右翼・左翼に関する話題……本と雑誌のニュースサイト/リテラ
“政権批判の学者狩り”が始まった!「正論」は“大学偏向ランキング”作成、杉田水脈議員は「反日学者に税金使わせるな」
「大学政治偏向ランキング」が掲載された「正論」6月号
月刊誌「正論」(産経新聞社)6月号に、「大学政治偏向ランキング」なる論文記事が掲載されている。キャッチコピーや副題には「受験生も保護者も、会社人事部も必読!」「学者の政治活動を徹底批判」。メディア工学を専門とする掛谷英紀・筑波大学准教授が寄稿したものだ。
産経新聞社の「正論」といえば、毎度ゴリゴリの極右主張を並べる安倍応援メディアの筆頭。そんな雑誌が大学の「政治偏向」を言い出した時点でイヤ〜な予感しないが、読み始めると早速、目に表が飛び込んできた。
これによると、1位は東京大学、2位が立命館大学、3位が京都大学、4位が早稲田大学、5位が明治大学、以下に慶應、北大、立教、名大、中央がトップ10入り。ランクは30位の岡山大まで続いている。ご覧のように、国立大学や有名私学がほとんどを占めているが、え、これが「政治偏向」している大学のランキング?……って、ちょっと待て。
表のタイトルを見ると、なんと「『安全保障関連法に反対する学者の会』に署名した教員所属大学上位30校」。ようするにこれ、安保法制反対の署名をした学者・研究者を所属大学別にカウントし、上からソートしただけらしいのだ。
実際、次のページをめくってみても、やっぱり、掲載されているのは「『安全保障関連法に反対する学者の会』教員の所属大学上位75校の署名比率」と「『安全保障関連法に反対する学者の会』署名した教員の専門 上位20分野」なるランキング表。著者の掛谷准教授はこれによって〈学問の政治バイアスを定量化できると考えた〉らしいが、これ、あまりに短絡的だし、論文としてもお粗末だ。
しかも、である。本文を読み進めても、ランキング結果に対する分析は〈現在の日本の大学において、学問の政治からの独立を放棄する動きがいかに深刻化しているかを示している〉というふうにざっくり書かれているだけで、どうして安保法制に反対することが「学問の政治からの独立を放棄」になるのかがさっぱりわからない。
さらに記事の後半になると、掛谷氏はどんどん“安保法制反対=左翼”として批判を強めていく。たとえば「左翼」を〈自分および自ら共感を寄せる集団の自由にのみ関心があり、それ以外の人間の自由には関心がない〉〈ある種の万能感を有し、自分は常に正しいと考える傾向が強い〉〈奉仕の精神に乏しく、社会貢献には関心が薄い〉などと決めつけて、最終的には受験生や保護者へ〈本稿で紹介した調査結果を是非(大学選びの)参考にしていただければと思う〉と呼びかけて記事を締めるのだ。
ワケがわからなすぎる。というか、これこそ“偏向記事”そのものだろう。
安保法制に反対しただけで大学教員を“政治偏向”“左翼”と糾弾する異常性
ちなみに著者の掛谷氏といえば、「イラネッチケー」なるNHKだけを映らないようにするアンテナフィルターの開発者としても知られるが、試みに氏のTwitterをのぞいてみると、ネトウヨ議員である自民党・杉田水脈議員や、あの百田尚樹センセイ、石平氏、有本香氏、落語家の桂春蝶など“そっち系”の人たちをはじめ、あげくネトウヨ系まとめサイトをリツイートするなど、ある種の傾向が透けて見えなくもない。
が、そんなことはどうだっていい。問題は、この筑波大の准教授が「学問の政治からの独立」を盛大に勘違いしていることだ。たとえばこんな主張である。
〈学問が本来の機能を果たすためには、政治的に中立でなければならない。にもかかわらず、学者が自ら「安全保障関連法に反対する学者の会」のような政治運動を主導するとは、私は全く信じられない思いだった。普段、大学の自治や学問の政治的独立を声高に主張する人々が、自ら学者の名で政治運動にコミットすることの矛盾は、まともな理性の持ち主なら気づかぬはずはない。〉(「正論」より)
そもそも、学者が安保法制に反対することが「政治偏向」になるという主張自体が恣意的だ。
周知の通り、安保法制はほとんどの憲法学者が憲法違反だと指摘しており、世論調査でも当時約8割が「政府の説明は不十分」という意見だった。そんななか、学者らもその見識と良心にしたがって反対の声を上げた。掛谷氏が槍玉にあげる「安全保障関連法に反対する学者の会」もそうした学者たちが集まった団体だ。別に当然のこととしか言いようがない。
だいたい、掛谷氏が罵倒する「左翼」でもなんでもない大勢の人たちも安保法制に反対していたわけで、しかも、学者の肩書きで政治的にコミットをしているのも「左翼」だけではない。たとえば、日本会議系の改憲推進団体「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の役員名簿には、右派の学者が大学の肩書き付きで多数名前を連ねているし、氏が寄稿した「正論」の執筆陣だって同様に、大学教授たちがコッテリした政治運動そのものの文章を寄せている。
掛谷氏は〈学者たちが学者の肩書きを使って右翼的な政治活動を始めれば、私はここで用いた論拠に基づいて同じように批判する〉と書いているが、であればなぜ、氏が「左翼」と見立てるところの「安全保障関連法に反対する学者の会」だけを「大学政治偏向ランキング」の指標としたのか。あまりに恣意的すぎて真面目に突っ込むのもバカらしくなる。
「学問の自由」を平気で“政権批判封じ”にすりかえる反知性ぶりに唖然
