差別に関する話題……本と雑誌のニュースサイト/リテラ
はすみとしこが詩織さんを「枕営業」とイラスト攻撃! 元ネタは山口敬之のトンデモ弁明、杉田水脈ら安倍チル議員も同調
性被害に連帯を訴える伊藤詩織さんだが…(『Black Box』文藝春秋より)
“官邸御用ジャーナリスト”山口敬之氏からのレイプ被害を告発し、現在、民事裁判を起こしているジャーナリストの伊藤詩織さんが、2月23日、都内で講演を行った。NGO「ヒューマンライツ・ナウ」が主催したこの会合で、詩織さんは、海外と比較し日本で「#MeToo」運動が広がっていないことに触れ、「『We Too』にしたらどうなんだろうと思うんです」と提案。一人では声をあげにくい性被害の問題に社会全体で取り組む必要性を語った。
詩織さんの言う通りだ。日本社会では、強かんや痴漢などの性被害を女性が語ることがタブー視されている。それどころか、詩織さんが昨年の会見後に受けたように、「ハニートラップ」「売名」などというデマ攻撃にさらされることすら少なくない。この歪んだ状況を変えるためには、被害者女性の告発を遠くから期待するのではなく、一人一人が連帯し「性犯罪は絶対に許さない」という意思を強く表現する必要がある。
ところが、ここにきて、そうした性被害に対する社会的取り組みをせせら笑う動きがまたぞろ出てきている。漫画家のはすみとしこが同じ23日、自身のTwitterで、詩織さんを誹謗中傷する極めて悪質なイラストを投稿したのだ。
一目で悪意に満ちているとわかる代物だ。本当ならば紹介すらしたくないのだが、読者がはすみのイラストを見る必要をなくすためにも、概要を短く述べておく。
イラストでは、詩織さんの容姿を模した女性が「山口」と胸に記されたTシャツを着ている。手にはスマートフォン。そして背景には以下の文言が付されている。このイラストの主題だ。
〈米国じゃキャバ嬢だけど
私ジャーナリストになりたいの!
試しに大物記者と寝てみたわ
だけどあれから音沙汰なし
私にタダ乗りして
これってレイプでしょ?
枕営業大失敗!!〉
ようするに、はすみはこう主張している。詩織さんはジャーナリストとして就職するために山口氏に「枕営業」をした。しかし「あれから音沙汰なし」だったことから「タダ乗り」と感じた。ゆえに、その恨みから「レイプ」だと訴えた──。
反吐がでる。こんなクソのようなイラストが「表現」だとしたら、はすみには最大の軽蔑を込めた攻撃的罵倒を「表現」として返したいが、そうして炎上させることこそが彼女の思惑なのだろう。であれば本サイトとしては、このイラストが示している悪意に関して、それ自体とは別の重大な問題のほうを指摘しておきたい。
「枕営業」と架空のストーリーをでっち上げる、悪意むき出しのイラスト
まず、念のため確認しておくが、詩織さんによれば、2015年の4月3日の夜、仕事のビザの相談を目的に山口氏と食事をした。ところが、アルコールに強いはずの詩織さんは、途中で意識を失ってしまった。そして気がついたときには、山口氏が滞在しているホテルのベッドにおり、上から山口氏にまたがられ、強かんされていた。山口氏は避妊具すらつけていなかった。
意識が朦朧とした状態の詩織さんが帰宅を懇願していたにもかかわらず、山口氏の判断でホテルに連れ込んだのは、二人を乗せたタクシーの運転手の証言やホテルの防犯カメラの映像で証明されている客観的事実である。また、避妊具さえつけずに挿入に及んだことは、山口氏も詩織さんとのメールのやりとりのなかで認めており、その後のメディアでの抗弁でも否定していない。
しかも、はすみは、詩織さんが山口氏に就職相談をしたが「音沙汰なし」だったから告発したかのように描いているが、実際には、詩織さんは事件のあった夜から5日後の4月9日には警察署へ行き、強かん被害を話している。そして同じ頃には被害を打ち明けた友人の協力を得ながら、謝罪を引き出すためのメールを何度も書いている。性暴力被害に前向きに対応していると聞いた産婦人科へも行っている。詩織さんはこの時点で警察の捜査員とともにホテルの防犯カメラの映像を確認している。4月18日にはメールで山口氏にこう返信している。
