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自民党が今度はフェイク改憲マンガを配布! 押し付け憲法論に主人公の主婦が「家のルールをご近所さんが考えるようなもの」と
自民の”改憲フェイク冊子”(自民党憲法改正推進本部HPより)
参院選公示後はじめて迎えた週末、マスコミ各社の序盤情勢調査では、自民・公明の与党に日本維新の会を加えた「改憲勢力」が3分の2議席を維持するかどうかが焦点となっている。
安倍首相は先月26日の通常国会閉幕を受けた記者会見で、「憲法の議論をする政党か否か」が参院選の争点だと断言した。消費増税や年金問題などの争点隠しの狙いもあるが、なにより、このまま選挙に勝利すれば「大義名分」として改憲発議へ持っていくつもりだろう。
だが、安倍首相が争点にあげる「憲法の議論をする政党か否か」というのは、巧妙に文脈をすり替えたものだ。
そもそも、野党は憲法議論自体を拒否してはいない。それどころか安倍政権が強行した安保法の「違憲性」を問題視し廃止を訴えるなどしており、他にもたとえば立憲民主党は〈立憲主義に基づいて国民の権利拡大に寄与する観点から憲法議論を進めます〉と公約に掲げ、首相による「衆院の解散権の制約」を提案している。そのうえで、安倍政権が描く改憲、すなわち「9条改憲」などの自民党案に反対をしているのである。
ようするに、参院選の争点である改憲は「憲法9条への自衛隊明記」を中心とする安倍自民党案の是非なのだ。それを「憲法の議論をする政党か否か」などと言うのはミスリード、詐術としか言いようがないだろう。
実は、その詐欺的手法は、参院選直前、自民党の憲法改正推進本部が発表した“改憲マンガ冊子”からも見てとれる。タイトルは「マンガでよく分かる〜憲法のおはなし〜自衛隊明記ってなぁに?」。自民党のホームページでも公開されているが、実に冊子を20万部も作成して演説会などで配布するのだという。
マンガの内容は、若い夫妻と娘、その祖父母の5人家族が、憲法について話し合うというものだ。当然、自民党案の「憲法への自衛隊明記」をゴリ押しする構成になっているのだが、その誘導の仕方が相変わらず酷い。
自民党の「9条改憲」の説明がいかにデタラメかを改めて確認するためにも、あえてこの“改憲マンガ”の中身を一緒に見てみたい(なお、登場人物のセリフは引用者の判断で句読点を追加した)。
まず、夫が妻と子に日本国憲法の成立過程を説明するシーン。夫がスマートフォンを見ながら「…ん? ええーーっ!?」と大げさに驚き、「マッカーサーって知っているよね?」「今の憲法はGHQが出した草案をもとに作られたものなんだ」「それも、GHQはたった『8日間』で作ったんだ」と話す。すると妻がやはり「えー!」と愕然としてこう話す。
「どうして私たちの国の憲法を他の国の人が考えたの? 私たちの家のルールをご近所さんが考えるようなものよね?」
典型的な“押し付け憲法論”である。言っておくが、日本国憲法のとりわけ9条はマッカーサーと幣原喜重郎の“合作”という説が有力だ。その幣原は、逝去直前の回顧録でこう述べている。
〈よくアメリカの人が日本にやって来て、こんどの新憲法というものは、日本人の意思に反して、総司令部の方から迫られてたんじゃありませんかと聞かれるのだが、それは私の関する限りそうじゃない、決して誰からも強いられたんじゃないのである。〉(『外交五十年』読売新聞社のち中央公論新社、初版1951年)
押し付け憲法論、自衛隊スクランブル回数…詐術だらけの自民・改憲マンガ
また、自民党の“改憲マンガ”では、日本政府が作成した憲法草案、いわゆる「松本案」について〈明治憲法からほとんど変わらないという理由でマッカーサーに拒否されて〉〈結局、GHQが作った草案をもとに日本の憲法は作られた〉と書いている。
これもミスリードだ。まるでGHQが、日本国民の民意を顧みずに草案をつくって、それがそのまま日本国憲法になったかのように説明しているが、事実として、毎日新聞がスクープした松本案は当時の国民からも支持されなかった。たとえば、松本案は天皇制をほぼ明治憲法のまま維持するものだったが、当時の民間研究者による世論調査では、天皇制について〈現状のままを維持〉がわずか16%という結果が出ている(毎日新聞1946年2月4日付)。
さらに言えば、日本国憲法は、GHQ草案を日本政府が修正し、閣議決定を経て発表後、衆院総選挙が行われた後に国会で審議・修正がなされ、1946年10月7日に確定したものである。つまり、戦後初の男女普通選挙で選ばれた議会での議論を経由して制定されたのだ。その間の毎日新聞による世論調査でも、戦争放棄条項の「必要」が70%という結果が出ている(1946年5月27日付)。