断っておくが、本サイトは「右翼の学者も政治活動をしているじゃないか!」と言って批判しようというのではない。逆だ。憲法23条が「学問の自由」を保障しており、学者や研究者はその知見や良心に基づくどんな意見表明や研究も、原則的には自由である。
とりわけ戦前・戦中の日本では、右派と結びついた公権力による学者の弾圧が相次ぎ、著書が発禁処分にあったり大学を追われたりした。こうした歴史も踏まえて、戦後の日本国憲法では明治憲法になかった「学問の自由」を保障した。つまり、「学問の自由」とは、本来、公権力から研究が抑圧されたり、言論が封殺されたりしないためのものであって、相手が権力者であっても間違っているものは間違っていると言うことこそ「政治からの独立」であり、いわば公権力によってその言論が左右されないことが「政治的中立」なのだ。
ところが、この筑波大准教授は、教員が政府の法案に反対することを〈学問の政治からの独立を放棄する動き〉〈学問の政治的独立を毀損する行為〉と言い張り、政府に疑義を述べる人=「左翼」とレッテルを貼って攻撃しているのだ。これのどこが「まともな知性」なのか。あまりにトホホだろう。
しかし、どれだけトホホでもその危険性はあなどれない。というのは、いま、安倍政権に反対しただけで「反日」「左翼」として吊し上げられるという、戦中のような事態があちらこちらで起きているからだ。
実際、右派メディアはこのところ“「左翼」学者バッシング”のキャンペーンを張っている。最近も、保守系雑誌の「SAPIO」(小学館)1・2月号が中国・韓国メディアの取材を受けた学者や知識人を“反日日本人”とレッテル貼りし、吊るし上げる企画記事を掲載。また、産経新聞も昨年10月19日の社説「産経抄」で「日本を貶める日本人をあぶりだせ」と題した“反日学者バッシング”を展開していた(過去記事参)。
いや、極右メディアだけの話ならまだいい。いまや与党の政治家までもが、リベラルな論調の学者らを「国益を損なう」「反日活動」といってバッシングし、研究費を助成するな!と恫喝する圧力をむき出しにしている。
たとえば前述した安倍首相の“秘蔵っ子”杉田水脈議員だ。まず、杉田議員は2月26日の衆院予算委分科会で、文科省の科学研究費助成事業(科研費)について質問したのだが、大学教授の実名をあげながら「徴用工問題が反日プロパガンダとして世界にばらまかれている」としたうえで、「日本の科研費で研究が行われている研究の人たちが、韓国の人たちと手を組んで(反日プロパガンダを)やっている」などと批判。「なぜこんなことになっているのか文科省は真相究明を」などとまくし立てた。
杉田水脈はジェンダー論研究者を“反日学者”よばわりし、科研費止めろ
さらに杉田議員は、櫻井よしこ氏のネットテレビ『言論テレビ』のなかでも、「科研費が反日の人たちのところに使われている」と言いながら、山口二郎・法政大教授が他の研究者らとともに行なっている共同研究に多額の科研費がおりていることを問題視。これについては櫻井氏が「週刊新潮」(新潮社)4月26日号での連載でも「科研費の闇、税金は誰に流れたか」と題して取り上げ、〈山口二郎氏といえば2015年の平和安全法制に反対する集会のなかで「安倍に言いたい! お前は人間じゃない! 叩き斬ってやる!」と演説したと報じられた人物だ〉などと書き連ねた。
つまり、杉田氏にしても櫻井氏にしても、その山口教授らによる研究内容には触れず、ひたすら「反日」「安保法制に反対した」などとがなりたてて「研究費の闇」なる妄想をぶちまけているのだ。ヤバいとしか言いようがない。
まだある。杉田議員はTwitterでも、科研費助成事業のデータベースのURLを貼り付けながら〈人名を検索すれば誰がどんな研究で幾ら貰ったかすぐわかります。「慰安婦」とか「徴用工」とか「フェミニズム」とか入れて検索もできます。ぜひ、やってみてください!〉と投稿。最近では、ジェンダー論を専門にする牟田和恵・大阪大学教授に噛みつき〈国益に反する研究は自費でお願いいたします。学問の自由は大事ですが、我々の税金を反日活動に使われることに納得いかない〉などと攻撃していた。
頭がクラクラしてくるが、ようするに杉田議員らが煽動しているのは、安倍政権が気に食わない学者たちをあぶりだして締め上げようとする言論弾圧だ。もはや「学問の自由」の侵害であるという指摘すら虚しく、とても正気の沙汰とは思えない。もはや、矢内原事件をはじめとする戦前・戦中の思想弾圧を彷彿とさせる“反日狩り”の様相ではないか。
もちろん、こうした動きは極右議員や安倍応援団の勝手な暴走ではない。安倍自民党そのものが教員の思想弾圧に乗り出している。
代表的なのが2016年、自民党がホームページで「学校教育における政治的中立性についての実態調査」と題して設置した“密告フォーム”だ。自民党は〈「子供たちを戦場に送るな」と主張し中立性を逸脱した教育を行う先生方がいる〉と書いて、これを〈偏向教育〉として通報させるフォームをつくった。つまり、この国の政府与党は、教員が「子供たちを戦場に送るな」と言う当たり前のことすら、「政治的中立」を騙って糾弾し、監視によって教育現場を統制しようとしているのだ。
邪魔なものを「反日」「偏向」に仕立て上げる権力は、学者の研究を封じ、次に全て人の口を塞ごうとする。この国はすでに暗黒時代に片足を突っ込んでいるのである。
(編集部)
最終更新:2018.05.13 08:14
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