京大院生がキャバ嬢体験を論文に! キャバ嬢の“病み”の原因とは

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『キャバ嬢の社会学』(星海社新書)

 数年前、女子高生のなりたい職業ナンバーワンに「キャバクラ嬢」が躍り出て世の中を騒然とさせたことがあった。ドレスで着飾り、頭を“盛る”スタイルがギャル文化とマッチしたことが大きかったと思うが、現在においても大学生やフリーターにとってキャバ嬢人気は決して低くない。それはやはり、華やかな気分に包まれつつ手軽にアルバイト感覚で高収入を得られると思われているからだろう。

 しかし、“アルバイト感覚のキャバ嬢なんてちょろい”と本気で考えているとしたら、大間違いだ。少し前、同志社大学から京都大学大学院に進学した超高学歴女子大生が自らの体験をもとに、キャバクラ論を出版したのだが、これを読むと今まであまり語られなかったキャバ嬢という仕事の難しさが伝わってくる。

 問題の本は『キャバ嬢の社会学』(星海社新書)。著者の北条かやは当時、22歳の「垢抜けないガリ勉」女子大生だった。援交やセックスに興味はあるけれど、潔癖で「若い女」のメリットを享受する周囲の女性に懲罰意識を持ち、そしてキャバ嬢を差別していた。そんな北条が大学院に進学が決り、突如キャバ嬢になることを決心する。「性の商品化」に興味を持ち、修士論文のテーマにしようと思ったからだ。

 だが、こうしてキャバ嬢になった北条を待っていたのは、予想以上にスリリングな日々だった。キャバクラには客からの“指名”数という絶対的な価値基準があり、それがキャバ嬢のヒエラルキーを形成する。しかも、情報が公開されることで、キャバ嬢たちは競争を煽られる続けるのだという。

「指名本数やドリンク杯数といった『成績ランキング』は毎日、在籍している全キャストの携帯に送信される」(本書より)

「指名」はキャバ嬢にとって女として認められること。それが女の闘争心に火をつける。しかもその競争は“ギャラ”という形で目に見えて自分に跳ね返ってくる。そのため「指名」競争がゲーム感覚になり、次第に“指名取りゲーム“に夢中になっていくシステムなのだ。

 当初は 女が商品となることを嫌悪し、とまどっていた北条だが、しかし次
第にこのゲームにのめりこんでいく。「『女らしさ』や『若さ』がカネになる」「キャバクラで自分が『商品』になってみなければ分からないことがある。それは『カオとカネの交換システムの寂しさ、くだらなさ、そして、魅力』だ」と。

 だが、その一方で、北条はキャバ嬢がある意味、クラブホステスよりも苛酷であることに気づいていく。それはズバリ、客の恋愛感情への対処だ。「おもてなしのプロ」としての意識や会話術が求められ、指名競争でも「高いノルマ」が設定されているクラブホステスとはちがって、キャバ嬢の接客には高度なスキルや豊富な話題などはほとんど必要ない。ノルマもなかったり緩かったりするケースがほとんどだ。いわばほとんどのキャバ嬢は素人の意識のままでやっているのだが、しかしその素人っぽさが逆に客の“恋愛感情”を引き出してしまうのだ。

「家どこ?」「お店より家に行きたい」「今日、会いたいよ」

 キャバ嬢は大半の客からこんな誘いを受けるようになるのだという。店側ももちろんこれは織り込み済みで、彼女達の素人っぽさを利用して客に恋愛感情を起こさせ、店に足を運ばせようと考えている。

 しかし、ほんとうにキャバ嬢と客が恋愛関係になってしまったら店側は困るし、そもそもキャバ嬢たちにもそんな気ははない。かといって、客に目がないと思われてしまったら、通ってもらえなくなる。だから、客の恋愛感情にうまく対処する能力がキャバ嬢には求められるのだ。

 これはかなりのテクニックが必要だが、そのために、さまざまなマニュアルも存在するらしい。たとえば、「あらかじめ『偽の設定』を細かく決めておく」という。本名を教えたくなければ別の名前を用意し、誕生日も、住所も昼の職業も設定。また同居人がいなくても親と住んでいる、姉妹や友人と住んでいることにしたり、彼氏も「いるけど別れようとしている」「誰かいい人いないかな」という言い回しが好まれるらしい。

 また、店外デートを断るためのこんな文章マニュアルもあるらしい。

「嬉しいけど、まだお店に入ったばかりで止められているの。よくなったらこっちから誘っていい?」

 こうやって“偽”の自分を演出しながら、客との関係性を築かなければならない。しかし、「店外デートではなく、店にきてもらえる」ことがキャバ嬢にとって至上命令である以上、どこかでは「私はキャバ嬢であり、あなたはキャバ嬢の客である」ということを認識させなければならない。でも、認識させながからも客の恋愛感情はキープさせていく必要がある。

 彼女たちの本心は「客からの恋愛感情は重荷」なのだが、表面上はそれを客に気づかせてはいけない。「その気持ちを上手に『応援型』『ファン』のような形に持って行く」ことが大切なのだ。

「私はキャバ嬢だけど、あなたを騙す『悪いキャバ嬢』じゃない。ホントは『普通の女の子』。でも、やっぱり『キャバ嬢』なの。本気の恋愛感情は抱かないで。お金を落としてね」

 まるでどこかのアイドルグループを彷彿とさせるような手法だが(というか、たぶんアイドルグループのほうがこの手法をまねたのだろうが)、「あくまでお仕事で、お金のため」というキャバ嬢と、「素人だからあわよくば本当の恋愛に」という客の心理的矛盾、ギャップはキャバ嬢にとってかなりのストレスになるらしい。

 その結果、どうなるのか。実はキャバ嬢たちの多くは“病む”のだという。北条は同書でこう書いている。

「私はトイレや更衣室で泣いているキャストを幾度も目にした。彼女たちが流す涙の原因はよく分からないことが多かったが、キャバ嬢という仕事には、ストレス=『病み』がつきものである」

 素人であって素人でない。キャバ嬢であってキャバ嬢でない。恋愛感情を持たれないといけないが、持たれたくない。自分のプロフィールもウソ。矛盾する客や店側のリクエストに応え、“演出”を続けていくうちに、それに耐えられず「多くのキャストは精神を『病み』、仕事を辞めていく」のだという。

 安易で華やか──そんなイメージのキャバクラの世界だが、人間は実際にはそんなに簡単に割り切れるものではない。当たり前の話だが、風俗的な話題の裏側では生身の女性の苦悩が存在するのである。
(伊勢崎馨)

最終更新:2018.10.18 05:38

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