ようするに、「外国による押しつけだから良くない」という“押し付け憲法論”は、当時の国民の意思を無視した改憲派のご都合主義的解釈でしかない。これは以前から自民党や安倍首相、タカ派改憲論者らが繰り返してきたことだが、性懲りもなく今回の“改憲マンガ”にも組み込んできたというわけだ。
実際、自民党の“改憲マンガ”で展開される話のほとんどは、すでに論理崩壊している改憲派のロジックの“焼き直し”と言ってよい。たとえば、この作中で祖父が、自衛隊の災害時の救出活動などを紹介しながら「さらに世界の脅威からも日本を守っている」「例えば、平成28年度(2016) 領空侵犯に備えるための緊急発進(スクランブル)の回数は1168回であり、過去最多となったんじゃ」などと語っているが、この年実際に領空侵犯されたケースはゼロで、これは安保法制のときとまったく同じ手口だ。ちょっと考えればわかるが、ただ危機感を煽る道具にしているだけで、実のところ、スクランブル発進の回数増が「自衛隊明記」の合理的理由になるわけがない。
まったく、いい加減にしてほしいが、この“改憲マンガ”のなかで最も酷いのが、「憲法に自衛隊をどう明記するの?」というくだりだ。
まず、妻が祖母に「お母さん、自衛隊を明記したら何か変わるの? 何か生活に影響は出てくるの?」と聞く。すると祖母は朗らかに「私たちの生活は特に変わらないよ」と断言。妻が不安げな表情で「急に戦争になるなんてことないよね…?」と言うと、祖母はこう続ける。
「それはないわよ。戦争放棄を定めた憲法の平和主義は絶対に変えることはないもの。自衛隊明記は自衛権行使の範囲を全く変えるものではなく、専守防衛はこれまでと同じなのよ」
おい、そんなわけないだろう。“改憲マンガ”では夫が継いで「自民党は条文イメージ(たたき台素案)を示しているよ。第九条第一項、第二項はそのままで、自衛隊を明記する新しい条文を入れる案なんだ。この第一項、第二項を残すことでこれまでの第九条の解釈は変えないことを明確にしている」と説明するが、完全に無茶苦茶としか言いようがない。
「自衛隊明記しても何も変わらない」は大嘘!安倍改憲で平和主義は死文化
実際、自民党素案の「第九条の二」を読めば自明だ。
〈前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。
② 自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。〉
見ての通り、これは現行9条第1項及び2項の“例外規定”なのだから、永久放棄が謳われている《国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使》も、否認されている《国の交戦権》も、この「第九条その二」の挿入により死文化し、「必要な自衛措置」の名の下で認められることになる。
さらに、この条文では「自衛の措置」について、政府が「国及び国民の安全を保つために必要」と判断すれば、いかなる軍事行動も可能となりうる。「第九条その二」の第二項は、自衛隊の行動について「国会の承認」がなくとも「その他の統制」によって決定されると解釈できるからだ。第二次安倍政権はそれまでの歴代政府解釈をひっくり返して集団的自衛権を行使可能とした。時の政治権力が「自衛の措置」の内容を恣意的に決めるということは、他ならぬ安安倍首相が体現していることだ。
「憲法へ自衛隊を明記」とだけ聞くと、以前から自衛隊は合憲であると考える多くの人は大した改憲ではないと思うかもしれないが、実際には、これは日本国憲法の平和主義の息の根を止めようとするものだ。“フリーパスで戦争ができるようになる”と言っても決して大げさではない。
もはや「自衛隊明記」というより「戦争改憲」と呼ぶべきだろう。これでよく、いけしゃあしゃあと「戦争放棄を定めた憲法の平和主義は絶対に変えることはない」などと言えたものだ。
もう一度言う。今回の参院選では、安倍政権による「憲法への自衛隊明記=憲法9条の死文化」の是非が問われている。有権者には、ぜひ「自衛隊明記」という言葉の表面だけでなく、その本質をとらえて投票所に向かってほしい。
(編集部)
最終更新:2019.07.08 09:39
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