ブラ弁は見た!ブラック企業トンデモ事件簿100 第35号

“パワハラで鬱”の決定的証拠音声あったのに労基署が1年半も放置! 背景に安倍政権「働き方改革」の欺瞞

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「働き方改革」を喧伝する裏で、労働行政担当官を削減する政権の欺瞞

 ここまでXさんの話を読まれた方は、会社がXさんにやったことが酷いと感じるとともに、「なんで労働基準監督署は1年半も放置して、その上に杜撰な判断をしたんだ」とも感じられると思う。しかし、この労働基準監督署の対応については、あながち、個々の現場の担当官を責められない事情もある。

 いまの政府は、「働き方改革」を称揚し、「労働基準監督官の数を増やしています」と喧伝している。たしかに、労働基準監督官の採用人数は増えている。しかし、労働行政全体で見れば、職員の数は年々減らされている。地方労働行政職員の数は、2000年度に2万3533人だったのが、2018年度には2万0495人と、18年間で3000人以上減らされている。とくに、2008年から10年間、労災部門を担当する事務官と、労働安全衛生部門を担当する技官の新規採用は停止されていたのだ。そのため、難しい労災申請案件であっても、労災専門の事務官でなく、新人の労働基準監督官が担当する、という事態が実際に生じている(Xさんの事例もそうである)。精神疾患の労災申請件数は年々増加しているのに、担当官は減らされ、ベテランの労災担当官の知識・能力が伝承されない。ますます忙しくなる上に、ノウハウも伝わらず「わからない」からこそ、事案放置や誤った評価による判断がなされてしまうことが有り得る。これは、「政治の失敗」と言わざるを得ない(この問題は、2018年7月23日東京新聞朝刊も取り上げている)。

 長時間労働も厭わず会社のために働き続けてきたのに、会社から酷い仕打ちを受けたXさんが、そんな「政治の失敗」のために、さらに労災行政からも酷い目にあわせられる。こんなことをこれ以上繰り返してはならない。「働き方改革」を称揚するなら、政府は、労働行政担当官の拡充などの、より現実的な施策をとるべきだと強く思う。

 ともあれ、Xさんの具体的な救済は、2年半を経て、やっと会社との関係でも現実的解決を目指せる段階に入った。この件については、まだまだ気を緩めずに取り組みたい。

【関連条文】
労災給付申請 労災保険法12条の8
傷病手当受給 健康保険法99条
使用者の労働者に対する安全配慮義務 労働契約法5条

(弁護士 塩見卓也/市民共同法律事務所http://www.shimin.biz/index.html

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ブラック企業被害対策弁護団
http://black-taisaku-bengodan.jp

長時間労働、残業代不払い、パワハラなど違法行為で、労働者を苦しめるブラック企業。ブラック企業被害対策弁護団(通称ブラ弁)は、こうしたブラック企業による被害者を救済し、ブラック企業により働く者が遣い潰されることのない社会を目指し、ブラック企業の被害調査、対応策の研究、問題提起、被害者の法的権利実現に取り組んでいる。
この連載は、ブラック企業被害対策弁護団に所属する全国の弁護士が交代で執筆します。

最終更新:2019.07.05 01:03

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