保守系学者までが違憲と…「安保法制が合憲」だという憲法学者は3人しかいなかった?

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安倍晋三首相は違憲もお構いなしか!?(首相官邸ホームページより)


 安保法制は憲法違反だ──。昨日4日に開かれた衆議院憲法審査会に招致された3人の憲法学者全員が、現在、国会で審議中の安保法制を「違憲」であるとし、安倍政権に牽制をかけた。

 しかも、招致されたひとりである長谷部恭男・早稲田大学法学学術院教授は自民党と公明党、次世代の党が推薦した憲法学者。しかし、長谷部氏は集団的自衛権の行使容認を「従来の政府見解の基本的枠組みでは説明がつかず、法的安定性を大きく揺るがす」「外国軍隊の武力行使と一体化する恐れが極めて強い」と、安保法制の危険性をはっきりと指摘。憲法の専門家である学者たちにとって安保法制は現行憲法を無視したナンセンスなものであることが白日のもとにさらされた格好だ。

 だが、こうした事実を断固として拒絶したのは、もちろんこの方、菅義偉官房長官である。同日4日に行われた会見で菅官房長官は「法的安定性や論理的整合性は確保されている。まったく違憲との指摘はあたらない」「憲法前文、憲法第13条の趣旨を踏まえれば、自国の平和を維持し、その存立をまっとうするために必要な自衛措置を禁じられていない」と、国会に招致した憲法学者たちの見識を批判しはじめたのだ。……いや、誰もあなたの憲法解釈など訊いていないし、第一、彼は司法試験でも受かったことがあるのだろうか。

 しかも驚くことに、菅官房長官はこうも言い切ったのだ。

「まったく違憲でないという著名な憲法学者もたくさんいる」

 じゃあ、その憲法学者を呼んだらよかったじゃん!とツッコミたいところだが、しかし待て。ほんとうにそんな人物が、たくさんこの世に存在するのだろうか。

 そもそも今回の参考人選定では、自民党は長谷部氏ではなく、党とのつながりもあり憲法学の権威と称される佐藤幸治・京都大学名誉教授を呼ぶ予定だったという。しかし、その佐藤氏も、安保法制について「丁寧な審議を通じて事柄の内容と問題点を国民に明らかにしないままに突き進むとすれば、日本の議会制・立憲主義の将来にどのような結果をもたらすか大変心配している」(朝日新聞/6月1日付)と発言している。自民党は、佐藤氏の招致断念の理由を“調整がつかなかった”と説明しているが、じつのところ、佐藤氏のこうしたスタンスを知って、改憲派の長谷部氏に鞍替えしたのではないのか。

 “自分たちの味方だ”と思い込んでいた佐藤氏や長谷部氏といった保守系憲法学者からもことごとく安保法制にNOを叩きつけられる。──これが安倍政権の置かれた現状なのだが、しかし、菅官房長官は「違憲でないという著名な憲法学者もたくさんいる」と言った。では、その著名な憲法学者とやらは誰なのだろう。

 だが、いくら考えても調べても、思いつくのはせいぜい3名しかいない。それは、西修・駒澤大学名誉教授と、百地章・日本大学教授、そして八木秀次・麗澤大学教授だけだ。参考人として国会に呼ばれた憲法学者のひとりである小林節・慶應義塾大学名誉教授も、昨日の審議会後に「日本の憲法学者は何百人もいるが、(違憲ではないと言うのは)2、3人。(違憲とみるのが)学説上の常識であり、歴史的常識だ」(朝日新聞より)と語ったというが、きっと小林氏の頭のなかにもこの3名の顔が浮かんだはずだ。

 しかも、この3名は揃いも揃ってかなりのトンデモ発言を連発している面々なのである。

 まず、西氏と百地氏は、2013年に産経新聞が発表した憲法改正草案「国民の憲法」の起草委員でもあるのだが、この中身が凄まじい。「日本は立憲君主国と国柄を明記」にはじまり、「天皇は元首で国の永続性の象徴」「国の安全、独立を守る軍を保持」「家族の尊重規定を新設」「国民は国を守る義務を負う」などなど、自民党の改正草案以上の戦前回帰ぶりなのだ。この改正案からは西氏と百地氏のイデオロギーがありありとわかるが、実際、西氏は今年3月に開催された講演会でも「平和主義は日本だけのものではなく、非常事態に国民の権利を一部制限して対処することも当たり前になった」と発言。百地氏も「例えば国家そのものが存亡の危機にある場合、国益、国民全体の利益を守るためには、一時的に人権が制限される場合がありうる」(TBS『サンデーモーニング』/13年6月)と述べるなど、国家のために国民の人権も立憲主義も停止する悪名高い“緊急事態条項論”をもちだす始末。彼らの頭には“基本的人権”も“立憲主義”もない様子だ。

 さらに、八木氏については、既報の通り、「正論」(産経新聞社)14年5月号で天皇の護憲発言を取り上げ、「両陛下は安倍内閣や自民党の憲法に関する見解を誤解されている」「両陛下のご発言が、安倍内閣が進めようとしている憲法改正への懸念の表明のように国民に受け止められかねない」と、安倍首相の擁護のためなら天皇をも批判する、保守ならぬ“安倍主義者”というべき論を展開。また、拉致問題解決のための集会後のデモで「全ての朝鮮人を東京湾にたたき込め」というシュプレヒコールが上がったことについても、「外国勢力の関与も疑われる」(「正論」15年1月号)とヘイト丸出しの記述を行っている。

 ──これがまともな憲法学者の態度なのか?と大いに疑問が湧いてくるが、一応、この3名のなかで唯一、憲法学の権威のひとりとされている西氏にしても専門は比較憲法学で、憲法の運用や条文解釈などの専門家ではない。また、西氏は安倍首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」で有識者委員を務めていることから今回の審議会に招致することはできなかったのだろう。一方、百地氏、八木氏にいたっては、「正論」や産経新聞では御用達なので保守界隈では著名なのかもしれないが、憲法学者としての知名度は低く、憲法学者というよりも政治イデオロギーを前面に押し出したタカ派論客、たんなる戦前回帰&ヘイト容認のネトウヨと同レベルの人物でしかない。結局のところ、安保法制を「合憲」と言うのはこの程度のメンツしかおらず、まともに憲法を専門にする学者ならば、とても合憲などとは言えないシロモノなのだ。

 よくもまあこんな散々たる状況で「著名な憲法学者もたくさんいる」と言ったものだが、この菅官房長官の強気な態度と同様、安倍政権は学者たちの投げかけなどは無視して安保法制を強行することは明白だ。

 ただ、今回の審議会における憲法学者3名が違憲としたように、このまま安保法制が国会を通過するようなことがあれば、違憲訴訟が起こるのは間違いないだろう。そこに一縷の望みをかける人もいるかもしれないが、残念ながら、司法はそう期待できるものではない。というのも、もし数多くの権威ある憲法学者が安保法制は違憲だと主張しても、さらには安保法制がどう転んでも「合憲」とは判断できないものだとしても、権力になびいた最高裁は「統治行為論」をもち出して司法審査の対象外として逃げ切ることが予想されるからだ。

 安倍首相はきっとそれを百も承知で、国会ですべての決着がつくと高を括っている。知の力でもこの暴走を止められないとなると、今後、日本はどうなってしまうのだろうか。
(水井多賀子)

最終更新:2015.06.06 12:05

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