公選法違反疑惑浮上の斎藤知事「SNS戦略の企画立案は依頼していない」の言い訳は通用するか? 削除されたPR会社社長の投稿を検証

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さいとう元彦公式サイトより


 斎藤元彦氏が再選を果たした兵庫県知事選だが、ここにきて斎藤知事に「公職選挙法違反」の疑惑が浮上、大きな話題を集めている。

 事の発端は11月20日、兵庫県西宮市にオフィスを構える広報・PRコンサルティング会社「merchu」代表である折田楓氏が「兵庫県知事選挙における戦略的広報」というタイトルで斎藤陣営のSNS展開の内幕をつづった文章を「note」に投稿。折田氏は「斎藤知事に広報全般を任せていただいた」「私が監修者として、選挙戦略立案などを責任を持って行い運用していた」などと書いていたのだが、この内容に対し、ネット上では「これを有償で引き受けていたら公選法の買収罪にあたるのではないか」と指摘が相次いでいた。

 そうしたなか、斎藤知事は22日午後、報道陣の取材に「法に抵触することはしていない」と主張。斎藤知事の代理人弁護士も、以下のように回答をおこなったのだ。

「SNS戦略の企画立案などについて依頼をしたというのは事実ではありません。あくまでポスター制作等法で認められたものであり相当な対価をお支払いしております。公職選挙法に抵触する事実はございません」

 折田氏は「斎藤知事に広報全般を任せていただいた」「私が監修者としてSNSの運用戦略を立案した」として成果を誇っていたのに、かたや斎藤知事側は「SNS戦略の企画立案などは依頼していない」と真っ向から否定したのだ。

 だが、斎藤知事側の主張は、明らかに無理がある。その「無理筋ぶり」を知ってもらうためにも、折田氏がネット上でどんな投稿をおこなってきたのか、ここであらためて検証していきたい。

 先述したように、問題のきっかけとなったのは、折田氏が公開した「note」記事だった。東京都知事選では15万票を獲得したAIエンジニアの安野貴博氏の陣営がデジタルを活用した選挙戦の内幕を「note」を通じて公開し注目を集めたが、折田氏もそれに触発されたのか、自身が立案・展開したSNS戦略の詳細を投稿した。

 しかも、現在は削除されているが、当初は〈大逆転での勝利を掴むことができて本当に良かったと嬉しく思います〉〈ドラマチックすぎる出来事でしたので、いつか映画化されないかななんて思っています!笑〉などとも綴っており、斎藤氏を勝利に導いた自身の手柄を誇りたいという意識が随所に表れていた。

 この折田氏の投稿には、三浦瑠麗氏や田端信太郎氏でさえ〈斎藤知事陣営の広報の件、まあ素人が増えたんだろうなあ〉〈例の斎藤知事「私やりました」のPR屋さん。倫理的にどうこうは別にして私利私欲のため仕事欲しさからアピールしたとしても、「バカ丸出し」〉などと批判し、斎藤氏に擁護的だった人々からも苦言が呈される事態となっていた。

 だが、こうした表面的な「広報担当としての振る舞い」を批判する声の一方で巻き起こったのが、問題の本質部分となる「公選法違反ではないのか」という指摘だった。

選挙運動の企画立案を行なった業者に報酬を支払うと「公選法違反」になる

 まず大前提として、公選法では選挙運動員は原則ボランティアと定めており、報酬を支払うと買収罪となりうる。たとえば車上運動員や手話通訳者などは選挙管理委員会に届けを出すことで報酬を支給でき、事務員についても同様に届けを出せば報酬を支払うことができるが、選挙運動をすることはできない。

 さらに総務省が公開している、ネット選挙運動の解禁に際して「インターネット選挙運動等に関する各党協議会」が改正法の解釈や適用関係などを整理したガイドラインでは、「業者(業者の社員)に、選挙運動用ウェブサイトや選挙運動用電子メールに掲載する文案を主体的に企画作成させる場合、報酬を支払うことは買収となるか」という問いに対し、以下のような回答がなされている。

答え:
1 一般論としては、業者が主体的・裁量的に選挙運動の企画立案を行っており、当該業者は選挙運動の主体であると解されることから、当該業者への報酬の支払は買収となるおそれが高いものと考えられる。

2 なお、選挙運動に関していわゆるコンサルタント業者から助言を受ける場合も、一般論としては、当該業者が選挙運動に関する助言の内容を主体的・裁量的に企画作成している場合には、当該業者は選挙運動の主体であると解されることから、当該業者への報酬の支払は買収となるおそれが高いものと考えられる。

