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タモリも懸念「新しい戦前」は岸田政権の“防衛増額”から始まる! 元自衛隊幹部も「砂糖の山にたかるアリ」「子どもの思いつき」と批判
首相官邸HPより
「“新しい戦前”になるんじゃないですかね」──昨年末、タモリが『徹子の部屋』(テレビ朝日)が発した、今年の予測についての言葉がSNS上で話題となった。ロシアのウクライナ侵攻を受けての発言ではないかという声も多かったが、むしろ、タモリが語ったのは、日本が戦争に向けて動き始めるだろうという予測ではないか。
実際、岸田政権が閣議決定で決めてしまった安保3関連文書の改定によって、日本は確実に「新たな戦前」に突入したといえるだろう。
ロシアを抜いてアメリカ・中国に次ぐ世界3位となる防衛費の大増額、そして他国の領土を攻撃することを可能とする装備の導入……。先の戦争の反省から築かれた防衛政策をあっさり覆し、「軍事国家」「戦争ができる国」へとかたちを変えようというこの決定は、確実に「新しい戦前」への大きな第一歩を踏み出したと言えるものだ。
しかし、マスコミが「防衛費を増税で賄うか否か」に論点をずらしたせいで、防衛費増額そのものの問題点がかき消されてきた。
新たな年を迎え、今年岸田政権の暴挙に抗うためにも、あらためてこの戦後安保の大転換がいかにナンセンスで危険なものなのか、検証しておこう。
この大転換の肝はいわずもがな、他国の領土を直接攻撃する能力を持つのだと宣言したことだ。
この国は、現行憲法と日米安全保障条約に基づき、日本は専守防衛、アメリカが敵基地攻撃能力を担うという「盾と矛」で役割を分担してきた。これまでの歴代政権も、「平生から他国を攻撃するような、攻撃的な脅威を与えるような兵器を持っているということは、憲法の趣旨とするところではない」「相手から武力攻撃を受けたとき初めて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限る」という立場をとってきた。つまり、他国に直接的な脅威を与える攻撃能力を持つという岸田政権の決定は、戦後日本が堅持してきた専守防衛を一変させることになる。
そして、この敵基地攻撃能力の保有は、国の安全を高めるどころか、危険を自ら呼び込むものだ。
浜田靖一防衛相は12月20日の閣議後会見で、敵基地攻撃能力を行使できるタイミングについて「他国が我が国に対して武力攻撃に着手したとき」と述べている。だが、そんなことが可能なのか。自衛隊の元海将・伊藤俊幸氏はこう述べている。
「巨大な発射台からミサイルが発射されていた時代とは違い、今は移動式発射台(TEL)や潜水艦から突然発射される。もし兆候をつかんだとしても発射の意図や方向が分からなければ、日本への武力攻撃に着手したとは言えない。その段階での反撃は先制攻撃となり国際法違反であり、撃たれる前に敵基地を攻撃するのは不可能だ」(毎日新聞2022年2月9日付)
いや、それどころか、相手国に先制攻撃とみなされれば、逆に日本を攻撃する口実を与え、日本の国土が攻撃に晒されることになる。しかも、日本には海に面して多数の原発が立地している。原発を狙われれば、この国はひとたまりもない状況になるのは目に見えているだろう。
元自衛艦隊司令官も「砂糖の山にたかるアリ」「子どもの思いつき」「絵に描いた餅」と批判
他方、政府は「有効な反撃を加える能力を持つことにより、武力攻撃そのものを抑止する」ともしているが、これにも疑問の声があがっている。
たとえば、12月15日放送の『NEWS23』(TBS)では、防衛ジャーナリストの半田滋氏がこう述べていた。
「中国の場合は弾道ミサイルと巡航ミサイルを合わせて2200発というたくさんのミサイルを持ってるわけです。日本がトマホークを持ったとしても、それは相手の能力を上回るだけにはならないわけですから、抑止が効くかというと、そこは疑問になると思います」
さらに同番組では、外務省アジア大洋州局長時代に小泉純一郎首相による日朝首脳会談を実現した田中均・元外務審議官も、こう指摘していた。
「私自身、北朝鮮とずいぶん長い間交渉してきて思うんですが、北朝鮮は日本が反撃能力を持ったからといって、日本を攻撃しないという因果関係で動くという国ではない。むしろ日本が反撃能力を持つんであれば、それを上回る能力を持とうというふうに動くんです。それから中国について見れば、圧倒的に大きな物量を持っている。だからこれも抑止力に足りえない」
さらに言えば、敵基地攻撃能力の保有は抑止力にならないどころか、周辺国に緊張と軍拡競争を生み出す「安全保障のジレンマ」を引き起こすことになりかねない。その上、日本が仮想敵国としているのは中国、北朝鮮、ロシアという核保有国だ。相手国を上回る攻撃能力をとエスカレートさせていけば、行き着く先は核の保有である。