〈今回山口さんと帰国した際にお会いしたのは新規のプロデューサーとして採用、ないしフリーとして契約をしたいので残りの問題のVISAの話をしようとお誘いいただいたからですよね。
なのに意識の無い私をホテルに連れ込み、避妊もせず行為に及んだあげく、その後なにもなかったかのように電話でビザの手続きをするといってきたり、この度(原文ママ)に及んでそのようなあやふやなご返答をされるのは何故ですか?〉
〈また前回のメールでもショックだったと伝えたのに謝罪の言葉がないのはどうかと思います。そして医療費も負担してください〉
それを、はすみは、さも詩織さんがジャーナリストの夢を叶えるために山口氏に「枕営業」を仕掛け、うまくいかなかったのを恨んで「レイプ」と主張したかのような、架空のストーリーをでっち上げているのだ。
むき出しの悪意に吐き気をもよおすが、前述したように、ここで冷静に指摘しておかねばならないのは、このイラストには、たんにはすみによる誹謗中傷の表現というだけでない重要な問題があるということだ。それは、このデマはすべて山口氏が「Hanada」(飛鳥新社)17年12月号で展開した“シナリオ”を下敷きにしているということだ。
「キャバ嬢」「山口Tシャツ」はすみとしこのデマ攻撃の元ネタは…
たとえば〈米国じゃキャバ嬢だけど〉という書き出し。その後の文脈からして、はすみが“キャバ嬢=男性に接待して対価を得る女性”というニュアンスで持ちだしてきているのは明らかで、「ジャーナリスト」という言葉との対比のさせ方や、続く「枕営業」という言葉からも職業蔑視的に使っていることは間違いない。だいたい「キャバ嬢」だったらなんなのかとしか言いようがないが、実のところ、この記述は完全に山口氏の言い回しと同じなのだ。
詩織さんの著書『Black Box』ではこう記されている。2013年、ニューヨークの大学でジャーナリズムと写真を学んでいた彼女は、〈翌年の卒業直前にインターシップを体験し、ニュースの現場で働きたいと考えていた〉。詩織さんは、親からの援助をほとんど受けておらず、〈翻訳、ベビーシッターとピアノバーでのバイト〉をしており、山口氏と出会ったのはその「ピアノバー」だったという。ところが山口氏は「Hanada」での手記で「ピアノバー」という言葉を一切使わずにこう書いた。
〈私があなたに初めて会った時、あなたはキャバクラ嬢でしたね。二〇一三年九月、国連総会の取材でニューヨークに滞在していた時に、知人の記者に連れられて行った日本人相手のキャバクラで、キャバクラ嬢として私の隣に座ったのがあなたでした。〉
見ての通り、詩織さんが「キャバクラ嬢」であると主張・強調するやり方は、はすみと山口氏とで共通のものである。はすみが山口氏の“反論”をなぞっているのは間違いない。
さらに決定的なのは、イラストで詩織さんを模した女性が着用している「山口」と書かれたTシャツだ。
実は、山口氏が「Hanada」での“反論”のなかで、“レイプされたという認識の反証”として取り上げたのがTシャツの存在だった。山口氏は〈もしあなたが朝の段階で私にレイプされたと思っていたのであれば、絶対にしないはずの行動をし、絶対にしたはずの行動をしていない〉と前置いて、こう持論を展開している。
〈朝起きてトイレから戻ってきたあなたは、浴室に干されていたブラウスを手に、
「ブラウスが少し生乾きなんだけど、Tシャツみたいなものをお借りできませんか」〉
〈(前略)私としては別に断る理由もなかったので、パッキング途中のスーツケースを指し、
「そのなかの、好きなものを選んで着ていっていいですよ」