 つまり、業者が主体的・裁量的に選挙運動にかんする企画の立案・作成をした場合、業者は選挙運動員とみなされ、報酬を支払うと買収になるおそれがある、というわけだ。

 しかも、買収罪の刑に処せられた者が選挙運動の計画立案などをおこなう「組織的選挙運動管理者」など連座制適用の対象となる役割を担っていたと判断されれば、公職の候補者本人に連座制が適用されることになる。その場合、候補者の当選は無効となり、同一の選挙区から5年間立候補ができなくなる。

 これらの前提を踏まえたうえで、あらためて問題の折田氏の「note」および発信を確認すると、氏の働きぶりはまさに選挙運動員とみなされても仕方がないものだった。

PR会社社長が「note」で「SNSを含む広報全般を任された」「私が監修者として運用戦略立案」

 まず、折田氏は「note」の記事において、冒頭から〈斎藤陣営で広報全般を任せていただいていた立場〉だったと宣言。〈とある日、株式会社merchuのオフィスに現れたのは、斎藤元彦さん。それが全ての始まりでした〉とし、こう記していた。

〈政党や支持母体などの支援ゼロで本当にお一人から始められた今回の知事選では、新たな広報戦略の策定、中でも、SNSなどのデジタルツールの戦略的な活用が必須でした。
兵庫県庁での複数の会議に広報PRの有識者として出席しているため、元々斎藤さんとは面識がありましたが、まさか本当に弊社オフィスにお越しくださるとは思っていなかったので、とても嬉しかったです。〉
〈ご本人は私の提案を真剣に聞いてくださり、広報全般を任せていただくことになりました。〉

 実際、「note」記事では〈merchuオフィスで「#さいとう元知事がんばれ」大作戦を提案中〉というキャプションとともに、斎藤氏が折田氏のオフィスで会議をおこなっている写真を掲載。このとき斎藤知事に提案したという「兵庫県知事選挙に向けた広報戦略のご提案 #さいとう元知事がんばれ」という資料の一部も公開している。

 さらに「note」記事では「SNSアカウント立ち上げ」および「SNS運用」について、このように述べられている。

〈当時、世の中は100%の反斎藤ムード。
一方、少数ではあるものの、Xなどで斎藤さんを応援する声がチラホラ出初めておりました。
プロフィール撮影やコピー・メインビジュアルの作成が完了したタイミングで、【公式】さいとう元彦応援アカウントを立ち上げ、ご本人のSNSアカウントとは別に、応援したい人が集えるハブとして運用を開始しました。〉
〈斎藤陣営が公式として運用していたのは、以下のX本人アカウント、X公式応援アカウント、Instagram本人アカウント、YouTubeです。(中略)私のキャパシティとしても期間中全神経を研ぎ澄ましながら管理・監修できるアカウント数はこの4つが限界でした。〉

 私が全神経を研ぎ澄ましながら管理・監修した。この一文からも、折田氏が斎藤陣営のSNS運用を主導していたことがうかがえる。

 折田氏はこうも綴っていた。

〈私が監修者として、運用戦略立案、アカウントの立ち上げ、プロフィール作成、コンテンツ企画、文章フォーマット設計、情報選定、校正・推敲フローの確立、ファクトチェック体制の強化、プライバシーへの配慮などを責任を持って行い、信頼できる少数精鋭のチームで協力しながら運用していました。写真および動画の撮影については、現地で対応してくださっているスタッフの方々にお願いすることをベースに、私自身も現場に出て撮影やライブ配信を行うこともありました。〉

 SNSの運用を監修し、そのうえ折田氏自身も現場に出て、公式SNSに投稿するための撮影やライブ配信を行っていた──。こうした記述から、ネット上では「これは完全に選挙運動員ではないのか?」「報酬を支払っていたら買収でアウト」という声があがったのである。

 しかも、法律家も同様の見方を示している。実際、「J-CASTニュース」の記事では、弁護士法人ユア・エースの正木絢生代表弁護士が「事務作業に留まらず広報全般を任せているなら、それは単なる事務員などではなく、選挙運動員に当たる可能性が高くなるように思います」「もしも齋藤氏から株式会社merchuにお金が払われていたりしたなら、公職選挙法違反になる可能性があります」と指摘している。

PR会社社長は選挙期間中からYouTube で「SNS運用をやっている」と喧伝も斎藤知事は止めず


 
このように、斎藤氏が折田氏側へのSNS運用に対する報酬を認めた場合は買収罪にあたる可能性が高いため、昨日22日夕方あたりまでは、斎藤氏も折田氏も「無償のボランティアだった」と主張するのではないか、と見られていた。その結果、ネット上ではまるで布石を打つように、折田氏が〈(斎藤氏の広報・SNS戦略を)東京の大手代理店ではなく、兵庫県にある会社が手掛けたということもアピールしておきたいです〉とも記述していたことを踏まえて「仮に折田氏が無償でも、従業員に選挙の仕事をやらせて給与を支払っていればアウト」など先を見越した指摘までおこなわれていた。

