アイドルが太って何が悪い! モー娘。鈴木香音を卒業に追い込んだものとは? 体重の増減がニュースに、リバウンドで謝罪…

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ハロー!プロジェクトオフィシャルサイトより


 モーニング娘。'16の新曲「泡沫サタデーナイト!」が「『LOVEマシーン』の再来か?」と、いま話題を集めている。楽曲はモー娘。王道のディスコファンクで、あの小林克也も「すげぇ。ノリがすごいや」と絶賛。また、PVが公開されるや否や印象的なフォント処理を用いた通称「泡沫コラ」がSNS上で盛り上がり、ジャニーズグループや「おそ松さん」バージョンが次々に投稿されるなど、別ジャンルのファンをも巻きこんでいる。

 だが、そんななかにあって、今月いっぱいで“ズッキ”こと鈴木香音が卒業。今晩5月27日放送の『ミュージックステーション』(テレビ朝日)が、ズッキにとって最後のテレビ生出演となる。

 ズッキといえば “ぽっちゃりアイドルの代表的存在”として、現在のモー娘。でいちばんの知名度を誇るメンバー。とくにここ近年は彼女の体重の増減がつねにYahoo!ニュースに取り上げられ、バラエティ番組でも、ナインティナインの岡村隆史に「あなた、なかなかガタイデカイね、なかなかの娘さんやね」といじられ、極楽とんぼ・加藤浩次には「リック・ドム」などと名付けられたが、対するズッキも自ら「モーニング娘。のドラえもんです」「NGなしアイドル」と公言し、キャラを確立させてきた。

 ズッキがモー娘。に9期メンバーとして加入したのは、12歳のときのこと。父親との山登りで体重を絞ってオーディションに参加したというが、本人いわく、もともとぽっちゃり体型。デビュー後は徐々に体重が戻っていったようだが、そのためにネット上では「アイドルの自覚なし」「体重管理もできないようではプロ失格」などと中傷を受けることも多く、ぽっちゃりキャラが浸透し「笑顔がかわいい!」「ほかにはいないキャラ」と認知度を上げる一方で「完全に開き直っている」「努力しないアイドルなんていらない」などと非難する声も大きかった。

 どんなに明るく振る舞っていても、現在まだ17歳の彼女がどれだけ傷ついてきたか、想像に難くない。実際、ズッキはこんな胸の内をあかしている。

〈世の中には人が傷つくような事を平気で言える人も居ますが、私は強くなったので、そんなこと言われたって 自分の成長のための言葉だって思えちゃいます!!!!!!!!!!〉(2014年9月23日ブログより)
「(オーディションに受かったとき)12歳の私はただただうれしくて、先につらいことや大変なことがあるなんて考えもしませんでした。見えていたのは夢と希望だけ」(東京スポーツ2016年5月25日インタビューより)

 とくに、彼女が猛烈なバッシングに晒されたのは、昨年のシングル表題曲「Oh my wish!」でセンターに抜擢された際だろう。なんと2カ月で9キロものダイエットをして、ネット上では「美少女に激変」と話題に。だが、プロモーション期間の最中にリバウンドしたことで、スポーツ紙やワイドショーなどでも大きく取り上げられ、前述したような心ない意見が噴き出した。結果、ズッキはブログで“謝罪”まで行っている。

〈本当にごめんなさい…。やっぱりなと思った方も多いでしょう。 鈴木香音、大リバウンドです なにやってんだ…泣 自分のペース掴めるように頑張ります〉(2015年9月23日ブログより)

 たしかにアイドルという仕事は、人の視線に晒されるものだ。しかし、どうして思春期の女の子が、体重のことで誹謗され、挙げ句こんなふうに謝らなくてはいけないのか。はっきり言って、異常な光景だ。

 だが、これはアイドル界だけの問題ではない。女性の体型に対する偏狭な視線の背後には、現在、日本社会で強まっている“痩身信仰”があるはずだ。

 実際、厚生労働省が2014年に発表したデータでは、BMI18.5未満の「やせ」に該当する成人女性の割合は過去最高の12.3%を記録。じつに女性の8人に1人が「痩せすぎ」で、なかでも20代女性の平均摂取カロリーは1628kcal。これは終戦直後の食糧難の時代を下回る数字で、厚労省も「健康な体の維持に影響しかねない」と注意を呼びかけているほどだ。

 日本の女性、なかでも若い女性ほど「痩せなければ」と強迫的に考えていることが伺えるデータだが、すでに欧米などではBMI18未満のモデルのファッションショー出演禁止の動きが進み、昨年末、フランス政府は痩せすぎのモデルの雇用を禁止する法律を可決させた。だが、日本でこのような動きは見られないばかりか、ネットメディアではダイエットに“成功”したという女性タレントを──それがいかに病的な痩せ方でも──賞賛し、逆に少しでも太ると“劣化”と書き立てる。当然、女性アイドルはつねにそうした価値観の上で論評され、厳しい視線を向けられつづけている。

 こうした痩身であることを“当然”だとして成長期の少女に強いることの異常性──。ズッキはあくまで“太ったキャラが嫌で辞めるわけではない”と話しているが、それでも、成長期の女の子に対して自己管理だのプロ意識だのを説き、追い込むことがいまの「アイドル文化」なのだとしたら、それは唾棄すべきもののはずだ。

 太っているだとか痩せているだとか、そんな基準とは関係なく、アイドルとしてのズッキは魅力に溢れていた。ダンスもキレがあり、中音域の歌声はグループ内でも特徴的。アメリカ公演ではもっとも大きな声援を浴びるほど海外人気が高く、とくにプロデューサーのつんく♂が〈鈴木力。鈴木の笑顔が9期の力です〉と絶賛するように、彼女が見せる屈託のない笑顔はまさに天性の才能、アイドルの名にふさわしいものだ。

 たとえば、新曲の「泡沫サタデーナイト!」を作詞作曲した、人気バンド「赤い公園」のギタリストでSMAPに「Joy!!」を楽曲提供したことでも知られる津野米咲は、ズッキの存在についてこのように語っている。

「彼女の笑顔には何度も救われていますし、“もう難しく考えてんじゃねえよ”って言われているような気になるんですよね。だから、そういう思いも曲に、こう、したためられたらいいなと思ってつくりあげた曲なので」
「ときには身体を張って、わたしたちを元気づけて、わたしたちを闇の世界から引きずり出してくれるような、そういうパワーがあるなって思って」(NHK-FM『ゆうがたパラダイス』での発言)

 津野のこうした思いは、《ああだこうだゴシップ蔓延る諸説/そんなもんはスルーでいいじゃないか/私だけにしかきっと踊れない/そんなビートがある》という歌詞にも表れている。ズッキにしか表現できないパフォーマンスに、多くの人が救われ、その存在を心に焼き付けた。それは紛れもない事実だし、これこそが真のアイドル性というものではないだろうか。

 卒業後は福祉の仕事に就くための勉強をしたい、と話しているズッキ。いまはただ彼女の今後の未来が明るいものとなることを祈るばかりだが、同時に、アイドルを取り巻く環境が画一化された価値観から解き放たれることも願いたい。
(大方 草)

最終更新:2016.05.27 03:21

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