と言いましたね。あなたはスーツケースから、私のTシャツのうちの一つを選び、その場で素肌に身に着けました。覚えていないとは言わせません。レイプの被害に遭ったと思っている女性が、まさにレイプされた翌朝、レイプ犯のTシャツを地肌に進んで身につけるようなことがあるのでしょうか?〉
〈結局、私はそのTシャツを未だに返してもらっていません。そのTシャツの存在を認めると、自分の主張の辻褄が合わなくなるからですか?〉(「Hanada」)
見ての通り、山口氏は詩織さんに貸したというTシャツの存在が、あたかも強かん事実の反証であるかのようにあげつらっている。しかし実際には、詩織さんは「Tシャツの存在」を認めていないどころか、『Black Box』のなかでしっかり触れているのだ。
詩織さんによれば、一刻も早く部屋の外に出なければならないと思っていた彼女は、ブラウスを見つけるが〈びしょ濡れ〉であり、〈なぜ濡れているのか聞くと、山口氏は「これを着て」とTシャツを差し出した〉。そして〈他に着るものがなく、反射的にそれを身につけた〉。つまり仕方なく差し出されたTシャツを着たわけだが、さらに詩織さんは都内に借りていた部屋に戻ると、〈真っ先に服を脱いで、山口氏に借りたTシャツはゴミ箱へ叩き込んだ〉と書いている。
つまりTシャツの存在は、明らかに山口氏が言うような“レイプされたという認識の反証”になりようがない。言うまでもないが、半裸の状態で衣類を求めるのは当然の行動だ。それとも山口氏は、詩織さんは服を着ていない状態で部屋から飛び出せばよかったのだ、とでも言うのか。
はすみのイラストは山口敬之が「Hanada」で書いた嘘弁明のコピー
しかも山口氏は「Hanada」で触れていないが、詩織さんはベッドから抜け出した直後の行動をこう振り返っている。
〈ようやくベッドからぬけだした私は、パニックで頭が真っ白になったまま、部屋のあちこちに散乱していた服を拾いながら、身に引き寄せた。下着が見つからなかった。返すように言ったが、山口氏は動かなかった。どうしても見つからなかったブラは、山口氏の開いたスーツケースの上にあった。一向にパンツは見つからなかった。すると、山口氏は、
「パンツぐらいお土産にさせてよ」
と言った。
それを聞いた私は全身の力が抜けて崩れ落ち、ペタンと床に座り込んだ。体を支えていることができず、目の前にあったもう一つのベッドにもたれて、身を隠した。〉(『Black Box』)
おぞましいとしか言いようがない。繰り返すが、着る服がない状態で衣類を求めるのは当たり前の行動だ。にもかかわらず、Tシャツを貸してそれを詩織さんが着用して部屋を出ていっただけで、山口氏は〈あなたの強い被害者意識は最初からあったのではなく、あとから時間をかけて醸成されたものということになります〉(「Hanada」)などと主張しているのだ。詭弁にもほどがある。
はすみのイラストで、詩織さんを模した女性が“山口”と記されたTシャツを着用しているのは、まさにこの山口氏の詭弁をトレースしたものだろう。そして、こうしたイラストの構成要素は「枕営業」なるシナリオを捏造し、詩織さんを誹謗する意図のもと用いられたと解釈するのが自然だ。
つまるところ、はすみによる今回の悪質なイラストは、そのシナリオや道具立てから見ても、明らかに山口氏の主張を“コピー”したものとしか考えようがない。したがって、そこに現れている悪意は、まさに山口氏のそれが“可視化”されたものである。そう言っても過言ではないだろう。
事実、山口氏は「Hanada」で「枕営業」という言葉こそ使っていないものの、わざわざ「ワシントンでの仕事への強い執着」と章立てをして、〈執拗な要求〉〈繰り返しメールを送りつけています〉〈強い要望〉〈ワシントンで仕事をしたいという熱情は並大抵ではなかったことは明らか〉などと強調。さらに〈そして何より、性暴力の被害者ではないあなたが、自分でもそうではないと密かに知りながら、表向き性犯罪被害者を標榜して生きることは、本当の性犯罪被害者のみならず、他ならぬあなた自身を貶めることになる〉と締めている。あらためて言葉を失うではないか。