 ところが、前述したように昨日午後になって斎藤知事は折田氏の会社とのかかわりについて問われると「一定のサポートをいただいた」としながらも「法に抵触することはしていない」と疑惑を否定。斎藤知事の代理人弁護士も、「(SNSの)デザイン、色使いなどについて意見をいただくこともあった」としつつも、「SNS戦略の企画立案などについて依頼をしたというのは事実ではありません。あくまでポスター制作等法で認められたものであり相当な対価をお支払いしております」と述べた。

 つまり、折田氏側への支払いを認めながらも、それはポスター作成料といった法で認められた対価であり、問題のSNS運用については依頼していない、と主張したのだ。

 ここまで紹介してきたように、折田氏は「斎藤氏が私の提案を真剣に聞いてくださり、広報全般を任せていただいた」と述べ、斎藤氏が折田氏のオフィスでSNS展開の提案について説明を受けている写真まで投稿している。実際、この写真に写っているパソコンモニターには「兵庫県知事選」「SNS戦略」という文字が確認できる。だが、斎藤氏側は「そもそも企画立案なんて依頼していない!」というのである。

 まるで斎藤氏側の主張は「折田氏が自らの手柄を誇大に言いふらした」と言わんばかりだが、しかし、この主張を額面通りに受け取ることは難しい。

 たとえば、折田氏は「note」への投稿だけではなく、自身のYouTubeチャンネル「かえで社長─ズバッといってこチャンネル─」の動画内でも兵庫県知事戦に言及。選挙期間中に収録された動画では、生き生きとこう語っていた。

「兵庫県知事選挙が今週の日曜日17日にあるんですけれども、ちょっとそれにかかわってまして、激忙しい日々を過ごしております」
「広報全般を任せていただいておりまして、ポスターをつくったり、ビラをつくったり、SNS運用をやったり、YouTube運営をやったり、本当にこう選挙って広報の総合格闘技やなっていうふうに思うんですけど、その格闘技の最前線で(パンチを繰り出すようなポーズをとりながら)こうやっている感じで、毎日寝れない感じですね」

 つまり、折田氏は選挙後に手柄を誇示すべく「私が広報全般を任された」「SNS運用をやっている」と主張しはじめたわけではなく、選挙期間中から同じことを喧伝していたのだ。なぜ斎藤陣営はその時点で「虚偽を流布するのはやめて」と注意しなかったのだろうか。

斎藤知事支援の維新市議も「SNSをお願いしていた」とPR会社社長の「note」記事の内容にお墨付き

 斎藤氏側の主張に疑問を抱く理由は、まだある。

 斎藤陣営で斎藤氏を支援してきた維新所属の森健人西宮市議は19日、〈今朝からメディア数社から取材がありました。内容はSNS戦略に関してです。結論、陣営側としてSNSをお願いしていた方はお一人のみです〉と投稿。つづけて〈ご本人から承諾を頂きましたのでお伝えすると下記の方です!〉とリンクを張ってポストしたのだが、そのリンク先は折田氏のInstagramだった。また、森市議は折田氏の「note」が公開された際も、〈今回の選挙においてSNSや紙媒体等担当された方です! 裏話?等、詳しく書いているので是非ご覧ください〉と拡散していた。

 ようするに、陣営内部にいた森市議は、「SNSをお願いした人」として折田氏を挙げ、「SNSを含む広報全般を任された」と主張する「note」記事の内容にお墨付きまで与えていたのだ。

 にもかかわらず、「SNS戦略の企画立案などについて依頼をしたというのは事実ではない」と言い張る斎藤氏側。しかも、気になるのは、ネット上で買収罪の指摘が出始めて以降、“証拠隠滅”の動きがあること。折田氏の「note」記事では多数の箇所で修正・削除がなされ、当初はあった〈(斎藤氏)ご本人は私の提案を真剣に聞いてくださり、広報全般を任せていただくことになりました〉という記述も削除。また、「広報全般を任せていただいておりまして」と語っていたYouTube動画も非公開となってしまった。そのため、ネット上では「斎藤氏側と折田氏側で口裏合わせがおこなわれているのではないか?」というような声も上がっている。

 兵庫県知事戦をめぐっては、稲村和美氏の陣営が選挙期間中に嘘の通報によって旧Twitter上のアカウントが凍結されたとして容疑者不詳のまま偽計業務妨害の疑いで兵庫県警に告訴状を提出したり、攻撃に晒されていた奥谷謙一兵庫県議が「NHKから国民を守る党」立花孝志党首を名誉毀損で刑事告訴するなど、波乱がつづいている。この斎藤陣営の広報・SNS戦略をめぐる問題についても、しかるべき捜査がおこなわれるべきだろう。

最終更新:2024.11.23 01:13

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