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アニメの主演3カ月でギャラ50万円!? 大塚明夫が告発する声優業界の厳しい現実
『攻殻機動隊1.5 HUMAN ERROR PROCESSER』(講談社)
「声優ブーム」と呼ばれて久しい昨今。アニメのキャラクターボイスや、海外映画・ドラマの吹き替えを担当するだけでなく、歌手やグラビア、バラエティ番組など、その活動の幅は大きく広がり、マルチなタレントとして人気となっている。かつては、芽が出なかったアイドルや俳優が声優に活路を見出すということも少なかったが、最近は最初から声優を目指す若者のほうが圧倒的に多いようだ。
そんな声優になりたいという若者たちの多くは、声優の専門学校に通い、日々訓練に励んでいるわけだが、ある大物声優はこう断言する。「声優だけはやめておけ」と──。
若者の夢を打ち砕くような助言をするのは、ゲーム『メタルギア』シリーズのソリッド・スネーク役、『攻殻機動隊』シリーズのバトー役などで知られる声優の大塚明夫だ。大塚は著書『声優魂』(星海社新書)で、声優業界の厳しい現状を明らかにしている。
大塚明夫は、1959年生まれ東京育ちの現在55歳。父は同じく声優の大塚周夫だ。23歳のときに文学座の研究科で1年間芝居を学んだのち、井上ひさし主宰の劇団・こまつ座に入団。このころから声優の仕事を始め、88年に声優の事務所である江崎プロダクション(現・マウスプロモーション)の所属となり、以降、本格的に声優として活躍することとなる。
30年近く声優として活動している大塚に言わせると、いまの声優業界は「三百脚の椅子を、常に一万人以上の人間が奪い合っている状態」なのだという。たしかに、2000年代以降、アニメの制作数は激増し、フルボイスのゲームなども増え、声優に対する需要は高まっている。しかし、それ以上に声優の数が増えており、彼らすべてに仕事が行き渡るような状況ではないのだ。
実際に、声の仕事だけでは食べていけず、アルバイトをしている声優も多いというが、声優の報酬はどういうふうに決まっているのだろうか。
声優の世界では、協同組合日本俳優連合(日俳連)が定めた「ランク」というものが存在しており、そのランクによってギャランティが決定する。大塚曰く、
「ランクにその役者のキャリアや人気が反映されていることは事実ですが、だからといってこれが『地位』を示すのかといったらそんなことはなく、単に時間給の指標になるだけです」(同書より)
とのこと。「ランク」ばかりがすべてではないようだが、具体的には次のような報酬の設定となっている。
「一番下に位置するのが『ジュニア』。これは新人養成期間で、仕事一本あたり一万五千円の報酬が基本です。三年間の新人期間を過ぎると『ランカー』と呼ばれ、出演作品の尺三十分に対して一万五千円のランク15を始点に、一万六千円のランク16、一万七千円のランク17……というように千円単位で値段を上げていくことが可能になります」
映画だろうがアニメだろうが、基本的には作品の内容は関係なく、報酬が決められる。また、基準となるのは原則として作品の長さであり、実働時間やどんな役を演じたかは考慮されないのだ。たとえば、ランク15の新人声優が1クール12回分の30分アニメの主人公を演じたとしたら、そのギャラは1万5000円×12=18万円。仮に、同じ作品で2役演じていたとしても、その値段は変わらないのだ。
「また、作品が二次利用されると、『転用料』が発生します。TV/DVD/ネットと3チャネルにわたって展開されれば、金額がだいたい2.4倍ぐらいになるでしょうか。ランク15なら大体43万円ということになります。『なんだ意外ともらってるじゃねえか』と思われるかもしれませんが、3ヶ月みっちりやってこれです」
そもそも新人声優には仕事が回ってこないという現実があり、そのうえで仮に仕事が回ってきても、最低ランクではこの程度の報酬しかもらえないのだ。たしかに声優は厳しい職業といえるだろう。
「ランカーのギャランティに理論上の上限はありませんが、私の知る範囲で一番高いのは四万五千円程度でしょうか。それを超えるとフリーランク制になり、仕事一本ごとに値段の交渉をする形になります」
キャリアを積んで高い人気を獲得すれば、新人の3倍程度の報酬を得ることができるというわけだが、実は「ランク」は自己申告で決定している。もちろん、自分を高く売ることも可能だが、高く売りすぎてオファーが来なくなってしまっては意味がない。その点で“ランクを高く設定すると、起用してもらえなくなるかも……”という心理が働くがゆえに、この「ランク」によって報酬が決まるシステムは、声優にとって少々不利なものとなっているのかもしれない。
賃金的にも厳しい声優だが、そもそも声優になること自体が難しいのは言うまでもない。最近は「声優になりたくばまずは声優専門学校へ」と考える声優志願者が多いようだが、大塚は「ただの思いこみです」と言い切っている。
「現在ベテランといわれている声優で、そんなところに行っていた人はいません。時代が違うんだから当たり前だと思う人もいるかもしれませんが、今スター街道を走っている若手の中でも、そういう経歴を持つ人は少数派です。アイドル的な売れかたをしている声優となると更に少なくなります。グラビアモデル、子役、新劇などの経歴を経て直接プロダクション所属、あるいは短期間養成所に通ってプロダクションへ、という人が多いでしょう」
声優になりたいんだから、まずは声優の専門学校に通っておくのが確実だろう……と考える志願者が多いが、実際には専門学校に通うという選択肢は、まったく確実な道ではないということなのだ。むしろ、遠回りをしているようにも思えてくる。
「声優学校や養成所というのは非常に儲かる商売です。学校には、生徒たちの将来の面倒をみる義務がありません。入った人間を必ずこのレベルのスターにします、入った人間を社員にして給料を支払いますといった契約を交わすわけではないのである意味気楽です」
声優は儲からない職業だが、声優専門学校は儲かるという、なんとも言えないこの現実。とにかく、夢見る声優志願者がカモにされないことを願うばかりだ。
ちなみに、そんな大塚は、父・周夫が同じく声優の納谷六朗に「ロク、お前せがれの面倒見てやってくれないか」と頼んでくれたことで、声優プロダクションに所属したとのこと。実際に納谷六朗は、「俺の知ってるディレクター全員に紹介してやる。一回目は駄目でも、二回目までは俺が全部責任持ってやる」といって、大塚の面倒を見たという。つまり、大塚は完全な“コネ”で声優の世界に入ってきたわけだ。しかも、実の父が有名声優なのだから、相当に強力なコネである。
そういう意味では、大塚の声優志望者への苦言は既得権をもった層特有の“上から目線”を感じないでもないが、しかし、声優という仕事が狭き門であるうえに、なれたとしても儲からない仕事であるのは事実だ。声優志望者はこの厳しい現実はしっかりと受け止めておくべきだろう。
(田中ヒロナ)
最終更新:2018.10.18 04:18
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