はすみとしこの差別イラストを百田尚樹、杉田水脈、長尾敬が支持
少なくとも、はすみのイラストは、「枕営業失敗!!」という文言などから、詩織さんの社会的信用を低下させようと企図されたものであることは自明だが、冒頭でも少し触れたように、そのイラストを拡散することは彼女の思う壺だろう。
はすみといえば、周知の通り、2015年9月、難民の少女をモチーフにしたイラストに「他人の金で。そうだ、難民しよう」などと添えてFacebookに投稿。そのグロテスクな差別扇動に批判が殺到したが、さらにシリア難民の少女をモデルにした写真を無断使用していたことも発覚し国際問題に発展した。しかし、はすみはその後も胸元を強調した帰化女性の悪意あるイラストを投稿するなど、反省の色を微塵も見せなかった。
むしろ、はすみはこうした批判・炎上を契機に、デビュー作『そうだ難民しよう! はすみとしこの世界』(青林堂)の出版にこぎつけ、ネット右翼から強い支持を得た。ようするにヘイトを商業化したわけで、その悪意こそが彼女の“食い扶持”を支えているわけだが、さらに、はすみは極右文化人とも交流し、あろうことか、国会議員との絡みまで見せている。
たとえば作家の百田尚樹だ。百田は、はすみの著書『それでも反日してみたい はすみとしこの世界』(青林堂)の帯に、〈パヨクの天敵、はすみとしこが描く!〉という惹句を寄せており、また、昨年出したヘイト本『今こそ、韓国に謝ろう!』(飛鳥新社)では、はすみが挿絵を担当している。
政治家では、昨年の衆院選で自民党から出馬し当選した安部首相の肝いりの杉田水脈衆院議員。杉田はこれまでもヘイトスピーチを連発してきた極右ヘイト議員だが、はすみは杉田のイラストを公開するなどその当選運動に参加。杉田もブログやTwitterで、はすみに謝辞や誕生日祝いのメッセージを送るなど昵懇の仲だ。
また、あの『報道特注』で知られる番組配信メディア「文化人放送局」が手がけるネット番組『日本の病巣を斬る!』でも、はすみと杉田は仲良く共演している。この『日本の病巣を斬る!』には、最近の2月13日収録回で自民党の長尾敬衆院議員も参加した。長尾といえば、例の「泉放送制作デマ」のフェイクニュースを拡散するなど、こちらも筋金入りのネトウヨ議員だ。
同回で杉田は、BBCから日本の「#MeToo」運動について取材を受けたとして、詩織さんと山口氏の事件についてこのように語っている。
「私はああいう人(詩織さん)がいるおかげで、本当にひどいレイプ被害に遭っている人たちのことが、おろそかになってしまうんじゃないかっていうようなことをね、(BBCに)言いました」
いったい、この政治家は海外メディアに何を言っているのだろうと呆れるが、さらに杉田から「これね長尾先生、国会でやるでしょ?」と振られた長尾も「ハハハ、これね(笑)。おかしいよね」と吐き捨てながら同調。おかしいのはコイツらである。しかも長尾は会社員時代に「60代ぐらいの女性はしょっちゅう抱きついていた」などと笑みを浮かべて語り、「だんだんスキンシップの仕方が変わってきて、相手次第でゾッとするようなやりとりになるっていうのは世知辛い」「受けている側の恣意的なことで全部それが進んでいきますから法的に」などとセクハラの正当化とも受け取れる問題発言まで繰り出していた。
いずれにしても、はすみとしこの悪意あるイラストは、彼女個人の問題ではないのだ。与党の政治家までもが、はすみのようなヘイト漫画家に同調しているという事実を重く受けとめなければ、人々が性犯罪に苦しむ社会を変えることなどできないのは間違いない。
(小杉みすず)
最終更新:2020.06.08 09:03
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