福島県内と同じであるから、福島県内と同様、子どもに対する甲状腺検査等を福島近隣県でも行政が実施すべきである」との意見の記載もある。

 また、福島の調査で「偽陽性」の事例が出たというが、5月に出された福島での中間とりまとめをもう一度見てみる。甲状腺がんの「悪性ないし悪性疑い」と判定されたのは112人。そのうち確定診断が出たのは手術を受けた99人。その内、良性結節、つまり悪性ではなかったのは1人だけである。

 明らかに政府は、福島の子どもの健康被害を矮小化し、近隣県の調査をやらずにすますためのごまかし答弁を行っているのだ。

 しかし、望月大臣が棄民的姿勢を明らかにした翌日の25日。冒頭の北茨城市のデータが公開されたのだ。公表文は以下のようなものだ。

〈北茨城市では、平成25・26年度の2年間で「甲状腺超音波検査事業」を実施いたしました。(事業費:37,173千円) 対象者は、福島第一原子力発電所の事故当時、0歳から18歳までの市民であり、平成25年度は、そのうち0歳から4歳までのお子さんを対象に検査を実施、 平成26年度は、それ以降のお子さん達の検査を実施いたしました。 今回、その検査結果について、専門家や医師を含む委員で構成された「北茨城市甲状腺超音波検査事業検討協議会」より、 ① 検査は「スクリーニング検査」であり、通常の健康診断と同様、一定の頻度で「要精密検査」、「がん」と診断される方がいらっしゃること ② 平成26年度の精密検査の結果、3名が甲状腺がんと診断されたこと ③ この甲状腺がんの原因については、放射線の影響は考えにくいこと などの報告がありました〉

〈平成26年度の精密検査の結果、3名が甲状腺がんと診断された〉とさらっと書かれ、しかも福島での検討委員会と同じように、放射線の影響は考えにくいとわざわざ注釈をつけているが、これは、とんでもないものだった。

 なぜなら、北茨城市の平成26年度調査の受診者は3593人だからだ。そのうちの3人ということは単純計算で1197人に1人という有病率。福島の5月中間とりまとめの3000人に1人よりも2.5倍の数字だ。

 細かいデータも福島の数値を上回っていた。同じ平成26年度調査の受診者数3593人中、二次検査が必要とされるB、C判定が74人(2.06%)。条件が異なるので単純に比較できないが、福島での5月の中間報告では受診者数148027人中、B、C判定は1043人(0.9%)。北茨城市の方が倍以上だ。

 これが意味することは重大だ。津田教授は、この北茨城市のデータについてこうコメントを寄せている。

「2014年度ですので、福島県内のいわき市より1年後の検診です。2013年度に検診が行われたいわき市でもはっきりとした多発が見られております。その1年後に行われた検診により、いわき市と隣接した北茨城市において、それ以上の割合で、甲状腺がんが検出されることに何の不思議もありません。放射性ヨウ素により極めて効率よく甲状腺がんを多発させることが知られていますし、さらに放射性ヨウ素は原発の南方向に流れたことが様々な情報から指摘されています。福島県で原発事故による甲状腺がんの多発を裏付けるデータがまた1つ積み重ねられたと言えます。福島原発事故による放射線の影響とは考えにくいという判断は根拠ないどころか、これまでの根拠と反します。茨城県においても早急に症例把握が必要です」

 つまりこの北茨城市の調査結果によって、甲状腺がん多発が、政府と福島県のいうような過剰診断によるものではなく、被ばく原因である可能性が一段と高まった。しかも、その健康被害が近隣県に広がっていることも明らかになった。

 政府は一刻も早く近隣県の本格調査を実施するとともに、福島のがん診断者へのケアを充実させるべきである。
(松崎 純)

最終更新:2015.08.28 05:18

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