だが、抑止力だの何だのと政府がいくら正当化しようとしても、この敵基地攻撃能力の保有という政策転換が愚にもつかないことは、岸田文雄首相の発言ひとつでよくわかる。岸田首相は12月16日の会見で、「防衛力を抜本的に強化するということは、端的に申し上げれば、戦闘機やミサイルを購入するということ」などと口にしたからだ。
戦闘機やミサイルを買えば防衛力の強化になる──。いまどき子どもでもこんなバカなことは言わないと思うが、ようは「武器を買う」ことありきで話が進んできたことが、この発言からもわかるだろう。
実際、今回の防衛力強化のための防衛費増額に対しては、現場を熟知する自衛隊元幹部からも異論が出ている。
たとえば、海上自衛隊現場トップである自衛艦隊司令官を務めた香田洋二氏は、朝日新聞2022年12月23日付のインタビューにおいて、「私は防衛費が足りないとずっと言ってきた人間」としながら、こう疑義を呈している。
「今回の計画からは、自衛隊の現場のにおいがしません。本当に日本を守るために、現場が最も必要で有効なものを積み上げたものなのだろうか。言い方は極端ですが、43兆円という砂糖の山にたかるアリみたいになっているんじゃないでしょうか」
「身の丈を超えていると思えてなりません。反撃能力(敵基地攻撃能力)の確保に向けた12式ミサイル(地対艦誘導弾)の改良、マッハ5以上で飛ぶ極超音速ミサイルの開発・量産、次期戦闘機の開発、サイバー部隊2万人、多数の小型人工衛星で情報を集める衛星コンステレーションなど、子どもの思いつきかと疑うほどあれもこれもとなっています。全部本当にできるのか、やっていいことなのか、その検討結果が見えず、国民への説明も不十分です。絵に描いた餅にならないか心配です」
「サイバー部隊も、人員確保に悩む自衛隊で他の部隊の能力を維持したまま2万人も集められるのか疑問です」
“アメリカから大量の武器購入” “中国・韓国に強く当たる” だけ…外交努力ゼロの岸田政権
「砂糖の山にたかるアリ」「子どもの思いつき」「絵に描いた餅」──強烈なツッコミが並ぶが、これが元自衛艦隊司令官の率直な声なのだ。
そもそも、岸田首相には、この国の安全に対する深い考えがあるとは到底思えない。もとを正せば、「敵基地攻撃能力の保有」も「防衛費GDP比2%」も、言い出したのは安倍晋三・元首相だ。さらに、岸田首相は昨年5月のバイデン大統領との首脳会談で、国内で議論をおこなうこともなく勝手に「防衛費の相当な増額」、ようはアメリカからの武器購入を約束した。つまり、ロシアによるウクライナ侵略に乗じるかたちで、アメリカと自民党最大派閥・安倍派の顔色伺いをやっているにすぎないのだ。
そして、完全におろそかにされているのが外交だ。国際政治学者の藤原帰一氏は、こう指摘している。
「侵略に対する抑止は必要であるが、抑止に頼る対外政策は戦争の危険を高めるリスクがある。このジレンマがあるからこそ、抑止戦略と並んで外交による緊張緩和の可能性を模索しなければならない」
「外交によって中国や北朝鮮との緊張を打開することは極度に難しい。だが、岸田政権には外交の機会を模索した跡が見られない。抑止力強化に積極的な政権の、そこが危うい」(朝日新聞2022年12月21日付)
こうした指摘は、前出の田中・元外務審議官もおこなっている。
「侵略と敗戦という歴史的な背景をもつ日本は独自の防衛力と日米安保条約で国を守ってきた。日本だけで中国、ロシア、北朝鮮を抑止はできません。常に米国と日本の抑止力のトータルで安全が保たれている。そのうえで周辺諸国を刺激しないよう日本は専守防衛で『盾と矛』の役割分担もしてきた。これからまわりの国々とどう関係をつくり、安保環境をよくするか。そういう外交が見えない」
「『中国に強くあたる』『韓国に強くあたる』という政治家の要請を受けて対外関係をやっているように見えます。『外』と交わることなく国内の意識を外にぶつけているだけです」(朝日新聞2022年12月20日付)
さらに田中氏は、「私はいわゆる平和主義者ではありません」と述べた上で、「私は戦争を起こさないようにすることが日本の生きる道だと思っている。米国の抑止力を使いながら、地域の脅威レベルを下げることが目標だと思うんです。今の流れはそれに逆行しています」と指摘。「ロシアのウクライナ侵攻が日本の世論に影響している。ハト派と言われた宏池会の岸田文雄首相や公明党がかじを切り、野党もナショナリズムの空気に抗することができない。その間に、日本のビジョンが失われている」と警鐘を鳴らしている。
外交努力もなく、ただ武力をちらつかせるというやり方で、この国の安全を守ることが可能なのか。しかも、戦後日本のあり方を完全に覆す方針を、国会でまともに審議することもなく閣議決定するなどという暴挙は、けっして許されるものではない。今年を「新しい戦前」にしないために、岸田政権の欺瞞を徹底的に暴き、反対の声をあげていていくほかないだろう。
(編集部)
最終更新:2023.01.03 05:01
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