戦争映画で日本を加害者に描くと製作資金が集まらない!『野火』の塚本晋也監督と松江哲明監督が語る日本映画の悲惨な現実

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〈私たちが最も見たくないもの。その一つは日本が加害者になった映画であろう。その意味で、今年公開されたドイツ映画『顔のないヒトラーたち』には目を見開かされた。
 1958年のドイツは戦争終結から13年が経ち、復興が進んでいた。しかし当時のドイツでは、アウシュビッツ収容所でユダヤ人に対して何が行われていたのか、ほとんど知られていなかった。当事者の誰もが口をつぐんでいたからだ。若い検事や記者が圧力をはねのけ、ホロコーストの実態を白日の下にさらそうとする姿を描いている。
 ドイツ人も初めはナチスの犯罪を闇に葬ろうとしていた。そのことにまず驚き、一定の共感を抱いた。悪いのはヒトラーだけではない。ヒトラーの尻馬に乗って積極的に罪を犯した普通の市民がいたから、アウシュビッツの惨劇が起こった。ドイツ人だってそんなものを見たくはないだろう。しかし、ドイツ映画は、自らの負の遺産をエンターテインメントにして見せた。
 日本でも戦争犯罪のエンターテインメントが作れないはずはない〉

 テレビに比べ、芸術性を追求したり、社会的イシューに深く切り込んだりする自由がある映画業界にすら、政権忖度や自粛の空気があるとしたら本当に悲しいことだ。

 塚本監督は、前掲「REAR no.36」の対談で『野火』を作った動機についてこう語っている。

「戦争の体験、痛みを持っている人たちが沢山いらっしゃる間は、あまりにその人たちの経験が凄過ぎて、きっと水面下で戦争したい人たちがいても(口に出して)言えなかったと思うんです。それが痛みを知っている人がだんだん減っていって、3年ぐらい前から、かなり戦争の動きがはっきり、輪郭をもって表れてきたと感じて。それに合わせて根拠のない自粛もあったり。日本兵がぼろぼろになるような映画をつくること自体が不謹慎であるような雰囲気さえあったので、そういう映画がつくれなくなるような世の中になってしまったら大変だと…。皆さんが口を閉ざしきる前に、そのムードそのものをぶち壊さないとと思い、映画をぼーんと投げて、水面下で同じことを考えている人はいらっしゃるはずなので、そういう方々とつながることができればと、今しかないって思ってつくったんです」

 日本の映画界を取り巻く重苦しい状況に抵抗して『野火』をつくりあげた塚本氏に続く映画人たちが多く生まれることを願ってやまない。
(新田 樹)

最終更新:2016.05.13 11:17

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